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異世界化物珍道録  作者: 橘 蓮
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第八話

さて、とうとうメインヒロインのアイシャまで出てきます!

「そ!れ!で!そのギルドマスター様はなんで俺に絡んできたんですかねぇ!?」

あまりに驚いたので、やつ当たりのように振る舞っている。

リンさんもいつもの事なのか、満面の笑顔で俺のサポートをしてくれている。

ただ、後ろから威圧感が怖いので振り返らない。

「そうですね…。サジウス様には、いつもいつも言っておりますよね?登録希望の方に絡んで試合をするのは止めなさいって。私もいい加減に怒りますよ…?」

すみません。俺も怖いです。止めて下さい。

どこの世界も嫁って怖いんですね。良い勉強になります。

うちはしっかりやりましょう。奥さんの笑顔は癒されるだけにしたいです。

「本当にすみませんでした。…リンよ。それより、こいつのランクどうするよ?さすがに大量の人間が見てるだろ?こればっかりは隠せないだろうし、越権でも上げちまうか?」

「ランク?Fスタートでは?」

ランクを上げるといった話になっているが、例外なく会議でのみ上がるはずだから上げられるはずがない。

不思議そうにしていたのか、リンさんが疑問に答えるように反応してくる。

「ケイ様、ギルドにはマスターとサブマスターが承認した場合のみ、暫定的にランクを上げる事も可能です。ただし、その場合はこちらから出す依頼をこなして頂く必要がありますが。そして、私達ギルドもこのギルド最強の男を圧倒できるほどの人材を低いランクで遊ばせるほどの余裕は無いのです。」

確かに、優秀な人材は使いたいタイミングで呼びたいものだしな。

「それに、私の夫が負けた相手が低ランクにいるなんて私は許しません。」

満面の笑顔なんだけど、リンさんの笑顔が怖い。

これは、受けるしかないだろうな。

「分かりましたよ…。」

「それでは、裏手にある解体所まで行きましょう。そちらでなら、オークを出して頂いて問題ありません。」

どうやら、買い取りはしっかり行ってくれるようで安心である。

移動中、サジウスから声がかかる。

「そういや、お前さんはメンバーはどうすんだ?」

「メンバー?なんですかそれ?」

「ああ。始めて来た人間には分かりにくいニュアンスか。あれだ。パーティーメンバーとか一緒に戦うメンツって奴だ。高ランクにすると一人でって訳にはいかないぞ?」

「なんでです?別に一人でも問題ないのでは?」

「日帰りで行ける依頼じゃない時は、夜の見張りはどうすんだよ。」

「あ。なるほど。ですが、俺は基本的に一人でやってますし、今までも一人でしたからね。これからも一人が楽なのですが。」

本当なら奥さんがいるが、黙っておこう。

正直、寝る時は車の中だから安全だしね!ヒュドラだって怖くない!

「今まではそうだろうが、これからもそうとはいかねえぞ?俺達もパーティー組んでるがリンと二人だと色々と大変だからな。まあ、それでも俺は嫁さん意外とパーティー組んで戦うのは、臨時以外はやらねえ主義だがな!」

おうおう。自然と惚気てくれますねぇ。

すると、今度はリンさんから「それでしたら、オークの買い取り金額で考えてみてはいかがでしょうか。」と提案がでる。その言葉に続けるようにサジウスが「そうだな。そんで、ここがその解体所だ。ここには、良く〈アイテムボックス〉持ちを通すから、これからはお前も通す事になるな!」と言ってきた。

そこは、先ほどの修練所が日本の競技場だと表現するなら、まるで大型倉庫だった。いくつもの大きな個室にそれぞれ解体前の魔物が入っているのか、そこから持ち出す人と持ち出されたものを解体する人がいる。まさに、仕事場という印象だ。

すると、サジウスとリンさんがぼうっと眺めていた俺に

「どうだ?ここもすげえだろ?こんなに熱気があるんだ。」

「それでは、オークを出して下さい。査定致します。」

「え、ええ。…。これは凄いな…。オークですね。全部出しますのでお願いしますね。」

そこで、リンさんから「えっ?全部?」と素のような声が上がる。

〈無限収納〉に収納してあるオーク、その数28体を取り出す。

「…。は?」「…え?」

二人が間抜けな反応をしているが、俺は買い取りをお願いしている訳だから、査定をしてもらわないといけないから戻ってきてもらいたいのだが。

「お、おい!?なんだこの量は!?」

「貴方は本当に何者ですか!?オークは単体でもCランクの魔物ですよ!?」

今度はパニックになっている。忙しい夫婦だ。

とりあえず、「慌て方といい、呆け方といい似た者夫婦ですね。」とからかっておく。

「査定して貰っていいですか?礼儀でしょう?冒険者に過去を聞かないのは。」

サジウスが悔しそうにしながら

「本当に聞けないのがこれほど悔しくなる日がくるとは思わなかったぜ…。」

呟いている。

傍から見たら俺は完全に化け物じゃないだろうか。まあ否定できる要素がないのだが。

リンさんが正気に戻って査定額を提示してくる。

「オーク1体当たりの討伐報酬が銀貨10枚ですので、銀貨280枚。更にオーク自体をお持ち頂いたので、追加報酬で1体辺り銀貨5枚とさせて頂きますが、この全身がボロボロの個体と上半身がない個体。首から下がない個体は計算に入れませんがよろしいでしょうか?よろしければ、全部で銀貨405枚で、金貨4枚と銀貨5枚となります。」

ぶっちゃけ、価値なんて良く分からないし、リンさんなら安心できるから任せてしまおう。ただ、オークの討伐報酬が高くないか?

「ええ。それでしたら問題ありません。しかし、オークは討伐報酬が高いですね?」

そう聞くとリンさんではなく、苛立ち交じりのサジウスが答えた。

「おい。うちの嫁になんてこと言ってやがる。普通に考えろ。オークがどうやって繁殖してる。馬鹿でもその質問を女相手にするんじゃねえ。」

「あ。これはすみませんでした。そうでした。女性に聞いていい質問ではありませんでした。」

即座にどういう意味か理解できた俺は二人に謝罪した。

「分かれば良いんだよ。ただし次に同じことしてみろ。分かったな?」

そこには、今までの軽い雰囲気のサジウスではなく、しっかり組織のトップの顔をしたサジウスがいた。

「それで、オークの討伐報酬が高いのは、簡単な理由で、ゴブリンと同じように女使うくせして、ゴブリンと違って個体が強いからだよ。個体での被害も多いからな。それで繁殖能力ゴブリン並みに高いから被害が減らないんだよ。それが、理由だよ。報酬が高いな。」

