犬祭りとファンタジー ①
「オルァア!!」
振り抜いた右拳が左首を捉え、ごきり、という感触と共に、ギャン! と悲鳴を上げた犬っコロが、転がって行って動かなくなった。
頸の骨が逝ったかな?
犬肉パーティーを開催した夜から、丸3日が経って、7日目の朝だ。
明け方に犬っコロの群れの襲撃を受けて、今ので5匹目を狩った。
通算で14―――、いや、15匹目の犬っコロか。
だんだん、増えてる?
気のせいかな。
「ふう・・・」
一息吐いて、犬っコロの頸にドラゴン包丁を入れる。
最初の犬っコロが特別だったのか、あとの14匹は、せいぜい、大型バイクほどの大きさしかない。
犬肉パーティーでの不思議ちゃんパワーでパワーアップした俺は、苦戦することもなくなり、犬っコロを狩って食うたび、徐々に、瞬発力、反応速度、打撃力、だけでなく、動体視力、危険物センサーの感度と精度まで向上している。
している、と思う。
してるんじゃないかな?
体感だから、正確には、よく分からん。
ただ、蛇よりも量が多い犬血をごくごく飲んで、毛皮を剥いで、血生臭い犬肉ステーキを食って寝る度に、楽に勝てるようになってきているのは事実だと思う。
そして、気が付いた。
無理にドラゴン棒で殴るよりも、拳で殴ったほうが、断然、早いと。
ドラコン棒ってのは、役に立っているようで立っていないドラゴンの翼の骨な。
風呂敷みたいに四隅で括った敷き布団で、丸めた枕だの、畳んだ毛布だの、犬肉備蓄だの、ドラゴン石だの、犬石だの、蛇キノコ棒だのを一緒くたに包んで、ドラゴン棒で肩に担ぐので、ドラゴン棒はお役御免、とは、なっていないだけなんだよなあ。
不思議なことに、布団も、蛇肉も、犬肉も、痛む様子がないので、非常に助かっている。
今現在の食糧備蓄は、半月分以上は有ると思う。
下手をすると、犬肉だけでも100キログラムぐらいは有るのではなかろうか。
相当な総重量のはずだが、さして負担にも思わないので、気軽にドラゴン棒で担いで、蛇キノコ棒ともども持ち歩いている。
犬肉パーティーの夜以降、焚き火を熾しても触角ヘビが落ちてこなくなったのが、とても気になるところだが、代わりに犬っコロの団体さんが襲ってくるようになったので問題は無いのだろう。
愛用のドラゴン包丁で、すっぱりと犬っコロの喉を掻き切って、1匹、1匹、少し血を飲んで、心臓を抉り出しては犬石を抜く。
犬肉はモモ肉が、一番、食い応えがあるのだが、自力で吊して血抜きを出来ないこともないが面倒なので、専ら、コリコリした食感の心臓を焼いて食うほうが多くなってきている。
1匹ずつ律儀に犬血を飲むのは、そのほうがパワーアップ幅が大きいような気がしているからだ。
生き残るため、とはいえ、殺生をしている以上、命を頂くことに感謝して、できるだけ有効活用するのは勝者の義務だと感じている。
まあ、実際には、一方的に襲われるのを撃退しているだけ、なんだけれども。
鰯の頭も信心から、というのだから、悪影響がないのなら続けるべきだろう。
「消火、ヨシ! 死体、ヨシ! 荷物、ヨシ!」
焚き火に土を蹴り掛けて消火し、積み上げた犬っコロどもの骸に手を合わせて、指差し確認をしたら毛皮に包んだ荷物を背負って歩き出す。
昨日から地勢が緩やかな下り斜面になっているので、この調子なら、そろそろ断崖の底まで辿り着くのではなかろうか、と予想している。
水は高きから低きへと流れる。
髙地から低地へと下りれば、水場を見つけられる可能性も上がる。
蛇血から犬血へ、喉の渇きを潤すという意味では、水場の重要性は下がっているのだが、もう一週間も着たきり雀なんだよなあ。
「あ~・・・」
水浴びしたい。
そして、洗濯したい。
ヒナに、「パパ臭~い」なんて言われてしまった日には、即死できる。
間違いなく、秒で3回は死ねる。
三十路のオッサンだからこそ、身だしなみには気を付けねばならない。
絶対に、だ。
まだ加齢臭を漂わせるほど歳食っちゃいないが、「臭い」のだけは致命傷になる。
それが、愛娘のド直球な一言で積み上がったオッサンたちの屍が、俺に教えてくれた教訓だ。
毎日、華麗にカレーを食ってキツくなった加齢臭を漂わせてるから嫌われたんじゃね? と、思わなくもなかったが、日本人はカレー好きだからな。
夏のクッソ暑い日に、汗だくになってまでオッサンたちが昼メシにカレーを食いたがるのは何でなんだろうな?
犬祭り①です。
臭い立つダンディズム!?
次回、エンカウント!




