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異世界化物珍道録  作者: 橘 蓮
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第十二話

(まさか、今日が日曜だったとはな...。忘れていたよ。)

本当にごめんなさい。


「なんの事でしょう?異世界からの旅人…ですか?聞いた話によると異世界からの勇者様一行は皆様、黒い髪をしているそうではないですか。本日顔を見せて下さった聖女様もとても綺麗な黒髪でした。俺はそのような色ではありませんよ?どう見ても金髪でしょう?」

俺はそのアリスさんの切り出しに詰まること無く答える。アイシャも鼻までマスクで隠しているから表情がそこまで分からないはずだ。一応、サーシャの母親なのは間違いないが、今は味方とは断言出来ない。ここは白を切る。

「そうか?私の勘違いか?それは悪かったな!てっきりそうじゃないかと思ってたんだがなぁ。」アリスさんは、表面上は納得したのか俺に謝ってくる。

「まあいいや。さっきもチラッと言ったがこれから向かうのは王城だな!私はサーシャ様の護衛。ケイは昼食会に選ばれたのさ。ほら、今回もサーシャ様が指定した冒険者との昼食会があってな!その昼食会に今回選ばれたのがケイな訳だな。まあ、あんだけ魔法をポコポコ撃ってまだ余裕がありそうな時点で私からしても末恐ろしいけどな!どうもそこが気に入ったみたいでな?サーシャ様はお前をご指名。アイシャ…だっけか?そっちは実は聖女様も昼食会に出て下さるらしくてな?その聖女様が話してみたいって事で呼ばれたみたいだな。そんでサーシャ様と聖女様の護衛と言う方もいるんだけど、三人とも系統が違う美人だから粗相の無いようにな?そんじゃ、後はまったりしてようぜ?」

一気に説明をしてくるアリスさん。説明し終わった瞬間に背もたれに寄り掛かってゆっくりし始めてしまった。しょうがないからアイシャでも撫でて時間を潰していよう。


「ケイ。そろそろ着くぞ。準備しておけよ?」

気がつくと、アリスさんが肩を回しながら声を掛けてくる。どうやらアイシャを撫でているうちに到着したようだ。

「ええ。分かりました。と言っても特に準備するような事はないでしょう?」

アイシャの撫で撫でしかしてないし。

「いや、一応さ?第四王女様の前なんだからその撫でるのは止めろよ?」

「え?」撫でてちゃダメなのか?

「なんで驚いているんだよ!?ふつーダメだろ!?」

アリスさんが盛大に突っ込んでくる。

「まあ、さすがに撫でたまま昼食会には行きませんよ。大丈夫ですって。」

そんな話をしていると、馬車が停まる。どうやら本当に着いたようだ。

「ほら、行くぞ。」アリスさんが降りて先に行く。俺も後を追いかける。

前に王城前までは来た事があったが、王城内は始めての事だから少しだけ緊張するな。まあ、会うのは奥さん達だから緊張しても意味ないのだけど。そう思いながらアイシャを抱きしめたまま歩いて進む。

「って、その子を降ろせよ!?なんで平然と抱えてるんだよ!!」

「え?これもダメなんですか?」

「私は嬉しいから敢えて何も言わなかったけど、普通に考えたらダメなんじゃないかな。お兄ちゃん。」と、アイシャからもダメ出しが来た。

「アイシャが言うんじゃ仕方ない。降ろすか。じゃあ、手を繋ごうな?」

「ダメだろう!?」アリスさんの間髪いれない綺麗なツッコミが光る。

「遊んでないで行こうよ、お兄ちゃん。あまり待たせるのはいけないと思うよ?」

アイシャが呆れたように見てくる。そんな目をしているアイシャも可愛い。

「そうだな。アイシャがそう言うんじゃ仕方がないな。行こうか。」

アイシャの手を握って歩き出す。

「だからぁ…。もういい。行くぞ?」

アリスさんが疲れたように先頭を歩き始めた。どうやら昼食会は王城の一階のようだ。ちなみに、この王城は外から見た限りでは恐らく五階ほどの高さがあるように見えた。

アリスさんが大きな扉の前で立ち止まった。どうやらこの部屋が昼食会の会場のようだ。奥さん達ともまだ数日なのに、随分と長いこと会ってないと感じてしまう。

「さて、着いたぞ。ここだ。いくら冒険者との昼食会だとサーシャ様達も理解しているとは言え、今回は聖女様もいらっしゃるんだ。無礼の無いようにな。」

「分かりました。失礼の無いように気をつけます。」

それを聞き届けると、アリスさんは扉をノックして「サーシャ様、冒険者のケイとアイシャをお連れしました。」と言い、中からの返事を待った。

「アリス様ですね?どうぞお入りください。」

中からサーシャの声が聞こえた。ふと、アイシャが気になり、アイシャを見ると緊張しているのだろう。震えていた。声を聞いた事があるとは言え会うのは始めてだからかもしれない。アイシャの手を握っておこう。少しでも緊張が解れるように。

「あ…。ありがとう、お兄ちゃん。」

扉が開いていく中、アイシャの声を聞きながら過ごす。

さて、昼食会ではどうやって振る舞えば良いかな?


「お久しぶりで御座います。改めまして、先日の魔物の襲撃の際は御助力ありがとうございました。おかげさまで私と聖女様の命はあったのです。冒険者としてのお仕事頑張って下さいませ。及ばずながらお礼の品をご用意しております。後程、宰相よりお受け取り下さい。」

「ケイ様、あの時は失礼な事を言ってしまい、本当にすみませんでした。言い訳というつもりはありませんが、異世界に居た幼少の頃から私の世話役をさせていた執事を魔物の襲撃で失い動転しておりました。まだ言えていなかったので、改めましてお礼申し上げます。」

扉をくぐり抜けて会場に入った俺達を迎えてくれたのは、サーシャと朱里であった。

別人のように対応してくるが、これは仕方がないだろう。この会場には今、サーシャに朱里。壁際に護衛を立たせておくのか、護衛っぽいのが30人程度、その中にティアもいた。公王陛下と思われる人にアリスさん。それにどこの貴族なのだろうか、貴族っぽい人達が20人ほどいるのだ。

「お久しぶりで御座います、サーシャ様、聖女様。お変わりないようで安心致しました。お礼などを要求したかったわけではないのですが、ここで受けない訳にもいかないかと思いますので、ありがたく頂戴します。ありがとうございます。」

すると、サーシャからアイシャの方について聞いてくる。

やはり、姫なだけあって「なんちゃって」聖女の朱里より上手い対応が出来てるな。

俺?無理でしょ。何となくでやってるよ。

「それと、先日までそちらの方は連れておりませんでしたね?ケイ様のお連れの方なのは先ほど見せて頂きましたが、ご紹介頂けますか?」

その言葉に、俺の少し後ろに小さくなって立っていたアイシャを前に押して紹介する。

「こちらは私の購入した奴隷で名をアイシャと言います。先ほども見せましたように、これでも今や失伝されたと言われる〈氷属性魔法〉を〈天災級〉まで行使できる逸材に御座います。」

「確かに先ほど見せて頂きましたね。あの氷の竜巻は素晴らしいものでした。魔法の

ランクは伺ってもよろしいでしょうか?」

「ええ。秘匿するようなものでも御座いません。あれは〈天災級氷属性魔法〉で〈ヘィルコフィン・テンペスト〉という魔法です。」

あれでも威力が抑えられてはいるけど、そんな事よりサーシャが見たと言う事実が残る方が重要なのだろう。

ここでサーシャに変わって朱里が話に入ってくる。

「まあ!あれが、〈天災級氷属性魔法〉でしたのね!失伝されてもう長い魔法とお聞きしておりましたが、どのように習得なされたのかしら?私も勇者様を支える者として、勇者様の伴侶として更に実力を付ける為に、もし秘匿されているような事でなければ教えて頂けませんこと?」

周りには貴族もいるから余計な事は言えないのか。だからと言って朱里が自分から伴侶は勇者だと言うのは、ちょっと嫌だな。ここで、ふと閃いて目の前にいれば本音で語りたい事もあるだろうと思い〈嫁通信〉を使用して全員の接続をする。

『朱里、サーシャ。これで、肉声で話せない用件も言えるぞ。建前と本音って奴をリアルで体感できるな!』

すぐに二人ともアイシャと話をし始める。

『アイシャちゃん!さっきの装備ってどうしたの!?凄い装備だったよね!それと私の事もお姉ちゃんと呼んで!!敬語も要らないよ!』

『アイシャさん、あの装備の出所は?まあ、何となく予想出来るのですが…。それと是非私の事も姉と呼んで下さい。私も敬語では無くて構いません。妹なのですから!』

アイシャは〈嫁通信〉の事を意外と早く理解していたので、もうすでに慣れてきつつある。この質問攻めでも表情一つ変えずに〈嫁通信〉で対応してる。

そして、初対面から本音をぶち込んでくる俺の奥さん達。俺も人の事言えないが自重はないのか?

『あれは、お兄ちゃんの力作みたいだよ?えーと…。朱里お姉ちゃん、サーシャ姉さま。で良いのかな?』

『きゃー!きゃー!可愛いぃ!!アイシャちゃん最高!』

『今まで一番下でしたが、姉と言うものも良いものですね…。』

『これで全く表情の変化がないとか全員凄すぎだろ。』

すると、今まで静かに佇んでいたティアが〈嫁通信〉に入ってきた。

『あなた。私は全員で集まれたら記念にイチゴのケーキが食べたいです。』

この女神さま、話の流れとか理解してるの?

『分かったよ。その代わり材料とかあるんだろうな?市場にないと作れないぞ?』

すると、サーシャから助け船が出てくる。

『旦那様、それでしたら材料が分かれば私の方で用意できますよ。』

『さすが、サーシャです!』

『それなら、材料関係は任せるわ。愛しているよサーシャ。』

サーシャの表情が僅かににやける。

そんな感じで俺達の本音と建前合戦は続くかと思われたのだが、傍観していた貴族の一人が話に割り込んできた。

「少々よろしいですかな?」

それは、結構ふくよかなおっさんだった。サーシャが即座に反応する。

「どうかなさいましたか?コロルギ伯爵様?」

後からサーシャに聞いた話だが、この国と王国は貴族の階級は同じで爵位の順は高いのから順番に


大公、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵


になっており、後は名誉貴族という一代限りの王族が認めた者のみが名乗れるものが


準男爵、爵騎士


と言うらしい。


今話しかけてきたのはその中でも伯爵なのだから相当に位の高い所の人だな。

「いえ、私達も是非話をしてみたいものでしてね?我が国の最高戦力と名高いアリス殿すら敗れたその力の程も聞いてみたいものでして。」

「なるほど。確かに私とした事が久しぶりの邂逅に皆様がお話をする時間も考えずに話をしてしまいました。これはすみませんでした。」

『旦那様、コロルギ伯爵なのですが、正直に言いますとそれほど人間が出来ていません。不快な思いもするかもしれませんが我慢して下さい。…。ま、またストレス解消なら、その。私が…。』

サーシャから〈嫁通信〉で注釈が入る。このスキル万能過ぎるだろ。

それと、恥ずかしそうにしてるサーシャが可愛くて魔が差す。

『ああ。分かったよサーシャ。後、俺は奥さんにストレス解消で当たる事はしない。ただ、また夜を楽しみにしてろ?目一杯イジメてやるからな?』

つい、全員が聞いているのを忘れて言ってしまった。

『これは、中々に荒々しく感じますね…。これはこれで良いかもしれません…。』

『ケーくんの低い声って少し怖い感じがするけど、なんか良いかも。』

『お兄ちゃん、声がえっちぃよ?わたしは嫌じゃないけど…。』

三者三様の反応をじっくりと聞いてしまい思わず心で絶叫した。

『やっちまったぁぁぁぁああ!!』

「それより、少し良いかね?」

今度は若々しい声が聞こえる。そちらに視線を向ければ、公王陛下が居た。

「こ、これは陛下。どうなさいましたか?」

伯爵も慌て気味で返事をしている。

「まだ昼食会の始めの挨拶もしていないうちに盛り上がっているようだったからな。サーシャよ。命の恩人に会えたのは嬉しいのは分かるが場を弁えよ。そなたには婚約者もおるのだ。そのような女が他の男と仲良さげに話すものでは無いぞ?」

おや、サーシャには婚約者がいたのか。そりゃ居るか。王族だもんな。まあ、俺が全部貰ってしまいますが。

「これはすみませんでした。数日とは言えお礼もしっかりと伝えられずにいた事と、それでも気を使って下さっていた事のお礼を言いたく思いまして。ケイ様も申し訳ありません。」

「いえ。私も貴女の様な美しい方との話に花を咲かせられたのです。それほど話し上手ですと、婚約者の方もとても楽しめている事でしょう。羨ましい限りです。しかし、私もそろそろ妻と話がしたいのです。よろしいでしょうか?」

すると、今度は陛下がそれに返事をした。

「ふむ。それなら後程、晩餐会の席でも設けよう。そこで話をすれば良い。なに。今の昼食会ではサーシャの命ばかりか異世界の聖女様を救って頂いた礼にはならんと分かっておる。安心せい。晩餐会の席で褒美を取らせてやろう。さて、話もここまでだ。昼食会を始めるとしとう。皆も良いな?」

その言葉に反論もなく陛下は続ける。

「まずは、此度においてこの国に新たな強き冒険者の誕生を祝って、次にサーシャと聖女様を襲った魔物達にも恐れず立ち向かった勇士達の冥福を、最後にその状態から二人を救ってくれた夫婦の今後を祈って。乾杯!」

陛下がグラスを持ち上げる。それに合わせて護衛以外の面々もグラスを上げる。

「「「「「乾杯っ!!」」」」」

すると、すぐにサーシャから〈嫁通信〉が入る。

『旦那様、最初は陛下へとご挨拶に行って下さい。礼儀としてですが、礼節はそこまで気にしなくて大丈夫ですから。私も出来るだけサポートしますので。』

どうやら、動き方に指示を出してくれるようだ。それなら挨拶に行こう。

「陛下、先ほどは申し訳ありませんでした。此度はこのような場を設けてくださった事、光栄に思います。」

そう言いながら、膝をおり頭を垂れる。王族相手ならこれだろ?

「ふむ。さすがは異国の貴族と言うわけか。どうやら護衛にも貴殿のアーティファクトを使用してくれたようだな。父として娘を守ってくれた事、嬉しく思う。」

「いえ、悲鳴が聞こえ急ぎ参じたところで襲われている女性がいれば助けるのは、男の

本懐と言うものでしょう。私は己の心の進むがままに行っただけであります。」

「それでも、礼を言うのが親という者なのだよ。」

「それでは、ありがたく頂戴します。」

「ふむ。また後程、晩餐会の日程を伝える。下がってよいぞ。存分に楽しんでくれ。」

「は。それではこれで失礼致します。陛下のご厚意、是非とも楽しませて頂きます。」

そう言って更に頭を下げてその場から離れる。

『どうしましょう。旦那様の礼節技能が意外と高かったです。』

『サーシャ、地味にそれ傷つく。次の一緒の夜覚えてろよ。』

サーシャが〈嫁通信〉を使ってまで軽くジャブを入れてくるから仕返しをしつつ、護衛として下がっているティアの元まで進む。

が、途中で貴族っぽいのに捕まった。

「おや、ケイ殿。そちらには護衛しかおりませんぞ?」

「いえ、護衛として来ているだけとはいえ、会うのは妻です。何か問題でも?」

こちらを子馬鹿にするような表情だったのが気に食わず思わず突っかかって行ってしまった。先の模擬戦前の仮眠の後からどうにも喧嘩っ早いような気がする。

「それはそれは。ですが、先に私達に挨拶は無いのですかな?」

貴族なのだから先に挨拶して来いよ。という雰囲気を隠す事もせずに接してくる。

『サーシャ、この貴族達は何してんだ?いくらある程度の無礼講とは言えこれは国の品性を疑うぞ。外から見たら、妻に会いたい男を呼び留めているだけで印象は最悪なんだが。』

『今回の昼食会は日程がギリギリでしたので、割と無理をして費用を集めましたから本来ならば、呼ばないはずの派閥の貴族にも声を掛けておくしかなくて。その声を掛けたくない貴族派閥の筆頭にいるのが先ほどのコロルギ伯爵です…。』

サーシャから申し訳なさそうに返事がくる。

『そうか。理由が分かればいいんだ。と言うか、なんで俺をこんなに呼び留めてるの?コイツ。』そう、疑問は俺と話を始めたこのおっさんだ。

『実は、ティアさんに言い寄る貴族が多いのです。』

『は?』俺の女神さまに言い寄る害虫が居るだと?

サーシャは少し怯えたように言葉を詰まらせるが、何とか喋ってくる。

『え、ええ。ティアさんはそれこそ立ち姿は女神のようですから。その溢れ出る色気に当てられた貴族が言い寄って居るのです。勿論、夫のいる女性を口説くなど持っての他なのですが、それでも夫が共にいないばかりか単独で別の仕事をしている稼ぎの少ない無能の男だと思われていまして。ここにいる貴族は旦那様がどれくらい強いのかも知りませんから。』

『本当か?ティア。』ティアに事実確認をする。

『ええ。相当の人数が口説きにきました。どうやら既婚者でも離婚して新しく家庭に入る女性は珍しくないらしく、相当に口説かれましたね。全く私があなた以外に靡くと思っている事自体が腹立たしい。』

始めてみるティアの苛立つ感情だった。

「であるからして…。」

まだ喋っていたのか、この男は。

すると、今度は朱里が来てくれた。

「お話中に申し訳ありません。私、そちらのアイシャさんとお話がしてみたいのです。少しよろしいでしょうか?」

どうやら、アイシャを使って俺ごとここから離れるつもりのようだ。

「こ、これは聖女様!アイシャと言うのはそこの奴隷だったな?ケイ殿、奴隷程度問題あるまい。聖女様がご所望しているのだ。そのまま献上してはどうだね?」

コイツは俺を逆撫でする事には相当の技術があるようだな?

