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乙女ゲーの主人公にTS転生した私、シナリオを放棄して推しの悪役令嬢と2人で学園ダンジョンに挑む!  作者: 真嶋 青
第一部

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20/55

幕間 愚者

(……寒い)

 

 冷たい石の床の感触で、俺は意識を取り戻した。

 股間が、じっとりと濡れているのを感じて、あの女から受けた屈辱の記憶が蘇る。

 だが、それ以上に、俺の心を支配していたのは、骨の髄まで凍えるような寒さだった。

 

(なぜだ……? なぜ、俺様だけが、いつも理不尽な目に遭うんだ……?)

 

 思い出されるのは、兄のこと。

 剣の才能は、明らかに俺の方が上だった。それなのに、無能な兄は、ただ「先に生まれた」というだけで、全てを手に入れる。

 家督、親からの信頼、周囲からの評価。いつもあのナヨナヨした頼りない男が、その全てを掻っ攫って行った。

 弟に生まれてたというだけで、俺はあの男に勝てない。その理不尽が許せなかった。

 誰にも認められない俺様は、いつも心のどこかに()()を感じていた。

 

 しかし、この学園に来れば、そんな俺も少し変わることができた。

 ダンジョンの攻略階層で評価が決まる実力至上主義。爵位だろうがなんだろうが無視して、この場所では腕の立つ俺様が特別になれた。

 爵位が高いだけの腰抜けどもを、実力で黙らせる。その快感。ようやく、俺の居場所を見つけたと、思った。

 俺の胸の内には、心地よい熱が宿っていた。

 

 そのはずだったのに、次第にその高揚は失われていった。

 

 無能どもが、俺の足を引っ張り始めたからだ。才能のない連中が、徒党を組んで、俺様の才能を、妬み、引きずり下ろそうとする。

 才能のない連中は、いつだって、俺から光を奪う。

 

 パーティーの連中もそうだ。俺の指示についてこれない、無能な駒ども。お前たちのせいで、俺の輝きが、鈍っていく。

 

 (寒い……寒い寒い寒い寒い!)


 そして、あの女。リゼット・ベルナール。

 生まれた時から、全てを持っている女。

 俺が、どれだけ足掻いても手に入らない『公爵家』という威光で偉そうにしている。

 『血狂い』なんて呼ばれて調子に乗っているいけ好かない女だ。

 

 (許せない……許せない許せない許せない!)

 

 今度はあいつが、俺の光を、奪った。

 だから、邪魔をしてやった。あいつの顔が、苛立ちに歪むのが、たまらなく愉快だった。

 あいつが、俺と同じ、「寒い場所」に堕ちてくればいい、と。

 

 (なのに、どうして俺がこんなことになっている?)


ひふほー(チクショー)……!」


 俺は、上手く回らない自分の舌にまで苛立ち、ただその場に(うずくま)った。

 そんなとき――。


「随分と、良い魂の色をしているじゃないか」

 

 その声はまるで、俺の魂の全て見透かしているかのように、怪しげで、そしてどこまでも冷徹に響いた。

 

「君、力が欲しくはないか?」

 

 顔を上げると、そこに、黒いマントを羽織った男が、立っていた。

 その瞳の奥には、底なしの「闇」が、広がっていた――。

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