プロローグ
まえがき
自由奔放な生き方を選んだ恵美莉。彼女の日常を描いたシリーズです。
面倒くさい留学生と知り合うが、独特の世界観を持つアイツは、外国人だから気になるのか。それとも男性として・・・。
今日も彼が自動販売機の前に立った。
(・・・リアルゴールド・・・リアルゴールド)
彼が10円玉を、連続で8枚入れるのを確認。
(ラージカップのリアルゴールドね・・・)
彼は予想通り、そのボタンを押した。
(ほら、今日もまたリアルゴールド)
※リアルゴールド:ビタミン炭酸飲料
恵美莉はすぐ横のテーブルの椅子で、目立つ黄色いTシャツを着た、その外国人の様子を見ていた。彼を見かけるようになってから、もう2ヶ月になる。11月になるというのに、Tシャツ姿は気になるスタイルだが、いつも原色を着ていることも目立つ要因だった。
彼は自動でドリンクが注がれるのを苛立たそうに待って、完了のランプが点く前に、取り出し口に手を突っ込んだ。そしてその中を覗き込みながら紙コップを引き出すと、振り返り様に恵美莉と目が合った。
その動作すべてを見ていたことを悟られ、恵美莉は気まずい表情になったが、彼も何か恵美莉のことが気に障ったようで、あからさまに眉を寄せて睨んだ。
「・・・バイタミン(ビタミン)ドリンク」
恵美莉は、バツが悪い空気を回避するために、ニコッと笑ってそう言った。
「ハイ、ソウデス」
彼は眉を寄せたままでそう言った。
「You always buy that vitamin drink. Yes?(君いつもそのビタミン飲料買ってる。よね?)」
「取リ敢エズデス・・・ナンデ、知ッテマスカ? イツモ見テマスカ?」
少し考えてから、つたない日本語でそう訊いてきた。彼、なんだか怒ってる様子だ。
「I don't mean always watching you. I'm just taking a break here every day at this time.(いつも見てるわけじゃないよ。あたしは毎日この時間、ここで休憩してるだけだから)」
「・・・人ノコト、ギロギロ見ルナヨ」
彼はたどたどしく、少し笑って言った。
「正しくは、“じろじろ”よ」
すると彼は、「Oh!」というふうに口を開けて、更に笑顔になった。決して失礼な人物ではないようだ。まだ日本語がおぼつかないだけだろう。恵美莉は右手を差し出しながら、立ち上がって、
「Well. My name is Emiri・・・(えっと。あたしの名前は恵美莉・・・)」
「No! ナンデ英語デ話シマスカ? オヌシハ日本人。“エミリー”トイウ名前ハ、変!」
彼は力を込めて言って、握手には応じなかった。
「これは本名なの!」
恵美莉も、口調が少し強くなってしまった。すると彼は、
「ソウデスカ、日本ノ名前デスカ。私ハ、ポーリー、デス。ヨロシク、オ願イシマス」
今度はすごく丁寧にお辞儀をしながら、自己紹介を返してきた。
「Where are you from? (出身はどこ?)」
「ダカラ NO! 日本語ヲ話シテクダサイ」
また急に、強い口調に戻った。
「ナゼナラ、私ハ、日本語ヲ勉強スルタメ、日本ヘヤッテ来マシタ。ナノニドウシテ、英語デ話シマスカ!?」
恵美莉は彼の真剣な面持ちが可笑しくなって、少し揶揄ってみた。
「なぜなら、あたしは、英語を勉強するため、この大学に来ています。だから、英語で、話します」
「Don't be silly!(バカにするな!)」
「ごめんごめん。バカにしてないよ」
恵美莉は慌てて少し早口で謝った。しかし彼は怒って、恵美莉の横を素通りしていった。その時、律義にもこう言いながら、
「拙者ハ、カナダ人デス・・・」
丸い眼鏡の分厚いレンズの奥に、グレーの瞳とそばかすだらけの頬。ゴワゴワした感じの金色のくせ毛。そして童顔でポッチャリとした小柄な体形。白人男性としては、お世辞にもカッコイイとは言えない感じ。
これが恵美莉と、カナダからの留学生ポーリーとの、ファーストコンタクトだった。