全身に悪意が満ちていくように感じる。

「は、はい。大丈夫です、聖女様。お兄ちゃん、一緒に行こう…?」

そう言って、俺の手を握りしめてくれるアイシャが俺を覗きこんでくる。

落ち着いてきたようで、身体から溢れそうだった悪意がなくなっていた。

「ああ、行こうか。アイシャ。申し訳ありませんが、アイシャは妹のように接しております。いくら聖女様の頼みとはいえ、このように豪勢な場では慣れていないのもあり無礼を働きかねません。私もご一緒しても?」

「貴様!聖女様に対して失礼だろう!?奴隷程度に何を入れ込んでいるのかは知らんが、聖女様が欲しているのだ!それは聖女様が傍付きに、と言っているのだ!そこの奴隷もそれくらいの分別も分からんのか!!」

あまりの物言いに一瞬で我慢の限界を迎えた。身体に悪意が満ちてくる。

身体が言う事を効かない。まるで自分が自分でなくなるようだ。

アイシャの手が、俺の手をギュッと握ってくれる。無言で「大丈夫だよ。」と言ってくれている気持ちが伝わってくる。少しだけ心に余裕が生まれた。

『アイシャ、ありがとう。もう大丈夫だ。』

『大丈夫?お兄ちゃん、わたしは大丈夫だから、ね?』

『申し訳ありません、旦那様。恐らくそこの貴族が気に障ることを言ったのですね?少々お待ちください。』

アイシャとサーシャがそれぞれ心配してくれている。

今度はサーシャが近づいてくる気配を感じる。仲裁に入ってくれるのだろう。

「何をしているのです?そのような大声を出して。こちらにまで声が届きましたよ?」

後ろに振り返るとそこには、少しだけ冷たい印象を与える喋り方をして、凍えるような笑顔のサーシャが居た。

「こ、これはサーシャ様っ!いえ、聖女様がそこの獣人奴隷を所望しているのにも関わらず、聖女様に献上もせず喚いておりまして…。」

『朱里さん、このような事言ってますが?』

すると、今度はサーシャが〈嫁通信〉で朱里に返答を問う。

〈嫁通信〉が密談の能力が高過ぎるな…。

『そんな事言ってないよ!私はケーくんごと離れるつもりで声をかけたもん!』

『なるほど。つまりこの人が勝手に騒いでいるに過ぎないと。』

サーシャの中でどういう状況なのかの理解が終わったらしい。こういう姿を見ると、否応なしに優秀なのだと思わされる。

しかし運悪く、現状をサーシャが理解するのと同時に目の前の貴族が畳み掛けるように言葉を紡いでくる。

「そもそも!聖女様が「傍付きに。」と仰ったのであれば、それに応じるのが常識でしょう!さらに、この者は貴族の当主である私が献上せよと言っても聞かなかったのです!そ、そうです!これだけでも十分に不敬罪と言えるのでは!?そうです!この男は私ばかりか聖女様にまで不敬を働いたのです!おい!誰か!この者を牢にぶち込んでおけ!勿論、そこの奴隷は聖女様への献上品として奴隷商会で主の書き換えを行うのだ!良いな!」

護衛として立っていた兵士達は俺の横に立つ朱里とサーシャに気負いしたのか、僅かに動こうとしただけで近づいては来ないが、貴族がまた「何をやっておる!貴様らも不敬罪と言われたいのか!」と言う声に焦るように俺を取り囲む。

『…。やられました。申し訳ありません、旦那様。』

サーシャの謝ってくる態度に、そこまで焦ることなのかと思い問い返す。

『どういう事だ?何かまずいのか?』

『不敬罪は、基本的に貴族の申告のみで成り立つのです。ですので、実状はどうあれ関係なく不敬罪だと言ってしまえば不敬罪に出来るのです…。』

それを聞いた俺は、愕然とした。理不尽にもほどがあるだろうと。

『ええ。未だに撤廃出来ていないのですが、貴族の方はそれを悪しき風習として使わない事としているのです。ですが、それが今となって仇になりました…。』

サーシャの言い分は分かった。だが、これだと俺は牢に入れられてしまうのだが。

『サーシャ、なんとかならないのか?』

『残念ながら。どうするにも一度、牢に入って貰うしかありません…。アイシャさんの事なら私預かりにしますので問題ないようにします。』

『ケーくんが牢屋に行くのは、ちょっと納得できない…。』

『黙って聞いていましたが、随分と勝手な言い分ですね。あなたが許していたら斬り捨てています。』

朱里とティアは怒り心頭といった具合だが、こちらを見てくる貴族の顔は、まるで「貴族に逆らうからだ。」と言いたげに下卑た笑いだった。

『さっきまでの俺があるから言えた義理じゃないけど、落ち着けって。』

俺は、牢屋に一晩くらいなら納得して入ろう。それで奥さん達に迷惑が掛からないのであれば。

『俺が牢屋に入れば今の状況も一応落ち着くんだろ?それなら行くしかないじゃん?』

すると、大人しくなった俺を見て貴族は何を思ったのかティアに向かって

「どうです?あのように無礼を働き無駄な罪を重ねるゴミのような夫より、私のように権力も立場もある男の元へきませんか?あのダメな男のように貴女を無駄に働かせる事も致しません!本当に、貴女のように美しい女性を働かせるグズな男は捨てませんか!?」

なんて言い始めた。これでティアが靡くと思っているのだろうか?今も表情は無表情に凛々しく立っているだけだが、〈嫁通信〉では凄まじく苛立っているのが伝わってくる。

実際に『あなた、サーシャさん。今すぐあの男をミンチに変えていいですか?豚の餌程度にはなるでしょう?』と言っている。溢れ出す威圧と殺意は、紛れもなく彼女が神なのだと証明している。その感情を微塵も外に漏らさない能力を持つ彼女も素晴らしいと思う。あくまでも俺が「止めておけよ?」と言っていたから、その力を抑えているだけなのだろう。

『ティア、無理に我慢させて悪い。今度、何かで埋め合わせをするから。何がいい?』

彼女の頑張りが嬉しくて、ティアに聞いてみた。

『…イチゴのショートケーキが食べたいです。あなたの手作りで。』

『が、頑張らせて頂きます…。』

ティアの怒りが少しずつ収まってきた。すると、さすがに無言でもいけないと思ったのか貴族に対して返答をし始めた。

「…いえ、私はこれでも今の生活が気に入っております。それに、私は生涯一人の殿方に尽くすと決めておりますので。」

そう言うと優雅に一礼して、「これ以上は喋るな。」と言いたげに護衛としての仕事も再開した。

「ふん。そうですか…。…後悔しないといいですね…。」

貴族が小言で呟いた内容は誰にも聞こえないと思ったのだろうが、俺にはしっかり聞こえてくる。

兵士達も俺が動かないからか、もうロープで拘束し終わったところだ。もしかしたら、兵士達も怖がるかもしれないが、釘を刺しておこう。ティアは俺のモノなのだと。

全身から威圧を僅かに出して睨み付ける。

「おい。人の女に手を出したら只じゃおかねえぞ?」

周りの兵士さん達、本当にごめんなさい。

「ひっ…!ふ、ふん!何とでも言え!どうせ貴様はこれから牢に行くのだからな!」

ふと、連れて行かれながらも疑問があったのを思い出してサーシャに聞いてみる。

『そういや、サーシャ。この状況さ。陛下なら何とかできたんじゃね?』

『ええ。父なら間違いなく対応できると思っていたのですが、どうやら父には父で考えがあるらしく様子見だったので、致し方なく私もこれ以上は。と思ったのです。』

サーシャも同じ事を考えていたようなのだが、どうやら陛下にも何か考えがあるのだと考えたようだ。なら、潔く牢屋にでも入るか。

『サーシャ、アイシャの事頼むぞ。今となっては俺達の可愛い妹だろ?』

『ええ!それは任せて下さい!何としても私の加護下におきますので!』

『アイシャも静かにしてて偉かったな。すまない。少しだけ離れるけどお姉ちゃん達の言う事を聞くんだぞ?』

『お兄ちゃん、私ってそんなに小さいと思われてる…?』

『あ、いや。そう言うわけじゃないんだが、何と言うか妹だと思うと過保護に…。』

部屋から出され、気配は離れていく。でも〈嫁通信〉でいつまでも繋がっている感覚がこれほどに暖かいとは思わなかった。


〈嫁通信〉を解除してからしばらくして連れて来られたここは、恐らく地下室と言うやつなのだろう。

俺を牢屋に入れた兵士達は申し訳なさそうな表情をしたままだったが、俺が「大丈夫でしょう?俺は特に何かしたわけでもないですし。それに貴方達には当たりませんから。」と言うと安心したような顔をしていたが、どこか汗だくな気がした。

嫌だな。少しだけ「貴方達には」を強調しただけなのに。もしかしたら、この兵士達はアリスさんとの模擬戦の話を聞いたのかもしれない。

その後、牢の奥に吊るされていた鎖に俺の両手両足を固定して、兵士は鎖の説明をしてから出ていった。

どうやら、この鎖には〈魔封じ〉が組み込まれているらしく、あらゆる魔法やスキルが発動できなくなるらしい。ただ、どうやらこの鎖は牢の中くらいは自由に動けるくらいの長さはあるらしい。

入った牢屋は、鉄格子の嵌った石造りの小部屋の冷たいイメージに簡単に敷かれた薄い藁の布団。少しだけ陰になった所にある小さな、恐らくトイレ代わりと思われる穴。まさに「THE・牢屋」と言えるものだった。

「(すげぇ!ここでもファンタジーを感じるとは思わなかった!)」

あまりにも感動してしまい、思わず朱里に〈嫁通信〉を繋いだ。

『朱里!すげぇよ!この牢屋、まさに牢屋だよ!ゲームでしか見たことが無いレベルの牢屋だよ!』

朱里の驚いたような反応が返ってくる。

『え?ケーくんなんでそんなに盛り上がってるの?』

『だってよ!これ完全に俺達では実物を拝めなかったであろうレベルの牢屋なんだって!なんか無駄に感動してきた!!』

『ケーくん、落ち着こう?まず、そこ牢屋だから。今、絶対にキラキラした目をしてる

んだろうけど、そこ牢屋だから。』

朱里の少し呆れたような声を聞いて落ち着いてきた。

『あ、ああ。そうだな。なんかごめん。一人で意味もなく盛り上がったわ…。』

『いや、良いんだけどね?それで、どうしてそんなに盛り上がってたの?』

朱里も俺がどうしてそんなに盛り上がっていたのか、少し興味が沸いたようだ。


ふふふ…。それなら、俺が説明しよう。ここがいかにファンタジーしている牢屋なのかを!


それから30分程、俺と朱里は無駄にテンションが上がって変な会話を続けていた。


少しして、先ほどとは違う兵士の人がやってきた。先ほどまでの兵士から見ると、少しばかり鎧が豪華だろうか?さして気にしていなかったので分からないが。

「よぉ。何したんだ?こんな所に入れられるなんて。」

俺の牢屋の前で、その人はいきなり話しかけてきた。

「なんでしょう?私は本日のギルドでの模擬戦の後の昼食会に呼ばれたのですが、そこである貴族の方から不敬罪だと言われ、ここに入れられただけですが?」

すると、彼は少し驚いた顔をして、こちらを見てきた。

「そりゃあ、災難だったな。ま、諦めて入ってろ。これ以上悪い状況になることもないだろうからな!」

そういうと、彼は笑いながら更に聞いてくる。

「そういや、お前さんは装備そのままで入れられたのか?普通は貫頭衣に着替えるんだが…。」

それについては俺も分からないから、どうにも言いようがないのだが。

「すみません。さすがに私もそればかりは分かりません。まあ、私が特に何かしたわけでもありませんから、すぐに出られる処置とかだと嬉しいのですがね?」

だから、そうやって軽い形で話すとすぐに彼の表情は険しくなった。

「お前さんがどこの出身かは知らねぇが、不敬罪の場合はどれだけ軽くても犯罪奴隷だぞ?その次が鉱山奴隷。最後が死罪だ。お前さん、さっきギルドから来たって言ってたよな?ならもう登録抹消指示が出てるはずだぞ。」

…不敬罪の罪、重過ぎないか?

これ、どう足掻いても無理な気がしてきた。すると、表情が固まった俺を見て絶望したと思ったのか彼は更に喋ってくる。

「ま、死罪以外なら生きてられるんだ。それで諦めな!なに、どんだけ重い不敬罪か知らねぇが、他国の重鎮にでも失礼を働いてなければ、そうそう死罪はないだろ!」

そういうと、彼は歩いていった。

俺は、彼が見えなくなってしばらくしてから〈嫁通信〉を全員指定で起動する。

そう言えば、さっきも出来たが魔法やスキルが封印されている筈なのに使えるな。

まさか、そんな所まで非常識になってきている?いやまさか。

『サーシャ、聞きたい事がある!今すぐに時間は大丈夫か!』

焦っていたのか声が大きくなってしまう。

『旦那様!?どうかなさいましたか!?』

サーシャも俺の焦りに当てられたのか、声が裏返りかけていた。

『ふー…。不敬罪の、罰の重さを聞いたんだが俺は大丈夫なのか?』

一つ呼吸を置いてからサーシャに質問する。そのうちにサーシャも落ち着いてきたのか普通の対応になっていた。

『それでしたら、不問となるはずです。さすがに私と朱里さんを助けていますから実績としては申し分ありません。それほど待たせることも無いと思います。』

『万が一があったとしても、犯罪奴隷は止めてくれよ?鉱山なら輸送中に全部壊してトンズラ出来るから良いけど…。』

すると、サーシャは疑問に思ったのか質問してきた。

『魔法やスキルは封印されますし、いくら旦那様でも厳しいのでは?』

『それって〈魔封じ〉だろ?今もその効果のある鎖に縛られているけど、普通に〈嫁通信〉使えているぞ?』

『え?使えているのですか?〈魔封じ〉が発動している意味が…。まあ、旦那様ですし今さらですね。それでも、恐らく今日中に出られると思います。父が頑張っていますから。』

どうやら、陛下が手を打ってくれているようだ。あまり借りを増やしてしまいたくはないが、ここは諦めておこう。

『それより、全員聞こえてると思うが俺は大丈夫だと思うから安心してくれ。』

すると、やっと皆から反応があった。

『ふー。なんか深刻そうで話に入れなくて大変だったよー。』

『あなたが無事で何よりです。それより、先ほどの話は本当ですか?不敬罪と言うのはそれほどに重いのですか?』

『わたしは、お兄ちゃんがご主人様じゃないのは嫌だからね?』

三者三様の反応をしてくれる。ティアは何やら雰囲気が怖いのだが…。

それでも、俺も確認をしたかったので、サーシャに話を振る。

『一応、俺が聞いた限りだと軽くて犯罪奴隷か鉱山奴隷。重いと死罪。で合ってるんだよな、サーシャ?』

サーシャはティアの雰囲気に飲まれていたようだったが、俺が話しかけた事で戻ってきた。

『ええ。合ってます。それが不敬罪での罰になります。』

すると、先ほどより一層怒気を孕んだティアが『それで先ほどの貴族は…。』等と言い始めた。何かあったのだろうか?

『ティア、大丈夫か?何があった?』

『あ?いえ、何もありません。大丈夫ですよ。』

怒気を抑えて可愛らしく返事を返してくれるが、出来れば奥さんに我慢はして欲しくない。

『いや、どうにもあの貴族と何かあったとしか思えないんだが。思い出したくないのであればそれでいいが、悩むくらいなら俺にも聞かして欲しい。可愛いティアが苛々しているのは見ていたくないからな。』

今までの雰囲気が一瞬で霧散したティアが今度は嬉しそうにあった事を話し始めた。雰囲気が変わったからか、サーシャや朱里も話に入ってくる。

『そう言ってくれるとやっぱり嬉しいですね…。えへへ…。えっとですね?あの後の事なんですが…。』





HS~ヒロインサイド〈女神ティアリア〉~



私の夫は牢に連れていかれました。どうやら、夫も納得をしていたようですからここは我慢しましょう。何も、思い通りにいく事ばかりではないのだから。

すると、先ほど夫に不敬罪とやらを言い渡した貴族の男がやってきます。

どうにも苛立ちが勝りますね。表情だけは笑顔で取り繕っていますが…。

女神としては失格なのでしょうが、私は女神としてよりも一人の女として居たいのです。

「どうですか?この後、私の屋敷でお茶でも飲みませんか?」

ニヤニヤと厭らしい顔を向けてくる貴族の男。なぜ、夫を牢に入れておいて私が靡くと思っているのでしょうか。それでも、笑顔で対応します。

「いえ、申し訳ありませんが私はサーシャ様の護衛を仰せつかっておりますから。」

やんわりと断ります。本来ならばもっと強い口調で心ごと折ってしまいたいですが、ここではサーシャさんの護衛ですから、気を付けなくてはなりません。

「そうですか。それでは、また今度誘わせて頂きます。」

だから、私はケーシさんを愛していますから、あなた程度には靡かないです。

「私は夫を愛してますから。お断りします。」

「ぐぬ…。まあ、そのような事も…。」

何やら、貴族の男は更にニヤニヤとしはじめた。

すると、その男も護衛を呼び出して帰ってしまった。

そう言えば、場も相当白けてしまいましたね。主役である夫も投獄されてしまいましたし。

陛下はどうするのでしょうか?

すると、今まで様子見をしていた陛下が椅子から立ち上がりました。

「どうやら、この昼食会もここまでのようだな。まさか投獄されてしまうとは。」

陛下はどうやらこの昼食会を終わらせてしまうようですね。

今度はサーシャさんが前に出てきました。

「この度は、私の選んだ人がこのような事をしてしまい皆様には不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。」

どちらとも取れる発言をしたサーシャさん。しかし上がる声は夫を悪く言う声ばかり。

本当にこの国の貴族は大丈夫なのでしょうか?

「それでは、この場はこれで解散としよう。それであの無礼な男について、しっかり聞かせて貰うぞ?サーシャよ。お前があの男を連れて来させたのだからな?」

その言葉は今の場では、陛下も夫を敵視していると印象付けるものだが、その発言もあってか、すぐに貴族達も大人しくなってきました。

「サーシャ、後で執務室に来い。分かったな?」

数日サーシャさんと行動していて気が付いたのですが、陛下の「執務室に来い。」という発言は「素で話がしたい。」という意味を含むみたいですね。

「分かりました、陛下。皆様も此度は誠に申し訳ございませんでした。」

そう言いながら、頭を下げるサーシャさん。表情も本当に申し訳なさそうにしているあたり、彼女も色々な苦労があるのでしょう。


それから、私達は解散した昼食会の会場を後にしてサーシャさんの部屋に戻って来ています。もうすぐ、陛下の執務室に行こうかという時間です。

「それにしても、サーシャちゃん。ケーくんは大丈夫なんだよね?」

朱里さんも心配なのかサーシャさんに確認をしています。

「それは大丈夫です。さすがにあの程度で不敬罪が成立していたらこの国は滅んでますから。せいぜいが一晩牢内で生活すれば反省済みの扱いで出れるはずです。」

サーシャさんは何か引っかかっているようですが、気にしない事にしたのか笑顔で朱里さんの疑問に答えています。

「あの、サーシャ姉さま…?わたしは、ここにいて大丈夫なんですか…?」

申し訳なさそうに話を切り出したアイシャちゃん。基本的に一定の距離を維持して接するつもりでしたが、わたしもあの反則的は可愛さに当てられて、気が付けばちゃん付けして呼んでます。

サーシャさんは満面の笑みを浮かべてアイシャちゃんを撫でてます。

「ええ!勿論です!何人たりとも私達の可愛い妹には触れさせません!」

その心境には私も同意します。朱里さんも頷いていますね。私達の心は一緒のようです。

「なんで、わたしこんな状況になってるんだろう…。」

アイシャちゃんは最後に何か呟いていましたが、闘志に火が付いていた私達の耳には入って来ませんでした。


気が付けば、移動の時間になっていて私達はすぐに移動を始めました。

そういえば、闘志を燃やしていた時に朱里さんに〈嫁通信〉が着ていましたね。

どんな用事だったのでしょうか?気になります。

ところは変わって、ここは執務室です。目の前には陛下が居ます。

今回は、私とサーシャさんに朱里さん。最後にアイシャちゃんが居るだけで、アリスさんは居ませんね。前回は賑やかでしたからそんなに感じませんでしたが、この部屋に5人だと、少し寂しいと感じる広さですね。

よく見ると陛下が少し難しい顔をしています。何かあったのでしょうか?

