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乙女ゲーの主人公にTS転生した私、シナリオを放棄して推しの悪役令嬢と2人で学園ダンジョンに挑む!  作者: 真嶋 青
第一部

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第23話 大きな一歩

 リゼットが恐ろしいということに安心するという矛盾を孕んだ感情のまま、私は彼女に連れられ訓練場へと引き返した。

 訓練場に常備されている鉄剣と盾。ここ一週間で見慣れた2つの装備を取り出して、リゼットは盾の方を私へ差し出す。

 

「わたくしが満足するまで剣を受け続けなさい」


 (なんだか最近似たようなことを言われた気がするなぁ)


 この世界では盾使いをサンドバックにすることが訓練として定着しているのだろうか。

 タンクの仕事は攻撃を受ける事なのだから、合理的ではあるかもしれない。とはいえ、これでは成り手が少ないだろうなと思わずにはいられない。

 

「平民、行くわよ」


 言うや否や、リゼットは弾丸のように直進し、私へ剣を振り下ろした。


 (早いけど直進的、正面で受けられる!)


 不意打ち気味に始まった戦闘だが、私は思いのほか冷静にリゼットの剣を見ることができた。

 リゼットは教官よりも早いが、一撃の威力は数段劣っている。


 剣と盾がかち合うガンッという鈍い音が鳴り――次の瞬間には、私の背後にリゼットが回り込んでいた。


 (速すぎっ!)


 バルタザール教官のときは速すぎて思考が追いつかないと思ったものだが、リゼットの場合はそもそも目で追う事すらできなかった。

 気づいた頃には、私のガラ空きになっている脇腹に鉄剣が食い込んでいる。


「ごぇぇぇ」


 ほんの数瞬前に、リゼットは一撃が軽いから何とかなるかもしれない、なんて抜けたことを考えていた自分を蹴飛ばしたい。

 教官のように、盾で一撃受け止めるだけで手が痺れるような力はないが、それでも鉄製の剣が腹に刺さればそれだけで大ダメージになる。

 教官とやっていたときよりも、痛烈な一撃が腹に入った。


 私は転がったその場に胃の中の物を吐き出す。


「良かったわね。今のうちに身軽になれて」

「ど、どうも…………《ヒール》」


 折れているであろう肋骨を治癒し、私は口の中の不快感に耐えながら立ち上がった。

 

 ――それから、剣で打たれた数を数えるのがバカらしくなるくらいに、私は滅多打ちにされた。


 (凄いよリゼット……教官よりスパルタじゃん…………)


「《ヒール》…………」


 ついに私は最後の魔力を使い切った。

 情けなく地に伏した私を、リゼットは冷たく見下ろしている。


「平民、お前、頭に脳みそが入っていないのかしら?」

「ひでぇ……」


 もはや言葉遣いに気を遣う余裕もなく、私は仰向けに倒れたままリゼットを見上げた。


「お前はただ、盾で私の剣を受け止めようとしてるだけなのよ」

「盾使いなんだから、当然じゃないですか……」

「だから脳みそが入っていないというのよ愚民。受け止めるのではなく、()()()()()()()


 ◆ side. バルタザール


 剣を上段に構え、勢いを乗せた重い一撃を振り下ろす。

 ビュンと空を切る音が鳴った。


「やあああああ!」


 ほぼ同時に、小娘の威勢の良い声が訓練場に響く。

 ワシが振り下ろす剣に合わせ、昨日までより一歩前で盾を押し込まれた。

 たったそれだけのことだが、効果は絶大だ。


「ぬぅっ⁉」


 剣ごと右腕が弾き返され、ワシの姿勢が崩れる。

 実戦であったならば、腕が上がってがら空きになった脇腹へ、致命の一撃を受けることになっていただろう。


 (この娘、いったい一晩で何があった? 別人のように気迫の乗った盾の冴えではないか……)


 昨日までは、ワシの一撃をバカ正直に受けきろうとするもんだから、衝撃で身体ごと後退させられていた。

 衝撃に耐えている隙に、ワシが得意とする力技で畳みかけてあやつを追い込む。それが何度も繰り返し見せてきたワシのスタイル。

 娘はただ攻撃に耐えるばかりで、ワシの独壇場になっていた。

 だが、今は――。


「剣に威力が乗る前のタイミングに合わせて、意図的に弾き返しおったな?」

「受けるのではなく、弾き返す。理解するのに随分と時間がかかりました」

「盾術の基礎のド基礎だわい。いつになったら気付くのかと思ったが……ようやくか」

「威力重視の大振りな剣。教官は、私が合わせやすいように、いつも同じ構えから剣を繰り出してくださっていたんですね……」


 小娘は申し訳なさそうな、悔しそうな、そんな複雑な顔をしている。


(ククッ……ワシにたたらを踏ませておいて、そんな顔をするとはな。生意気な小娘だわい)


 そもそも普通は、頭で理解できていても、振り下ろされる剣に向かって一歩前に出るということは尋常ならざる精神を要する。

 目の前の小娘には、その難しさがわからんらしい。


「そう落ち込むな。貴様の盾の扱いを見ればわかる。全て我流であろう? そういう奴は基礎を知らん。今気づけただけ、上出来だわい」

「いえ……白状しますけど、自分では気づけなかったです。昨日、パーティーメンバーから、文字通り身体に叩き込まれました」


 (小娘のパーティーメンバーということは、まだ1年生……そっちの方もなかなかに優秀そうではないか)


「小娘、そのパーティーメンバーとやらの名は?」


 興味を持って名を聞いてみると、小娘はなにやら言いにくそうに口をモゴモゴとさせている。


「なんだ? 訳ありか?」

()()()()()()()、周囲から悪く見られやすい方なので……」

「良い良い。学生内の下らんやっかみであろう。優秀な者はいつの時代も浮くものだ」


 小娘は「教官なら大丈夫か……」などと言って、ようやくその名を口にした。

 

「……リゼット・ベルナール公爵令嬢です」


 それは、ワシの可愛い姪っ子の名前であった――。

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