犬祭りとファンタジー ③
俺へと飛び掛かってきた犬っコロを、フックで殴り飛ばすのではなく、コンマ秒だけタイミングを遅らせて、左掌で頸を掴んで握りつぶす。
怪我人に縋る子供へ背後から食らいつこうとする犬っコロを、右の踵落としで脳天を踏み潰す。
子供の向こう側から、怪我人を噛み砕こうとする犬っコロに、左手の喉を潰した死骸を投げつけて、牽制。
俺の背後から飛び掛かってきた犬っコロに、右の裏拳を叩き込む。
グシャッと骨格を粉砕した感触が有ったが、俺の目は、怪我人の向こう側からリベンジに挑もうとする犬っコロを捉えている。
二人を跳び越えると同時に、着地する前に振り抜いた左脚が、犬っコロの肋骨をスイカのように蹴り潰していた。
蹴った左脚の勢いで、宙で180度反転していた俺は、着地するや、突進。
俺の反転で、飛び掛かる機先を削がれた犬っコロの顎下へと、ボウリングスロー並みに地面すれすれからの超低空アッパーカットをブチ込んだ。
バック転で素っ飛んでいく犬っコロには目もくれず、「危険物」の気配に振り返ったら、子供の反対側に迫る犬っコロへの攻撃が間に合わないと踏む。
「おっと! させるか!」
両脇に手を入れてヒョイと子供を持ち上げたら、バクンと顎を空振りさせた犬っコロが、勢い余って子供の足の下を素通りして行った。
空振り犬が方向転換する辺りで、犬っコロどもの波状攻撃が、一旦、止まる。
唸りながらウロウロと距離を測ろうとする犬っコロどもから目を離さないまま、子供をそっと下ろしてやって頭をポンポンする。
野良犬でもヤンキーでもチンピラでもそうだが、動物とのマウントの取り合いでの鉄則は、絶対に目を離さないことだ。
一般的に、ガンのクレ合い、飛ばし合い、というヤツだな。
動物、と言いつつ、野良犬しか動物の例えが無いのはご愛敬だ。
どれも野生動物みたいなもんだから、大した違いなんて無い。
気迫で呑まれたほうが負けるのだ。
ずん、と一歩を踏み出す。
ビクッと、警戒した犬っコロどもが後退る。
「わっ!!!」、と、特大の大声と同時に“|コロンビアのポーズ”を取ったら、正解だったのか、ビビった犬っコロどもが、キャイン、キャイン、と逃げ散って行った。
さては、「コロンビア・正解」でネット検索しに帰ったか。
ふん。勝ったな!
他愛も無い、犬っコロどもめ。
「▲〇□~★! ▲〇□~★▽!!」
子供が怪我人に縋って、何か言っている。
「不味いな。ナニ喋ってんのか、さっぱり分かんねえぞ」
同じ単語を繰り返しているようだから、怪我人の名前かな?
一応、俺、仕事上の必要に迫られて、ナンチャッテ日常英会話はできるんだけどな。
多様化だか何だか知らないが、現場にも外国人の作業員が入ってくることが有るんだよ。
何がナンチャッテなのか?
海外旅行へ行ったオバチャンたちが得意な、知ってる英単語を適当に並べて、身振り手振りに表情で、超、真面目に訴えるアレだよ。
意外に結構、通じるんだよなあ。
しかし、知っている単語がひとつもない―――、というか、どうやって発音しているのかも、よく分からない言語では、お手上げか。
「おいおい。頭を打ったかもしれない血塗れの怪我人を、そんなに揺らしてやるな」
子供の肩に手を置くとビクリと体を震わせて、怪我人を揺する作業を止めた。
子供から怪我人へと目を移す。
怪我人の―――、男、だよな? 若いな。
てか、美形すぎね?
怪我人の傍に屈んで、傷の具合を診る。
頬を軽くペチペチしてみるが、意識が無いな。
手首と首筋に触れてみる。
生きてはいるが、脈が弱い気がする。
大きな怪我は、左脇腹の爪傷と、右腕の噛み傷だろうか。
腹の傷の様子が見えないから、ベッタリと血に濡れた傷口の破れから衣服を引き裂いてみる。
ヤベえ。結構、血が出てやがる。
これ、失血性ショック状態だと、俺みたいな素人じゃあどうしようもねえぞ。
止血してみて、試しに犬血でも飲ませてみて、様子を見るしかないな。
子供の目の前で人死になんて、勘弁してやってくれ。
犬祭り③です。
撃退成功!
次回、救命処置!