サジウスは、何だかんだ言って理由を説明してくれた。

「なるほど。それでしたら、謝罪の意味を込めて、そしてストレス解消も兼ねてこの周辺のオークを潰してきます。金はその時取りに来ますので、保管しておいて下さい。」

そういうと、俺は既に夕方になろうという時間の中、引き留める声にも耳を貸さずに外に向かって歩き出していた。そう、オークの説明時に思い出してしまったのだ。

俺の奥さんを襲って下品に笑っていた豚の顔を。

叩き潰してしまいたかった。とことん殲滅してやる。

ギルドから出る。街を歩いて外に向かう。

街の人達が両脇に避けていく。門番の兵士も、白い顔をして門の端に避けていく。

俺は街の外に出た。オークがいる森はここから3キロ程離れているが、〈神脚縮地〉を使えば数秒で到着できる。

「さて、オークども。俺のストレス解消の為にこの森から消えてもらうぞ?」

そして、その晩。森からオークは消えた。



ストレス解消も兼ねた、オーク狩りを夜通しで行った次の日、俺は森から歩いて街門まで戻って来ていた。そこに門番は居なく、ただ一人、サジウスが立っていた。

「おい!やっと戻ってきやがったか…。お前こんな時間まで何をしていたんだよ。」

「何って。お話した通りオークを狩ってましたよ?」

サジウスが呆れたように溜息を吐き出す。

「はぁあ…。お前さんの強さは確かに常軌を逸してるかもしれねえけどよ?それでも一人で行くなや?それ、もっと大型魔物でやってみろ?死ぬぞ?それに、街中で威圧を出して歩くな。昨日のお前が歩いた後の道、全員顔面蒼白で膝笑ってたんだぞ?お前さんが威圧するだけで一般人は殺せちまいそうだよ。」

どうやら、サジウスには思ったよりも迷惑を掛けてしまったようで申し訳なくなる。

「それは…。なんともすみませんでした。ご迷惑をお掛けしました。」

それと、俺も一応、職業一般人なんですが。そうですか。威圧で人が死にそうな一般人ですか。

「分かれば良いんだよ。それで?オークは狩れたか?」

話を変えるように明るい口調になったサジウスに、俺はどれだけ強くなってもこの男のような強さは手に入らないだろうと。そう思った。

「ええ。狩れましたよ。どれだけ図体がデカくても、たかが豚程度に負けるほど俺は弱くありませんからね。」

「はっはっはっ!本当に、オークを豚程度なんて呼べる奴はそうそう居ねえよ!」

サジウスは、この重々しい空気をどこまでも明るく笑い飛ばしてくれる。

「さて、それじゃ解体所に行こうぜ。どうせ〈アイテムボックス〉に入れてあるんだろ?全く、〈アイテムボックス〉だって容量があるってのに、どんだけデケェ〈アイテムボックス〉持っているんだか。」

すみません、容量なんてないです。なんて言えずに俺は笑ってごまかした。

サジウスとくだらない話をしながら街を歩いて行く。

すると、あちこちで話が聞こえる。「彼が黒炎…。」「そうだよ…。」「黒炎ってあの?サジウスさんを模擬戦で倒した?」「あんなイケメンなのに凄い強いのね…。」「神は二物を与えないんじゃねえのか…。」「うほっ!良い男。」

なにやら、最後に聞こえた声、途轍もなく不安にかられるぞ。俺はそっちの趣味はないぞ。それはそうと、「黒炎」ってなんのことだ?

「サジウス、黒炎ってなんです?」

「ん?ああ。話が聞こえたのか。良い耳してんな。それは、お前さんの二つ名だよ。ほら、俺との模擬戦で観客がたくさんいたろ?あん時の観客が、お前さんが最後に見せた黒い炎の剣から「黒炎」なんて二つ名を考えたみたいだな。しかも、お前さんその日のうちにいきなり威圧を撒き散らして街から森に向かって行ったからな。勢いよく広まったわけだよ。」

「はあ!?なんだそりゃ!?」

「はっはっはっ!!こればかりは有名税と思って割り切るんだな!」

サジウスが笑い飛ばしてくる。しかし、こちらはそれどころではない。確かに有名になるつもりではいたが、早すぎる。それに、「黒炎」なんてどちらかと言えばラスボスみたいな二つ名じゃないか!

そんな風に騒いでいるうちに解体所に着いたようだ。

解体所にはまだ誰も解体していない職員がいた。リンさんもいる。

その上、こちらを皆で見てくる。

「どうしたんです?誰も解体してないようですが?」

「そりゃ、お前さんの事だからまた凄い数のオークを潰してくると思ってな。オークは確かに厄介な魔物ではあるが、食用の魔物でもあるんだよ。だから、ここにいる職員総出で解体に当たろうと思ってよ。」

サジウスが疑問に答えてくれる。

「…。期待し過ぎじゃないですか?俺は昨日登録に来た新人ですよ?」

「昨日の威圧は素人に出せる威圧じゃなかったからな。必ず大量に仕留めてくると思ったんだよ。それに、ストレス解消って言ってたから一晩以内には帰ってくると思ってたしよ。」

本当に、この男の洞察力や行動力には脱帽だった。

「そこまで、期待されてるなら俺もそれに答えますかね。」

「それでは、昨日同様に出して下さい。」

リンさんから声がかかった。

「分かりました。全部出していいんですね?」

すると、今度はサジウスから待ったがかかる。

「待て。お前さん、今度は何体狩ってきたんだ?全部という言い方をした以上、昨日と同じくらいか?俺は正直、自分の常識を信じたいが、お前さんには通じない気がしたんだ。だから正直に言え。」

やはりサジウスが気にしていたのは、討伐数のようだ。

「えっと。814体ですね。」

だから、俺は正直に話そう。

「…へっ?」「はあ?」

また、同じように固まる似た者夫婦。

「どうしました?俺は言ったはずですよ?たかが豚程度には負けないと。」

リンさんが正気に戻ってきた。

「す、すみません。一応確認したいので、おそらくここなら入りきるはずですから出して貰っていいですか?」

と、解体所で出して欲しいと言ってくる。

「ええ。構いませんよ。さすがに俺も多いと思ってますから。」

俺は即座に814体のオークの死体を〈無限収納〉から取り出す。

おお。確かに相当な大きさの解体所だとは思ったが、確かに入りきった。

「ああ。もうあの森のオークは絶滅してそうなんですが…。」

リンさんが遠い目をしながら呟く。

「あ。分かりました?いや~。…。俺の女に手ぇ出そうとした豚と同じツラした豚が大量に居やがったからな。」

「ぴっ!?」

おっと、途中からどす黒いものが漏れていた。危ない危ない。リンさんが素で怯えている。それにしても、俺はなんで黒いものが漏れると口調まで変わるんだ?何かの称号か何かに引っ張られているんじゃ…。そういえば、確実に邪神様なんて称号が…。気にしたらダメだ。これ以上はイケナイ。

