大名行列と、おじいちゃんとおばあちゃん ①
「社長のところへ行け」
確かに、パパは、そう言ったと思います。
「ぱ、パパ!?」
お空が見えているので、わたしは、ねころがっているのだ、と思って、ころがりました。
おしりが痛かったけど、それどころじゃありませんでした。
地面に手をついて、起き上がろうとした、わたしの少しむこうで、黒丸が小さくなっていきます。
パパが、落っこちちゃった!!
かけ出そうとした、わたしの、目の前で“穴”が、消えてしまいました。
「パパ! どこ!?」
そう、言った、大きな声が、わたしの声だったのかも、自信がありません。
そのあとのことは、よく覚えていないです。
スナック? の、おばあちゃんが、怒っている声を、きいた気もします。
パトカーの音がして、おまわりさんが、なにか言っていたような気もしますが、よくわかりません。
なんだか、すごく、つかれた気がします。
鼻の奥が痛くて、のどが痛くて、目のあたりが、ひりひりします。
両ヒザも、じんじん痛くて、ばんそうこうが貼られていますが、たぶん、すりむいているのでしょう。
ばんそうこうが、いつ、貼られたものなのかも、知りません。
きっと、わたしは、ずいぶんと泣いていたのでしょう。
よく覚えていないのです。
すん、すん、と、わたしの鼻から、ヘンな音がします。
事務所の椅子に座らされた、わたしの、わまりを、おとなのひとたちが囲んでいます。
社長さん、えりかお姉ちゃん、ボブさん、コータさん、ほかの、会社のお兄さんたちが、むずかしい顔をしています。
えりかお姉ちゃんは、社長さんの、むすめさんで、パパは、おじょうさん、って呼んでいます。
高校生の、えりかお姉ちゃんは、やさしくて、お料理ができて、かっこいい、お姉ちゃんで、黒くて、つやつやの長い髪がキレイな、美人のお姉ちゃんです。
わたしの大好きなひとなので、わたしは、安心したのだと思います。
「そんな、荒唐無稽な」
おまわりさんの、ひとりが、わたしを見下ろして、そう言いました。
「んんだぁ!? この野郎ァ!!」
「テメ! ヒナちゃんが、ウソこいてるッつーんか!?」
「止めねえか! バカども!!」
ずぶとい怒鳴り声で、ボブさんとコータさんが、おまわりさんに、つかみかかろうとするのを、社長さんが、ボブさんとコータさんの首に、うでを回して、つかまえています。
ボブさんもコータさんも、いつもは面白い、おじさんたちだけど、キレる? と、すごく目つきが変わって、パパなら、えんりょ無く、頭を、なぐるのですが、なぐらない社長さんは、とっても、やさしいです。
えりかお姉ちゃんも、ものすごく怒った顔で、おまわりさんを、にらみつけていて、わたしは、どうすればいいのか困ってしまいます。
わたし、うそついてるの?
困った顔で、わたしを見る、おまわりさんたちの、しせんが気持ちわるいです。
どどど、どうしよう・・・。
で、でも、わたし、うそなんて、つかないもん!
「落ち着け」
ちょっとだけ、つめたい感じがする、しずかな声に、怒っていたボブさんとコータさんが止まって、ぱっと、そっちを見ました。
「あ、ハルおじさんだ」
なんで、いるの?
ハルおじさんって、ふくおか? のひとなんだよね?
パパが、すごく、とおくに住んでるって、言ってたもん。
おーるばっく、っていうの? ぴっちり髪をかためて、黒い、きれいな生地のスーツを着たハルおじさんが、くいっ、と、めがねを上げて、おまわりさんたちを見ました。
「もう、こんな時間だ。事情聴取なら、明日以降でも構わないでしょう」
「い、いや、しかし・・・」
「たった一人の肉親が、行方不明になった、小学生の女の子を虐待しようと?」
ハルおじさんが、親指で、かべ掛け時計を、しめしました。
しずかな声なのに、はくりょくが増しています。
大名行列①です。
第1おじさん発見!
次回、第2おじさん出没!?