「サーシャちゃん、まずいわ。あの貴族、あたしが手を打つより早く動いちゃったわ。どうしましょう?」

「お父様、それはどういう事ですか?」

サーシャさんは私達4人の思いを代弁しました。

「もう、ケイちゃんが投獄されたから、ギルドに抹消するようにお抱えの職員を通じてやっちゃったのよ!しかもあのクズ、悪い噂を街中にばら撒いたわ!おかげで、「黒炎は昼食会で貴族の一人を殺害しようとした。」なんて噂が立っちゃってるのよ!これじゃあせっかくのご褒美も無理だし、それどころか最低でも犯罪奴隷として売りに出すくらいしないと王家としての面子が潰れちゃうのよ!」

陛下は横に置いてあった紅茶を飲み干しながら、更に捲し立てます。

「これだと、あたしが出来る最良の手段でも国から秘密裏に出せるかどうかよ!?あの貴族はこれでティアちゃんの思い人が消えるから、自分に靡くとか思ってそうよねえ!ほんっとうに苛立つわ!」

私達4人から無言の威圧が噴き出します。

あの貴族、ミンチどころじゃ済ませられませんね…。どうしてやりましょうか…?

「ちょっとちょっと!乙女がしていい顔してないわよ!ほら、大丈夫よ!?何たってあたしがこの国のトップなんだから何とでもしてみせるわよ!」

陛下が慌てています。それほど怖かったのでしょうか?これはケーシさんには見せられませんね。

「しかし、お父様?あのゴミ貴族のせいで旦那様が大変な目に逢うのでしたら、私はこの国ぐらい滅んでも良いと判断しますよ?」

サーシャさんの発言は最早、国に対する裏切りとも取れる程の発言です。

ですが、陛下は嫌な顔一つせずにサーシャさんに言葉をかけます。

「サーシャちゃん。そんな事にはならないわ。私がさせないもの。ケイちゃんは私が何としても放免にするわ。とりあえず、今晩には牢から出れるようにするけど、王城からは出れないかもしれないわね。ま、ケイちゃんもそれくらいは許してくれるかしら?」

「旦那様に確認をしないとダメですが、王城から出られないくらいなら問題ないと思います。」

サーシャさんが答えた後に、朱里さんも答えます。

「そうだね。ケーくんなら王城が見て回れる事を喜びそうだよ。」

私も話に加わりたいですが、どうにも未だに苛立ちが抜けません。

「そうねえ。とりあえず!この後、アイシャちゃんの部屋を用意させるから、そこに皆居て欲しいのよ。大丈夫かしら?そうしたら、何としてもケイちゃんを牢から出して、その部屋に連れて行くわ?」

この暗い気持ちはケーシさんに撫でて貰えば消えるでしょうか?

私はきっと女神としては失格ですね。全員に平等に注ぐはずの女神の愛をたった一人の男性に注いでいくのですから。

「ええ。私も、いえ私達全員が少しでも早く旦那様に会いたいですから。」

「それじゃ、悪いんだけどここまでよん!あたしはやることが増えちゃったからね!」

陛下はそう言うと私達に部屋から出るように指示を出してきました。


サーシャさんの部屋に戻ってから少し経った頃にメイドが1人来て、アイシャちゃんの部屋が準備出来た旨を伝えていきました。

私達は全員で移動しました。これで後は夜を待つだけです。




メインストーリー〈北條京嗣〉



『と言う形になりまして、私達はアイシャちゃんの部屋であなたを待っているのです。』

ティアの説明を受けて大体分かった。とりあえず、俺はどう足掻いても無事にこの国から出られない可能性が高いわけか。

『ありがとう、ティア。状況の理解は済んだし、ティアを悪戯に振り回そうとするあの貴族は覚えた。次会った時は確実に消すわ。』

サーシャも異論は無いようで、止めない。

『その、それでお兄ちゃん。私は大丈夫かな…?』

アイシャはどうやらこのまま一緒に居られるかを心配しているようだが、それこそ問題なんて微塵もない。もし、誰かが俺達の仲を裂こうというなら物理的に説得するまでだ。

『アイシャ、安心してくれ…と言っても難しいかもしれないけど、俺はアイシャを守るから大丈夫だよ。君が俺から離れて行かなかった。だから俺もアイシャの信頼には応えるさ。それに、俺はどうやら規格外なようでまだ強くなっているようだし。』

『え。ケーくんまだ強くなってるの?もう既にとんでもないステータスになってたよね?まだ上がってるの?ケーくん世界に喧嘩売っても勝てるんじゃ…。』

朱里は俺の強くなってます宣言に呆れと驚き半々のか表情で聞いてくる。

『そうか。朱里達にはまだ見せてなかったな。俺の新しいステータス。部屋に行った時に見せるよ。』

『あの、あなた?頼みますから世界とか滅ぼさないで下さいね?』

今度はティアからやんわりとツッコミがくる。

『ティア、さすがに世界を滅ぼすのはちょっと考えるわ。世界終わっちゃったら色々困るだろ?人族が居なくなるとかならまだしも…。』

『あなた!?さすがに一種族滅ぶのは看過できない世界崩壊の序奏ですよ!?』

『いやだな。さすがに冗談だって、売られた喧嘩しか買わないさ。…。今回みたいにな。』


そんな他愛もない話をしながら時間は過ぎていく。

途中で見周りが来たが、俺は鎖で繋がれた部屋の中にいるのだから脱走なんて出来ないだろうに。

そして、遂に今まで見てきた兵士の鎧よりも豪華な鎧を来た人がやってくる。

俺の牢屋の前で立ち止まると、牢のカギを開けて中に入ってきた。直ぐに鎖も外された。「こっちだ。付いてきてくれ。」声から考えて男性だろうか?それにしては気持ち高い声だった。

「ああ。助かった。」俺も礼を述べて歩いて付いていく。

しばらく歩いたと思うが未だに着かない。もう結構な距離歩いたと思うのだが…。

「悪いな。陛下が犯罪者ではないと言ったとしても、凶悪犯罪者用の牢屋に入っていた人間なぞ信用に値しないのでな。遠回りして道が分からないようにしている。」

見計らったように兵士がそう言った。

それからも歩き続け、嫌気が差してきたくらいのタイミングである扉の前で立ち止まる。

「そこの部屋だ。扉の前で私は控えているからな。何かあれば直ぐに飛び込ませて貰う。」扉の前でそう言った兵士は扉をノックした。

「構わん。入れ。」

中から男性の声がする。すると、兵士は横に逸れて俺に扉を開けて入れと言いたげにしている。普通こういうのは兵士が開けるのではないのか?

疑問は拭えないものの、俺も早く皆と会いたい気持ちが先走って、特に違和感を払拭もせずに扉を開けた。

「ようこそ?そしてさようなら。」

そこに座っていたのは陛下ではなく、俺の事を牢屋に入れた貴族の派閥のトップ。

コロルギ伯爵だった。そのあまりの状況に、目の前に気が取られ後ろの確認を怠った俺の背後に気配がした。

その次の瞬間、胸元に強烈な痛みと視界の下側に映る金属。

それは、後ろから剣で心臓を串刺しにされた証だった。

急速に熱を失っていく身体。意識が遠のく。

「ガッ!ごふっ!ぢ…ぐしょう…。」

「ふん。ティア殿のような方には貴様のようなゴミは要らんのだよ。それにあの獣人奴隷も見た目は良かったな?後で裏商会にでも流すか。いや、その前に味見でもしてみるか…。ふふふ、あはは!」

「お、での…。…んな…に。」

俺の女に触れようとしてんじゃねえ。その言葉は紡ぐ事も出来なかった。

薄れゆく視界の中で、首元に何かが通り過ぎる感触と共に、俺の意識は完全に暗転していった。





第八話〈化け物、至る。〉



HS~ヒロインサイド〈サーシャ・リンドル・ヘンズール〉~



私達は昨晩、旦那様が部屋に来るのを待っていました。

しかし、夜中になっても、それこそ深夜になっても旦那様は現れる事はありませんでした。それでも、私達は起きた時に旦那様が居てくれるかもしれないから、という理由でアイシャさんの部屋で寝る事にしました。

しかし、今はもうその翌日になってしまいました。私とティアさんはもう既に起きているようですが、まだ朱里さんとアイシャちゃんは起きてきていません。

「結局、旦那様は来なかったのですね…。」

私は自然とそう呟いていました。

「ええ。…。全く、あなたは今、何をしているのですか?」

ティアさんも心ここにあらずといった状態ではありましたが、なんとか返事を返してくれました。

朝日はいつも私達に一日の元気をくれますが、私達の朝日は旦那様なのです。

早く、貴方の笑顔が見たい…。

しかし、その静寂もアイシャちゃんの声で掻き消されました。

「ああああああああああああ!!!!」

アイシャちゃんの今まで聞いた事も無いような絶叫が聞こえ、私達は急いでアイシャちゃんの元に戻ります。

「どうしたんですか!?アイシャちゃん!!」

「何かありましたか!?アイシャちゃん!?」

私とティアさんはアイシャちゃんの元に飛び込みながら、彼女を見ました。

彼女は今までの大人っぽさのある態度から一変。まるで泣きじゃくる子供のような状態でした。

朱里さんもその声に飛び起きたのか、大慌てしてましたが何とかアイシャちゃんの背中をさすっていました。

何か怖い事でもあったのでしょうか?私はたまらず、アイシャちゃんに聞きます。

「アイシャちゃん?何かあったのですか?言えますか?」

彼女がここまで取り乱すのは始めてみました。確かに彼女と行動してまだ半日程度ですが、彼女は見た目以上に大人なのです。その彼女がここまで取り乱すとは…。

嫌な予感がします。どうか当たらないで下さい。

「だ、だいじょぶで…す。」

そう言うと、彼女は自身のステータスを開いて、全員に見せました。

そして、泣いていた理由を話し始めました。

まず、朝起きて何となく違和感を感じたと。

何がおかしいのか分からないけど、とにかくおかしい。そう感じたアイシャちゃんはステータスを確認した。

そして、書いてあってはいけない事が書いてあった。

そこまで聞いて私も、そして他の皆さんも気が付いてしまいました。


奴隷所有者の欄に、「ケイ・ホウゼン(死亡者)」という項目を。


私達は呆然としました。だってケイ・ホウゼンは…。旦那様の偽名で、それが死亡者…?

何があったのですか?なぜ、なぜ旦那様が死んでいるのですか?

旦那様が…。私達のケイシさんが…。


死んだ?


それから、私達は何も出来ずにその場に棒立ちをしていました。

扉が乱暴に開けられる音がします。

「〈サイレントフィールド〉!!サーシャちゃん!大変よぉ!!あのゴミ野郎、遂に殺しに手を出しやがったわ!」

どうやら、父だったようですが、私達は誰一人として反応出来ません。

なぜ?私達が王城に呼んだから…?私がお話したいなんて我が儘を言ったから?だから、ケイシさんは死んじゃった…?


アイシャちゃんは僅かに反応しました。

「…陛下、ごめんなさい。…。多分、わたし達はもう少しだけ時間かかるよ…?」

「なんでもう知って…?あ、アイシャちゃんってケイちゃんの奴隷だったわね。それでかしらね。」

相変わらず、頭の回転の速い父は直ぐに結論を出して、こちらを慰める事をしようとはしません。私達は、愛の程度はどうあれ愛した男の死に、これほど早く直面したのですから。父には申し訳ありませんが、もう少しだけ時間を貰いましょう…。




???ストーリー〈????〉



ここはどこだろうか?身体が動かない。

ジジジ…ザザッ!

そういえば、あの丘でも動けなかったな。

我は、愛した人も守れずに何を守ろうとしていたのだろうか。

だが、それでも我は愛していたのだ…。

ジジジ…ザザッ!

アイツらは大丈夫なのだろうか?

俺が、愛したアイツらは…。

そういえば、俺はあの時…。

ジジジ…ザザッ!

なぜなのだ!我は間違えてしまったのか?

今度こそ!今度こそは守れるのでは無かったのか!?

ジジジ…ザザッ!

それにしても、ここは…?

そうか…。あの時、俺は…。しん…で…。

ジジジ…ザザッ!

我はまだ死ぬわけにはいかないのだ!

誰も守れておらぬ!我は!我はっ!

ようやく、心から守ろうと…!

ジジジ…ザザッ!

俺は、奥さん達を愛していられただろうか?

もう、満足だろうか?俺は彼女達に応えられただろうか?

ジジジ…ザザッ!

まだ我は満足なぞしておらん!今度こそ、守ると誓ったのだ!

なぜ、なぜ!また我から奪うのだ!

ジジジ…ザザッ!

いや、俺はまだ返しきれていない。皆から支えて貰うばかりだった。

これからだったんだ!

ジジジ…ザザッ!ジジジ…ザザッ!!

我はまだ…!

ジッ…ザァァァァァァァ

俺はまだ…!




死ねない。





ス※ータ○\@新され&△た。



【名前】(再設定して下さい。)

【種族?】邪神

【成長の戒め】破損

【成長の楔】破損


【生命力】$@+&=÷^~

【魔法力】!・:$#*

【攻撃力】○<〒’”_×

【防御力】(#!$%@

【魔法行使力】→△○♪〒^{<

【魔法抵抗力】()\$#+@=

【俊敏力】△}|○_;×>


【魔法】適正(全)固有(神) 固有(邪神) 固有(創造) 特殊固有(零時迄之舞踏会シンデレラ・鮮血ヨリ紅キ乙女(赤ずきん)・永久ニ眠ル真白之姫(白雪姫)) 召喚魔法:嫁

【スキル】神格 邪神格 無限収納 嫁倉庫(ティア・朱里・サーシャ・アイシャ)

神器創造 邪神具創造 全知全能 不老不死 眷属化

嫁通信(ティア・朱里・サーシャ・アイシャ) 隠密

剣術 抜刀術 神脚縮地 索敵 気配察知 危機感知

並列思考 影分身(分身体強化(邪神影))


【称号】黒炎の邪神 終えぬ者





HS~ヒロインサイド〈サーシャ・リンドル・ヘンズール〉~



旦那様が死んでから一ヵ月が経ちました。

あの日、大通りでは大罪人としての「黒炎」が晒し首になっていたそうです。

あの後、母が確認に行った後の報告では間違いなく旦那様の首だったそうです。

この一ヵ月の間で、私達はそれぞれで立ち直りという割り切りをしました。

その間にあった事は、そうですね。

私は、当面の間は政務に集中をして、またいつか誰かを愛せるようになるまで仕事一筋でやっていく事に。朱里さんに母の容態を診て貰いましたが、やはり呪いの類の為に実力が足りずに治療が出来なかった。

ティアさんは、どうやら地上に居られるのが旦那様の魔法力が無いと二ヵ月程度しかないらしく、その魔法力が無くなったら、帰ってしまうそうです。

朱里さんは、表向きは「この国にはまだ助けを求める方が大勢います。ですので、私は聖女としてこの国での治療を続けたいと思います!」と言った理由を設けて、限界までこの国にいるようです。

アイシャちゃんは、あの後すぐにコロルギ伯爵が引き取りたい等とふざけた事を言っていましたが、それは父が押し退けて私の従者という形で終わらせました。私は妹のように可愛がっていますから、従者らしくはないですが。それに、彼女は唯一と言って良い彼の〈神器〉を持っている人ですから。


それからも、私達は事あるごとに集まっていました。少しでも旦那様の事を忘れない為に。でも、記憶というのは何と酷いものか。少しずつ薄れていってしまう。

そんなある日の事でした。今となっては半月程前の事ですね。

私達は父に呼び出されたのです。


「ごめんなさいね?でもちょっとお願いがあってねぇ?半月後に武闘会があるのは分かってるわよね?」

もう、そんな時期でしたか。朱里さん達は不思議そうな顔をしています。

「そうでしたね。お父様、朱里さん達は分からないと思いますから説明をしても良いですか?」

「あら。そうなの?それなら、あたしが説明するわよ?えっとね~?武闘会っていうのは、年に一度このヘンズールで行われる闘技大会なのよ。それでいつもは何か優勝者には何か報酬を渡していたのよ。でもね?今回はすこーしだけ問題があってねぇ。実は今回は勇者ちゃんが出場するらしいのよ。それで今までのように金銭だけで優勝者を祝うという訳にはいかなくてねぇ。サーシャちゃんには悪いんだけど、勇者ちゃんと一曲踊って貰えないかしら?あら、少し違うわね。正確に言うと、踊りの誘いを出来る権利を優勝者に副賞として付けようと思ってねぇ?で、一番年齢が近いのがサーシャちゃんなのよ。」

父が説明を交えて今回の呼び出しの理由を言いました。

しかし、なぜ勇者様はわざわざこの国の武闘会に参加するのでしょうか?

「お父様、なぜ勇者様はこちらに来られるのですか?魔王の討伐任務の為に力を蓄えているとお聞きしていますが?」

「というか、貴裕くんがその類の物に参加するならお客で参加したいって言いそう…。」

朱里さんは同じ世界から来たのですものね。勇者様の事も詳しいのでしょう。

「それはねぇ。ここだけの話なんだけど、実はこの国に魔王が復活する兆候があると、勇者ちゃんが信託を受けたらしくてね。それで今回はどんな魔王か分からないから、飛び入り参加もオーケーな武闘会にして欲しいって言われちゃったのよ!だから調整が面倒でね?」

父が軽く言うので聞き逃しかけましたが、魔王が復活する!?

しかも、我がヘンズールで!?

一体何が起こっているのですか!?

「お、お父様!?それは真ですか!?」

私は思わず大きな声が出ました。ですが、こればかりは仕方がないと思います。

ですが、父はとても普通の態度でした。

「ええ。魔王が復活するそうよ。でも、ここで復活したってティアちゃんがいるじゃない。この前聞いたけど、彼女は女神さまなんでしょ?それにまだサーシャちゃんを守ってくれている以上は、魔王が復活したとしても守ってくれるんでしょう?なら怖いものなんてないじゃない!」

そこまで言われて思い出しました。そうです。ティアさんは女神ティアリア様なのです。魔王程度、障害にすらならないのではないでしょうか。

私はティアさんを見ました。

「ええ。魔王程度でしたら私が単騎で討伐可能です。それに〈神器〉で完全武装できるアイシャちゃんでも恐らく勝てます。無傷で。」

そこで更なる情報が増えました!