「こりゃあ壮観だな…。オークがこんだけ積み上がったのを見るのは。」

「これなら、当分の間のオーク被害の報告は減りそうですね。」

似た者夫婦はオークの山をぼうっと眺めていた。

「で、討伐報酬は貰えますか?」

俺は、さすがにいつまでも待っていたくも無いので、ここらで話を振る。

「あ。ええ。大丈夫ですよ。さすがにこの量となると全てを解体用に頂くと値崩れを起こしてしまいますので少しずつ買い取らせて頂けますか?討伐報酬に関しましては即金で払わせて頂きます。」

リンさんから、提案が上がる。

「分かりました。それでしたら、いつでもオークを出しに来ますので。一旦オークはしまいますが、何体を残しますか?」

「それでしたら、50体を頂けますと助かります。」

リンさんの話に合わせて、764体を収納する。

「…。もう何も言いません…。」リンさんがなにやら悟ったようにしている。その目はどこか、サーシャを見る朱里の目に似ていた。

「それで、814体分の討伐報酬と50体分の持ち込み報酬をお願いします。」

「そうでしたね。それでは、討伐報酬が銀貨で8140枚。持ち込みで銀貨250枚ですね。昨日の分と足してお渡しする金額は銀貨8795枚となります。金貨や銀貨の量を考えて白金貨も使わせて頂きますが問題はありませんか?」

凄まじい金額だった。

「ええ。問題ありません。」

「それでは、白金貨で8枚。金貨で7枚。銀貨が95枚となります。金額が多いのでこちらでお渡ししますので、お待ちください。」

そう言うと、リンさんは急ぎ足でギルドに戻っていった。

「お前さんはもうAランク上位でもやっていけるんじゃねえか?俺よりも圧倒的に強いだろ。」

呆れが大幅を占めた声でサジウスが言う。

「さすがに、まだ詳しく知らないといけない事も多いからな。そうそう上手くはいかないだろ?」

「はは!まあそうだな!まあ、お前さんに限ったら殺される未来が予想できねぇから安心出来ちまうけどよっ!」

そういうと、肩を叩いてくる。そんな話をしていたら、少し重そうに袋を持ったリンさんが戻ってきた。

「ふう。こちらが報酬になります。確認をお願いします。」

リンさんが確認を促してくるので、しっかりと確認する。

「ええ。確かに確認しました。それと、これは昨日面倒を増やしてしまった俺からお二人への詫びの印です。どこかで美味しいものでも食べて下さい。」

そういうと、リンさんの手に金貨を1枚握らせる。

「え!?こ、これ金貨ですよ!?」「お、おい!?金貨なんて簡単に出すなよ!?」

二人とも狼狽しているが、昨日俺が掛けた迷惑を考えれば妥当だろう。

きっと、とても奔走してくれたのだろうから。

「ほら。夫婦で何をしたいか相談でもして下さい。俺はもう行きますから。」

そう言って解体所から出て宿でも探そうかと思った所にリンさんから待ったがかかる。

「ま、待ってください。昨日お話したメンバーについてなんですが。」

「ああ。あれですか?俺の強さを考えたら要らないでしょう?」

失礼かもしれないが、俺は今後奥さん達とぶらり旅でもしたいのだ。

余計な人間関係を築くつもりはなかった。

「いえ、聞くだけでも聞いて下さい。」

リンさんからそれでもと言った雰囲気で声がかかる。

「分かりました。聞きましょう。」

俺は早く宿を探して寝たいのだが。

「おそらく、これほどのオークの量を狩れるケイ様にはメンバーを募集する形でやっていくより、奴隷を購入した方が良いのではないかと思いまして、呼び止めさせて頂きました。今回は、大量の報酬があるので奴隷くらいなら簡単に購入できるでしょう。」

「そうだな。奴隷なら戦闘をこなせるもの以外にも、冒険中の身の回りの世話をさせるなんていうのもあるしな。それに、奴隷と言われるとイメージが悪いかもしれないが、あれはあれで立派なもんだぞ。奴隷も種類によるが、しっかりと人権があるものがあるんだ。奴隷用の首輪や奴隷紋なんてもので、確かに奴隷を縛っているように感じるが、実際は主も縛られるんだ。例えば、奴隷の衣食住なんかは完全に保証しないといけなかったりな。」

二人が俺にそんな話をしてくる。

「なんで今のタイミングでその話を?」

「いやな。お前さんはよ。いつも誰かが傍に居たんじゃないかって思ってよ。今は何か理由があって一人なんだとは思うが、いきなり一人になるとよ。心細くなったりするんだよ。それこそ、どっかで折れちまう事もある。だからよ。俺はお前さんに折れてほしくないだけだ。奴隷商はここからそんなに離れてないしよ。」

サジウスは、本当にお節介だった。だけど、良いやつだと思った。

だから、「リンさん。貴方の旦那は本当に良い男だよ。ぜってぇ離しちゃダメだぞ?」と、からかっておく事にして、俺はここから出ることにした。

後ろからワーキャー騒いでいるのを耳に入れつつ、少し晴れやかな気分で街に出た。

とりあえず、奴隷商には行ってみよう。



本当に離れていない場所に奴隷商館があった。

というか、5件隣りだった。

「すみません。どなたかいらっしゃいますか?」と、商館の入り口付近で声を掛けてみた。

すると、奥から「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」と、割と胡散臭そうな男性が出てきた。

「いえ、ギルドで奴隷商館を紹介されまして、こちらがそうかと思い寄らせて頂きました。」

「おや、これは冒険者の方でしたか。失礼ですが、ランクはいか程ですかな?奴隷はそれほど安くはありませんよ?」

少し、馬鹿にするような雰囲気を出して聞いてくる。

「ええ。昨日登録したばかりのFランクです。」

すると、明らかに客ではないと思ったのか。

「こちらは個人を取引として扱うのです。冒険者の低ランクにお渡しできるような奴隷は扱っておりません。お引き取りを。」と言ってきた。

「そうですか。分かりました。ちなみに取引金額だけでも後学の為にお伺いしても?」

「最低で銀貨5枚でして最大でも白金貨2枚です。」

「随分と開きがあるのですね?」

「当たり前でしょう?犯罪奴隷や欠損奴隷を高額には出来ませんから。」

なるほど。確かにその通りだった。

それなら、冒険者が連れて歩くとなると、それなりの金額が必要なのだろう。

それなら、Fランクの冒険者では購入できないのも納得だ。

ただ、俺は一応、奴隷というのも見てみたかったりするので、ここは引き下がらずにいく事にした。

「ちなみに、私の事は本当にご存知ありませんか?まず、間違いなくお支払いできるだけの金額も持っていますが。」

「どこの貴族の方かは、存じませんが、私には私のポリシーがあって奴隷を扱っております。Fランクでは、奴隷を壁に扱うような者もいると伺った事もありますし、取引は致しませんよ。あまりしつこいようですと、こちらも兵士隊を呼びますよ。」

