文明回帰への一歩 ⑯
「んん!?」
俺の顔ほどもある大きな心臓の、右と左の真ん中じゃね? って辺りにドラゴン包丁を入れてみたら、ゴリっと何か硬いものに刃が当たった。
心臓に骨?
「良かった。欠けてない」
肉の切り分け作業を中断して刃を焚き火の明かりに翳す。
勘弁してくれよ?
カッターナイフの刃がお亡くなりになった瞬間を思い出して、ヒヤッとしたじゃねえか。
「普通に考えて、骨なんて有るわけ無いしな」
火の無いところで火を噴いてみせる異世界犬だと、心臓に骨が有っても、おかしくは無いのか?
いやいや、まさかなあ。
骨格ってのは、柔らかい肉でも体の構造を維持できるように発達したもんじゃねえの?
例えば、カニや昆虫だと甲殻が骨格の役目を果たすから、中身には骨が無いんじゃね? 知らんけど。
心臓なんて筋肉の塊だったはずだが、俺の常識が間違ってるのか?
見た感じ、デカいだけで何の変哲もない犬っコロだったが、全く別の生物なのだろうか。
適当に真っ二つにしようかと、ド真ん中に包丁を入れかけた肉塊を見下ろす。
「取り出して見りゃ分かるか」
俺は肉屋でも焼肉屋でも無いのだから心臓の構造もよく知らねえしな。
右と左で全身に血を送り出すのと肺に血を送り出すので役目が違う、ってぐらいしか覚えてねえ。
左右でも、心房と心室で別々のものが有るんだっけ?
最初に入れかけた切り口とは角度を変えて、包丁を入れ直してみる。
「今度は大丈夫そうか?」
スッと刃が入って両断できた。
どれが心房で心室かも分かんねえが、血管の太いヤツにしか見えねえな。
ねじ込めば拳でも入りそうな穴に指を突っ込んで内側を探ってみる。
「おっ。ここだな」
肉の内側に、間違いなく固いものが埋まっている。
どこにも繋がって居なさそうだが、本当にコレ、骨か?
包丁の刃が欠けると嫌なので、硬いナニカに気を付けつつ心臓を斬り刻んで抉り出してみる。
貼り付いた肉を削ぎ落として「現物」だけの姿に剥いてみた。
「うーん? 石・・・?」
深紅ってのか、深い暗めの赤色で、全長5センチメートルほどの、平べったく潰れたフットボールのような形状。
この形状には、見覚えがあるな。
鈍器になって割れてしまう前のドラゴン石と、非常によく似ている。
生き物の体の中に石が形成されるのなんて、胆石か尿道結石しか知らねえが、筋肉の中に出来るもんじゃ無かったはずだ。
しかも、結石は数ミリメートルとか、デカくても1センチメートルとか、そんなサイズじゃなかったか?
5センチメートルもの大きさの結石なんて、日常生活に支障が出るんじゃねえの?
まあ、良いか。
俺は犬っコロの親兄弟でも無いし、犬っコロの健康を心配してやる義理も無い。
そもそも、コイツは俺を食おうと襲ってきた奴だしな。
「まあ、綺麗だから、取っておくか」
割れちゃったしな。お土産のドラゴン石。
犬っコロの石も異世界土産としては有りだろう。
装飾品に加工するなら割れた破片でも十分な大きさがあるから、ドラゴン石も取っておくんだけれども。
片手間に焼いた犬肉を食いながら、食えそうな部分のブロック肉を切り出し、スライスした焼きハツと焼きレバーも食ってみて、満腹になった辺りで力尽きて眠った。
ダニとかノミが居るかも、と、心配しつつも、固い地べたで直接寝るよかマシだと割り切って、半分折りにした毛皮に挟まって寝た。
ムカデや蜘蛛に噛まれるよりもダニに噛まれた方がマシに決まってる。
縦3メートルの横2メートルも有れば布団としては十分なサイズだろう。
獣臭い上に血生臭かったが、よく眠れた。
布団って大事なんだなあ。
文明は偉大だ。
布団という文明の一端に回帰してみて、自分がどれだけ恵まれた世界で生きてきたかに気付かされた。
そして、お犬様パワーなのか、その夜、蛇が降ってくることは無かった。
文明回帰⑯です。
オフトゥンは正義!
本章はこのお話で最終話です!
次話より、次章、第4章が始まります!
次回、娘ちゃん!




