1.値札のついた操り人形
始めての投稿です。
よろしくお願いします!
「見て、キティお姉さま!
このドレス、まるで冬の朝に凍りついた薔薇みたいでしょう?
今日の夜会では、間違いなく私が一番の主役ね!」
鏡の前でくるりと輪を描き、燃えるような赤毛を揺らした少女——私の『主人』であり、ヴァレンティ公爵夫人となったアンナは、無邪気そのものの笑みを浮かべて私を振り返りました。
極上のシルクで作られたエメラルドグリーンのドレス、散りばめられたダイヤモンド。
燃えるような赤毛、爛々と輝くエメラルドの瞳、陶器のように白い肌。
それらは確かに美しい。
けれど、私にとっては、値札のついた極上の操り人形が、誇らしげに糸を誇示しているようにしか見えません。
私は、完璧に仕込まれた侍女の微笑みを仮面のように貼り付け、おずおずと、しかし彼女の自尊心を最高潮に満たすトーンで声を弾ませました。
「まあ……!本当にお美しいですわ、アンナ様。
エスコートされるアレク様も、きっと周囲の羨望の的に気圧されてしまうのではないでしょうか」
「ふふ、そうでしょう?もっと褒めてちょうだい!」
アンナは満足げに胸を張り、鏡の中の自分にうっとりと見入っています。
この実家が金持ちなだけの無知なお嬢様は、自分が世界の中心にいると本気で信じ込んでいる。
その圧倒的なまでの愚かさが、哀れで、そして愛おしくてたまりません。
カツ、カツ、と静かな足音が廊下から響き、部屋のドアが開きました。
そこに立っていたのは、私の最愛のひとであり、この国の最高権力者——アレクシス・ヴァレンティ公爵。
「アレク!」
アンナはすぐに駆け寄り、彼の腕にしがみつきました。
「遅いわよ!ほら、私のドレスを見て。
何か言うことはないの?」
アレクは私に一瞬だけ視線を向けました。
その琥珀色の瞳の奥にある冷徹な光を、私は正しく受け取ります。
『よくやった、キティ。綺麗に飾れているな』
声に出さない彼の賛辞に、私の胸は甘く疼きました。
アレクはアンナの頭を優しく撫でるフリをしながら、感情の籠もらない、しかし洗練された声で囁きます。
「ああ、綺麗だよ、アンナ。
君のその美しさは、我がヴァレンティ家の最高の誇りだ。
実家のご両親も、君のこの輝きを見ればさぞ安心するだろう」
「もう、相変わらずお堅いんだから!
でも、ヴァレンティ家の誇り、ね。
いい響きだわ!」
アンナは気づきもしません。
アレクが彼女の『美しさ』ではなく、その後ろにある実家の財力だけを評価していることに。