アイシャちゃんの〈神器〉ってそんなに凄かったのですか!?

「ティアお姉ちゃん!?これってそんなに凄いの!?」

あまりの情報にアイシャちゃんが驚きます。

「そうですよ?そのアイシャちゃんの装備はいわば全てが聖剣や神剣といった世界有数の武器ですら切断困難な武装です。それにその…苦無でしたっけ?その飛び道具にはまだ気が付いていない力もあるようですから。」

何と言う事でしょう。旦那様の残した装備にはそんな力まであったのですね。

それにしても、気が付いていない力とは何の事なのでしょうか?

「その気が付いていない力ってなんなの?」

朱里さんも気になったのかティアさんに聞きます。

「すみません。私の力で閲覧出来ない程に強力なプロテクトがかかってまして。これ以上は分からないのです…。」

どうやら、分からないようですがこれで大丈夫な事は分かりました。

それで、勇者様とのダンスですね。それでしたら、政務ですからお受けしましょう。

「お父様、勇者様とのダンスはお受けいたします。政務ですから。」

すると、父はやっと落ち着いたと見たのか

「それでねぇ?一応、なんだけど。もし勇者ちゃんが告白してきたら受けてねぇ?その場合は政略結婚になるけど、勇者ちゃんを無下にはできないのよ~。」

それも仕方がありません。本来ならば、思い人が亡くなった時点で切り替えなくてはいけなかったのです。それに私はもう年齢的には嫁いでいてもおかしくないのですから、それが勇者様なら文句なしでしょう。

しかし、それに待ったをいう人がいました。

「待って!サーシャちゃんはそれでいいの!?もうケーくんを忘れられるの!?」

「ですが、朱里さん。貴女も本来ならば勇者様に嫁ぐのが習わしです。それは分かっていますよね?」

言い方は悪いですが、この場合、私は、いえ私達は逆らえないのです。

一国の姫と聖女という宿命なのだから、それを覆せそうな戦力だった旦那様が亡くなった時点で私達は、もう決められた道を進むしかないのですから。

「うっ…。そ、そうなんだけど…。でも、でも!私はまだ割り切れないよ…。」

朱里さんはそれだけ言うと、執務室から出て行ってしまいました。

私は小さく周りには聞こえないように「私だって…。割り切ってなんて…。いないですよ…。」と言うのが精一杯だった。

でも、そんな私の手をアイシャちゃんは握ってくれていた。


あれから半月が経った今日が武闘会の当日だった。

今回の武闘会はいつもとは毛色が違う形になったのだ。

いつもであれば、参加者は偶数になるように調整されたブロックに分かれてのバトルロワイヤルを行い、上位の4名が本戦へと出場。その後、バトルロワイヤルを勝ち抜いた人達と他のブロックでも勝ち抜いた人達がそれぞれトーナメント形式で戦い、優勝を決めるのだ。だからブロック数を偶数にしているのだ。

だが、今回は乱入可能なので形式を大きく変えて予選のバトルロワイヤルを1日用意したのだ。しかもブロック分けなどは一切しないで本戦は最後まで勝ち残っていた方でのトーナメントになります。そのバトルロワイヤルも1日で4回に分けて行う事によって、選手への負担を軽減する事ができるのだ。


とうとうバトルロワイヤルが始まった。

私は今、この闘技場の貴賓席の一番上にいる。先ほど朱里さんがこの闘技場を見て「まるでホールみたーい!」と言っていたが、どういう意味だろうか?

勇者様はどうやら既に出場しているようで、見た覚えのある黒髪の少年が戦っていた。

そういえば、私は勇者様に挨拶をしていない。どうやら父が気を配って挨拶しなくて良いようにしてくれていたのだろう。

後でお礼を言っておこう。

勇者様は未だに戦っている。遠目に見ても余裕がありそうで、この一ヵ月と少しで相当修練を積んできたのだろう。このバトルロワイヤルの勝ち抜けはどう見ても勇者様だろう。


私は、だいぶ呆けてしまっていたようだ。

気が付けば、既に今日の分のバトルロワイヤルは終わっていた。

アイシャちゃんが迎えに来てくれた。

「サーシャ姉さま、終わったよ。帰ろう?」

アイシャちゃんが私の手を握ってきてくれる。それだけで心が温かくなる。

「ええ、帰りましょう。明日もありますからね。」

アイシャちゃんの手を握り返して王城の部屋に戻る為に、馬車に乗り込む。

明日は本戦で、その後は優勝者の方からダンスに誘われれば武闘会の最後に行られるパーティーで踊る事になる。もしその時勇者様から求愛されたら、私は断れない。

「まだ、割り切れてなんていませんけどね…。」

「サーシャ姉さま、大丈夫?顔が白いよ?」

アイシャちゃんはこちらを覗き込んできている。私の小声での呟きは聞こえてはいないようで安心した。

「大丈夫ですよ。私はもう。大丈夫ですよ。」


私達は、あれから口数が減ったように感じる。

いつもなら皆で一緒に部屋で話をしていたので、今の部屋は物悲しく感じる。

もう部屋に戻って来ているが、この暗いイメージがなぜか拭えない。


気が付けば、寝てしまっていたようだ。

今日も、武闘会に行かなくては。今日は本戦だ。優勝者が決まる。

「旦那様、逢いたいです…。」

心の声が漏れてしまいます。でも今だけは、どうか許して下さい。


闘技場に着きました。これから父が挨拶をした後、本戦が始まります。

…私の命運が決まるのも今日です。

できれば、もう少しだけ旦那様との思い出に浸っていたいです。

だから、私は今だけは思い出の中に逃げ込みます。


気が付けば、本戦も終わっていた。

やはり、優勝は勇者様でした。

どうやら、これから優勝者への表彰が始まるところのようです。

「サーシャ姉さま!入るよ!」

アイシャちゃんが迎えにきたようだ。

これからの表彰式には私も参加します。


表彰式に参加する為に降りてきました。

私はここで勇者様にダンスに誘われるのですね。

私達は、闘技場の中心に立っている。

「まずは、ここまで頑張ってきた歴戦の戦士たちよ!また未だに闘志を燃やす戦士たちよ!貴殿らの戦いは我等の魂を揺すぶる、とても良い戦いだった!もはや再三となるが改めて礼を言おう!」

父が挨拶をしている。どうやらまだ勇者様への表彰は始まってはないようだ。

「そして!此度の武闘会でいくつもの戦いを魅せてくれた勇者殿!彼の戦いは素晴らしいの一言に尽きるものだ!必ず相手と正面から戦う姿勢には、まさに勇者なのだと思わせるものだった!その上、この表彰の場に上り詰めてくる実力!まさに魔王を倒すと言われている勇者の名に恥じない実力を示してくれた!それでは勇者殿に報酬金を!更に、今回は我が娘であるサーシャにこの後のパーティーでのダンスへ誘う権利が渡される!勇者殿に誘われるのであれば、断る事もあるまい!」

そう、これで私はどちらにしても勇者様のものになる。

「それでしたら、私はこの場で誘わせて頂きましょう。」

勇者様が私をこの場で誘うと宣言しました。

しかし、その言葉は最後まで紡がれる事はなかった。

「それでは、サーシャ様。是非この後のパーティーで私と…」

次の瞬間、轟く雷鳴。

遠くに光が落ちてくる。


遠くで雷が鳴り響く。いつの間にか暗雲が空を覆っていた。

勇者様が「やはり来るのか!」と言っている。

空を渡る光は、深淵と言える程に暗かった。

光が迫ってくるように感じる。少しずつ近づいてきているように感じるのだ。

勇者様は私を守るかのように、私を背中に隠して剣を構えました。


そして、とうとう雷は真上で鳴り響くようになった。

黒い雷だ。自然では決してあり得ない輝き。


一際大きな輝きが落ちてきた。その位置は私の真後ろ。

そこに誰かの気配がする。いつかの様に、後ろに立っている。




HS~ヒロインサイド〈女神ティアリア〉~



この武闘会が終われば、私は彼との思い出を持って、神域に帰ろう。

きっとそれだけでも、幸せでいられると思うから。

そして、その武闘会も無事に終わりかと思った矢先のことでした。

遠くから凄まじい程の禍々しい気配と共に、空を覆い隠す暗雲が黒い雷を轟かせながら、迫ってきます。

その感じる禍々しさには、私ですら勝てないのではないだろうかと思ってしまう程の気配。もはや、その気配は神と言われても遜色のないものだった。


「(このままだと、サーシャさんが危ないです!)」

そう、きっとあの気配は勇者である貴裕さんの討伐に来たのでしょう。

であれば、関係のないサーシャさんが危ない。

私は、今の身体に残っている魔法力の全てを注ぎ込んでサーシャさんを守れるようにする。私を構成していた、ケーシさんの魔法力が消えていく。恐らく、今日一日の維持が限界だろうと思われる程まで削った。

その時、サーシャさんの真後ろに一際大きな黒い雷が落ちた。

何者かの、とても禍々しい気配が現れる。


しかし、その人の後ろ姿を見て、私はそこまでして練っていた魔法力を霧散させてしまった。その人から漏れてくる魔法力が…。

もう、先ほどまでは空になりかけていた力が…。

尽きかけていた魔法力が唐突に溜まったから…。

だって、その力は…。私の存在を維持していた、その力は…。

見た目は、もう人族ですらないです。全体的に筋肉質で200cmは超えているであろう大きな身体。もはや、鮮血ではないだろうかと思わせる瞳が周りをぐるりと見渡す。今までよりも更に鋭く、人が殺せてしまいそうな視線。肩まで伸びた黒髪。

それまでなら、まだ人族ですが。その人の頭の両側から生えている髪と同じ色の角。あれは羊の角のような印象を受けます。更に背中には大きな蝙蝠のような翼が二対。まるであの姿は…。まるで、物語に出てくる…魔王のような…。

でも、その人から流れてくる魔法力は私を維持するのに当てられていく。

そして、この魔法力はどうみても、あの人の…。


「あ、な…た?ケー…シ…。さん…なのですか…?」





HS~ヒロインサイド〈サーシャ・リンドル・ヘンズール〉~



黒い雷の中から禍々しい程の威圧と気配を感じます。

父が大慌てで駆け寄ろうとしますが、荒れ狂う魔力の波で近寄れません。

勇者様は私に手を伸ばしますが、その手が私に届く事はありません。

私もきっと、その真後ろの見えない化け物にとても恐怖しているはずです。

ですが、なぜでしょうか?今、後ろを振り向いてはいけないと。

そう言ってくる自分がいるのです。

きっと泣いてしまうから。泣く事なんてない筈なのに。



「貴様が勇者か?我は…。我が名はホウゼン。」

その名前に、心が揺さぶられる。その声に、心が打ち震える。

もう、そんな事はない筈なのに。

そんな奇跡は起きる筈がない…。


「貴様が魔王か!サーシャ様を離せ!」

勇者様が私の心配をして、私に手を伸ばしてきます。

後ろに立つ魔王は私の一歩後ろくらいまで近づいてきました。

その光景は、きっと魔王の手に落ちそうな姫を助けようとする勇者のように見えるのでしょう。


「我が魔王…?否!断じて否!我が名はホウゼン!邪神ホウゼンなり!」

「邪神だと…?貴様は魔王ではないのか!?」

「そのように矮小な存在ではない!」

その声はどこまでも不遜な感情を抱かせるものだった。

それと同時に今まで感じることが出来なかった感覚が頭の中に接続されるような感覚に襲われた。この感覚は懐かしいあのスキル…。

そして、その声は私達が心から待ち望んでいた…。

ああ。貴方はいつも私の後ろに立つのですね。早く、貴方を見つめたいのに…。


『ただいま、ティア、朱里、サーシャ、アイシャ。待っていてくれてありがとう。』


彼は私の肩を抱き寄せて、腰に腕を回して抱き締めてくれる。





メインストーリー〈北條京嗣〉



あの、俺の死んだ日から既に一ヵ月が経過しているのは知っている。

この世界の情報であれば、欲しいものは全て俺の下に集まるようになったからだ。

それが、俺が新しく獲得したスキル〈全知全能〉。このスキルは、この世界のありとあらゆる情報を引き出す事が出来るのだ。また、地球という星での情報も引き出せるようになっていたのだが、一体どこの星だろうか。俺の知っている星ではない筈なのだが。

この一ヵ月、一体俺がどこで何をしていたから、また奥さん達に会えたのかは全く詳細が思い出せない。

というより、俺がどうやって生きてきていたのかの記憶がないのだ。

恐らく、俺がこの世界での輪廻という命のシステムを無視して、もう一度この世界に降り立ったからだろうと推測ができる。それも〈全知全能〉による情報だ。

この世界で失われた命は、魂を綺麗にリセットして零になった魂を新たな命として産み落とす。だが、俺はそのシステムを無視して「死ねない」という思いだけで蘇生してしまったようだ。正直にいえば、何があったからこの世界に戻ってこられたのかは分からないままだ。

だが、少し前の一ヵ月程度の記憶、つまり奥さん達との記憶はしっかりある。

しかし、異世界の聖女のはずの朱里とはどこで知り合ったのかが分からない。

女神ティアリアとはどんな理由で出会ったのだろうか?

全く思い出せない。だが、俺の名前が「北條京嗣」と書くので出身地は朱里と同じ地球という事になるのだろう。必要なものが欠けている。そんな不安にかられるが、奥さん達の事を考えると落ち着く。いつかは、思い出したいものだ。このままでは、奥さんと昔の思い出に花が咲かせられないからな。


記憶の大半を失ったままだ。

でも、この心に湧き出る「愛している」という感情は間違いなく俺のモノだ。

絶対に間違いない。だから、そんな細かい事は気にせずに今は彼女達に声を掛けよう。


『ただいま、ティア、朱里、サーシャ、アイシャ。待っていてくれてありがとう。』


俺はサーシャの肩を抱き寄せる。肩に回さずに、腰を引き寄せるように腕を回した。

さて、勇者には悪いがサーシャは俺のモノだ。

サーシャの全ては俺が貰うと決めているからな。覚悟しろよ?俺の女に手を出そうとしたんだ。死なない程度に遊んでやろう!





HS~ヒロインサイド〈嵩坂朱里〉~



闘技場で貴裕くんが優勝者として表彰をされていた。

これから、サーシャちゃんをダンスに誘うのだろうか?

そんな光景を私は貴賓席から眺めていた。

これで、サーシャちゃんは貴裕くんの所に嫁ぐのが、ほぼ確定してしまう。

それにしても、どことなく今までの貴裕くんから見ると違和感を感じるけど気のせいかな?


でも、そんなまるで物語のワンシーンのような光景は長くは続かなかった。

突如として空を覆い隠した暗雲と、自然では起きないはずの暗い色をしたどこまでも黒い雷が鳴り響く。

まるでそう、物語で魔王が復活するかのように響いて近づいてくる。

とうとう真上まで来てしまった暗雲。何度か空で雷が轟いたかと思った時、遂に一際大きな黒い雷が落ちてきた。

私は急いでサーシャちゃんの下に向かう為に席を立った。

光が引いたそこには一人の化け物が立っていた。あの溢れ出る禍々しい魔力の奔流は、本当にティアさんで勝てるだろうか?そう思わせる強さがあった。

思わず、動き出そうとした足がすくむ。

私から見ると、後ろ姿しか見えない。でも、それは紛れもなく魔王なのだろう。

大きな角と翼を持つ、人型をした化け物。


でも、でも。


その後ろ姿を見て。

懐かしいと、思った。ふと、「ケーくんが帰ってきた。」と、思った。


私はそんなはずは無い。あれは魔王で世界を混沌に導く世界の敵だと。

私の中の「聖女」があれを滅ぼせと言ってくる。

でも、私の中の「朱里」としての部分が。「ケーくんだ!」と煩い。

彼はもう居ないのに。


でも、そんな考えも次の瞬間に吹き飛んで、溢れ出した涙を拭うことも忘れてその場に泣き崩れた。

『ただいま、ティア、朱里、サーシャ、アイシャ。待っていてくれてありがとう。』





HS~ヒロインサイド〈アイシャ〉~



わたしは、この一ヵ月で気持ちに整理を付けようと努力した。

わたしを助けてくれた、わたしの王子様はもう、居ないのだと。

悲しかったけど、でもわたしにはまだ「お姉ちゃん」達がいる。だから、元気にやっていけます。嬉しかった思い出を心に仕舞い込んで。楽しかった思い出にカギをして。

微塵も表面に出さないように、心に蓋をして。

それは、もう慣れて得意な事なのに、でも苦しくて。

こんなに弱い妹でごめんね、お兄ちゃん。

いつも、起きると枕が涙で濡れているけど。ひたすらに隠して。

いつものように明るく振る舞う。そうすれば、きっとお姉ちゃん達も少しは元気になれるから。

耳に付けたイヤリングが揺れる。

「うん、大丈夫だよ。お兄ちゃん。頑張るから。」

いつかまたあの楽しかった日々に戻りたいと思いながら、頑張ります。

だって今日は、武闘会の本戦と優勝者決定の日。

「お兄ちゃん?急がないと、サーシャ姉さまが奪われちゃうよ?」

皆がばらばらになってしまう気がして、思わずそんな事を言ってしまう。

イヤリングが揺れる。このイヤリングだけは絶対に失わない。


本戦が始まりました。わたしはサーシャ姉さまの従者ですが、どういう訳かいつも別の貴賓席に居ます。ここではいつも一緒にいるメイドさんが「キャー!アイシャちゃん!」なんて叫びながら、わたしの身の回りのお世話を全部してくれます。とても嬉しいのですが、良いのだろうかと思ってしまいます。でも、サーシャ姉さまも朱里お姉ちゃんも「一向に構わない!」の一点張りで、わたしはいつも「ありがとう。」と伝えるだけです。

こういう時の連帯感は、あの頃を思い出します。


そんな事をされているうちに、勇者様の優勝で武闘会が終わったようです。

どうやら、これからサーシャ姉さまをダンスに誘うようですね。

断れないので、絶対にお受けすることでしょう。

ですが、それも途中で止めてしまいます。

遠くから雷が鳴り響いて来たからです。


その雷は空を暗雲で覆い隠して、黒い色で空を染めながら近づいて来ます。

勇者様は、サーシャ姉さまを後ろに庇うような体制で剣を構えました。

遠くから見ているわたしは、その光景をまるで「物語のワンシーンみたい」と思っていました。

しかし、そんな考えも長くは続きませんでした。

頭上まで来た暗雲から漂う禍々しい力は、まるで世界を滅ぼす力だと思ってしまう程の物で、私では敵わない。と実感させられた。ティアお姉ちゃんはこれ程の者にも勝てるというのだろうか?


遂に、一際大きな雷がサーシャ姉さまの後ろに落ちました!

