文明回帰への一歩 ①
また蛇を焼いている。朝メシだ。まだ暗い朝方に、肌寒くなって目が覚めた。
焚き火が消えていたので火を熾し直したら、降ってきたんだよ。
2匹目の蛇が。
蛇は熱感知器官を持っているんだっけか。
今朝の蛇は、昨夜の蛇よりも“大物”で、10メートルもあった。
俺をエサだと考えているのなら、今後も火を熾せば、向こうから寄ってきてくれるんじゃね。
昨夜よりかは冷静に、文字通りの“粉骨砕身”の教訓を活かそうと頑張ったのだが、手加減が難しかった。
なかなか死なないんだよな。
野生動物は、しぶとい。
できるだけ頭をクリティカルヒットしようと振り回すが、蛇も樹を避けようと頑張もんだから、第2ラウンドは長時間に及んだ。
そうして人類が再びの勝利を掴んだ頃には空が明るくなっていた。
「あ~。調味料が欲しい」
せめて、塩が欲しい。
難しいよなあ・・・。
水も見つかっていないのに、塩―――内陸地だから岩塩か? は、もっとハードルが高いんだろうな。
まあ、水に関しては、蛇血のおかげで優先順位が下がったからなあ。
水場を見つけられるに越したことはないが、トカゲ野郎を追う方向へ切り替えていいだろう。
食い散らかした、お蛇様に合掌して、立つ。
「消火、ヨシ! キノコ棒、ヨシ! 忘れ物ナイカ、ヨシ!」
現場の鉄則、指差し確認を済ませる。
異世界(仮)、2日目だ。
昨日、歩いて来た、墜落地点の方向ではないことを確かめて、地勢的に上ってそうな方向へと歩き始める。
地勢が下っている方向を目指して歩いては見たものの、行く先に川が有りそうな下り勾配には行き当たらずに、俺の心の方が先に折れた。
よって、目標を変えて、今日の第1目標は、高所を見つけてトカゲ山の方角を確認することだ。
快調だな。
不思議と、体が軽い。
蛇血と蛇肉のお陰か、体の芯がポカポカしている。
直径1メートル以上もある太い倒木だったが、キノコ棒を担いだ手を使うまでもなく、行く手に転がる倒木の上へと、ヒョイと跳び乗る。
体調が良いのか、運動不足が解消されたのか、ジャンプ力が上がっている気がするなあ。
運動不足は現代社会人の職業病みたいなもんだからな。
電車移動だって十分な運動量とは言えないだろうし、田舎住みだとクルマは必須アイテムになる。
地方都市の、さらに郊外ってだけだから、俺が暮らしていた町は田舎って言うほどじゃねえか。
けど、まあ、集落の中でもなけりゃあ緑色と灰色の比率が半々よりも緑色に大きく傾いているぐらいだから、都会とは言えねえわな。
やっぱり、田舎か。
田舎町ってのは、どこへ行くにも、何をするにも、それぞれの場所まで距離が有るもんだから、クルマを使わざるを得ないんだよ。
無限に時間が有るなら別だが一日は24時間と決まっていて、限られた時間内に仕事や用事を終わらせようとすれば、クルマを使っての時間短縮が必要になる。
日常的にクルマを使う生活だと、当然、そのうち運動不足になるって寸法だ。
三十路に入って家庭を持てば、仕事だ、子育てだ、と、運動にかまける時間も意識も無くなってきて、それが「日常」になるもんだ。
「外傷も骨折も無かったのは、ラッキーだったとしか言いようがねえな」
トカゲ戦での打撲も、鈍い痛みは残っているが、体の動きを妨げるほどじゃねえし。
まだ、メタボの心配をするほどではなかったけどなあ。
運動量の不足を感じては居たから、この強制サバイバル生活に追い込まれたことで、体が動物としての本能を思い出しているのかもな。
話し相手も居なくて、全くの一人なんて、いつ以来だ?
話す相手が居ないから、無心に何かをしている以外の時間には、こうやってグダグダと、どうでもいいことを考えてしまうわけだが。
良い感じだな。
地形が緩い登り坂になってきた。
ずっと、概ね平坦な地形だったが、地勢の特徴が変化してきているようだ。
このまま登り続けてくれれば、木々の樹高を越える高さから周囲を一望できる高台があるかもしれない。
地面の凹凸が増えてきて、時折、大木の太い根に抱き込まれた岩を見掛けるようになった。
進む足に任せて、枯れ葉や地面から顔を覗かせた岩を踏んで往く。
それにしても、疲れねえな。
もう10キロメートルや、そこいらは、歩いたのではないだろうか。
疲れを感じたら無理せず休憩するつもりで進んできたが、一向に疲労を感じねえ。
蛇って、滋養強壮効果が有るんだっけか?
文明回帰①です。
生存チャレンジ、2日目!
次回、放火犯!?




