ディール ⑩
「うえ~・・・。何だこりゃ?」
荷馬車に揺られて到着した先に有ったのは、何つーか、派手な屋敷だった。
いやコレ、派手で済ませて良いのか?
大きさも小さな町の役場ぐれえ有る3階建てのデケエ屋敷で、外壁にゴテゴテと石膏か何かで彫られた裸体像が貼り付いていたりとデコレーションされているんだが、ひと言で言い表せば“悪趣味”だな。
そして何より―――。
「ピカピカしていますね」
眩しそうに眉根を寄せて、荷馬車から降りたケイナが嫌そうに感想を述べる。
だよなあ。
屋敷と広い庭の周りを背の高い金属製の柵で囲ってあるんだが、金ピカなんだよ。
中天に上った太陽の光が柵の装飾に反射して、目の奥へ突き刺さるように眩しい。
荷台から飛び降りてきたフィティオスたち4人も眩しそうに眉間に縦ジワを刻んでいて、レイクスは眩しそうにしながらも何かが気になったのか目を凝らして柵を観察している。
「金―――、いや。金箔貼りかな?」
「金メッキ加工じゃねえの?」
レイクスが気になったのは、金属柵の素材というか加工方法だったようだ。
兵士を巡回させて見張りを立てたとしても、屋外に貴金属を放り出しておけば盗ってくれと言わんばかりだろう。
木と土と魔獣の他に何もねえ森の奥から出てきたレイクスたちにすれば、気になって当然だな。
金箔貼りなんて削り落とせばいくらかの金が盗れちまうだろうし、雨が降ったら剥がれ落ちちまうんじゃねえの?
見栄えのわりに強くて削り落としにくい加工方法と言えば、薄い金属皮膜で素体の表面を被覆する鍍金だろう。
奈良の大仏だって銅像の表面を金メッキ加工したものだったはずだし、大仏サイズのパーツを加工できるならエクステリアだって加工できるんじゃねえの。
どんな加工方法だったかを思い出そうとしていると、レイクスが首を傾げた。
「“めっき”って、何?」
「そういう加工方法が有るんだよ。俺もどう加工するのかよく知らねえ」
何だったかな。
水銀か何かを使って焼き付けるとか何とか、現代の電気メッキ加工が発明される以前の時代にも、金メッキ加工の技術は有ったはずだ。
俺としては、金属加工の方法よりも、その派手な金属製エクステリアに破壊された痕跡が有って、壊れた門扉らしきものが入口の横に立て掛けられていることの方が気になる。
ダンプカーにでも突っ込まれたように拉げた壊れ方から推測される状況は、武力によって攻め落とされたんじゃねえか? って不穏なものだ。
その推測を補強する痕跡は広い庭のあちこちにも残っている。
元は綺麗に整えられていたのであろう植栽や芝生の上を、甲冑を着た騎士たちや馬たちが遠慮の欠片も感じさせずにズカズカを踏み荒らしてるんだよ。
内戦で敵対派閥の領地を攻め落としたと聞くし、その攻め落とした領地ってのが、この領地だったんだろうな。
この屋敷に来る道中にも、城壁の一部が崩れ落ちていたり、城壁周辺の建物が焼け落ちた火事跡だったりと暴力の痕跡は見て取れた。
普通なら町への出入りをチェックするはずの城門すらなかったからな。
町中の景色には騎士や兵士の姿が目立ったし、町の雰囲気を言葉にするなら“占領地”だろう。
それでも町の人々の表情に暗い影は無くて―――、そうだな。“解放後”を思わせる空気が有った。
野次馬に出てきている人々から前伯爵や銀髪の嬢ちゃんたちに声援が飛んでいたぐれえだし、事実、“解放後”が正しいんだろう。
あの空気は新参者の為政者に対する期待か?
少なくとも、侵略者に対するはんかんのようなものは感じ取れなかった。
町の住民―――、被支配民にとって歓迎すべき存在ってことは、この連中は良い為政者と評価されているわけだ。
こりゃあ、この連中の評価を引き上げられる材料だな。
馬を繋いでいる庭の一角で甲高い子供の笑い声が上がって目を向ければ、魔素酔いで気絶していた金髪の嬢ちゃんが目を覚ましたみてえだな。
先に馬を降りたはずの前伯爵やドネルクは姿が見えず、金銀の嬢ちゃんたちが集まっている一団の中から1人のメイドが俺たちの方へ向かって歩いている。
「昼食の準備にはしばらく掛かりますので、先に話し合いの場を設けます」
「おう。構わねえぜ」
俺たちの前に立ったメイドに了承を返すと、メイドが先に立って誘う。
「では、こちらへ」
「行くぞ-」
手のひらで屋敷の玄関を示されて、俺もケイナとレイクスに移動を促す。
ここからが本番だな。
俺も気を引き締めるか。
メイドの後ろに付いてアプローチを歩き、金銀の嬢ちゃんたちと合流する。
使えりゃ良い、と言わんばかりの雑な補修跡が有る玄関扉を潜ってエントランスに踏み込む。
オットー爺さんがいたエンツェンス領の建物もこんな感じの作りだったな。
正面の階段を上がらず1階の廊下へ誘導される。
少し廊下を歩いて観音開きの扉の前でメイドが足を止め、ドアをノックした。
扉の向こうから答えたのは前伯爵の声か。
ドアを開けたメイドに促されて入室すると、広い室内の真ん中にドンと食卓テーブルらしきデケエテーブルが横たわっていて、奥側に並んだ席には前伯爵とドネルクだけでなく、幹部らしき甲冑姿の男女が座っていた。
森の中でも見掛けた顔だが、男が1人と女が2人。
コイツらも、そこそこ強えな。
静かに俺たちを観察してくる目にも強者の自信が見て取れる。
ディール⑩です。
戦争の爪痕!?
次回、身バレ!?
※ 今日もちょっと遅刻です!




