犬祭りとファンタジー ⑧
「んん?」
俺、何かされてる?
幻術とか、忍術とか、結界とか、そういうファンタジー的なやつ。
けど、俺は危険物センサーの検知反応を目指しているのだから、方向感覚を狂わされたところで惑うはずがないんだよな。
犬っコロ強化週間の前だったら、センサーの精度的に騙されてたかも。
「やっと出てきたか」
違和感を抜けた、と思ったら、弓矢? で俺を狙ってるヤツが3人ほど姿を現した。
子供や怪我人と同じく質素な民族衣装っぽい服装だが、布を頭部全体に巻き付けた覆面は怪しすぎるだろう。
これが盗賊ってヤツか?
発展途上国のギャングや反政府ゲリラやテロリストでも、ここまで怪しくねえぞ。
「■☆▼〇◇! ●⊿▼!!」
止める間もなく、子供が俺の前へと飛び出してしまった。
3人は目配せで合図し合ってから、弓を構えたまま、じりじりと近付いてくる。
2人は弓を構えたままだが、1人が警戒しつつも近付いてきたので、肩から下ろした布団団子に凭れさせて怪我人を横たえてやる。
「▲〇□~★!? ▲〇□~★!!」
警戒しながら近付いてきた1人がチラリと怪我人の顔を確認して、仲間に合図を送ると、残りの2人も構えを解いて駆けつけてきた。
ああん?
「待てや、コラ」
最初の1人が厳しい目で子供を睨み、乱暴に首根っこを掴みやがった。
子供が上げた小さな悲鳴にカチンと来る。
子供の首根っこを掴んだ腕を、乱暴に掴んでやった。
「ナニ、やってんだテメエ」
「~~~ッ! ●⊿・・・!!」
俺の掌の中の腕がミシッと軋み、覆面野郎が苦悶の声ををあげる。
小さな身体で頑張って怪我人の搬送に協力した子供に、俺の目の前で暴力だ?
テメエのツラも晒せねえチキン野郎が、生意気に悲鳴上げてんじゃねえよ。
「お? やるんか?」
残りの2人が、再び弓を構えた。
ピリピリと静電気に晒されるように、空気が張り詰める。
こっちからの呼びかけをガン無視しやがったくせに、上等じゃねえか。
「HAHAHA!」
風習だか文化だか知らねえが、子供を虐待する未開土人なら、お灸を据えてもいいな?
平和的会話で解決しない相手は、肉体言語で解り合うしかない。
これは、アホのはみ出し者や気性が荒い変わり者どもと解り合うために、経験則で俺が学んだ単純明快な方法論だ。
「覚悟しろや。手足の3~4本は、ポッキリへし折るぞ」
ニィっと口角が吊り上がる。
右、左、と、掌に拳を押し当てて、バキボキと指の関節を鳴らす。
オーケー。テメエらとも解り合ってやる。
弓矢とタイマン張るのは初めてだが、犬っコロよか危険度が低いんだから負けやしねえだろ。
「□▲!!」
森に年配っぽい嗄れた男の声で、塩水湖のときに聞いた単語が響いた。
弓を構えていた2人が、渋々といった体で弓を下ろす。
今のは、“止めろ”って意味の言葉かな?
俺は、このバカの腕を放す気は無いけどな。
声の方向を見なくとも、新たに接近してきている誰かの存在には気付いていた。
「その・・くろかみ・・・」
「おおっ?」
聞こえた言語に、思わず、そっちを見てしまった。
3人が来た方向から、新たに5人ほどの人影が現れる。
「さと・・・のものが・・しつ・・・れい、した」
深く一礼した一番の年長者と思しき爺さんが、考え、考え、という感じで、たどたどしい“日本語”を話した。
言葉が通じる!?
めちゃくちゃ久しぶりに聞き覚えの有る人間の言葉を聞いて、それが日本語だった、この感動ときたら!!
「あなた・・・は、ゆうしゃか?」
「いや。サラリーマンだけど」
反射的に、即答していた。
体が震えるほどの感動が、一瞬でどこかへ素っ飛んで行った。
ゆうしゃ、って、勇者? 何の冗談だよ恥ずかしい!!
「さら・・・?」
爺さんが、首を傾げる。
ヒアリングは難しかったか? カタコトだったもんな。
それにしても、この爺さん。すっげえ、耳、尖ってんだけど?
笹かまぼこ、みたいな耳してるじゃん。
あー。笹かま食いてえ。
犬祭り⑧です。
笹かま族!?
次回、真・ファンタジー!




