盟友 ⑨
「火を熾さずに、狼煙よりも遠くへ確実に合図を送れないものかと作ったのが、コレなんだけどね」
小さな手鏡ぐらいの一対の魔法道具を、作業台に置いた。
わずかな魔素を流した間だけ、幅が狭く直線的な光が、パッと点く。
「ランプの魔法道具よりも明るいな」
「でも、少し距離があると夜しか光が届かないし、お互いの姿が視認し合える短距離でしか使えないんじゃあ、意味なかったんだよね」
「サーチライトでのモールス信号みたいな発想か」
手に取って、ひっくり返したり、顔を近付けて見たりしている。
”サーチライト”や”モールスしんごう”というものが、どういうものかは分からないけど、テツの世界にも似たような道具が存在するんだね。
「なあ。これ、さっきのランプみたいに魔石を引っ付けられるか?」
「魔石を付けて、どうするの?」
「懐中電灯―――、ランプみたいに使えるじゃん」
”かいちゅう”? 何だって?
魔法道具を手に、テツが向こう側を照らす仕草をする。
「あれ? 魔素を流すだけで光るんだけど。キミ、魔素を流せないの?」
「動かねえな。地球に魔法なんて無えんだから、魔素なんて言われても分からん」
僕に魔法道具を示して見せる。
彼の手は刻印に触れているのに、魔法道具が起動していない。
「嘘だろ? キミ、相当な魔素を持ってると思うけど」
僕が首を傾げたら、彼も傾げた。
そんなわけがない。
今、こうやってテーブルを挟んでいても、テツの体から強い魔素の反応を感じ取れるんだから。
「いや。マジで分からんし」
本気で分からない様子で彼は首を傾げる。
彼が僕を謀ろうとしているとは思わない。
短い付き合いだけど、そんな人間ではないと僕は確信している。
だとすると、彼は本当に魔素の存在を感じ取れないのだろう。
ふむ・・・?
「ねえ、テツ。ちょっと鑑ていいかな」
「何を?」
彼は気にしないと思うけど、人によっては不快感を覚えるそうだから、事前に確認を取る。
確認は取ったけど,何のことか彼は思い至らないようだ。
もっと明確に言った方が良さそうだね。
「体内の魔素を、だね」
「ああ。見えるって言ってたな」
頓着しない彼の了解をアッサリと得て、僕は目に魔素を集める。
魔素を通して、彼の姿に重なって、彼の中に在る魔素が可視化される。
「これはまた・・・とんでもないね」
ごくりと息を呑む。
これが、チキュウの勇者か。
彼は否定しているけど、勇者以外にこんな者がいるとは思えない。
高濃度に渦を巻く魔素が、彼の中で対流している。
僕らエルフ族でも、ここまでの濃度で魔素を体内に押し込めている者はいない。
まるで滞留が見られず流動性が高いから、まだまだ増えるんじゃないかな。
世界中を探しても、ここまでの保有量を持つ者は、そう多くないと思う。
それに・・・、属性が偏っている?
勇者は全属性だと記された書物を見た記憶があるんだけど、彼の中に在る魔素は、ほぼ純粋な魔素で、深層の一部だけが濃密な闇属性を帯びているように見える。
魔素とは無縁だったはずのテツと関係する闇属性のものといえば、何が有る?
黒龍王の影響で闇属性に染まった?
それとも、空間の壁を超える際に、空間系術式から闇属性の影響を受けた?
でも、ほんの一部だけなのだから、違う属性の術式でも発動を妨げることはないはずだ。
「魔法術式を使えなかった勇者なんて聞いたことが無いし、これほどの保有量が有って魔素を扱えないなんて、有り得ないんだけど」
「そう言われてもなあ」
ピンと来ないみたいだね。
盟友⑨です。
魔素濃度!
次回、取引成立!?