おや、少し粘り過ぎただろうか。

「これは、失礼しました。名乗りもしないで分かりませんよね。私はケイ・ホウゼンと申します。またの名を黒炎と申します。街の噂に敏感な商人でしたらご存知かと思いますが?」

ここまで来たのだ。奴隷くらい見せてよ?と、アピールしてみる。

正直、俺もこのような対応はしていて面白くないのだが、ここは我慢である。

「こ、黒炎ですって!?あのサジウス様から一本取った前代未聞の新人の!?」

おい。どんな噂になってやがる。

「ええ。私が間違いなくその黒炎ですよ。なんなら、サジウスに確認して貰っても構いません。」

「…。いえ、私はその名を語る事が出来るような愚か者がこの街にいるとは思えませんから。信じましょう。それでは改めまして。私の商館にようこそおいで下さいました。本日のご用件はなんで御座いましょうか?ご予算のほどから紹介させて頂きましょう。」

「予算は白金貨で5枚までです。奴隷というもの自体始めてみますので、一通り確認させて頂ければと思いますがよろしいでしょうか?」

すると、予算金額を聞いた商館の人は、目を見開いてきた。

「は、白金貨で5枚でしたら、商館の奴隷でしたら、誰でも購入可能な金額です…。一体何をしたらそのような金額を用意できるのですか…。」

どうやら、金額を聞いて驚いたようだ。

「なに。軽く森のオークを狩りつくせば良いのです。そうすれば、簡単に稼げますよ。」

ここは隠しても足元を見られてしまいそうだから事実を言ってみる。

「…。今、なんと?オークを狩りつくすと?オークの討伐報酬は銀貨10枚ですから最低でも500体は狩らないとその金額は…。まさか。本当に?」

どうやら、処理限界の情報になったようだった。現実に帰ってきてもらおう。

「それより、奴隷を見せて頂けるのですか?」

「ああ。すみません。ご足労ですがこちらへどうぞ。商館の奴隷を一通りご覧になれますので。」

そう案内された部屋には小奇麗された部屋の中に見た目の良い女性達がいた。

「すみません。私は冒険者ですよ?私のような者は特定の街に長居する事も少ないですし、依頼に連れて歩く事もあります。こちらにいるのは、皆さん見目麗しい女性ばかり、とても依頼に連れていけるとは思えないのですが?」

そう、この部屋にはあまり冒険向きとは思えない女性ばかりだったのだ。

「いえ、こちらにいる女性達も依頼に連れていくのは認可しています。」

「それはどういった事ですか?」

「おや?もしや、奴隷の立場について良くご存知ではないのですか?」

「ええ。失礼ながらそこまで詳しいとは言えませんね。」

「ご安心下さい。それでしたら、案内しながらご説明致します。」

色んな部屋に案内されながら、説明を受けた。

そこで知った奴隷の知識は、意外としっかりとしたものだった。

まず、奴隷紋や首輪には奴隷を縛る以外にも主人も縛るもので、奴隷の衣食住以外にも奴隷が指定した条件を守るように縛られるのだ。

ただ、奴隷が指定できるものは少なく、食事は三食必ず欲しいだとか、衣服はしっかり欲しいだとか、女性奴隷にはなるが夜の世話はしないといった、そういう簡単な指定である。

勿論だが奴隷の中には、身体欠損を抱えている者もいたりする。

そういった人は、指定できなかったりするのだが、その場合も衣食住はしっかり保証しなくてはならない。

犯罪奴隷は、一切の保証はいらない。等といった説明を受けた。

最後に、奴隷には絶対命令権があり、その権力で命令されると実行しなければならない。だが、実行させられるものは奴隷契約の時点で決まっているという説明を受けて終わった。

その間も色んな奴隷を見ていたが、どの奴隷もこれといって魅力的ではなかったのだ。何と言うか、俺を見ていないのだ。

確かにどの奴隷も美しく、可愛らしい人ばかりだと思ったのだが、何となく買いたいと思わなかった。確かに金を掛けているのか、綺麗な服を着ている人ばかりだったのだが。

だからこそ、買いたいと思わなかったのかもしれない。

最後まで見せて貰ったのだが、やはりこれといった個人的に魅力のある奴隷はいなかった。俺には個人的な秘密がある。だからこそ、それをよく思わなそうに感じた奴隷には購入意欲がわかなかったのだ。

最後の部屋まで見て、応接室に戻ってきた。

「いかがでしたか?我が奴隷商館の奴隷は?」

確かにたくさんの奴隷がいたのだが。皆、綺麗だった。それこそ傷などない程の女の人もいた。だからこそ、気になる事があった。

「すみません。こちらには欠損奴隷は居ないのですか?買うとは言えませんが、先ほどと同じく後学の為に見せて頂けませんか?」

「そうでしたな。確かに後学の為にとおっしゃっておいででしたね。それでしたら、こちらへどうぞ。こちらからは少々汚い場所もありますのでご了承下さい。」

案内されたそこは、先ほどまでの小奇麗にされたものとは天と地と言える差があった。

そこは、全体的に薄汚い。服も貫頭衣ばりの服でしかなく、部屋も大部屋に全員押し込んだ形で、誰一人身体が無事な奴隷は居なかった。

だからこそなのだろうか。どの奴隷も希望など信じていない眼をしていた。


そして、彼女はそこにいた。

黒い髪に金色の瞳。この薄暗い部屋の中で尚も黒い色を主張する髪の毛と、まるでその夜に浮かぶように光る二つの瞳。整えられていない髪も希望を抱いていない瞳も。それでも、綺麗だと思えた。

「あの娘はどうしたのですか?」

「おや、どれかお気になる奴隷がいましたか。それで、どの奴隷でしょうか?」

「あー。あの黒い髪の奴隷です。」

「彼女ですか。彼女は…。」

かなり言い渋っている。

「何か問題があるのですか?」

「…。ええ。彼女はこの中でも一層傷が大きく、依頼等には向かないのではないのでしょうか?」

それでも、俺は彼女から目が離せなかった。

「どのような傷なのですか?」

「聞いても…。彼女を見る目を変えないと約束して下さい。」

それほどの傷なのだろうか。ここは薄暗いから良く見えない。

「…分かりました。約束しましょう。」

すると、彼は近くにいた奴隷に声をかけた。

「おい、誰か。彼女を連れて来い。」「分かりました。」

すると、すぐに彼女は連れて来られた。

足は引き摺っている。足が動かないのだろうか。彼女はすぐ近くに来た。

「彼女は、衣食住以外の指定はありませんが…。おい。誰か貫頭衣を。」

そういうと、彼女の貫頭衣を脱がせた。

その服の下から、出てきた肌には無事な部分の方が少ないのでは無いのだろうか。

どこもかしこも切り傷や痣でボロボロになっていた。

年齢も良くわからないが、おそらくサーシャくらいではないだろうか?

