クラン ㊶
「被害が出る前に郷へ知らせた方が良いでしょう」
「そうだね。目的の獲物を始末したら報せに戻ろう」
深刻な表情で意見するサーレーンにレイクスが頷き返す。
棲息域に入っちまってること自体が拙いんだから、そのままってわけにゃあ行かねえんだろうなぁ。
「郷の場所を移動させるのか?」
「移動させるのが良いのか、森から出るのが良いのか。まだ判断が難しいね」
今後の方針を確認してみれば、深刻な表情ながらもレイクスは自分自身に言い聞かせるように言う。
レイクスも大したもんだな。
リーダーが慌てれば部下にも動揺が伝染するもんだ。
リーダーが冷静さを失わなければ部下もギリギリで踏ん張れるものでも有る。
浮世離れした部分も有る魔法道具オタクだが、リーダーの資質をしっかりと備えていることが分かる。
危険を察知すれば慎重に判断して集落ごと移転することも厭わない。
エルフ族は数を減らしながらも、こうやって数百年もの年月を森の中を逃げ延びてきたんだろう。
だが、レイクスが森での生活に限界を感じているように、この森は危険すぎて、いくらか集落を移転したところで根本的な解決にはならねえ。
森の外へ出て活動できる俺が居る内に、何とか突破口を開いてやらなきゃな。
「兎に角、早く終わらせてしまいましょう」
「行こう」
レイクスの決断で追跡を再開する。
心中の焦りを表すように、移動速度は粗に上がっている。
小1時間も追い掛けてるが、焦燥感の為せる業か誰も音を上げねえ。
跳ねるように駆けるレイクスたちから置いて行かれねえように、ドスドスと落ち葉を踏み絞めて俺も駆ける。
いやぁ。駆ける、つーか、走る。
俺の場合、エルフ族みてえに軽やかな走り方じゃねえからな。
何より、エルフ族と純日本人の俺では足の長さから違うんだからよ。
泥臭くても、しゃーねえ。これが俺だ。
パワーでは上回ってるから、スピードでは何とか置いて行かれずに済んでる感じだな。
チャイルドシートが付いたママチャリだって、3倍ぐらいの回転数で必死に漕げばロードバイクレースに混ざれるんだろう。
世界の不条理と不屈の精神の関係性を証明している気分で居ると、ついに危険物センサーが目的の反応を拾った。
「居たぞ!」
「「「「「―――っ!!」」」」」
俺の報告にレイクスたちがピリッと引き締まる。
ジワジワとしか危険物との距離が縮まらねえ感じだったが、やっと探知範囲の端っこに引っ掛かった。
反応がさらに逃げる。―――、いや。逃げてんのか? コレ。
「方角は!?」
「今よりもチョイ右だ!」
「分かりました!」
フィティオスの確認に前方を指し示して返せば、フィティオスだけでなくアルケマイオスもチラリと目を向けてきて再び前を向いた。
さらに追跡速度が上がる。
「追いつけそう!?」
「思ったよりも差が縮まらねえ! ―――、っと。左へ方向転換しやがった!」
改めて方角を指し示せば、チラッと俺の方を確認した狩人兄弟が進路を修正する。
このまま追いつけるか!? と思ったら、また方向転換しやがった。
「俺が前に出る! 攻撃の準備をしろ!」
「「了解!」」
兄弟に代わって走る速度を上げる。
後退した兄弟が走りながら肩に掛けていた短弓を取り出して、慣れた手つきで矢筒から矢を抜き出す。
俺は遠距離攻撃の手段が乏しいからなぁ。
武器屋で鉄球はいくつか買っておいたが、リュックから取り出すヒマもねえや。
後ろをチラッと見ればサーレーンとタレースも弓を取り出している。
センサーの反応がクイッと横向きに曲がって、慌てて俺も進路変更する。
「ああ、クソ! また進路を変えやがった!」
「追跡に気付かれた!?」
「いや! 何かを追ってるっぽいぞ!」
危険物センサーが熊の行く手に新たな反応を拾た。
「居た! やっぱり熊の先に何か居やがる!」
まだまだ距離が有りそうだから俺たちは真っ直ぐにセンサーの反応に向かっているが、熊の獲物らしき反応はもっと細かく右へ左へ方向転換を繰り返してやがる。
考えられる状況としては、逃げている獲物が熊を振り切ろうと方向転換を繰り返してるんだろう。
こりゃあ、追う反応を熊から獲物へと変えた方が早いな。
幸いなことに、獲物が進路を変える度に俺たちと熊の距離がぐんぐん縮む。
「例のバイコーンだと思う!?」
「さあな! 追いつきゃ分かんだろ!」
「それもそうだ!」
レイクスの問いに予測にもならねえ答えを返せば、レイクスも納得を返してくる。
獲物が90度進路を変えたとしても、獲物を追う俺たちは30度も進路が変わらねえ。
斜めにショートカットしているのだから彼我の距離は詰まっていくし、獲物と俺たちを結ぶ直線上に熊が飛び込んで来る。
熊と俺たちの距離は、もう数百メートルしか離れていねえはずだ。
クラン㊶です。
熊を捕捉!
次回、ファーストアタック!?




