クラン ㊷
「まだ見えねえか!?」
「まだです!」
俺よりも目が良いだろう狩人たちに訊けば、獲物の姿を探して前方を睨んでいるフィティオスが答える。
クソが! なかなか追い付かねえな!
血で身体能力が上がっていなけりゃ、こんな長距離走にスモーカーのオッサンは耐えられちゃいねえぞ!
まあ、森へ放り出されて強制禁煙が成功したお陰も有るんだけどな!
「見えました! イエーティです!」
「ヨシ! ―――、あっ! また進路を変えやがった!」
フィティオスが熊を目視した途端、熊が追っている獲物がまた90度進路を変えた。
針に掛かった魚が針を外そうと右へ左へ暴れるのと似た動きだな。
獲物の方も熊を振り切ろうと必死なんだろう。
「―――っ!? あれは!!」
もう足跡がどこに有るのかなんて見失っちまったし、熊の姿を目視できた以上、足跡に意味はねえんだが、足元に何かを見付けたらしいアルケマイオスが一瞬足を鈍らせた。
振り返って確認していたアルケマイオスが前を向き直して追い付いて来る。
「テツ殿!! バイコーンの足跡が有りました!!」
「イエーティが追ってるのはバイコーンで確定だな!」
おおっと。今もまだ足跡に意味は有ったらしい。
素人の俺と違って、さすがプロの狩人だ。
素人判断を反省している俺を他所に、鹿と熊のチェイスは続いている。
再び逆方向へ90度曲がった鹿が熊の接近でさらに90度進路を変える。
鹿の判断ミスだな。
逃げる鹿と追う熊の距離が一気に縮み、熊と俺たちの距離はさらに縮む。
「おおっ! それなりにデケエな!」
熊と俺たちも距離は100メートルも無いぐらいだ。
俺たちの前方、左から右へと2tトラックみてえなサイズの巨大な熊が横切ろうとしている。
「射ます!」
「僕も術式を!」
「私も!」
狩人兄弟たちエルフ族の4人が弓を構え、レイクスとケイナが熊に向かって手のひらを向ける。
矢を弾き出した弦が、カンッ! と音を立て、ヒョウッ! と風を切って矢が宙を飛ぶ。
的がデケエだけ有って4本の矢は熊の図体を捉えた。
ところが、長く縮れた毛に遮られた矢は1本も刺さらずにボトボトと地面に落ちる。
毛皮の表面でレイクスとケイナの放った風魔法が弾けたが、獲物の姿しか目に入っていないらしい熊はガン無視して駆け抜けて行った。
「何ですか? アレ・・・」
「矢が刺さらなかったんですが・・・」
「まあ。あの熊は、あんなもんなんだよ」
矢も槍も刺さりにくいとは聞いていたが、マジで刺さらねえのな。
郷から出て来たばかりのメンバーは熊と初対戦だったから、呆気に取られるのも仕方ねえだろう。
「僕の術式も無視されたんだけど・・・」
「まあ、イエーティは、あんなものですよね」
分厚い体毛に魔法を弾かれたレイクスも呆気に取られていて、ケイナもヤレヤレと首を振る。
あの熊、ブン殴るのが一番効くみてえなんだよなあ。
いつもはケイナの魔法で驚かせることで追い出して、俺が待ち構えて仕留めてるからな。
全員が一撃を加え終わったから、後は俺が仕留めりゃ解決だ。
ここまで追い縋ったんだから、絶対に逃がさねえ。
「兎に角、追うぞ!」
「あっ、はい!」
気を取り直して追跡を再開する。
少しばかり距離は離されたが、熊が鹿に振り切られねえ限りは鹿にも追いつけるだろう。
まだセンサーの探知範囲内だしな。
「バイコーンの方が脚は速いはずなんだけど、イエーティの脚で追いつけるのかな!」
「どうだか―――、待て! バイコーンが脚を止めた!」
「なら、追いつけそうです!」
突然動きを止めた鹿に向かって熊が突進していく。
射止められたはずの獲物を逃した狩人兄弟が再戦の可能性に色めき立つが、様子がおかしい。
熊のような危険物と違って掴みにくい反応が鹿の傍に有る?
足を止めて首を傾げる俺をレイクスたちが返り見る。
「テツ、どうしたの?」
「何だコレ? バイコーンと人が戦ってんのか?」
「「「「「ヒト族!?」」」」」
そりゃあ驚くよな。
危険な魔獣だらけで簡単には人が入ってこられねえ環境だから隠れ住んでいられたのに、森に人が入ってくるとなれば前提条件が変わる。
エルフ族にとってはマジで死活問題だ。
獲物の処理とエルフ族の安全を両立する手段は1つしかねえ。
「そこまでは分かんねえから、俺1人で突っ込む!!」
「バレないように後から行くよ!」
「おう! ケイナも後からにしろよ!」
「はい!」
背中から飛んで来たレイクスの声に答えてケイナに指示を出せば、ケイナからも即座に答えが返ってきた。
兄貴が一緒に居れば安心してケイナを任せられることに、今さらながら気付く。
この安心感と来たら。
やっぱり家族は別々に暮らすもんじゃねえんだよ。
実年齢は兎も角、ケイナの中身はまだ子供なんだ。
何としても家族が一緒に暮らせるようにしてやる必要が有る。
クラン㊷です。
ようやくエンカウント!
次回、乱入!?