「ドレスオン!」

これはさすがにまずいと思い、戦闘用の服に着替えます。


そして、そこに立つ人を見て、思考が止まりました。

「あれには勝てない。無理だ。」と心が悲鳴をあげます。

装備をした〈神器〉達が、打ち合うのを避けようとしているのを感じます。

まるで一合でも打ち合ったら壊れてしまうと言いたげに。


わたしも、あれほどの化け物に勝てる見込みが消えました。

この装備になってみると分かるようになる、相手との実力差というのが測れなかったのです。相手があまりにも高過ぎて。

どうやって移動して攻撃しても、次の瞬間にはそこで死体を晒してしまう。

そうとしか思えないのです。


魔王がこちらを見たような気がします。

ですが、視線に晒されて「怖い。」という感情は不思議ながらも沸きませんでした。

どちらかというと、あれは「懐かしい。」と。

そんな思いに耽っていると、〈神器〉達が騒がしくなってきました。

そう、〈神器〉達には僅かに感情という物があるようで、わたしはその感情を少しだけ読み取れるようになっていたのです。

まるで、その感情は自分の親にでも会ったかのように。

今までよりも力を出してくれます。


そこまで考えて、そんなはずは無い。

絶対にあり得ない。だって、彼はもう。お兄ちゃんはもう居ない。

でも、〈神器〉の嬉しそうな変化は。

あの懐かしさを僅かに感じた視線は。

あれから、わたしはまだご主人様をお兄ちゃんから変えていませんでした。

だから、急いでステータスを確認します。


そこには、そのステータスには。


奴隷所有者「北條京嗣」という文字が。


その名前は、お兄ちゃんの本当の名前。

どうやって帰ってきたのかは分からない。

今、目の前にいる魔王がお兄ちゃんなのだろう。

その事が嬉しくなって、貴賓席から立ち上がっていた身体は、そのまま席に投げ出して両目から大量の涙を流しながら、大きな声で笑います。


『ただいま、ティア、朱里、サーシャ、アイシャ。待っていてくれてありがとう。』


だって、わたし達の大好きなお兄ちゃんが帰ってきたのだから。





メインストーリー〈「邪神」北條京嗣〉



俺は勇者が向けてくる剣に対して、こちらも武器を用意する。

「〈黒炎剣〉…。」

新しく得た、固有魔法(邪神・創造)の二つの魔法は実に優秀な魔法だ。

今までは、固有魔法(神)で行っていた魔法の改造を固有魔法(創造)は思い浮かべるだけで完成させられるのだ。今までは存在していなかった魔法も作れる。さらに今となってはお馴染みのオリジナル魔法の〈生活魔法〉を魔法として世界に認識させる事もできるのだ。さらに、固有魔法(邪神)は自分で用意した魔法の火力を引き上げるもので、〈初級魔法〉を〈超級〉くらいまで引き上げてくれる。更に威力の調整や効果時間の調整など色々と好きに変更できるようになっているのだ。

これで用意した〈黒炎剣〉は〈超級〉の破壊力を誇る炎の剣だ。しかも、形成するのもとても簡単にできるようになった。

ただ、これだと無闇に〈天災級〉を使ったら世界に大きな傷を残しそうである。

〈天災級〉を使う時はしっかり威力を下げないといけないな。


「サーシャ様を離せ!邪神!」

勇者が剣を構えて突っ込んでくる。

サーシャは俺の女だ。誰が離すものか。

「この女は我が貰い受けよう。」

そういえば、さっきから発言が色々とこう、「ラスボスチック」になってない?

「それはさせんぞ!アリスッ!」

「ああ!くらえ!」

すると、どこから近づいて来ていたのか真後ろに気配がする。

短剣を振り抜いてきたようだ。なので、魔法力を直接ぶつけて闘技場の端まで吹き飛ばす。さらに追撃として固有魔法(邪神)で強化された〈ファイアボール〉を放つ。

「なっ!?ぐぁ!?」

アリスさんは吹き飛んで動かなくなった。どうやら、気絶させる事ができたようだ。

「余所見はいけないぞ!」

今度は、陛下が両刃の片手剣を持ちながら、突っ込んでくる。サーシャを取り返すつもりなのか、視線がサーシャに行きがちだった。

俺は一切構えずに、その攻撃範囲に入るのを待つ。

陛下は突きを放ってきたが、俺はそれを〈黒炎剣〉を割り込ませて陛下の剣を溶かしてしまう事で対応する。

「なっ!?剣が!?」

「実力差程度も見向けぬのか?」

陛下は急いで飛びのくが、俺はその体勢のまま〈黒炎剣〉から黒い炎の斬撃を飛ばす。

「っ!?がぁ!!」

そのまま斬撃を食らった陛下は吹き飛んで、闘技場の壁に打ち付けられた。

意識を失ってはいるものの、命に別状はないようだ。

「き、貴様ぁあ!はああ!!」

勇者は剣を構えて〈縮地〉であろうか、加速して突っ込んでくる。

陛下やアリスさんとの攻防のタイミングで立ち止まったにも関わらず、馬鹿の一つ覚えのように突っ込んでくるのだな。

「つまらん。その程度か。…〈神脚縮地〉。」

サーシャには被害が出ないように〈エリアルフィールド〉を使って移動の風圧から守る。今度は、サーシャがまだ地面に立っていたのを思い出して、〈神脚縮地〉を使用した瞬間にサーシャの腰から抱き上げなおして、サーシャがこちらに向くように調整する。

「なに!?どこに!?」

勇者の真後ろに立つ。

「ここだ。」そのまま大上段に〈黒炎剣〉を構えた。

「くっ!?しょうがない!〈ライトニング〉!」

勇者はこちらにサーシャがいるにも関わらず魔法を使ってきた。

俺のサーシャの柔らかいぷにっと肌に傷が付くかもしれないと思うと、思わず魔法をこちらも行使してしまう。が、すぐに勢いを削る。このまま撃ったらこの国がなくなってしまうからな。

「〈混合魔法:ヘィルアポカリプス・テンペスト〉」

使ったのは、〈天災級闇属性魔法〉と〈天災級氷属性魔法〉の〈混合魔法〉。

勇者の放った〈ライトニング〉は一瞬で消し飛んで、破滅を知らせる氷の竜巻が闘技場を覆う。

「うわぁぁぁぁぁぁああ!!?」

勇者はそのまま巻き上げられて、地面に叩きつけられた。どうやらまだ意識もあるようで立ち上がろうとしている。

「ぐっ!?があ!?」

「おそらく、骨の数本は逝っているぞ?まだやるのか?」

立ち上がろうとする勇者に声をかける。

「サーシャ様を…。はな…せ。」

そのまま、剣をこちらに向けて立つ勇者。さすがに勇者は伊達じゃないのだろう。

既に傷が回復を始めている。このままでは殺さざるを得ない状況にされてしまう。

それは勘弁なので、更に魔法を行使する。

「寝ていろ。〈ウラーガン・リーヴェニ〉。」

魔法が発動したのと同時に、辺り一面に雨が降り出した。

そして、それは勇者の周辺も変わらずに振っている。だが、次の瞬間に勇者の周りの雨足が強くなる。気が付けば、その強さはまさに水の塊を叩き付けている状態になっている。

勇者はその勢いに晒されて立てなくなってようで、地面にへばりついている。

「サーシャ様を…!は…なせ!」

それでもまだ意識を失わない辺り、まさしく勇者なのだろう。


ちらりと、こちらに身体を向けたサーシャを見る。

あの、その完全にお姫様モードじゃない表情はなんですか?

なんで俺の顔見てから、無駄にクネクネしてるんですか?

またいつぞやの様に俺の見た目で色んな事考えてしまったんですか?確かに俺の身体に隠れて表情は周りからは見えませんよ?

ええ。見えませんよ。でも俺には見えるんですよ?


改めて〈嫁通信〉をサーシャ相手に起動する。

『サーシャ、愉しそうな所で本当に申し訳ないんだけどいい?』

『ええ!なんでしょうか旦那様!このサーシャ!旦那様分が充電できて大満足ですよ!』

もう、熱暴走してそうなサーシャのテンションの高い声を聞いて、げんなりした。

が、それはいいから何とかスイッチ切り替えてサーシャに提案をする。

『サーシャ、まだ勇者の心が折れてない。俺は叩き折ってしまいたいのでな?姫様しててくれ。それでサーシャを魔法で拘束するけど、できる限り抵抗してくれ。それで俺が』

しかし、その提案は最後まで出ることは無く

『まさか、この中で勇者に見せびらかす様に私と濃厚にキスをする気ですね!?最高の展開じゃないですか!私の姫という立場がこれほどに盛り上がる要因になるとは!!』

『あ、はい。』

サーシャはなにかおかしな物でも食べたのだろうか?

まあ、了承したと見ていいか。

どうせ、俺の奥さんだから今さら何か言われる心配もないし。


「降り止め。」そう一言いって〈ウラーガン・リーヴェニ〉を止める。

「ぐっ!立て!俺の身体ぁ!」

そう言いながらも身体はもう動かないのか、ピクリともしていない。

「そうだな…。貴様には更に絶望をくれてやろう…。」

「な、なんだと…?」首だけをこちらに向けている勇者はこれから何が起こるのか分からずに動揺している。

「たしか…。サーシャと言ったか?〈捕えよ〉。」

〈固有魔法:創造〉が優秀過ぎて、言葉で指定するだけで望んだ状況を作り出す。

サーシャの両手を頭の上で吊るす様にして、俺の頭の高さにサーシャの頭が来るように拘束する。そう、拷問とかで見る、両手の手首だけで身体を支えるようにして持ち上げたのだ。

「な!?何をするのです!離して下さい!」

もうすっかり役になりきっているサーシャは、しっかりと囚われのお姫様を演じてくれる。

「貴様!何をする気だ!?」

勇者も未だにどうしたいのか分からないようで、こちらを怒鳴り散らしてくる。

そのままサーシャの身体の正面が勇者に向き直るようにして、その後ろから抱き上げるように腰に手を回して抱き締める。

「な!?その手を離して下さい!?いやぁ!?助けて!勇者さまぁ!?」

〈嫁通信〉を切っている筈なのに、他の奥さんから伝わってくる感情は全部呆れな気がしてきた。

「ま、まさか!邪神!きさま!?」

勇者もやっと理解できたようだ。

「ふん。このままこの女を堕ちさせてみるのも一興であろう?」

そう言いながら、サーシャの顔を横に向けさせてゆっくりと唇に顔を寄せる。

もう片手も、そのまま身体中を撫でまわすように這わせる。

「いっ!?いや!?助けて!?いやぁぁぁあ!?」

「よく見ていろ?これが、貴様が力不足で救えなかったものだ。」

「い、むぐぅ!?」

そして、ゆっくりと近づいていた唇はサーシャの口を塞いだ。

そこからは見せつけるように、長い時間をかけてキスを続けた。


じっくりと時間をかけていたが、さすがにもう良いだろうと判断して唇を離す。

サーシャが、そのまま役になりきって「あぁぁぁあぁああ…!」と泣き出す。

「中々に良いものだったぞ?サーシャとやら。」

そういって、勇者に向き直る。

「…。」

勇者は最初のうちは騒いでいたが、身体がいう事をきかないと分かってからは、その目から絶望以外を感じなくなっていた。


これを起動させたくはないのだが、そうも言っていられないので〈嫁通信〉を起動する。もう一度、皆に声を掛けよう。

『改めて、ただいま。』

『おかえりなさい。あなた!それと、私にも濃厚なのをお願いします。』

『おかえり!ケーくん!!色々聞きたい事があるけど、とりあえずね?私は軽いのを長い時間ね?』

『お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!!おかえり!!わたしは一日撫でてくれればいいよ!』

最初からティア、朱里、アイシャだ。

『努力します…。』

それしか言えなかった。

話を変える意味もあるが、俺がここから去る方法として相談する。

『それで、俺はこのまま何処かに行くと見せかけて、王城に戻ろうと思うんだが大丈夫か?後、ここにサーシャを放置したくないから誰か迎えに来てくれ。』

『それなら、私達が全員で攻撃しますから、それでサーシャさんと距離を開けてはどうですか?その隙をみて、こちらでサーシャさんを回収します。』

ティアが提案してくれる。しかし、俺は王城に行っても大丈夫なのだろうか?

『サーシャ、泣きながらだと難しいかもしれんが、答えてくれ。俺は王城に行っても大丈夫なのか?』

すると、サーシャは泣き真似をしていたから返事が出来なかったのではなくて

『うへへ…。旦那様と衆人環視で囚われの姫様と悪の魔王プレイ…!これは癖になりそうです…!ぐへ…えへへ…。』

ただ、変態に磨きがかかっていただけだった。

遠くの貴賓席で朱里が頭を横に振っている気がする。「こいつはもうダメだ。」と言いたげに。

今回ばかりは時間が少ないので、早目に帰ってきて貰わないといけない。

『サーシャ!戻ってこい!』

すると、サーシャも思い出したのかすぐに戻ってきた。

『はっ!すみません、旦那様。王城に戻ることですね?それ自体は問題にはならないと思いますが…。できれば、どこかに隠れていて下さいね?もう気が付いたらいなくなっているのは嫌ですから。』

そうだったな。俺は一ヵ月もいなかったのだ。

『そうだな。本当にごめんな。』

この一ヵ月、彼女達にはきっと計り知れない程の心労があったのではないだろうか。

今は皆楽しそうに話しているが、サーシャ以外は遠目に見た限りではあるものの少しだけ痩せたように見えた。きっと凄く辛い思いをさせてしまったのだろう。

『いいえ、大丈夫ですよ?もう旦那様が帰ってきてくれましたから。』

『ええ。あなたが帰って来てくれた事がどれだけ…。』

『私は、ケーくんとまた会えただけで嬉しいもん。だから大丈夫!』

『お兄ちゃんはもう、どこにも行かないんだよね?一緒に居てくれるなら、わたしは大丈夫だよ。』

これからは、もうどこにも行かない。ずっと奥さん達と一緒にいよう。

どんな障害でも全て消し飛ばして。

『ありがとう。よし、今度こそまた後で会おうな。』

全員、元気に返事をしてくれる。さあ、この寸劇の終幕だ。


「サーシャ様を離しなさい!」

ティアが完全武装状態で剣を構えて突っ込んでくる。

が、朱里とアイシャがまだ来ていないので〈黒炎剣〉で軽くいなす。

「ふん。その程度か?」

「シッ!」真後ろに突如として気配が出てきた。どうやらアイシャの〈影移動〉のようだ。

この攻撃は受けてしまおう。

「ぐぁ!」背中を斬られるものの、無傷だった。

『ちょっと、あなた。神剣クラスで斬られてなんで無傷なんですか!』

まだ解除していなかった〈嫁通信〉でティアが問い詰めてくる。

俺が聞きたい。一応、切れ味だけなら神すら斬れるのに。

『お、お兄ちゃん!?今思いっきり斬っちゃったよ!?大丈夫なの!?』

アイシャは心配になったのか大声で問い詰めてくる。

『アイシャ、無傷だから安心してくれ。…俺ってどんな武器なら斬れるんだ?』

俺の口から疑問が漏れた。すると、ティアが返事をしてくれた。

『無理なんじゃないですか?一応、アイシャちゃんに装備を用意した時ですら創造神くらいの強さがあったはずですから。その武器ですら無傷だと、どんな武器でも斬れませんよ?』

『相変わらず旦那様は成長速度が自重を忘れていますね!』

ティアのあんまりな発言にサーシャが表面上は泣きながら突っ込んでくる。


「ティ、ティアさまぁ…。」

俺に攻撃を与えたことにより生じた隙で、ティアはサーシャを俺から引き離す。

「もう大丈夫です!なんとしてもお守りします!」

「沈んでしまいなさい!〈タイダルウェーブ〉!!」

視界の隅に朱里が映ったのと同時に、朱里から〈破滅級水属性魔法〉が放たれる。

「なに!?うぎぁあ!は、払えん!?まさか、貴様が聖女かぁぁぁぁああ!!」

何となく、それっぽい事を言いながら魔法を受ける。実際は抵抗に成功していて無傷である。

「サーシャ様!大丈夫ですか!?私達がお守りしますから!」

朱里もサーシャと合流できたようだ。後は今もどこかを〈影移動〉を連続使用しながら移動しているはずだ。

次の瞬間、〈タイムストップ〉が発動したのを感じる。しかし、俺はもう既に〈タイムストップ〉は抵抗してしまって意味がないのだが。

だが、次のアイシャの行動には驚かされた。なんと、時間を連続行使で止めて持っている苦無を投擲してきたのだ!

確かにこの攻撃なら、20本の苦無でも全面からの投擲になって威圧感があるだろう。

「なんだと!?まさか、〈タイムストップ〉を行使できる程の使い手すらいるのか!?」

俺はあえて驚いたふりをして、少しずつ追い込まれているように振る舞う。

「まだ!苦無さん、お願い!」

アイシャの成長は止まることは無かったのだろうか。苦無に隠して付けてあったスキルもしっかり発動している。

そのスキルというのは〈疑似発動体〉というスキルだ。

これは、自分が使える魔法やスキルを〈疑似発動体〉を持つ者も使えるといったものだ。ただし、このスキルにはデメリットがあり、それは〈疑似発動体〉は〈神器〉以上の武器でなかったら発動しないというものだ。だから、この世界で〈疑似発動体〉を発動できる程の武器は存在しない。ここでアイシャが選択するのは、一体どの魔法だろうか?

「〈影分身〉!」

苦無が一瞬でアイシャの姿に変わった上にそのアイシャ達が…。苦無が変わったアイシャは、苦無アイシャと呼ぼう。その苦無アイシャが更に15体の〈影分身〉を作ってきた。

さすがにこれは予想外の展開だった。

「な、なんだとぉ!?」

目を白黒させているうちに全力で近づいて来ていたアイシャと苦無アイシャが一斉に魔法を使った。「「「「「〈ヘィルコフィン・テンペスト〉!」」」」」

何重にも重なった氷の棺のように轟く幾重にも重なった竜巻は俺をいとも簡単に吹き飛ばそうとしてくる。

「この程度で…!我が負けると思うたか!!」

俺は、すんでの所で〈混合魔法〉の〈ヘィルアポカリプス・テンペスト〉をアイシャの魔法を吹き飛ばすくらいの火力で行使する。

「いまっ!」

しかし、アイシャはそれに怯む事もなく更に俺に突っ込んできた。幾重にも増えたアイシャが一撃を俺にいれる為に各々の体勢で全力攻撃をしてきた。

「矮小な存在の分際でぇ…!」

苦無アイシャと本物のアイシャからは攻撃を受けて、それ以外の〈影分身〉は上手い具合に吹き飛ばしていく。ついでとばかりに、本物のアイシャを目にも止まらぬ早業で一撫で。可愛い。

すると、唐突にアイシャから〈嫁通信〉がきた。

『ねえ。お兄ちゃん。理不尽って言葉、知ってる?』

『ん?それくらいは知ってるぞ?それがどうしたんだ?』

本体のアイシャがジト目で俺を見てくる。

『この状態で、どれが本物のわたしかも見抜いてるし。あの状況でわたしを撫でてくるし。お兄ちゃんが強くなり過ぎてて、理不尽かなって。』

しかし、そこで既にウソ泣きも終わった、お祈りっぽい体勢のサーシャから

『あの、アイシャちゃん。ほとんど戦闘をした事がない人が旦那様相手にそこまで立ち回れている事の方が理不尽ではないですか?』

それに同調するのは朱里だった。

『そうだね!今の私はその攻撃は全く見えてないもん!確かにあれから強くなったけど、さすがに実戦を積んでないからこの中だとダントツの弱さだしね!』

どこか、やけっぱちの雰囲気だった。

『それなら、俺の奥さんなんだから全員分作るに決まってるだろ?』

ただし、趣味全開で!