彼女の胸は削ぎ落とされたのか、もう元の大きさは分からない。

「彼女は、夜の奉仕は認可してますが、正直に言いますとどちらも壊されてしまっております。言い方は悪いのですが、使い道は全くありません。」

文字通り、上も下も壊されていた。

それでも、彼女は俺の目に止まっていた。

首に嵌った無骨な首輪が痛々しい。

「彼女はいくらです?」俺は気が付いたらそう言っていた。

「え?」奴隷商人の彼は驚いていたが、すぐに気を持ちなおして

「銅貨15枚でございます。」と言い切った。

「随分と安いのですね?」

「それは、致し方ありません。…。私は奴隷商人として誇りを持っています。確かに色々な奴隷を受け持ちますが、私は彼女達に幸せになって貰いたいのです。それがどのような幸せなのかはその人それぞれですが、ね。ですが、私から見ても、言いにくいですが、彼女は幸せになれるとは。思えません。彼女は心すら閉ざしてしまってます。」

悲しそうにそう言う彼のその目は、彼の本心を見せているようだった。

「それでもだ。彼女は俺が買う。」

もう敬語で話すのも億劫だ。

「…。分かりました。その代わりにあの子を幸せにしてあげて下さい。私はその幸せすら探してあげれなかったですから。」

彼は最初の印象から考えると、随分と優しく見える。

おそらく、彼も彼なりの対応をしてきていたのだろう。

「幸せなど人それぞれではないか。」

俺は、先ほど彼が言った言葉通りにそう言った。

「だが、約束しよう。貴方が俺の秘密を守るのなら、明日また来ると。」

そう、俺は彼女を連れて帰るともう決めていた。

そして、彼女を確実に癒してみせるとも。

俺は、彼に銀貨を渡す。

「これは取っておいてくれ。俺が貴方の心意気に触れられた礼だ。」

「これは…。分かりました。ありがたく頂戴します。」

彼女を横抱きに抱いて応接室に戻ってくる。

「それではこれより、彼女の所有者を移行します。彼女とともにこちらの魔法陣の中にお願いします。」

「ああ。分かった。」

俺は彼女を抱いたまま魔法陣まで歩く。

「ここで良いか?」魔法陣の真ん中でそう聞く。

「ええ。問題ありません。それではこれより移行させて頂きます。」

すると、彼が何か唱えた後すぐに魔法陣が光り出す。

俺は彼女を見る。きっと未だに身体は痛いのだろう。でも、彼女の目に光はない。

死んでいるわけではない。だが、既に心は死んでしまっているのかもしれない。

でも、俺は何故か彼女から目を離せなかった。

…。奥さん達になんて言おう。気にしないでおこう。


光が収まった。

「これで所有者はケイ様になりました。」

彼から声がかかる。

もう、敬語で喋るべきだろう。

「分かりました。ありがとうございます。それと、この辺りに質の良い宿はありますか?」

「いえ、こちらこそ奴隷のご購入ありがとうございます。宿でしたら、ここを出て頂きまして右に4軒隣りでございます。そちらなら満足頂けるかと。」

この辺りは仕事顔をしている。先ほど見た彼の本心は、でもとても尊敬に値すると思っている。だから

「また。明日来ます。今は少しでも彼女に幸せを感じて欲しいですが、また顔を見せる為に。」

「お待ちしております。」

そこまで会話をして、俺は商館を出る。

奴隷商館に入ったのはまだ昼前だったはずだが、気がつけばもう時間的には15時になろうかという時間だと思われた。

俺は彼女に〈無限収納〉から出したタオルをかけて宿に向かう。


本当にすぐだった。なんでこの辺りに固まってるんだよ。

すぐに宿に入ってみることにした。

「すみません。本日宿泊でお願いしたいのですが、部屋には空きはありますか?」

と、声をかけて確認をとる。

「いらっしゃい。宿泊のみで銭貨15枚。夜と翌日の朝の飯を付けるなら追加で銭貨10枚だよ。」

そこには、恰幅のいいおばちゃんがいた。まさにTHE宿屋のおばちゃんだった。

「(すげぇ。まさに異世界だわ。こんなところで異世界感じるとは…。)なら飯込みで宿泊を10泊頼みます。」

「分かったよ。なら銭貨250枚だね。」

「これで頼みます。」

そう言って銀貨を渡す。今更ながらに物凄く金を持っているのではないかと不安になってきた。

「銀貨だね。なら銅貨97枚と銭貨50枚の返却だよ。それと寝る前に身体を拭きたかったら言っておくれ。銭貨5枚で、と言いたいところだが、サービスさせて貰うよ!」

どうやら、サービスしてくれるようだがここは遠慮しておこう。俺には魔法があるし。

「いや、大丈夫ですよ。ありがとうございます。」

そう言って部屋に案内してもらう。

「ここが部屋だよ。外出する時はカギを閉めて、カギはカウンターに戻しておくれ。」

「分かりました。それでは、私達は部屋にいます。それと、これで私が抱えている彼女にこれから起こる事を黙っていて下さい。」

そう言って再度銀貨を握らす。

「あたしゃあ、そこまで口は軽くないよ?安心しな。だからこれは返すよ。」

銀貨を返される。「その代わり、その子の事大切にしなさいよ?」

「当たり前でしょう?」俺は扉を閉める。


「さて、どうすっかなぁ。とりあえず、〈サイレントフィールド〉。」

俺は部屋のカギを閉めて、〈サイレントフィールド〉を使う。

彼女をベットに降ろす。

「喋れるかい?名前は?」

彼女に聞いてみる。

「…。」彼女無反応のままだ。もう全てに絶望しているのだろうか。

でも、俺は彼女に少なくとも幸せになって欲しい。

だから、とりあえず回復させてみよう。

「〈キュアライト〉!」

〈超級回復魔法〉を使ってみるが、回復したのは身体の痣までだった。

もう長い時間、傷があった為か治りが遅い。

元々〈回復魔法〉の種類は他の〈系統魔法〉と同じだけランクがある。

〈初級:エイド〉簡単な傷が治る。

〈中級:ヒール〉剣や魔法による欠損以外の傷や火傷が治る。

〈上級:キュア〉指などの簡単な欠損まで治る。

〈超級:キュアライト〉腕や足などの欠損でもある程度癒せるが、時間が立っている場合は回復不可能な事もある。

〈破滅級:パーフェクトキュア〉その年齢での身体の全盛期まであらゆる傷を癒す。

〈天災級:キュアファンタズム〉回復不可能だろうと関係なく問答無用で完全に回復させる。癒せない物理的な傷は存在しない。死んでいても5分以内なら蘇生可能。


「…!」

〈キュアライト〉に対して彼女が僅かに反応した。

「大丈夫?俺は君の事を傷つけたりしないよ?だから、大丈夫だよ?」

彼女の瞳に光が僅かに戻ってくる。

「…わ、わだじは…。」その声はガラガラ声だった。まるで叫び続ていたから壊してしまったかのように声が出ていない。

「良いんだよ。喋らなくて?大丈夫だから。〈キュアファンタズム〉。」

俺は彼女には幸せになって欲しい。

そう思っているから、俺は〈天災級回復魔法〉を発動させる。

どれ程の傷だろうが、完全に治る。そう、どれ程の時間が立っていても。

例え呪いであっても回復させる。まさに天災のような魔法。


光が引いていく。傷が治ったのだろう。

完全に光が引いたそこには、猫耳を生やしたメロン美少女がいた。




HS~ヒロインサイド〈アイシャ〉~


わたしの名前はアイシャ。

猫の獣人族だ。ただ、黒髪という、猫の獣人族にとって不吉な色だった。

それでも、わたしの両親は良くしてくれた。でも、両親はわたしが8歳の時に死んでしまった。とある人族の王国に行商の時に盗賊に襲われたのだ。その時に、わたしは盗賊に捕まった。

