奴隷 ⑦
「これ、どういう構造なのか、分かるか?」
「私もお祖父さまから聞いたことが有るのと、兄様に古い文献で似たような術式刻印の写しを見せて貰ったたことが有るだけですが」
私は精霊術式は得意ですが、刻印術式は得意ではありません。
確か、闇属性―――空間系の“刻印”を刻んだ半円形の鉄具を2つ合わせることで、互いに吸い付いて術式を完成させるものだったはずです。
髭モジャの苦しみ方を見る限り、同じ闇属性ですが死霊系の術式も入っていそうですね。
テツさんが助けようとしているのですから私もテツさんに協力するのは構いませんが、刻印術式は兄様が得意とするものです。
今さら言っても詮無いことですが、こんなことなら兄様から刻印術式を習っておけば良かったですね。
「磁石みたいに引っ付いてるわけか」
「じしゃく? ですか?」
「まあ、ちょっと、やってみるか」
再びテツさんが手を伸ばそうとすると、髭モジャが身構えます。
仕方ないですね。
おかしな警戒心で無駄な時間を取られるのも面倒です。
この父娘はドワーフ族ですし、昔と違って今のドワーフ族はエルフ族と同じ苦境に有るはずです。
他の人たちに見えないようにすれば大丈夫でしょう。
欲しがっていたドワーフ族を見付けて、テツさんがこの父娘を逃がすとも思えません。
フードの内側に被っている帽子の耳当てに私は手を掛けました。
「この人なら、大丈夫ですよ」
「・・・あ、あんた!? エル―――むぐっ!」
「おっと。そこまでだ」
私が耳当ての下に隠していた耳を見せると、父娘が目を瞠りました。
声を上げようとした髭モジャの口をテツさんが手のひらで塞いだため、最後まで言葉になることは有りません。
「余計なことを言うなよ?」
テツさんが髭モジャの目を覗き込むように凄み、口を塞がれたままの髭モジャがコクコクと頷いています。
髭モジャが怯んだのを見て取ったテツさんが、口から手を放して両手でガッシリと首輪を掴みました。
「お、おい!」
「うっせえ!! じっとしてろ!!」
「お、おう!?」
抵抗しようとした髭モジャが、テツさんの一喝に動きを止めました。
袖を捲ったテツさんの両腕にミシリと筋肉の筋が浮き出ます。
「ふんっ!!! のぅおおおおおっ!!!」
大きな唸り声と共にテツさんの体が一回り大きく膨らんだように見えました。
テツさんは環の接合部を引き離すのではなく、横方向へずらそうとしているようです。
よほど力を籠めているのでしょう。
ミシミシと筋肉が軋み、プルプルと両腕を震わせるテツさんの顔色がみるみる真っ赤に染まっていきます。
奥歯を食い縛ったテツさんの額に汗が吹き出してきます。
「ぐぎぎぎぎぎっ!!」
・・・ずり、・・・ずり、と、僅かづつですが動いているように見えます。
円環を形作っていた魔法道具の接合部に段差が生まれました。
「動いてます!! 動いてますよ!!」
「ふぅんぬああああああああっ!!!」
がんばれ! テツさん、ちょー、がんばれ!!
座り込んでいた他の人たちも、なんだ、なんだ、と集まってきます。
「ぐぎぎぎぎぎっ!!」
「半分! あと半分くらいです!!」
ドワーフ族の男性は目を白黒させていますが、テツさんは止めようとしません。
他の人たちの間からも、小さく「がんばって」という声が聞こえました。
「うごごごっ! ・・・こ、コイツ・・・・・戻ろ、うと・・・っ!」
「ええっ!?」
少しでも休もうとすると、環が元に戻ろうとして力を緩めることができないようです。
「がんばって!」
「もうちょっと!」
とうとう見守っている人たちが、大きな声で声援を始めました。
髭モジャとテツさんを中心に、輪になって集まっているみんなの肩にも力が入ります。
「んぐああああああああああっ!!!」
5分ほども掛かったでしょうか。
コキン、と抵抗のわりにアッサリとした音を残して、奴隷具の環が2つに別れました。
「「「「「うおおおおおおっ!!」」」」」
声援を送っていた人たちが抱き合って歓声を上げます。
汗だくのテツさんは、仰向けに寝転がって粗い息を吐いています。
「・・・あんた」
自分の首に金属の環が無くなっていることを手で確かめながら髭モジャが驚きの目を向けました。
ですが、テツさんは汗塗れの体を起こしながら、スッと手で髭モジャを制しました。
テツさんの目は娘さんの首にも付けられている魔法道具に向けられています。
まだ終わっていない、という意味でしょうね。
テツさんらしいです。
何だかんだで困ってる人を放っておかないんですね。
「もう1個、行くぞ・・・!」
荒くなった呼吸を整えながら、テツさんが額の汗をグイッと腕で拭いました。
娘さんの首に嵌まっている奴隷具を指します。
ワッと人の輪が湧きました。
奴隷⑦です。
力技で勝利!?
次回、別の場所!?