『え!本当!?やった!』

朱里は単純に嬉しそうに。

『もしかして、私も良いのですか!?あなた愛してます!』

ティアは自分まで含まれているとは思わずに。

『それを着ると、その。馬鹿みたいに強くなるのですよね?』

サーシャはどことなく不安そうに。

『どうした?サーシャは何か不安があるのか?』

正直、特に不都合なんてないと思ったのだが…。

それに対してサーシャは『いえ。なんというか。ズルをして強くなっているようで、鍛えて強くなった方に申し訳ないといいますが…。』

どうやら、サーシャは強さというのはそう言うものではないだろうと思ったようだ。

だが、装備の強さや強い装備を用意できる人脈も、その人の「強さ」ではないだろうか?少なくとも俺はそう思った。だから、『サーシャ。強いやつはな。装備まで込みで強いんだ。その強い武具を用意できる人脈や運というのも、その人の強さに含まれると思うんだ。だから、サーシャは良いんだ。俺が「身を守るのに使って欲しい」って渡すんだから。』と、言う事にした。

『そう…。ですか?』

まだ、納得してなかった様子のサーシャだが、そこにティアも加わってサーシャを説得してくれた。

『それに、皆で強くなるんだ。それほど周りとの戦力差を考えなくて良いんじゃないか?』

そこまで言うと、とうとうサーシャは納得してくれた。

『そうですね。そこまで言って下さるのでしたら、私も是非頂きます。それに、その装備で強くなってもアイシャちゃんに勝てる未来は見えませんし。』

『あ。それ私も思った!』


それからは、〈嫁通信〉で姦しい声を聞きながら戦闘を続ける。

勿論、あの〈嫁通信〉中にも魔法が飛んだり剣が鍔競り合ったりしていたわけだが、〈嫁通信〉では普通ににこやかに会話ができるくらいに図太くなったんだな、俺達。


そして、そろそろ良い頃合いだと思ったのでティアの攻撃をしっかりと受ける。

「ぐあぁぁぁぁああ!!ま、まさか女子三人程度にここまで追い込まれようとは…。」

なんとか、それっぽい感じに台詞を言ってみる。

「プッ…!もうここまでですね!邪神ホウゼン!」

朱里が笑いそうになったせいで、奥さん達に伝染した。

「フフッ…!え、ええ!この調子…ッ!で押し切りましょう!」

ティアが笑いを堪え切れていないから変なタイミングで言葉を詰まらせた。

「…。」

アイシャは無言で短剣を構えていたが目元が笑いかけているし、僅かに震えている。

多分、あれは喋ったら笑ってしまうから喋れないんだな。

「まだだ…!我はまだ終わるわけにはいかんのだ!!」

そう言いながら、〈天災級雷属性魔法〉に〈天災級闇属性魔法〉を混ぜて、黒い雷を放つ。

「〈デストラクション・グロム・テンペスト〉!!」

鳴り響くのは世界終焉の序曲。神の怒りが大地の全て焼き払わんと降り注ぐ。


「きゃあ!ま、まだそれほどの力を残していたのですか!?」

「あう…。雷は耳に痛い…。」

朱里が大袈裟に驚いていたが、その陰でボソッと呟いたアイシャの言葉は忘れない。後で〈キュアファンタズム〉を使ってあげよう!


俺は降り注ぐ雷の中、羽を使っているように見せつつ普通に、〈固有魔法:創造〉で身体を浮かせて奥さん達を見る。

「ふふふ…!あはは!!あーっはっはっは!!!聖女とその仲間達よ!ここは貴様等の勇気に免じて一度退こう!我は、この身を遥かに北の地にある我が城、〈スキーズブラズニル〉にて待つ!そこの勇者は期待外れであったが、貴様等であれば楽しめそうだ!!」

勇者?さっきからずっと地面で潰れてますよ?だって興味ないし。

『あ。そうだ。今度は〈嫁通信〉は切らないで行くから安心してね。』

そういい残して、俺は北の大地向かって飛翔した。





HS~ヒロインサイド〈女神ティアリア〉~



やっと、このよく分からない寸劇が終わった気がします。

「ふう。なんか疲れましたね。」

見た目はあれだけの戦闘です。私達は全力攻撃をしていましたからね。

私、一応女神なのですが、ケーシさんは私の全力攻撃ですら無傷でしたね?もう女神ってなんでしょうか…。まあ、彼は私達の夫です。見た目は完全に魔王というか邪神でしたが、あれでも人族…ですよね?多分?

『ティアさん、気を抜くのは早いです。これからまだお父様とお母様を回復させて、邪神は撃退したと報告をしないといけませんよ。』

サーシャさんは今も目を赤くさせ、涙の後の残る頬や目元を隠して悲しげに俯いていますが、内心は狂喜乱舞してそうですね。今は姫モードのようですから安心ですが。

『そうでしたね。これは面倒な事が残りましたね…。ケーシさんに手作りでチーズケーキも要求しましょう。』

『チーズケーキは私も大好きなんだよねぇ~!』

『それでしたら、私はタルトを作って貰いましょう!』

私の発言を皮切りに、私達の思考が完全にケーキ類に逸れた頃にアイシャちゃんからストップが掛かりました。

『お姉ちゃん達、話が食べ物に逸れてるよ?とりあえず、陛下達を起こさないと。それと、これ、どうするの?』

アイシャちゃん、勇者は「これ」と言ってしまうくらいまで評価落ちたんですね。

『とりあえず、お父様さえ起きれば何とかなるのでは?私はいち早く旦那様分をまた補給したいので、それは放置しておきましょう?』

サーシャさん、恐らくですが貴女とケーシさんのあれが原因で燃え尽きているんですよ?両方ともノリノリで囚われの姫と悪の魔王なんてやるから…。

まあ、私達お嫁さん同盟を引き裂こうとした時点で良い気味ですが。

『あ、そうだ。そういえば、貴裕くんっぽくないんだよね。この勇者。』

そこで、朱里さんから勇者について話が出てきます。

『どういう事ですか?朱里さん。』

サーシャさんは不思議に思ったのか、朱里さんに聞きました。

『ん?いや、貴裕くんってね。見た目とか言動は間違いなく勇者っぽいんだよ。でもね、行動というか、戦い方かな?それが勇者っぽさからかけ離れているんだ。不意打ち上等で暗殺から毒殺。仲間が傷つかずに勝つ為ならなんでもやりましょう!みたいな感じの正義だからさ。後、ケーくんが言ってたけど、貴裕くんの女性の好みは胸の大きな年上の女の人らしいから、サーシャちゃんは好みじゃないはずなんだよね。』

朱里さんから持ち出された情報は、確かにこの勇者からかけ離れています。

『どうしてだろ?』朱里さんは更に頭を悩ませますが、その考えも長くは続きませんでした。なぜなら、陛下が起きましたから。

「いったいわね~。あの子強すぎるわよ~!」

私達は陛下の下に駆け寄ります。

「お父様!大丈夫ですか!?」

「あらん?サーシャちゃんじゃない?どうしたの?血相変えて。この程度で壊れちゃうほど鍛え方はひ弱なつもりはないわよ?」

すると、別方向から女の子が歩いてきました。

「あ~!ちくしょ~!アイツ強かったな!クリス!無事か?」

アリスのようですね。それにしても、クリスとは誰でしょう?

「あら?アリスちゃん!無事だったのね~ん!良かったわぁ!」

その呼び掛けに反応したのは陛下でした。

つまり、陛下の名前が…。クリス?

そんなにぴったりな名前してらしたんですね!?そこにびっくりですよ!?

「それにしても、あの邪神はどこ行きやがった!」

アリスさんが吠えます。微笑ましい絵面ですが。

「あらあら。アリスちゃん?まずは治療が先よ?」

それを、陛下。いえ、クリスさんが止めました。

「むっ!ま、まあしょうがねえ。早く癒すぞ!」

むくれているのか、頬が膨らんでますがそれも愛らしさが勝りますね。

あれでもうすぐ50歳が見えてきているという、人族かどうか疑う光景です。

「まあまあ。それでサーシャちゃん…?なるほどね…?報告は王城でいいわ。執務室に来て頂戴?多分だけど、もう一人も連れてね?勿論、勇者ちゃんの事じゃないわよ。」

どことなく、私達の雰囲気が明るくなっているのを見抜いて声を掛けなおす、その手際と頭の回転の速さは凄まじいですね。

「ええ。必ず後程。」サーシャさんはそう返事をして、陛下達が立ち去るのを待っていました。

陛下達が闘技場を離れた後、私達は再度〈嫁通信〉を使います。

『それで、私達はどういう形で移動しますか?』

サーシャさんから出てきた疑問ですが、どうしましょうか?

ここにはまだ勇者が意識を失ったまま潰れているんですよね。

『それなら、兵士に任せて良いんじゃないかな?私も早くケーくんに会いたいし。』

朱里さんは放置に一票。ですか。

『こんなのは放置してお兄ちゃんに会いたい。』

より辛辣な放置にアイシャちゃんが一票。

『私も夫に会いたい思いの方が強いです。』

そう言う私も早く夫に会いたい。少しでも早く、笑顔を見たい。

そう思って放置に一票。

サーシャさんはと言うと「申し訳ありません…。本当なら私がずっと勇者様のお傍にいて差し上げたいのですが、もう、もう私はこの方の傍に立つ資格はありません…!勇者様には、ごめんなさい。とお伝えください…!」と、そこらへんにいた兵士を捕まえて勇者の事を押しつけて走って勇者から逃げるように闘技場を後にします。

『私は旦那様分が欲しいので勇者はどうでもいいんです!さあ!行きますよ!』

〈嫁通信〉の本音さえなければ、物語のワンシーンですね、あれ。





メインストーリー〈「邪神」北條京嗣〉



俺は北に向かって飛んだが、どこまで飛んでいいのか悩んだ。

だから途中で雲の上に出てみたのだ。

「すげえ!空が青い!!」

なんて当たり前のことを叫ぶくらいにはテンションが降り切れていたんだろう。


そんなこんなをしているが、俺はしっかりとこの「邪神スタイル」をどうにかできないか模索しているのだ。

「あー…。これ、〈全知全能〉に聞いたら解決出来ないのかよ?」

すると、頭の中に解決案が浮かぶ。どうやら、〈邪神格〉を解除すればいいらしい。

「解決するのかよ…。まあいいや。えっと、〈邪神格〉を解除?…?今更なんだけど、〈邪神格〉なんて本当にラスボスなんじゃ…?」

勿論だが、俺は「北條京嗣」ではあるが、地球に居たであろう頃の記憶がないので地球での俺が持っていたと思われる知識は、脳内にインプットしてある。朱里との会話で困るのは思い出を話す時だろう。だが、いつかは取り戻したい記憶ではあるな。

そんなどうでも良いことを考えながら、〈邪神格〉を解除しようとしてトラブルが発生した。〈邪神格〉が解除不可なのだ。どう足掻いても解除できない。

「うそでしょ?えっ?ちょっと待って。〈全知全能〉助けて!」

直ぐに更なる解決案が浮かんでくる。スキル〈神格〉を使おうとすればいいらしい。

「というか、さっきから独り言多いな俺…。寂しい奴過ぎるだろ…。」

いつも誰かと一緒にいた記憶しか残っていない為か、何か喋っていないと落ち着かないのだろうか?

「とりあえず、〈神格〉を使わないと…。」

〈神格〉を使用した瞬間、身体に異変が起きた。

今まで全身から噴き出していた禍々しい魔法力が霧散してなくなっていく。

更に、今まではあった羽根や角が消えているのだ。

急いで〈影分身〉を使用して身体の状態を確認する。そこには、黒みがかった金髪を肩口まで伸ばして赤い瞳でこちらを見てくるイケメンがいた。

どうみても、殺されてしまう前の俺の姿だった。

「よし。元に戻ったな!」

これでやっと王城に行けるというものだ。

その前に壊してしまった陛下の剣を用意しよう。どんな剣か知らないから想像で作ることになるけど、どうせ神剣クラスだ。その辺りは適当でも良いだろう。

剣の生成は終えたが、もう面倒になってきたから魔法で移動しよう。

「〈テレポーテーション〉!」

この魔法は一度行ったことがあれば、その場所を鮮明に思い浮かべるだけで移動を可能にする〈天災級空間属性魔法〉だ。

俺が思い浮かべるのは、王城そのもの。これだと、どこに転移するのか分かったものではないが、俺は奥さん達の詳しい部屋が分からないのだからしょうがないだろう。

転移が始まる。さて、これで奥さん達と会えるぞ…。


転移した先は、どこかの部屋のバルコニーだったようだ。しかも、下を覗き込むと結構な高さがあることから上階だと思われる。

しかし、建物内ならどうとでもなるが…。なぜバルコニー。

これでは、目の前の部屋に入らざるを得ないではないか。

さすがに俺もこのバルコニーからジャンプして下に降りて歩きたくない。ここは上階な以上、間違いなくサーシャ達の部屋もこの周辺なのだろうから。

「…。しょうがない。入るか…。」

バルコニーから部屋の中に入ることにした。

その部屋はまだ夕方前という時間にも関わらず、どこか薄暗くまるで誰かが寝ているかのようだ。

気配を探ると、二つの気配を感じる。すると、部屋の中に居るその気配から声がする。

「どなたです…?」その声には、何処か儚げな印象を受けた。

今まで陽の光の下にいたから少し見えにくい視界も戻ってきた。

声がしたほうに視線を送る。するとそこには、美しい女性がいた。

綺麗な金髪と、慈愛に満ちている蒼い瞳。身体をベットから起こしているだけにも関わらず、母性を感じる姿。身体が弱いのかベットに腰掛けるように俺を見ていた。もう一つの気配は何処かと、少しだけ視線を動かす。

よく見ると、彼女の横にもう一人寝ていたようだ。その人は、彼女の子供だろうか。とても良く彼女に似ていた。瞳の色は分からないが、腰まではありそうな金髪。起きている女性と同じく病弱のなのか薄い色の肌。それでも、サーシャよりかは年上なのだろうか?

「私、ですか?そうですね…。私は通りすがりの旅芸人ですよ。」

あまりにも嘘臭いと思ったが、一瞬見惚れてしまった為に良い言い訳が思い浮かばずに適当な話をしてしまう。

「旅芸人さんですか…?ふふ…。それなら歓迎しないとですね…?今、紅茶を出します。少しだけ待っていて下さいね?」

すると、彼女はふらつきながらも立ち上がり、紅茶を淹れようとしてくれる。

「ああ。そのような事はしなくて大丈夫ですよ。私は王城に用があっただけですし。」

俺は断りをいれるように、彼女に声を掛ける。

負担を掛ける訳にはいかないと思い、彼女を止める。

「いえ、せめてこれくらいはさせて下さいまし。それに私は中々、誰かとお話しをする機会がありませんから。せめてお時間がくるまで、少しお話しを聞かせて下さいませんか?」

だが、彼女も引き下がらずに紅茶をいれる。

そこまで言われれば、俺は厚意に甘えて紅茶を貰うことにする。

「それでしたら、是非とも頂きます。私の旅の話でも致しましょう?」

作り話になってしまうが、恐らく病弱であろう彼女に楽しみを感じさせる話が出来るだろうか。紅茶の礼にできるくらいの話をしよう。


それからは、少し薄暗い部屋の中で紅茶を飲みながら、色々な話をした。

すると、彼女は話を変えるように話を切り出してきた。

「少しよろしいですか?本日はどなたに御用があってこちらにいらしたのか、お聞きしておりませんでしたわ。」

彼女は、とても聞き上手な女性だった。見た目は全く似ていないのだが、どことなく姫モードになっている時のサーシャに似ていた。

「ああ、そうでしたね。私は、この度サーシャ様から呼ばれまして…。」

「まあ!サーシャちゃんでしたか!」

サーシャの名前を出すと、笑顔で嬉しそうに声を上げた。

どうやら、彼女はサーシャの事を「サーシャちゃん」と呼べる立場の方だったようだ。

「そういえば、まだ貴女のお名前もお伺いしておりませんでした。今更にはなってしまいますが、お伺いしてもよろしいですか?」

だから、彼女の名前が気になり、つい、聞いてしまった。

「あら。私としたことが申し訳ありませんわ…。私は、ライン。ライン・リンドル・ヘンズール。クリス様の第二婦人ですわ。」

「なんと、これは失礼致しました。」

どうやら、俺が相手していた人は、この国の第二婦人。つまり陛下の2人目の奥さんだったようだ。

というか、始めて聞いた気がするな、陛下の名前。聞いた話でしかないがイメージ通りすぎるだろう…。

「私はサーシャちゃんのお母さんですから、サーシャちゃんが呼んだ方ならそんなに畏まらないで下さいませ?」

「いえ、そういう訳には…。」

すでに手遅れではあると思ったが、一応礼儀として畏まる。

「それに、サーシャちゃんのお客様なら私のお客様ですわ。」

そこまで言ってくれているので、これで断ってはラインさんに悪いと思い今まで通りの話し方で話すことにした。

「それでしたら、お言葉に甘えさせて頂きます。」

「ええ。そうです!それでしたら、こちらにサーシャちゃんを呼びますわ!それで色々と見せて下さりませんか?今、サーシャちゃんはお出掛けしてますから、もう少しお時間が掛かってしまいますが…。」

サーシャが今居ないのは知っている。なにぶん、居ない理由の大体が俺の責任だろうから。

「そうなのですか。それでしたら、お言葉に甘えても宜しいでしょうか?」

「ええ。お任せ下さい!私も久しぶりの会話、楽しいですから。」

今まで気にしないようにしていたのだが、ラインさんの会話の端々から伝わってくる「久しぶり」とはどういう意味だろうか?

