第十四話 生涯嘘つきである件
お嬢様の目が輝いた。そして何度も頷いた。納得して。
「そう! 私、似てるって、思っていたの。だからね!」
嬉しそうに、そう声を上げた。
「エディアス様とお会いした時に、ウィルターに似ているって思ったの。兄弟だったのね! だから、お顔が似ていたのね! 私、エディアス様となら結婚できるもの、だからエディアス様を大好きになったの。そうなのね!」
「・・・」
顔、確かに似ているところはありますね。俺は容姿が良いから。
俺は少しだけ笑んでみせた。だけど無言でお嬢様を見つめる。
お嬢様はニコニコして、まるで両手を天に挙げるような勢いで、喜んでいる。
俺は口を開いた。
「ただ・・・お嬢様も、身分剥奪で、ナナちゃんになったけど。俺は庶民です」
お嬢様が目を丸くして、それから分かったように何度も何度も頷いた。やっぱり嬉しそうに。
馬鹿なお嬢様。
どうして。信じてしまうんだろう。
俺は笑んでみせた。
ふと、母もこんな気分だったのか、なんてことを思った。
あの人は、ご領主様の地位ではなく、本当にご領主様に恋心を持っていたのではないか、と。
俺は、あの母さえ美化しようとする俺自身に呆れを覚えた。
なのに表情は穏やかそうに笑みを浮かべて見せる。
「ねぇ、ルート、じゃあ、私たち、結婚して一緒に暮らすのが良いわ!」
「そうだと俺も嬉しい」
「じゃあ、決まりよ! そうしましょう!」
「良かった。具体的には先で良いけど、じゃあ恋人同士で駆け落ちという事にしよう。人に聞かれたら」
「わぁ、嬉しい! 私ね、駆け落ちっていうのも憧れていたの! 王子様と結婚するのも、夢だったの」
「知ってる。絵本をたくさん、読んで差し上げたから」
「夢みたい、素敵!」
お嬢様が上機嫌で、両手を合わせてニコニコしている。
それから、俺に一生懸命伝えてくる。
「エディアス様も大好きだったの。でも、ウィルター、好きだったの。素敵! ねぇ、ルート!」
お嬢様が目を輝かせて身を乗り出して俺に尋ねた。
「ウィルターは、私の事がずっとずっと好きだった?」
「はい。俺は、ずっと妹じゃないと、知っていましたから。お嬢様の事がどうしても好きでした。今も」
「ルート! 大好き!」
「ありがとう。大好きだよ、ナナちゃん」
お嬢様の興奮が少し収まるのを待つ。
少し、確認したいと思ってしまう。
「・・・ねぇ、ナナちゃん。もし、俺が本当は王子様じゃなかったとしたらどうだった」
「えー? でも、王子様なんでしょう?」
お嬢様は不思議そうにそう言ったので。
「秘密ですよ」
と俺は人差し指を口元に当てて見せた。
***
結婚式を迎えたのは、その3年後。
新しい土地での暮らしに馴染んで、他の人たちにも認められてから。
一応教会があって、神に誓った。
「必ず幸せにする。ずっと傍にいる」
「私、もう幸せだもの! このまま仲良くいようね!」
異国の地で、神様、遠い地のお嬢様のご両親、全てに誓う。
秘密を漏らしたりしない。例え、産まれてくる我が子にも。
俺の人生は、嘘を基に幸せにできている。
- END -