犬祭りとファンタジー ⑥
白い砂浜だと思っていたものを、よく見てみる。
これ、塩じゃねえか!! 取っとかないと!!
入れ物がないので、作業ジャケットのポケットひとつ分、乾燥している辺りの塩を詰め込んでおいた。
固くて血生臭い犬肉が、微粒子レベルで美味くなるかも知れん!
「⊿◆□★▽!!」
「お?」
子供の叫び声が聞こえて、危険物センサーの警告に気がついた。
塩に夢中で、警戒が疎かになっていたらしい。
鏡面のように凪いでいた水面が、俺の近くで盛り上がって、水を割って鋏のようなモノが飛び出してきた。
近すぎたので反撃を諦めて、堆積した塩を蹴って転がるようにして避ける。
「ザリガニっぽい!!」
塩水湖なのに!? という疑問は、さておき、テンションが上がる。
魚介類だ!! いや、甲殻類か。
蛇肉や犬肉みたいなゲテモノではなく、真っ当な食材が向こうからやって来てくれるなんて、超ラッキーだぞ!
本当に、何を見ても、「美味そう!」としか思わなくなった俺は、社会復帰出来るのだろうか?
だが、まずまずの“大物”だぞ。
威嚇するように両手の大きな鋏をバンザイで振り上げるザリガニは、大きさだけなら初代犬っコロよりも遙かに大きい。
平屋の小屋ぐらいの大きさが有るんだから、食い応えが有るはずだ。
ザリガニって、大きさの割に食える部分が少ないんだけどな。
昔、建材の調達交渉で某国へ行ったときに、ザリガニ料理を食ったことがある。
接待だ、つってよ。社長と一緒にご馳走されたんだけどな。
日本ではザリガニもゲテモノの扱いだけど、まあまあ美味かったぞ。
実は、ザリガニって高級食材なんだそうだ。
食える部分が少ないだけでなく、清水に一週間以上は泳がせて泥を吐かせないと泥臭いから手間が掛かるせい、らしい。
水中に棲息しているくせに、ザリガニは地上活動もできる。
こいつら、エラ呼吸のくせして、エラが水で濡れていれば空気中でも呼吸できるんだよ。
「来やがったな?」
目の前のザリガニも、躊躇なく白い塩の砂浜へと上がってきた。
鋏を避けて側面へと回り込もうとするが、なかなかに反応速度も、胸下の多脚を踏み替えて俺に向き直るのが早い。
挟みに来た鋏を、上から叩いて足で踏んづける。
「あん?」
体格差から考えて、パワーでは俺の体重を撥ね除けるのなんて楽勝だと思うが、戸惑ったのか撥ね除けて来ないな。
警戒していた反撃が来ないのなら、さらに攻め込むだけだ。
もう一方の鋏が迫る前に、踏んづけていた鋏から腕を伝ってザリガニの背中へと駆け上がった。
狙い目は、兜を被ったような大きな頭部と、鎧状の腹部の境目辺り。
ギリギリまで行くが腹の背には乗らない。
「どうだ。鋏が届くまい」
ドンガドンガと頭部の上で足踏みしてやる。
地方育ちの悪ガキなら、ザリガニを捕まえたことぐらいは有る。
ザリガニは、この辺りを掴むと鋏に挟まれずに捕まえられることを俺は知っている。
「ハッハッハ!」
大きく振り上げた両の挟みは可動域の外側にいる俺を捕まえられず、振り落としたいのか塩の砂浜を蹴り立ててザリガニがその場でぐるぐる回る。
残念だが、その程度じゃあ、触角ヘビや犬っコロとの格闘戦で体のキレを取り戻した俺は振り落とせねえぞ。
背に乗った俺を追って伸ばした無機質な目玉から、苛立ちのようなものを感じる。
「そろそろ片付けるか」
近所の田んぼや用水路でザリガニ獲りに興じていた、元地方のクソガキを舐めるなよ。
生命倫理も知らない残酷なクソガキが「生き物で遊ぶ」ってことは、命を弄ぶ「カンタンな殺し方を知ってる」ってことだぞ。
チカラ、オブ、パワーだ!
頭部と腹部の繋ぎ目に手を突っ込んで、腹部の背を足場に踏ん張って、力任せに兜状の頭部を持ち上げる。
「ヨッとぉ!!」
メキメキブチブチと何かが引き千切れる音を響かせて、頭部を捲り上げた。
抵抗も有ったし、それなりに硬かったが、パワーで何とかなるレベルだ。
半ば、頭部と腹部が泣き別れし掛けたザリガニが、俺を振り落とそうと暴れるが、振り落とす前に自分が暴れたせいで頭部と腹部がサヨウナラした。
犬祭り⑥です。
魚介類、ゲットー!!
次回、塩焼き!?




