小さな魔法使い ⑤
「な、何が起こって・・・」
木々が倒れる度に森の中が僅かずつ明るくなっていきます。
樹上の遙か上空から差し込んでくる陽光の帯の中に落下する魔獣の影が見えています。
恐慌を来したまま、数匹の魔獣が、こちらへと四つ足で駆けてくるのが見えます。
魔獣の体から何かが飛び散っているように見えるのは、手負いだからでしょうか?
混乱して、木々の枝を渡ることすら忘れた、大猿の魔獣。
“森ヒヒ”と呼ばれることもある、郷を襲ったショージョーの群れの一部です。
あ! 術式を準備しなきゃ!
「同胞たる精霊よ! 我が願いに応え、力を貸し与え給え!」
わたしは、慌てて術式の威力を引き上げるための詠唱をしました。
詠唱などしなくても近くに居る精霊はわたしの願いに応えてくれますが、より広く、より多くの精霊たちに手伝って貰うためには、詠唱した方が良いとされているからです。
「渡る風よ、力を貸して!」
森の中では、一番、使い勝手がよく、一番、使い慣れた風属性術式です。
わたしたち、エルフ族が得意とするのは、精霊魔法術式。
渡した魔素の代価として、現象そのものである精霊たちの力を借りて、望んだ現象を具現化する術式です。
心を通わせた精霊には、わたしの思考が伝わりますから、わたしが狙った場所に術式は届きます。
精密な魔素の制御は精霊たちが肩代わりしてくれますから、複数の術式でも同時に扱うことができるのが大きな特徴ですね。
他にも精霊の力を借りる方法は有りますが、わたしは特に、この方法が得意なのです。
自分の体内に有る魔素を魔方陣や刻印に乗せる方法と違って、精霊魔法術式は渡す魔素の量で術式の規模を調整できます。
精霊魔法術式の教えの中では、エルフ族は精霊種の一種に分類されることもある、人間と精霊の中間的存在とされています。
その存在が精霊に近しいエルフ族は、精霊たちとの親和性が高いのです。
魔素の量と、術式の行使は、密接に関係しています。
大きな現象を起こしたいのなら、より多くの魔素を渡す必要があります。
わたしは、いつも通りに、術式の発動に必要とする分の体内の魔素を、風の精霊たちに渡しました。
「”槍”!!」
狙うのは接近してくる手負いのショージョーたち。
そこで感覚の違いに気付きました。
あれ? な、何ですかこれ・・・!?
精霊たちが、騒いでいます。
いつもと同じ感覚で魔素を渡したのに、様子が違います。
ゴォッ! と、幾つもの渦を巻いた風が、集まり、鋭い鎗の形をとって、とんでもない勢いで、飛んで行きます。
狙いの制御どころか、どこへ飛んで行くのか、術者のわたしにも、わかりません。
「ひゃん!?」
思わず頭と顔を両手で庇って顔を背けました。
ドドドオオオオン!! という、凄まじい着弾音と共に、狙った個体には掠りもしなかったのに、周囲の木々や土塊と一緒くたに魔獣たちを風の鎗が吹き飛ばしました。
「グギャアアアアアアア!!」
バンダースナッチのときと同じように避けられて狙いは外れたのに、荒れ狂う風に体を引き裂かれたショージョーが巻き上げられ、ズタズタの肉塊に変わって雨のように降ってきます。
わたしも、吹き戻ってきた土砂や木片混じりの強風に煽られて、尻餅をつきました。
「ななな、なんですか、これ!?」
風の“槍”という術式は、細く硬く固めた風で目標物を貫く術式で、着弾とともに爆発するものでは、決して、ありません。
というよりも、火属性の爆炎術式でも無いのに、風属性術式が爆発するなんて、聞いたことがありません。
大きく太い幹を持つ樹は幹が抉れただけで残っていますが、数十年しか生きていない木は魔獣と一緒に吹き飛んで、何も無い小さな窪地が出来てしまっています。
こちらに向かってきていた魔獣なんて、跡形も無く、吹き飛んでしまいました。
万一、生き残っていたとしても、恐怖を刻み込まれたあの魔獣が、郷の近くへ戻ってくることなど二度と無いでしょう。
小さな魔法使い⑤です。
精霊さん!
次回、粉砕!?