わたしは、運が良かったのか。盗賊はわたしに手を出さずに奴隷商館に売ったのだ。

でも、わたしの運はそこまでだった。その奴隷商館は汚い商売をしている、所謂、裏商会だった。わたしはその王国の貴族に買われた。奴隷としての指定は何も出来ず、わたしは拷問部屋のような場所に連れて行かれた。最初に足の腱を切られてエイドで回復された。歩けなくなってしまった。そこからはベットのようなものに縛られて、全身を壊されていった。自慢の耳切られてなくなった。お母さんが褒めてくれた綺麗な尻尾も切られてなくなった。

女の子としても全く使い物にならなくなるのは、それからすぐの事だった。

わたしはそれから、どれだけの時間そこで過ごしたのだろう。

おそらく12歳くらいになっていたと思う。

その貴族はわたしに飽きたのか、そこで全く知らない国に売られたのだ。

どうやら、ヘンズール公国というらしい。そこの奴隷商の人が声を掛けてくる。

「今まで痛かったよね。もう、ここに居れば大丈夫だから。」

でも、わたしはもう壊れていた。

誰も信じたくない。痛くしないで欲しい。怖いのは嫌だ。でも、表情は動かない。声も出ない。


誰か…。助けてよ…。


それからのわたしは誰にも見てもらえない部屋にいた。

暗いし汚く感じたけど、今までの方が辛かった。だから、今でも十分幸せだ。


誰でも…。良いから…。わたしはもう…。


ある日、金髪のカッコいい人が来た。

ずっとわたしをその紅い目で見ている。わたしに興味があるのだろうか?

着ている服も豪華だった。また貴族だろうか?もう何も聞こえない。

もうボロボロになって何も出来ないのに。


わたしは…。しあわせに…。普通でいいから…。


どうやら、わたしを買うようだ。

なんで?こんなに壊れているのに。

どこかまだ壊せそうな場所でもあったのかな?


助けて…。欲しいよ…。


彼はわたしの所有権を得た。

その足で宿屋行くようだ。家に行くのではないのだろうか。

彼は何がしたいのだろうか。全身壊れているのに。


誰でも…。ううん…。わたしの王子様…。

いつか…。助けてくれるって…。思ってた…。

夢…。見てる時は…。しあわせだった…。


宿の部屋に着いたようだ。

彼が何か言ってくる。でも、ごめんなさい。聞こえないの。

わたしは、もう耳も聞こえないから。

彼が魔法を使ってきた。また痛いと思った。


なんで…。やっぱり…。黒髪は不幸なんだ…。


でもその時、ずっと襲っていた痛みが少しだけ引いた。

身体が反応する。彼は、わたしを助けてくれる?


わたしを助けてくれるの…?


その時、わたしの周りに温かい光が輝く。

私の中に光が染み込んでいくように消えていく。

痛みが引いていく。身体に感覚が戻ってくる。

光が少しずつ消えていく。

全てわたしの中に消えた。そこには、今までの傷が嘘のように消えていた。

耳も尻尾もある。削がれた胸も元にもどっていた。身体中の傷はもう、残っていなかった。

そして、今までの痛みが嘘のように消えていた。



メインストーリー〈北條京嗣〉


そこにいた少女は、ネコミミ美少女だった。

そして貫頭衣を完全に破りそうな、もうメロンというよりスイカだ。

髪の毛もボロボロだったのが嘘のように綺麗に流れている。

俺が気になるのか、こちらに顔を上げてくる。

強烈な存在感を放つスイカが揺れる。

あれは凶器だ。俺の理性を砕く凶器だ。

さて、現実逃避は止めよう。

「改めて、始めまして。俺の名前はケイ・ホウゼン。君の新しい主だ。」

俺は揺れるそれには目を向けないように気を付けつつ、彼女の目を見て挨拶をする。

「あ…。始めましっ!」彼女は喋る途中で驚いたように口を噤んだ。

どうやら、喉も元に戻ったようで何よりである。

「うん。ゆっくりでいいからね?俺は君をただ守るから。」

すると、彼女は泣き出してしまった。

「うっ…。うう…。ひっ!」

「ここには君をいじめる人はいないから。誰一人いないから。」

それから、俺は彼女が泣き止むまで頭を撫で続けた。

一時間はたっただろうか。彼女は泣き止んでいたが、今もまだ彼女の頭を撫でていた。いやあ、ネコミミって素晴らしいですね。主に感触が。

「ありがとうございました…。」彼女から声がかかる。

「もう、大丈夫なのかい?」俺はまだ撫でている手を特に休める事もなく聞く。

「あの、はい。大丈夫です。」彼女は今もまだ撫でられている状況に少し戸惑っているようだ。

「そうか。それはよかった。それで、君の名前を聞いてもいいかな?」

俺はまだ彼女の名前すら知らないのだから、聞くのは当然だろう。まだ撫でている。

「あ。そうでした…。わたしはアイシャと言います。ご主人様。」

「うん。アイシャだね?俺の事は好きに呼んでくれて構わないよ?」

こんな美少女だと一度くらい「お兄ちゃん」って呼ばれてみたいけど。

勿論だが、まだ撫でている。髪の毛もフワフワだしネコミミも柔らかい。まさに完璧だった。

「あの、それでわたしは何で撫でられているのですか…?」アイシャから当然の疑問が出てくる。出てこないと不安になる疑問だが、勿論俺は止める気はない。

「そこにアイシャいるから。かな?」もう理由なんてどうでも良くなってきていた。

「へ?」アイシャがフリーズした。なでり。なでり。

「アイシャ。大丈夫かい?」まだ撫でる。とことん撫でる。

「あの、わたしはどういう目的で購入されたのでしょう…?」当然の疑問か。今まで怖い事しか無かったのだろう。震えている。でも撫でるけど。

「そうだね…。幸せになって欲しいんだ。君には。ただ幸せに。」

良い事言ってる風にして撫でているこの絵面は完全に犯罪じゃないだろうか。気にしたら負けである。

「にゃ…。幸せ…ですか?」アイシャ、「にゃ」って言うんだね。可愛いから更に撫でる。

「うん。幸せなんて人それぞれだと思うよ?でも俺は君の幸せを見つけてほしい。」

良い笑顔で言えたと思う。それなりにカッコいい感じじゃないだろうか。ただし、延々と撫でていなければ。

彼女の身長は140cmあるかどうか。対して俺の身長は180cm以上。だからちょうど撫でやすい位置に彼女のネコミミがあるのが悪いのだ。断じてそういう趣味ではない。たとえ、二段底の下にそんな感じの本を持っていたとしても。

