第17話 《機密 取扱注意》【全問正解者:ルディアスについての報告書】
《機密 取扱注意》
宛先:各機関代表者 各位
本報告書は、先の合同選抜試験にて前代未聞の満点を記録した人物、ルディアスについて、机上の記録のみでは測れない実地における能力、及びその危険度を検証した結果をまとめたものである。
一、調査の名目と実態
合同選抜試験は制度開始以来、歴代最高得点でも二百点台に留まっており、満点という数値そのものが本来あり得ないものである。
加えて、二次面接の場においても、当該人物は騎士団及び魔導協会からの高度な想定問答に対し、いずれも即答で対応した。
軍事、魔法、内政、いずれの分野においても知識の欠落は確認できなかった。
この時点で、単なる記憶量のみで語れる人物ではないと本官は判断し、実地における検証の必要性を鑑み、今回の調査に踏み切った。
表向きの調査目的は、王都近郊のアルダ村付近で死骸として発見された、アーマードボアの死因究明である。
同個体は既に脅威として排除する対象を失った状態で発見されており、複数の冒険者パーティが調査に赴きながらも、原因の特定には至っていなかった案件だ。
だが、本件における実際の目的は別にある。
ルディアスの持つ知識と判断力が、書類の上ではなく現場において、どこまで機能するかを見極める事だ。
二、現地調査における所見
現地に到着したルディアスは、限られた証言と物的証拠のみから、以下の推論を極めて短時間で構築している。
まず、死骸の体格及び損耗状態から、当該個体が長期間にわたり栄養不足の状態にあった事を看破し、北方における縄張り争いに敗れた末の南下、すなわち『はぐれ魔獣』であるとの結論に到達した。この結論に、後の現地確認でも矛盾は一切見られていない。
次に、より重要な点として、アーマードボアを死に至らしめた真の原因についてである。
村に住む孤児の兄妹の存在、その身体的特徴、村の人種構成、及び兄妹の言動の変化という一見に無関係に見える複数の情報を組み合わせ、人狼族の先祖返りという極めて稀な事象に、独力で行き着いている。
特筆すべきは、この推論の速度と正確さもさることながら、真相判明後の対応である。
ルディアスは事実を公表するに先立ち、村長へ獣人に対する偏見の有無を確認し、村の受け入れ体制を見極めた上で、初めて開示に踏み切っている。
これは知識量のみでは説明のつかない、実務上の危機管理能力、及び対人観察力の証左と言える。
結果として、当該兄妹は村人より英雄として迎えられ、混乱は一切生じなかった。
判断の的確さは、この結果が何よりも証明している。
三、能力検証試験の結果
現地調査に先立ち、本官は冒険者ギルド本部において、ルディアス本人には無告知のまま簡易的な検証を独自に実施している。
所属する下級冒険者三名を嗾け、意図的にルディアスへ因縁をつけさせるという形式である。
目的は、不意の威圧及び挑発を受けた際の反応速度、並びに実戦における身体能力の把握にある。
結果、当該冒険者の一人がルディアスの連れる使い魔(猫)へ手を伸ばした瞬間、ルディアスは反射的にその冒険者の右腕を掴んだ。
特記すべきは、この際に発生した力である。
本官が即座に制止しなければ、当該冒険者の腕は間違いなく粉砕していたであろう。
ルディアスの外見的な体格からすれば、この出力は明らかに不自然なものである。
現場にて確認した限り、これは純粋な握力によるものではなく、魔力による瞬間的な身体強化、とりわけ筋力への直接的な増幅によって発生したものと判断される。
本人に自覚がある様子は見られず、無意識下での発動である可能性が高い。
なお、威嚇以上の被害を与えていない点は評価に値する。
無自覚の状態でありながら、寸前で力を止める制御が働いていたという事実は、看過できるものではない。
四、総合所見
ルディアスの能力は、知識量、論理的推論力、実務上の危機管理能力、そして本項に記した身体能力に至るまで、いずれの分野においても常軌を逸した水準にある。かつ、これらは単独ではなく複合的に発揮されており、模倣及び再現は極めて困難と考えられる。
加えて、本人の言動には権力や名声に対する執着が見られない。
今回の兄妹の一件においても、功績を独占しようとする素振りは一切なかった。
この点は、悪意を持って利用される危険性が現時点で低い事を示す材料である。
しかしながら、有能である事と注意を要さない事とは、まったく別の問題である。
現時点でルディアスが有する能力の全容は、いまだ把握しきれていない。
前述の身体能力にしても、本人が本気を出した場合の上限は未知数のままである。
五、結語
以上を踏まえ、本官はルディアスについて以下の通り提言する。
当該人物は国家の資産となり得る、極めて稀な人材である。
ゆえに、四機関へ分散して所属させるという現状の措置は、一機関への権力集中を防ぐ意味でも妥当と考える。
だが、それ以上に重要な事がある。
決して、ルディアスを他の国に行かせてはならない。
必ずや、脅威となるだろう。
もし他国がこの人材の価値に気づき、抱え込むような事態になれば我が国にとって取り返しのつかない損失となる。
今後も継続的な監視、及び慎重な扱いを要する人物である事を、ここに強く提言する。
報告者:ヴェイン・ルシュフル=アーカンド
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
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