「申し訳ありません。もしよろしければ、なぜこちらの部屋にいるのか教えて頂けませんか?」

サーシャは、今日は武闘会に行っている。おそらく、そろそろ帰ってくるだろう。

「ええ。私はね?少し体が弱くてこの部屋から動けないのよ。昔はそんな事も無かったのだけどねぇ。」

その言葉で確信した。サーシャが言っていた助けて欲しい人というのは、まずこのラインさんの事だろう。

だが、これはまだ本当の名前を名乗っていない俺が聞いて良い話では無かった。

だから「そんな理由があったのですね。これは考えずにすみませんでした。」と、謝っておく。

「良いんですよ?私が話しただけですから。」

そう言ってにこやかに微笑んでくれるラインさん。実年齢は分からないが、見た目はまだ30代に見えるから余計に妙齢の美人といった方。

「そういえば、こちらには聖女様が居らしてましたよね?治して頂かなかったのですか?」

朱里はもう治療をしてみたのだろうか。気になったから聞いてみる。

「…ええ。私は最後まで回して貰っているのです。私はそれほど長くないでしょうから。」その表情はどことなく、影を持っているように見えた。言葉に少しだけ詰まってしまった所を見るに、朱里は試したのだろう。それでも治せなかったとみるべきだ。

「そうでしたか。…どうやら、空気が少し重くなってしまいましたね。これは申し訳ありませんでした。」

だから、サーシャと約束した通りに治そう。俺はそれが出来るのだから。

「そうです。ここで一つ手品をお見せ致しましょう。」

〈全知全能〉でラインさんの身体を蝕むモノが病魔なのか呪いなのかを確かめる。

「ライン様はどのようなアクセサリーがお好きですか?」

やはり、この症状は呪いによるものだった。それにどうやら、僅かばかりの毒も含まれている。ついでとばかりに未だにベットで寝ている彼女にも〈全知全能〉で確認をする。

寝ている彼女も同じ呪いと毒だった。

「アクセサリー…ですか?そうですね…?それでしたら、ネックレスですね!」

ラインさんの好みのアクセサリーに、耐呪と耐毒を付与して彼女を蝕む者から彼女を守る。

更に、今も寝ている彼女にも色違いで同じ効果の物を作る。

勿論、〈神器〉として生成するので破壊や経年劣化などには絶対の耐性を与える。

「それでしたら、少しだけ目を閉じていてみて下さい。簡単な手品をお見せ致します。」

〈天災級回復魔法〉でおそらく治ると思うが、万が一に備えて現存している全ての呪いと毒を消去するように、〈固有魔法:創造〉で効果を追加する。

「分かりましたわ。…。これで良いかしら?」

しっかりと目を閉じた彼女に〈キュアファンタズム(改造済み)〉を行使する。

「あら?何か少しだけ明るくなったかしら?」

どうやら、〈キュアファンタズム〉の光で明るくなったと思ったようだ。

「ええ。それで大丈夫ですよ。今、光っているのが引いたら目を開けて下さい?」

俺はもう時間が無いので二つのネックレスを生成する。

ラインさんの儚げなイメージが崩れないように、シンプルなデザインで。でも、質素ではないデザイン。

考えて作り上げた物は、光が収まる直前に完成した。

「もういいのですよね?」

「もういいですよ。目を開けて下さい。」

彼女にもしっかりと見えるように、二つのネックレスをテーブルに置く。

「こちらは貴女と、後ろのお嬢様にプレゼントさせて頂きます。そちらには、私が昔お世話になった国で、健康を意味する物だそうです。」

用意したネックレスは、銀とオリハルコンの合金でチェーン部分を作り、唯一付けてある石はムーンストーンとオリハルコンの合金の台座にラピスラズリを取り付けた品だ。ラピスラズリの深い群青の色は、ラインさんの儚げな印象にもぴったりだろう。更に、宝石言葉も「健康」だ。

まさに、この為にあったようなものだろう。勿論、ムーンストーンも「健康」が宝石言葉だから間違えていない。

「まあ、綺麗なネックレスですね。本当に全く何も持っていないと思っていたのに何処から出したのでしょうね…。ふふ。でも手品なのですから気にしませんわ。それに寝ている娘にも用意して頂けたようですし。」

やっと、これでやっと。サーシャの心労の一つが拭えただろうか。

「そうです、娘も起こして来ますので少々お待ち下さい。」

「お気になさらないで下さい。私が好き好んでやった事ですので。」

今、ラインさんが立ち上がってしまっては〈キュアファンタズム〉での無理矢理な治療がばれてしまう。

「それに、もうすぐサーシャちゃんも帰ってきますから。あの子も起きていないといけませんわ。」

そう言うとラインさんは立ち上がった。今までの弱弱しい立ち方ではない、しっかりとした足取りで。

「あら?体が軽い…?」やはり、今までの身体を蝕んでいた呪いがなくなり、〈キュアファンタズム〉で身体能力まで年齢相応まで回復したら違和感を感じるよな。

「なにやら、良い事があったのですか?」

だが、俺は今、名のなき旅芸人なのだ。

だから、知らぬ存ぜぬで通しきる。

「え?いえ、なんでもありません。少し体の調子が良かったものですから…。」

ラインさんはしっかりした足取りでベットまで歩いて寝ている少女を起こし始めた。

だが、寝ている彼女にも勿論〈キュアファンタズム(改造済み)〉が行使されている。どれだけ長い時間蝕んでいたのかは知らないが、あの子は体が治っていると気が付いてしまうだろう。

「お客様が居らしてますから起きて下さい?起きて?」

ラインさんは軽くゆすっているだけだったが、少女は薄く目を開けた。

「んにゃ…。お客さん…?」

その声は、まるで夏に聞く風鈴のように透き通った声をしていた。

「ええ。お客様ですよ?起きて?」

「…。え?お客様?もうこの部屋に?」

「そうですよ。ほら見て?綺麗なネックレスでしょう?これを貴女と私にって下さったのよ?」と言いながらネックレスを見せるラインさん。

「え。これ、どうみても魔道具だよね?だいぶ力が隠れているように見えるけど…。何か、そう!アイシャって子が使ってたイヤリングと似たものを感じるんだけど…。」

どうやら、あの子は魔法力に敏感なようだ。これは雲行きが怪しくなってきた。

「それより、挨拶はどうしたの?ライナちゃん。」

ラインさんが話を変えてくれる。これで雲行きも戻ってくると良いのだが。

すると、ライナと呼ばれた少女は立ち上がりこちらを見て挨拶をしてきた。

「これは、失礼しました。私はヘンズール公国第三王女ライナ・リンドル・ヘンズールと申します。この度はこのような贈り物まで頂きまして誠にありがとうございます。」

「これはわざわざありがとうございます。私はこの度、サーシャ様にこちらに呼ばれましたしがない旅芸人でございます。」

ライナさんの立ち姿はまさしく王女といえる美しいものだった。

腰まである長い金髪。優しさが溢れているように映る群青の色をした瞳。本当に淡く桜色の付いただけで殆ど白いナイトドレスで優雅に一礼してくる。身体付きは、おそらく呪いで動けなくなる前は活発だったのだろうと予想できる引き締まった身体。

「それで、なぜこちらにわざわざお越し頂いたのかをお伺いしても宜しいですか?」

ライナさんのその表情は笑顔であったが、有無を言わせない笑顔だった。

「(これは下手な言い訳はできないな…。)そうですね。ですが、その話はサーシャ様が戻ってくるまで待って頂いても宜しいですか?」

言い訳できないなら、どうせ治してしまったのだからサーシャとの関係を話すタイミングで全てを打ち明けよう。

「それは、サーシャが帰って来ないと話せない内容なのですか?」

しかし、ライナさんの追及は止まらなかった。

「ええ。それに申し訳ありませんが貴女方の暗殺が目的なら今からでも余裕を持って終わらせられますからね?」

せめて、敵対はしないと意思を見せる為に、一度全力で移動する。

〈破滅級空間属性魔法〉の〈ディメンションムーヴ〉を行使。移動するのは、ライナさんの真後ろに。その場で〈タイムストップ〉を行使。ライナさんを横抱きにする。また〈ディメンションムーヴ〉で椅子に戻り、腰掛ける。これでライナさんは俺の上に横抱きに座っている状態になった。ここまでで〈タイムストップ〉の効果時間が切れる。

「え?ええ!?」

慌てているライナさんを降ろしてあげて、笑顔で語りかける。

「ね?暗殺ならいつでも出来たのですよ。サーシャ様が来るまでの時間です。紅茶でも飲んで待っていてはいかがですか?」

警戒心を抱かせてしまったようだが、納得はしてくれた。

「さっきの凄かったわね。どうやったのかお聞きしても良いかしら?」

今度は、ラインさんから声がかかる。すぐに慌てたようにライナさんが喋り出す。

「お、お母様!さすがにこれ程の手札をそう簡単に言うわけが」

「ええ。構いませんよ?丁度いい時間潰しにもなりそうですから。」

「…え?いいの!?!?」

ライナさんもお姫様っぽさがもう残ってない。この国で俺が知っている姫が即座に姫っぽさを失う。どういう事だろうか。

しかし、ここで狙い済ませたようにノックが聞こえた。扉の向こうから「お母様、ライナ姉様。サーシャ、戻ってまいりました。お客様が居らしているとの事ですが、入室しても宜しいでしょうか?」と、サーシャの声が聞こえた。

「ええ。旅芸人さんも宜しいでしょうか?サーシャちゃんが帰ってきたようですから。」

ラインさんが確認を取ってくるが、これに俺は問題ないと言いたげに、扉に向かって声を掛ける。

「サーシャ、居るのは俺だ!問題ないぞ!」

二人が驚くより早くサーシャ声と共に扉が開く。

「分かりました。それでは、失礼します。」

サーシャの後ろには、護衛としてついて来たのだと思われるティアがいた。それに朱里もアイシャも一緒に入ってくる。

「〈サイレントフィールド〉。これで気にせずに話せるな。」

扉が閉まるのを確認したのと同時に、俺は〈サイレントフィールド〉を行使した。

「ありがとうございます、旦那様。」

サーシャが代表してお礼を言ってくる。

「良いんだよ、俺が一番魔法力多いんだから。」

「そういえば、そうですね。ならお言葉に甘えます。」

サーシャは姫モードのまま対応してくれる。

「そうそう。それで、ラインさんとライナさんの説明任せて良いか?俺には自信ないわ。引っ掻き回したの俺なんだけど。」

そう、ここまで静かだが二人とも完全に固まっているのだ。

どう考えても、自分の国の第四王女を相手にして敬語を使わないし旦那様なんて呼ばれているし、全く理解できなくて当たり前だ。

「仕方がありません。私がやっておきますから。」

それから、サーシャの説明が始まり完全に落ち着くまでにはそれなりの時間を要したのだった。


説明も終わり、落ち着きを取り戻した二人。

「まさか、この人がサーシャの思い人だったとは…。」

「サーシャちゃんにも春が来たのね~。良かったわ。」

俺の名前は伏せたままだが、俺はサーシャと正式に婚約したく王城に来たのだという話にしてある。

彼女達はまだ俺がどういう存在になってしまっているか知らないのだ。ならば、ここでまた混乱を起こすような事はしなくてもいいだろう。

そして、ここからは俺が話す事だろう。

「ラインさん、ライナさん。良いですか?私の話をしても…。と言いたいのですが、できればクリスさんにもアリスさんにも聞いて頂かないといけませんから、ここは執務室に行きませんか?なに、詳しい内容はまだ言えませんが、体はもうすでに良くなっているはずです。ですから、軽い運動くらいなら体も大丈夫ですよ?長い間使っていなかった筋肉は動かした際に少し突っ張るかもしれませんが、ね。」

俺は、執務室にて最後の話をすると言う。そして、もう体も大丈夫だと伝える。

しかし、その大丈夫だという言葉にいち早く反応したのは、ラインさん達ではなくサーシャだった。

「あ、あの。旦那様…?お母様方の治療、して頂けたのですか…?」

「ああ。サーシャが前に話していたのは、ラインさん達だと思ってな?それに、朱里も試したんだろ?俺がいなかった間に試しているだろうと思ってな。それでも治せなかったなら、俺は約束通りに治すだけだ。」

その言葉を聞いて、サーシャは僅かに涙ぐむ。

「ヒッグ…エック」

嗚咽の音が聞こえてくる。そっと頭を撫でる。

「サーシャの大切な人は俺にとっても大切な人だから。だから守るよ。」

「ほんと…は。だんなしゃま…にっ。治し…てもら…いたかったけど、あの時、死んっ…じゃったから…。本当に、だんな様が…来てくれて良かった…。」

サーシャの瞳には大粒の涙が溜まってきていた。

やはり朱里では治せなかったのだろう。

つまりながらの言葉で聞き取りにくい状態だったが、サーシャ気持ちは痛いほどに伝わってきた。

「ああ。さすがに〈固有魔法:神〉と〈天災級回復魔法〉に勝てる呪いがあるなら俺が聞きたいわ。」

冗談を言うように軽く笑いかける。もう大丈夫だと言うようにサーシャの頭を撫でる。

その言葉を聞いたサーシャは、満面の笑みを浮かべながら遂に目元は決壊した。

俺はただ、そんなサーシャを抱き寄せて背中を撫でた。


5分もたたないうちに、サーシャは泣き止んだ。

「もう、大丈夫です。旦那様。本来ならお母様や姉様の方が疑問もあるでしょう。ですが、それも込みでのお話しをします。旦那様も先ほどの様子からすると、それで問題無いようですから。それで、執務室で良いですか?お母様、姉様。」

まだ目は赤いが、それでも嬉しそうに笑顔を二人に向けるサーシャ。

「まあ、聞きたい事塗れよ。でも、お父様にも聞かせないといけないなら執務室でも良いわ。」とライナさんが。

「つまり、私達は治ってるの~?」未だに理解が及ばないラインさんは「お母様は良いわ。治ってるなら私が引っ張って連れて行くから。」というライナさんの一言で放置された。

「なら、皆で執務室に行きましょう。旦那様は申し訳ありませんが、気配を消せたり姿を消したりできませんか?見られるとまずい貴族も居ますから。」

〈固有魔法:創造〉なら消えれるだろうか?

気になって〈全知全能〉に確認したら出来るようだ。

「ああ、今〈全知全能〉に確認したら姿くらいなら余裕で消えれるようだ。」

すると、サーシャは気になった単語があったのか質問してくる。

「あの、旦那様。時間の無いなかで申し訳ないのですが、〈全知全能〉とはなんですか?スキルか何かだとしてもそんな物持っていませんでしたよね?」

そう言えば、俺はこのステータスをまだ奧さん達に見せて居なかったな。

だが、俺は全部を執務室にて話すと決めている。

そこで、陛下達からサーシャを貰い受けるともな。

「そこも込みで執務室で話をするから。だから、もう行こう。」

外はもう夜になっている時間だ。だが、俺が居るので何か食べる訳にもいかないのだ。

「それでしたら、執務室ですね。早く行きましょう。おそらく父も待っておりますから。」

サーシャのその一言で動き出した全員。

俺は〈固有魔法:創造〉で姿を消して彼女達を追う。


少し歩いて、すぐに執務室に着いたのか扉の前に立ち止まる。

サーシャはノックすると「お父様、サーシャです。宜しいでしょうか?」と声を掛けた。

すぐに中から「サーシャか。入れ。」と、声が掛かった。この声は先ほどの闘技場での戦闘で聞いた声だから間違いなくクリスさんだ。

「失礼致します。」

サーシャが部屋に入るのを見送って、それ以外の人も全員入った所で滑り込むように俺も入る。

「それで、サーシャちゃん?きっと色々と話さないといけない事があるのよね?それにラインとライナちゃんも連れてきて…。ラインはもうあの距離を歩くのですら大変だった筈なのだけれど…。その表情を見るに体調が良いのかしら?」

サーシャに問いかけるクリスさん。だが、話をすべきは俺だ。

ならば、全てを話そう。俺は帰ってきたのだと。

まずは、〈邪神格〉を使用する。全身に禍々しい力が駆け巡る。身体が膨張して角が生えてくる。翼の感触が背中から伝わってきた。

姿や気配を消していた魔法を解除する。

「先ほどは中々に良い太刀筋だったぞ。そして、改めて初めまして、陛下。」

俺の邪神スタイルを見て全員が固まる。特にラインさんとライナさんは俺がこんな姿になるとは思わなかったのか、完全に意識がここにない。

しかし、陛下は予想していたのだろうか、すぐに俺に声を掛けてきた。

「そうね、初めまして。やっぱり貴方がケイちゃんだったのね?どうやって生首だけの状態から蘇生したのかは分からないけど、邪神ちゃんが復活した後のサーシャちゃんがあまりにも明るかったから多分そうなんじゃないかしらね。って想像だったんだけど。まさか正解とはね…。」

俺は、クリスさんの前で〈神格〉を使用して身体を元に戻す。

「こちらの方が分かりやすいでしょう?」

「そうねえ。その方が助かるわぁ。さすがにあたしを一撃で気絶させた威圧感のある姿でいられると、少し強張っちゃうからね。」

俺達は、二人で会話を楽しむ。

「あ。そうです。あの時なんですが、剣を溶かしちゃったのでその変わりに神様くらいなら両断出来る剣を作ってきたんでどうぞ。」

そう言って俺は作った剣を渡す。

「あら、ありがと~!さっきの剣でも割と高級品だったからまた買うか悩んでたのよ~。助かるわ!」

そういうと、普通に受け取るクリスさん。

「いえいえ。一応なんですが、その剣も〈神器〉と言われる武器ですから陛下以外は使えないですよ?そこだけ気を付けて下さいね?あ、それと切れ味も抜群です。それも気を付けた方が良いかと。」

「これ〈神器〉なの~!?やったわ!やっぱり剣を振るなら一度は〈神器〉を持ってみたかったのよね!」

そこで、アリスさんのも必要かと思い至ってクリスさんに聞いてみる。

「そう言えば、アリスさんのも要ります?作りますよ?」

すると、更にテンションが上がったクリスさんが返事をしてくる。

「まさかアリスちゃんもいいのぉ!?それならお願いするわ!」

「了解です、陛下。それでアリスさんの短剣にはどんな効果持たせます?」

武具生成の為に魔法力を搔き集める。基本素材はオリハルコンとヒヒイロカネでいこう。この世界での最高硬度を持つ金属での合金だ。

「そこまで選んでいいならねぇ…。そういえば、アリスちゃんってば、産まれてから今まで魔法を使ったことが無いのがちょっと悩みって言ってたの。どうやら、適正を得られない体質というのかしらね?でも、魔法って使えるようにできるかしら?」

アリスさんの武器に持たせる能力が決まった。〈魔法適正:全〉と〈魔法行使権限:全〉だ。これなら、その悩みも晴らせるに違いない。後は、一応だが弊害が無いとも限らないから、世界に接続。新しくスキルを生成。〈老化停止〉を創造して付与。

完成した短剣は綺麗な蒼い短剣だった。そう、全面的にオリハルコンとヒヒイロカネのみで作った為に持ち手から刀身まで全部が蒼い。

「これでどうでしょうか。この武器には〈魔法適正:全〉が付与されていまして、アリスさんが持った後からですが、全ての魔法を使えるようになりますよ。」

「さすがにダメかと思ったけどいけるものね!助かるわ!今日の負けがあったから、あの子ちょっといじけてるのよ。これで機嫌も直るわ~。それにしても真っ青な短剣ね?」

どうやら、このタイプの剣でも良かったようだ。〈老化停止〉については伏せておこう。これはこの女性しかいない場所で言っていい単語じゃない。万が一にでも言ってしまったら俺に明日はやってこない。

