2.檻の中の幸福論
昼下がり、公爵邸の薔薇園。
ガゼボのテーブルに、私はアンナのお気に入りの焼き菓子を並べていました。
「お姉さま、このスコーン、とっても美味しいわ!やっぱりお姉さまが選ぶお菓子に間違いはないわね。
私、お姉さまが大好き!」
「光栄ですわ、アンナ様。
そう言って頂けるのが、私にとって何よりの喜びですから」
私は上品に紅茶を注ぎながら、アンナの狂ったお喋りに耳を傾けます。
「ねえ聞いて、お姉さま。
昨日の観劇の時、侯爵夫人が私のイヤリングを見て、悔しそうに顔を歪ませたのよ。私、あの方のあの顔を見るのが最高に好きなの!
みんな私を羨んで、私になりたがっているわ!」
「まあ、アンナ様ったら。でも、それだけ皆様、アンナ様の完璧な幸福に嫉妬なさっているのですね」
「そうなの!だって、私にはアレクという最高の夫 がいて、みんなに愛されて、お姉さまみたいに優しい人がそばにいてくれるんですもの。
私、世界で一番幸せ者だわ!」
私はティーカップを置き、そっと微笑みました。
「ええ、本当に。
アンナ様はそのまま、何も思い悩むことなく、ただ美しく笑っていらしてくださいね」
私のその言葉の本当の意味を、彼女は一生知ることはないでしょう。
社交界の誰もが知っている「公然の秘密」。
アレクが毎夜、本当に愛を囁き、体を重ね、未来の計画を語り合っている相手が、目の前で紅茶を淹れているこの私だということを。
アンナ、あなたはそのまま、私たちが用意した薔薇色の檻の中で、死ぬまで幸せな道化として踊っていればいいのよ。




