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1. こうして私は兄になる

私の家のマクガイヤー公爵家は少し変わっているらしい。


どこが変わっているかと言えば、家の為の結婚、つまり政略結婚をしない。

でも私たちから見ると、結婚とは好きな人とするもので、なぜ好きでもない人と利害関係でしちゃうのか不思議なくらいだ。

お金やプライドってそんなに大事な物かな。

好きな人と一緒にいるとか、家族の幸せを考えるよりそっちがいいと思う方が変わっている。

うちの一族は昔から、好きな人のためなら何でも出来るし頑張れちゃうのは当たり前、という考え方だ。

そういう人達の中で暮らしていたから、周りから変わっていると言われてもぴんとこない。

おかしいのは周りだと思うし。


あともう一つ変わっていることは、王家の言うことをあまり聞かないということ。

お父様は国で一番強く、賢い、らしい。

王様から、将軍か宰相にならないかと言われるくらい。

でも、お母様が大好きなお父様は、仕事は領地の分で十分、国の事までやってられるかと断ったらしい。

商家の出身のお母様は領地で商いに携わるのが好きで、お母様と一緒に居るために王宮に行くのは嫌だし余計な時間を取られるのが嫌だということなのだ。

国に大変な事があったら手伝うよ、とは言っているとかいないとか。

お母様のそばにいたいからって、王様のお誘い断っちゃうお父様はすごいけど、そんなに軽く断っていいものなのかな?

それを見ているせいなのか、お兄様も今王家からのお誘いを断ろうとしている。


「嫌です。行きません。以上です。」

すごく簡潔に拒否している様は取り付く島がない。

王家から使者が来たとの知らせを受けて応接間に入ったのだが、お兄様があっさりばっさり断っているところだった。

その場にいたお母様にどういう経過か聞いてみる。

「第二王子様の側近候補の方を選びたいので、王宮に来て下さい、ということらしいの。」

なるほど、領地大好き領地の外に行くなど言語道断なお兄様なら、そう答えるのもしょうがない。

「剣の腕がある貴族子息を集めて、第二王子様と一緒に鍛錬していける者を選抜するというお話なのよ。」

「え~面白そうな話だね、どんな人がいるかお兄様ちょっと見に行ってくればいいのに。」

そう発言した私を居るの今気付いたお兄様は、じっとこちらを見て考え込み始めた。

あ、何か言いだすぞ、これは。


「お前が王宮に行ってくればいいんじゃないか?俺の代わりに。」

「え、いいの?」

ガチヤバシャーン!

何の音かと振り向けば、ソファに座っていたお父様が真っ赤な顔して両手をテーブルのついてブルブルしていた。

その姿は、遠く東方の国に伝わる昔話に出てくる赤鬼に似ている。

「あら、私の大事にしていたティーセットが見るも無残に…」

「そんなことはどうでもいい!あんな所にクリスを行かせるなんて冗談じゃない!」

「でも、お父様、私、王家の方達にお会いしたいな。物語に出てくる王子様みたいに素敵か会ってみたいし。」

「王子なんて、ツンツンしたのとパーなのとクヨクヨの奴らだ。見る価値なんてない!」

赤鬼のお父様は言い切った。

それは残念な王子様方だね…。

「でも、クリス、同じ年くらいの強い子に会えるかも。それに剣の指導するのはあのハロルド・ドルツァー殿と聞いているよ。」

「ハロルド・ドルツァー!!うわっ会ってみたい!剣習いたい!」

「私の方が強いぞ!行く必要なんてない!」

またもや赤鬼が割り込む。

「クライス!自分が行くのが嫌だから、妹を行かせようとするのはやめろ!」

「クリスが行きたがっているから提案したんですよ。なあ、クリス。」

にこやかに私にふってくるお兄様は結構策士だ。

いつでも、自分の都合の言いように場を操作する。

まあ、王都に行ってお城見学するのは、正直とっても興味があるので今回は素直に兄に乗っかろう。

行きたい、行きたいと目で訴え、了承した兄が近づいてきた。

「どうしたら、いい?あの状態のお父様、説得する自信ないけれど…」

小さい声で兄に告げると、同じように小声で返してきた。

「ああなったら母上に任せるしかないさ。ほら、見てみろ。お気に入りのティーセットを壊されて怒り心頭だから、これから説教タイムが始まるぞ。」

そ~っと母の姿を見るとまたもや東方の国に昔から伝えられる般若の面のような顔をしていた。

ちなみに謎に満ちた東方の国について詳しいのは、お祖母様がそこの出身だからである。


「…あなた、お話があるので来て下さる?」

お母さまが抑揚のない声で、静かにお父様に告げる。

あの声を出すお母様はやばい時だ。

ほら、お父様が真っ青な顔してきた。

最強とか言われている父だけど、最愛の妻には頭が上がらず、情けなくなるのだから笑える。

「あ、あの、ユリアなんかごめん、えと、それで…。」

「このティーセットは亡き祖母から頂いた形見の物でした。」

「ひぇええ、そ、そんな大事な…」

あ~あ、やっちゃったね、お父様。

しかも壊した時、どうでもいい発言しているし、これは長引くの間違いない。

無言で部屋を退出するお母様の後を追ってお父様がおろおろ付いて行った。


「さて、邪魔者は居なくなったし、これでやりやすくなったな。」

「お母様はああなったら、二日くらいご機嫌直らないからね。その間お父様はお母様につきっきり。」

「ああ、だから今のうちに王宮からの使者に参加の旨伝えて、出発してもらうさ。」

自分の思う通りになりそうなお兄様がにやりと笑う。

「父上がこちらに気付きそうになる前にお前も出発だ。二日後だから準備しとけよ。」


あまりにあっけなく王宮行きがかないそうで、ちょっと不安になってきた。

「私、お兄様の代わりに行ってばれないかな?」

ちょっと驚いたお兄様はすぐに笑いながら、私を大きな姿見の前に引っ張ってきた。

鏡の前に並ぶ私とお兄様。

二つ下の私だけど、成長が良くてお兄様と背が同じくらい。

髪は手入れをしないお兄様はくすんだ灰色、私は艶々の銀色。

瞳は二人とも紫だけど、お兄様の方が少し青みがっている。

「これだけ公爵家の特徴バッチリの俺達なんだから安心しろ。それに剣の腕だって申し分ないだろ。」

確かにお兄様とは遣り合えるぐらい私は戦える。

それぞれ得物は違うけど。

私は双剣、お兄様は細剣、ちなみに父は大剣。

大丈夫、大丈夫、繰り返すお兄様の言葉に不安が減ってくる。

お兄様はお腹が黒いけど、失敗しない人だ。

味方の時は、何より心強い存在になる。

よし、大丈夫。

そうと決まったら、すぐ行動しなくては。

お兄様は使者殿がいる部屋へ、私は出立の準備の為自室へ。

すごくワクワクしてきた、

いっぱいの新しいものに出会える喜びに私はじっと出来ず、踊りだしたくなるのを我慢して部屋に飛び込んだ。












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