「それなら、わたしは。ここにいても良いんですか…?ご主人様といても良いんですか…?」

アイシャがこちらを見てくる。撫でるのは止めない。

「そうだよ。俺なんかの傍で良いならいくらでも居ると良い。」

この後の嫁さんへの報告でどうなるかは不安で仕方ないが、とりあえず、正座までで許して貰えるように努力しよう。

「分かりました…。それならわたしは。ご主人様とともに…。」

「あー。アイシャ?その「ご主人様」っていうの止めてほしい。俺はそんな人格者じゃないしさ。」そういうと、悲しそうにこちらを見てくる。

「ダメ…なんですか…?」

泣きそうになってきている。

「いや、そのね?俺はその呼ばれ方はくすぐったいんだ。せめて、他に何かないかな?」矢継早にそう言うと、アイシャは少し考えたようにしてから、小首をかしげて「ケイ様では…?」と聞いてきた。可愛い。また撫でる。いやまだ撫でていたけど。

「アイシャは可愛いなあ。やっぱり「お兄ちゃん」って呼んで?」

本音が完全に漏れた。

アイシャが固まっている。「???」という感じで頭の上にはてなマークがたくさん浮かんで見える。いや、頭の上には物理的に俺の手が乗ってますが。なでりこ。なでりこ。

「お、お兄ちゃん…。ですか?」可愛かった。もうこの可愛さを守るために世界を滅ぼせるレベルだった。

艶のある軽いウェーブのかかった肩甲骨くらいまである黒髪も、くりくりとした金色のの瞳も、すぅっと通った鼻筋も小さな唇も。全部が芸術かと思った。思わず撫でる。

いや、ずっと撫でているけど。

そこまできて俺はようやく考えた。今の俺ならイケメンだ。

つまり、イケメンスマイルでごり押せないか?

「ああ。そう呼んで貰えないかな?」そう言ってイケメンスマイルにチャレンジしてみる。目を細めて微笑みかける。

アイシャは少し恥ずかしそうに「お、お兄ちゃんがそれで良いのでしたら…。」といってくれるが、これじゃあダメだ。敬語なんて妹には要らない。「敬語も使わなくて良いから、ね?」とまたごり押す。すると、「う、はぃ。じゃなくて、うん。お兄ちゃん。」と言ってくれた!完璧だった!また撫でてしまう。いや、さっきから一度も撫でるの止めてないけど。

「それじゃ、アイシャ。服を買いに行こうか。いつまでもその服じゃ、ね?」

そういうと始めて自分の服装に気がついたのか顔を真っ赤にしてしまった。可愛い。

「い、いいの?お兄ちゃんにお金使わせちゃうよ…?」

「アイシャの為なら服に白金貨までいけるな。」思わず心の声が口から出ていた。

最高金額だった。もう〈神器創造〉で作ってしまおうか?決して壊せない普段着を。

「にゃ…?お、お兄ちゃん?冗談は止めよ…?」

とりあえず、この無骨な首輪要らないな…。〈固有魔法:神〉で作り変えてしまおうか。

いや、面倒が増えそうだ。アイシャには申し訳ないけど、ここはまだ残しておこう。

「アイシャは可愛いなあ。何も気にしないで買い物に行こう?」

さて、今の所持金を確認しよう。白金貨8枚、金貨6枚、銀貨93枚、銅貨97枚、銭貨50枚だった。まだまだ残っている。

アイシャの腰に左腕を回して片腕でアイシャを抱き上げた。

「さて、アイシャ。服を買いにいくよ?」

俺はアイシャを抱きかかえたまま部屋を出た。カギを閉めてロビーに行く。

アイシャは「あう…。あう…。」と言っていたが無視である。

そこには、さっきのおばちゃんがいた。

「カギはこっちで預かるよ。服買いに行くんだろ?それなら、安物は大通りの露店で、高いものなら服飾店を見るといい。どっちも大通りだから楽なもんだろ?」

おばちゃんは笑顔で何も聞いてこない。このおばちゃんは良いおばちゃんだったようだ。俺は、そのおばちゃんの心意気に打たれた。今の俺は機嫌がいいのだ。

「おばちゃん、やっぱこれを受け取ってくれ。その心意気に対する俺からの礼だ。」

そう言って、銀貨をカウンターに置く。

おばちゃんは「戻ってきたら、最高の飯を用意しといてやるよ。楽しみにしてな!」と言ってそれを受け取った。最後に「そっちの嬢ちゃんの分もね。」と言ってくれた。

それを後ろ手に聞きつつ街に出る。もう夕方という時間だが、街にはまだ活気がある。

大通りに向かってアイシャを抱きかかえたまま進む。アイシャは処理限界を超えたのか、まるで記号のような顔をして呆けていた。そう丸と三角だけで描けそうな顔だった。そんなアイシャも可愛い。

どうやら、高い方の服飾店に着いたようだ。

俺は金だけならいくらでもある。だから、問答無用で行ってみる事にした。

おもむろにカウンターに金貨を置いて「こんにちは。この子の服を買いに来ました。見てもらっても良いですか?」とカウンターに居た女性店員に話しかけた。

女性店員はいきなりカウンター来た俺に驚いた様子だった。そして、奴隷に高級服を着せることに、それに金貨を出すことに更に驚いたようだった。

「わ、分かりました。それで、そちらの奴隷で問題ありませんよね?」

確認してくるが「ええ、金はもっと掛かっても構いません。この子に最高の服を数点お願いします。」と、今度は白金貨を見せる。

店員が「!?」という顔をして手を叩いた。バックヤードから店員らしき人が更に四人増えた。「それではお嬢様にはこちらに来て頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」と先ほどまでの狼狽ぶりが嘘みたいに、そこには、凛々しい店員の姿があった。

アイシャが引っ手繰られて奥の部屋に連れて行かれた。

ここまでアイシャは文字通り歩いてないな…。なんてどうでも良い事を考えながら待つこと二時間半。


アイシャが出てきた。そこには、今までの貫頭衣から大きく姿を変えたアイシャが立っていた。

全体的にふんわりとしたイメージを宿している淡いピンク色のワンピース。

胸が大きい為、どうしてもストンとした服しかないかと思っていたが、それを革製の黒いベルトで腰元を締める事によって大きな胸があるとは思えない細いくびれをアピールして、足元はサンダルブーツで綺麗に細い脚を魅せる。更に脚を締めているブーツ部分のふくらはぎの食い込みは、まさに芸術だった。

