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プロローグ・「勇者の後」
魔王が死んだ日。
世界は、歓声に包まれた。
空は晴れていた。
崩れた魔王城の上で、人々は泣きながら笑っていた。
勇者シオンの名を叫びながら。
——その三日後。
王都では、別の名前が囁かれていた。
『次の魔王』
最初は、冗談のようなものだった。
勇者シオンは強すぎた。
人類最強。
歴代最大。
魔王を単独で押さえ込んだ怪物。
そんな噂が、
酒場から、貴族街へ、
そして神殿へ広がっていった。
「もし、勇者が裏切ったら?」
誰かが言った。
誰かが頷いた。
気づけば、それは世界の総意になっていた。
「……仕方なかったんです」
そう言ったのは、聖女エリスだった。
「あなたを守るためでも、あったんです」
彼女は泣いていた。
シオンは、何も答えなかった。
差し出された書類には、
討伐監視対象
と書かれていた。
少しくらいは、
仲間だと思っていた。
「抵抗は、しないんですね」
「ああ」
「どうしてですか」
シオンは少し考えてから、
崩れた空を見上げた。
「……疲れた」
その日、
勇者シオンは人類から追放された。
そして十年後。
世界最大最悪のダンジョン、
《深淵迷宮アビス》。
百二十七層。
人類未踏破。
そこは、
“元勇者”が棲む場所になっていた。