「ああ。それは全部オリハルコンとヒヒイロカネの合金で出来てますから。刃毀れどころか手入れすら要らない一級品ですよ!」

クリスさんに渡している剣の方がまずいんだがな。言わないほうがいいだろう。

「本当!?それはアリスちゃんもよろこぶわぁ!」

実はクリスさんに渡した剣は〈肉体再生〉と〈生命力回復〉が付与されている。

この二つの組み合わせなのだが、何がまずいって〈肉体再生〉は所有者が呪い、病気、ケガ、欠損のどれでも構わないが肉体の健康を損なった場合、生命力を消費して万全の状態に回復する。腕が無くなっても生えてくるくらいだ。〈生命力回復〉はステータスの生命力が消費された瞬間に毎秒少しずつ生命力を回復してくれる。ただし、この回復では病気や呪いは回復しないし欠損も治らない。だが、1でも残っていれば回復が始まる。

それぞれにはデメリットがあった。しかし、この二つの効果が同時に付いていれば、肉体も生命力も普通に回復するようになってしまうのだ。それこそ、腕が斬り飛ばされても時間があれば回復してしまう。考えると、人間っぽさを失ってしまいそうだ。

これは、さすがに言えないだろう。いつかは分かることだが。


それから30分程だろうか、俺と陛下は紅茶を楽しんでいた。

既に、奧さん達は回復して一緒に紅茶を飲んでいる。

「そういえば、さすがにお腹減ったね~?」

いい加減に時間も立っていて我慢できなくなったのか、朱里がそんな事を言い始めた。

確かにもういい時間になるのか。

「確かに、最近は食事も喉を通らない日々もありましたからね。今日からはご飯もおいしく食べられそうですが。」

サーシャが僅かに毒をつく。それに、敢えていじけるように呟く。

「いや、俺だって死にたくて死んだんじゃねえんだが。」

「ああ、いえ。そういうつもりは無かったのですが…。」

サーシャが慌てたので、耳元で「そんな事言う奴にはキッツイおしおきかな…?」と言ってイジメてみる。

案の定、サーシャは姫モードからドMに変わった。が、スルーして皆で会話を楽しむ。

仕返しとしては十分だろう。


それから更に30分後にラインさんとライナさんは現実に帰ってきたのだった。

「それで。サーシャちゃんの思い人さんは、神様なの?」

ラインさんは、戻って来て早々に話の核心を突いてきた。

「そうですね。まず、その話をしましょう。」

そして、俺は現状を話す。

「まず、俺は朱里と同じ世界、つまり、異世界からこの世界に召喚された人間だった筈です。」

しかし、ここで朱里から待ったがかかる。

「待ってケーくん。ケーくんその言い方だと、まるで自分が異世界から来たって認識が無いように聞こえるよ?」

俺の現状は、奧さん達にも聞いておいて欲しいから包み隠さずに話す。

「ああ。俺はその地球の頃の記憶はもうない。どうして失ったのか。どうすれば元に戻るのか。その一切が不明なんだ。」

その俺の言葉に、朱里はやはりショックを受けてしまったのか、俯いてしまう。

「だけど、俺が朱里を心から愛しているのは間違いない。それだけは俺が失っていないものだ。信用はできないかもしれないが、間違いなく俺は奥さん達の事を愛している。それに、俺がサーシャと会った頃くらいの記憶は残っているんだ。だから、俺は俺のままだろ?」

「あの、あなた。その記憶はいずれ戻るのですか?」

ティアが話に入ってくる。

「分からない。だが、戻したいとは思っている。今は、地球の情報を読み出してくれるスキルのおかげもあって不自由してないが、いつまでもこのままという訳にもいかないだろうからな。」

俺は、いつかは記憶を元に戻したいのだと伝える。

「ケーくん…。ケーくんの喋り方ね。今まで通りだったの。でも、今のケーくんには私との思い出はもうないんだよね?地球での記憶がないって事は、あの時戦ってた貴裕くんも分からないんだよね?」

「貴裕くん?だれだ、それ?」

朱里から知らない男の名前が出てくる。

しかし、俺の発言を聞いた瞬間に息が詰まるように表情がきつくなった。

「…。勇者の名前だよ。鳥羽貴裕くん。ケーくんの高校の友達の。」

「え?あの勇者って友達だったの?俺、めちゃくちゃにボコった気が…。」

どうやら、あの勇者は高校時代の友達だったようだ。ボコボコにしてしまったが大丈夫だったのか?

「まあ、貴裕くんも何かおかしかったような気がするからお相子だと思うけど…。」

「え?貴裕の様子がおかしかったのか?」

俺のその発言に顔を勢い良く上げる朱里。

「け、ケーくん!今!今、貴裕って!」

俺はさっき何か変な事を口走ったのか?

「ん?何か言ったか?」

「貴裕って呼んだよ!」

そうやって朱里に指摘されて始めて気がついた。確かに俺は先ほど、勇者の事を「貴裕」と呼んでいた。知らないはずなのだが。やはりどこかで覚えているのか、残っているのだろうか?

「朱里さん、ケーシさんはきっと記憶を取り戻すはずです。だって、その記憶には貴女との記憶があるじゃないですか。」

ティアが諭すように話を始めた。

「それは、ケーシさんに記憶がないとできない話があると言う事です。ならば、貴女の為に、きっと取り戻したいはずです。だから、今はその片鱗があっただけでも良いじゃないですか?」

すると、朱里もようやく飲み込んだのかこちらを見てくる。

「うん、ティアさんありがとう。ケーくんが今生きてる。それだけで満足だもん。」

「朱里。それにティアもサーシャにアイシャも。必ず記憶を戻すから。もう少し待っててくれ。」

「うん!でも、無理はダメだよ?ケーくんが生きているだけで私達は嬉しいんだから!」

今度は誰も不幸に出来ない。俺は俺の両手で抱えられるだけの人を守るんだ。


それからも話は続き、とうとう俺のステータスの話になった。

「さて、これも驚くと思うぞ?〈ステータスオープン〉。」


【名前】北條 京嗣

【種族?】邪神

【成長の戒め】破損

【成長の楔】破損


【生命力】$@+&=÷^~

【魔法力】!・:$#*

【攻撃力】○<〒’”_×

【防御力】(#!$%@

【魔法行使力】→△○♪〒^{<

【魔法抵抗力】()\$#+@=

【俊敏力】△}|○_;×>


【魔法】適正(全)固有(神) 固有(邪神) 固有(創造) 特殊固有(零時迄之舞踏会シンデレラ・鮮血ヨリ紅キ乙女(赤ずきん)・永久ニ眠ル真白之姫(白雪姫)) 召喚魔法:嫁

【スキル】神格 邪神格 無限収納 嫁倉庫(ティア・朱里・サーシャ・アイシャ)

神器創造 邪神具創造 全知全能 不老不死 眷属化

嫁通信(ティア・朱里・サーシャ・アイシャ) 隠密

剣術 抜刀術 神脚縮地 索敵 気配察知 危機感知

並列思考 影分身(分身体強化(邪神影))


【称号】黒炎の邪神 終えぬ者



俺の前には、もう文字化けして読めないステータスが出てきた。

これが、今の俺のステータスだ。改めて見ると、強いのかどうか全く分からないな。

「ステータスが正しく表示されないなんて、旦那様が強くなり過ぎたのでしょうか?」

「文字だった時もどうかと思ったけど、文字化けするのはちょっと予想外かな?それより、お兄ちゃんがどこに向かって成長してるのかが謎だよね。」

「あなた?さすがに人族は辞めてはまずいのではないですか?良いんですか?」

「あははっ!ケーくんが!ケーくんが邪神になってるっ!!ケーくんが!あははっ!」

それぞれがそれぞれの反応をみせてくれる。だが、朱里。笑いすぎだ。

「あらん。さすが異世界人かしら?にしては破格ねえ。」

「これ、異世界人と言えるのですか?もう人ですらないですけど?」

「あら~。凄いんですねえ。」

クリスさん、ライナさん、ラインさんもそれぞれの反応をしてくれる。

しかし、誰も驚かないのは意外だった。もっと、それこそ恐怖すらされるかと思っていたのだが。

「俺のステータスを見てもその程度の反応で済む陛下達の神経、太すぎませんか?」

「そうかしら?あたしはそれなりには驚いたわよ?だって、ケイちゃん…ケイシちゃんだっけ?貴方は神様な訳でしょ?この世界でダントツに偉い種族の方よ?さすがに少しは緊張もするわよ~。」

しかし、そうは言うもののクリスさんの表情は明るい。

俺はその表情がどうしても気になってしまい思わず「ですが、明るい表情ですけど?」ろ、聞いてみた。

「そりゃ、そうよ。だってこの国は貴方のお嫁さんになるサーシャちゃんの国よ?もし何かあれば守って貰えそうじゃない?それに今もこんなに強い武器も貰えたし?ラインもライナちゃんもこんなに長い時間話せるって事は治して貰えたんでしょ?それなら、あたしからしたら邪神じゃなくて普通に神様よ?」

そう言ってくるクリスさんは嬉しそうだった。

「それなら、陛下。俺はサーシャを貰っていきます。それで良いんですね?」

なら、俺はサーシャの国に何かあった時にこの国を守る。サーシャの悲しむ顔は見たくないから。

「そりゃ、本当ならダメなんだろうけど?あたし個人としては好きなオトコとデキて欲しいわけ。だから、あたしは応援するわ。とりあえず、サーシャちゃんを取り巻く環境はあたしが何とかするわ。今度こそ絶対に黙らせるわ。あの時みたいに後手に回ったせいで犠牲が出るのは避けたいからね。それに何より、サーシャちゃんの為にここまでしてくれた人を裏切るほどあたしは落ちぶれてないわよ。」

満面の笑みでそう言い切ったクリスさんは更に続けてきた。

「そうだ!あたしが持ってる別荘のうちの一つを渡しておくわ!当面はサーシャちゃんには表に出る事は無いようにしておくわね。今は邪神に魅入られたから、姫としては隠居させたとすれば良いかしらね?」

その言葉に最初に反応したのはサーシャだった。

「お父様?私としては旦那様と一緒にいられるのは助かるのですが、その方法をとると私は王城に戻ってくるのが大変になりませんか?」

ライナさんも気になった事があるのか、追加で質問をした。

「でも、お父様?確かにケイシ様については驚きましたし、ステータスについても言葉も出ないですが…。ですが、サーシャには色々な貴族や他国の王族からの求婚がありますし。それこそ勇者様からも求婚される可能性までもあります。確かにケイシ様は神様なのかもしれませんが…。王族には王族としての義務があるではないですか。サーシャは、勇者様よりも年下だから勇者様の嫁として嫁がせる事ができればより一層の事、勇者様とこの国は親密になれます。先ほどの話を聞いた限りではありますが、勇者様とケイシ様は今現在、敵対されているのでしょう?それですと、我が国は勇者様から敵対すると思われてしまいますよ。そこまで全て踏まえると、サーシャを嫁がせるなど簡単な事ではないでしょう?」

ライナさんは思った事を言っただけなのかもしれないが、その発言はサーシャの琴線に触れてしまったのかサーシャから怒気を孕んだ声で反論が出る。

「ライナ姉様。私はもう貴族や王族などという者の為にこの身を使う気は全くありません。そもそも、旦那様を殺したのも貴族です。勇者様は知らないとはいえ、友であったはずの旦那様に剣を向けました。それに私としましては、確かに王族としては失格かと思いますが、それでも愛した方の傍に居たいのです。」

そう言って俺を見つめるサーシャ。

俺はそんな風に言ってくれるサーシャが愛おしくて、その頭を優しく撫でる。

「サーシャ、そこまで言ってくれると俺も嬉しいよ。…。陛下、約束しましょう。この国に危機が迫った時に、私が間に合うのなら。この身の持ちうる力の全てでその危機に対して武力を振るうと。必ず、この国を救うと。」

クリスさんは嬉しそうに笑って「やっぱり、サーシャちゃんは良いオトコを見る目は確かね?だから、どんな障害でも乗り越えて欲しいのよ。でも、ケイシちゃん?きっとその道は覇道となるわよ?って、それでも行くのよね?」と聞いてくる。

だから、俺は笑顔で言い放つ。

「ええ。たとえそれが茨道でもケモノ道でも邪道でも。それが、俺の愛した女の笑顔の為なら。」

俺を愛してくれている奥さん達と義妹を見渡す。

この人達の笑顔があれば、俺はいつまでも戦える。


それからも話し合いは続いた。

そこで決まった事といえば、まずはサーシャの事だ。

サーシャに渡される別荘はこの国でも珍しく、海沿いにある別荘でプライベートビーチを持つそれなりの大きさの屋敷らしい。どうやら、五人程度で寝泊まりをすることが前提の為、それほど大きくなく一軒家くらいのサイズらしい。

しかも、別にこれといって誰かが駐屯しているわけでもないし、村や町まではそれなりに距離がある。俺が聞いた感じでの想像だが、町外れにある大きなコテージという感じだろうか?

その別荘のカギは既にサーシャが受け取り、〈嫁倉庫〉に収納した。

さすがにこの場でサーシャがいきなり〈アイテムボックス〉を使ったことには陛下達も驚いたが、サーシャがスキルの説明を聞いているうちに、俺が神になっている事を思い出したのか「ま、この人、神だし。」みたいな雰囲気で納得された。俺が納得いかない。ふてくされそうだったのでアイシャを撫でる。可愛い。

サーシャは、サーシャ自身が既に王位継承権が低い事もあり、王位継承権を破棄してでも俺の所に行くと言ったのでクリスさんも「それなら王位継承権を捨てちゃう?」と軽いノリで決まり、サーシャは邪神に魅入られて邪神崇拝を始めるようになった。だから王位継承権を剥奪し、国外追放の刑に処した。という形をとるようだ。勿論、この国に入る時に関所を通る形はとれない。だが、俺には〈テレポーテーション〉の魔法がある。もう今更国境とか難しい事を考えなくていい。その事も陛下達に話した。ライナさんは考えるのも億劫になったようで遠い目をしていた。最後にラインさんとライナさんを癒した事も、アクセサリーの本当の効果も全て教えた。ラインさんは普通に喜んでいただけだったが、ライナさんは今持っているネックレスがまさかそんな効果の品だとは思ってなかったのか、おっかなびっくりで触っていた。あれでも一応〈神器〉だから人族程度には壊せないから壊れ物みたいに触らなくて大丈夫だとライナさんには伝えておいた。

次に、朱里の話になった。

朱里はもう聖峰国に行かなくてはいけない。すでにだいぶ長い時間この国に留まっていたからだとか。どうやら、本来は勇者である貴裕と一緒に聖峰国に行って、そこで神の信託を受けて「聖女」としての新たな力に目覚める試練を受けるそうだ。


そして、ここからが問題だったのだ。サーシャが一度行かなくてはいけない別荘と聖峰国はこの王都から完全に反対方向なのだ。だが、朱里にはもう時間がない。しかし、俺はその別荘までいかないと〈テレポーテーション〉での行き来は出来ない。ここは一度、別行動をして朱里に先に行ってもらう方が良いらしい。サーシャは聖峰国に付いていくのはまずい。ティアは、表向きは俺がもういないのだから付いて行く理由が弱い。アイシャはまだサーシャの奴隷で通っている。

勿論だが、〈嫁通信〉は常時繋いだ状態で移動する。だが、ここで俺にも問題が発生した。そう、既に俺はこの国で「大罪人ケイ・ホウゼン」として処刑されている。そして、晒し首にまでされていた。死人であるはずの俺が歩いていたら間違いなく問題になる。

だから、俺も街中を歩けない。更に、俺のキャンピングカー…馬がいなくても自走するアーティファクトを所持していた事は噂になっている。当然だがキャンピングカーも使えない。俺達はこの国でまともに動けるのは別荘周辺とこの執務室。それに、ラインさん達の部屋くらいのものだ。どう包んで言っても自由とは程遠い状況だ。

更に、今はこの世界に勇者ですら勝てないほどの化け物である邪神が復活してしまった。王国の思惑などはもう意味はなく、これから勇者は邪神討伐の為に旅に出る用意を始めるそうだ。だが、俺がその邪神なのだ。誰が世界なぞ滅ぼすものか。めんどくさい。

そして、ここまで話していて気が付いた。俺達には食糧を購入する手段がないと。

だが、食品や生活用品はクリスさんの方で購入してくれるらしく当面は凌げるようになった。クリスさんもそれは既に予想していたらしく、この密談が終わる頃には食材がアイシャの借りている部屋に届いているそうだ。その間に何とかできる環境を整えないといけない。

聖峰国では上手くいく事を祈るが…。多分、無理なんじゃないかな。邪神だし。


そして、夜も更けてきた時間に俺達の密談は終わった。ラインさんとライナさんは朱里が癒してくれた事にして、俺との繫がりは完全に無かったという事にしたが、記憶は残した。クリスさんは全てを知った上で黙秘し続けるという形で落ち着いた。全員、王族なのだ、それくらいの約束は守ってくれるだろう。

俺達は明日の明朝に、朱里を残して別荘に向かって出発。

相当に昔なのだが、その当時の王族が逃げる為に作ったと言われる隠し通路があるらしく、それなら王都から誰にも見られずに出られる。俺達はその隠し通路から王都ラグルノーラから海に向かって出発。別荘に到着したら今度は車を使って王都ラグルノーラを大きく北に回り込んで聖峰国を目指す。聖峰国に着いたら、朱里と合流をする。

勿論、俺は聖峰国でも敵対する可能性があるのだ。すでに俺の復活が勇者に対して「魔王復活の信託」となっていた。俺は世界の敵の可能性もある。

それに、遥か北の地に城なんて築いていないのだが、それっぽい事も言ってしまった俺はそのうちその問題とも直面する。どうでもいいが。

まあ、すでに世界より強いから何一つ問題なんてない。〈不老不死〉の効果で死なないはずだし。


そして俺、ティア、サーシャ、アイシャはすぐに準備を始めた。

といっても必要そうな物を考えもしないで片っ端から〈嫁倉庫〉に入れていくだけの簡単作業だ。サーシャは荷物を考えて用意しなくて良いことに喜んでいた。やはり、姫としては色々と生活用品が多いらしい。何か困れば車の中には大体揃っているから問題ないだろう。

あ、化粧台も用意しておいてあげよう。


そして俺達の準備が終わり、最後の平穏な夜は過ぎていく。

これからは、忙しい旅が始まる。それでも、俺は奥さん達と一緒の旅だ。

きっと楽しいものになるだろう。



これから更に話は転がり出します!楽しみに!

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