オジサン、迷子になる ⑪
視線を落として、胡座で座り込んでいる俺の足下を見る。
日当たりの悪い森の中なのに、地面はジメつかない程度に乾いているようだ。
熱帯雨林のジャングルみたく、雨に悩まされる気候では無さそうで、一安心だな。
ふかふかと厚く積もった落ち葉の形状は、見たことの無いものだ。
幹の樹皮は、杉か檜って感じなのに、葉は、鳥の羽根のように細長く、一枚が30センチメートルほどもある広葉なんだよな。
この、柔らかい地面のお陰で、いま、俺は生きているのかもしれない。
命が有った幸運には感謝するが、何とも、やるせない気分になる。
「どこだよ、ここ・・・」
零した自分の声が、空虚に溶けて消える。
さわさわと梢を揺らす風に、溜息が出る。
九死に一生で無事に生き残ったみたいだが、安心できる要素はゼロに等しい。
地球では無さそうな星の、未知の原生林で、作業ジャケットにネクタイのオッサンが、手ぶらで一人。
どうしようもなく、場違い感が、半端ない。
「・・・・・ヒナ、泣いてるんだろうなあ・・・」
そう考えたら、また、ムカムカしてきた。
あのトカゲ野郎、ゼッテェ許さねえ。
ヒナを泣かした奴は、ぶん殴る。
これは、決定事項。俺の人生方針だ。
「さてと・・・、どうしたもんかねえ」
トカゲの背中で見た光景を、思い浮かべる。
自然、眉間に力が入る。
無闇に動き回って良いものか、検討しないとな。
人工物―――、街に類するようなものは、上空から見えた範囲内に見当たらなかった。
だとすれば、救助が来る可能性なんてゼロに等しい、と考えたほうが良さそうだ。
そもそも、遭難を報せる手立てが無い。
情報を整理しよう。
ここは、呼吸に適した大気層を持つ、惑星。
ただし、地形から察するに、おそらく、地球ではない。と思う。
数千万年も昔に恐竜が滅んだ現代の地球上に、全長数十メートルもある空飛ぶトカゲなんて存在しない。
現在地点は不明だが、陸地であることは、確定。
眼下に見えていた、大陸? の、どこか、なのだろう。
霞むほど遠くに見えていた、赤茶けた山? 山脈? 馬鹿トカゲは、あの山を目指していたように思う。
じゃあ、俺の目的地も、あの山ってことになる。
現状打開の取っ掛かりが、あのトカゲしか無いのだから、他に選択肢がない。
とりあえず、トカゲを追う方向で仮決定だな。
帰れるかどうかは・・・、帰れる、と考えるべきだな。
これは、希望的観測ではなく、だ。
あのトカゲは、ヒナの足下に顔を出していた。
一度できたことが二度とできないって理屈は無いはずだ。
トカゲを取っ捕まえて、締め上げて、俺を頭に乗せて向こう側へ顔を出させれば、地球へ帰ることは可能だと考えていいだろう。
地球へ帰れれば、後は何とかなる。
日本って国の外務省―――、というか、日本人は意外に優秀で、なんだかんだ言っても、地球上で有れば、ほぼ100%の国と接点を持っている。
恐らく、地球上で日本人が一人も居ない場所なんて、北極ぐらいじゃねえかな。
地球上のどこからでも、俺はヒナの下へ帰ってみせる。
だとしたら、トカゲを殺してしまうのは、“無し”だな。
取っ捕まえて、ブン殴って、言うことを聞かせる―――、これだ。
墜落直前に、俺の“怒声に反応したように見えた”のだから、“言葉が通じる”可能性だって、ワンチャンある―――、と思う。
これは、希望的観測か。
「・・・・・・・」
あのトカゲ・・・、生きてるんだろうな?
挙動の端々に、馬鹿っぽさが覗いていた辺りに、一抹の不安を感じる。
死なれちゃあ困るんだよ。
俺がヒナのところに帰れなくなる。
目的地と、目標は、決まった。
なら、具体的な手段と、方法論の検討だ。
移動手段は―――、歩く、しか無いよな。
がんばる、しかない。
オジサン迷子になる⑪です。
ようやく迷子に!
次回、持ち物検査!