俺は横で満足そうに微笑む店員さんとアツい握手を交わした。

心で「あんたの仕事には感激した。」と伝えるように。

店員さんの顔からも「満足したぜ…。」という男らしい(女性店員です)笑みが浮かんでいた。

「あの、お兄ちゃん…?」アイシャが不安そうに見上げてくる。

今までの奴隷らしさは消えて、そこに居たのはただのネコミミ美少女だった。

しかも、ワンピースのスカート部分がふわりと揺れて細い腰には似合わない肉感的な脚が見える。もうダメだった。アイシャを左腕で抱きかかえて撫でる。

アイシャが恥ずかしそうにしているが気にしない。

「それで、これ以外にはどのような物を?」

ここは、他にどんな天使に会えるのか店員に聞いてみる事にする。

すると、店員は「ここは明日以降の楽しみに取っておかれてはどうですか?」と言ってきたのだ。普通に考えたらどのような服なのか確認もせずに購入するなんて馬鹿の所業だろうが、俺は楽しみに取っておきたくなった。

だから「店員さん。俺は貴女を信じよう。会計は?」と切り替えした。

「下着類も無かった為、相当数になりました。が、私達も久しぶりによい素材に会えました。この出会いに感謝の意味を兼ねて金貨1枚と銀貨50枚でいかがですか?」

女性店員の後ろには、もはや小山と言える程に服が積まれていた。

「それに、お嬢様は大変スタイルがよろしいですので、服を探すのも一苦労かと。」

その金額は普通に考えたら、高いのだろうが俺からしたら端金である。

また収入になる魔物を狩りつくせばいいのだから。

「買いましょう。」と俺は金貨1枚と銀貨50枚を取り出す。

女性店員は銀貨の枚数を確認すると「お買い上げありがとうございました。」と良い笑顔で言ってくる。俺も良い買い物だったと思った。

今度は奥さん達も連れて来よう。皆、綺麗だからまた良い買い物ができるだろう。

「お荷物の方はどうなさいますか?」と女性店員が聞いてくる。

俺は「〈アイテムボックス〉に入れて帰れます。」と伝えることにした。

そこで一芸してこの礼をしようと思ったのだ。

「そちらの服全てですよね?入れていきますので、頂いても?」

と声を掛けて服をしっかりと入れていく。そして、最後の一枚を入れる時に「うん?おや、少し容量が足りないな。」と言って渡された服と入れ替えるように金貨を1枚取り出して「これで先ほどの方々と晩餐でもどうぞ。」と渡して店舗を出る為に振り返った。

内心で、「どこのドラマだよこれ」なんて思っていたが、敢えて気にしない。

絶対にそのうち黒歴史になるけど、それは店員も同じはずだし。

店員の「ありがとうございましたぁ!」という声をBGMに外に出た。

俺は片手を上げて返事をしようと思って、両手ともアイシャで塞がっていたので諦めて店を出た。


後日、この話を聞いた奥さん達から「ケーくん馬鹿なの?」とか「旦那様は馬鹿なんですか?」とか「あなた、私が言えたものではないですがお金は考えて使って下さい。」と注意を受けるのだが、その次の日に奥さん達にも服をたくさん買ったのでお許しを得た。


宿に戻る道すがら抱きかかえたままのアイシャが話しかけてきた。

「あの、お兄ちゃん?なんでわたしは抱きかかえられてるの?」

そう、俺はずっとアイシャを抱きかかえて街中を歩いている。

その光景は、周りの人がひそひそとこちらを見ながら話すくらいに。

「彼って「黒炎」よね?」「なんで子供を抱えて…。奴隷だから誘拐じゃないのでしょうけど」「それより、あの子の服、あそこの店よね?」「うそ!?高級服じゃない!?」「それより、ギルドに通達は?」「もう行ってるわよ…。」

どう見ても犯罪臭がする姿だった。だが、俺はもう悪名高き「黒炎」なのだ。もう今さらである。

「んー?アイシャが可愛いだからかな?」と、心からの言葉を伝える。

「にゃ…。可愛いといって貰えるのは嬉しいけど…。わたし、歩けるよ?」

「俺がこうして居たいんだ?ダメかな?」

それに、アイシャの足はまだ回復したばかりだ。いつから歩いていないのかはわからないが、負担を掛けずに済むならそれに越したことはないだろう。

「それにゃ…。それなら良いけど。」アイシャは少し恥ずかしそうに顔を逸らした。

「それじゃ、宿に戻ろうか。」


宿までずっと、俺に抱きかかえられたまま街を歩かずに終わったアイシャの街歩きにはもう言い訳のしようがないが、アイシャが可愛いからしょうがないのだ。

「おや、戻ってきたかい?お嬢ちゃんも可愛い服買って貰ったんだね?良かったじゃないか!」おばちゃんが出迎えてくれた。やっぱり、このおばちゃんは良いおばちゃんだ。

「ええ。俺からしても良い買い物でした。ありがとうございます。」

俺はおばちゃんの紹介でいったようなものだから礼を言う。

「いいんだよ!あたしゃあな?いい子が幸せになってくれないのは悲しいからねえ!それよりほら!飯はできてるよ!部屋まで運ぶかい?それくらいならサービスするよ!」

「それでしたら、ぜひお願いします。奴隷と同じ席に座っているのを良く思わない客もいるでしょうから。」と、俺は飯は部屋で食べる旨を伝える。

「あいよ!それじゃ先に部屋行っときな!すぐに持ってくさね!」

俺はおばちゃんからカギを受け取り部屋に向かう。

勿論だが、アイシャはずっと俺に抱きかかえられている。

アイシャも慣れてきたのか、今では頭を擦り付けて来てくれる。可愛い。


部屋に入ってアイシャをベットに降ろした。

「あ…。お兄ちゃん…。」なんて寂しそうな声がアイシャから聞こえて、思わず俺もベットに座って膝の上にアイシャを座らせて後ろから抱きしめた。所謂、あすなろ抱きである。頭も撫でる。

そのままアイシャの少し高い体温とフワフワの耳を楽しんでいるとドアをノックする音がした。おばちゃんだろうか?

「はい。開いてますよ?」と声を掛けた。

「ほら!料理持ってきたよ!」とおばちゃんが入ってくる。

そして、俺達を見て「うん。良い関係じゃないか。お嬢ちゃん?いい主人で良かったね。そんであんた。必ずこの子の事を守るんだよ!?」と言ってきた。

言われるまでもない。でもその言葉に少しだけ胸が熱くなる。「言われるまでもない。俺の女に手を出すなら地獄の果てまで追い詰めて必ず滅ぼしてやるさ。」と言い切った。最近、俺の身体が変に悪役チックになるのはなんでだろう?いや、考えるな。それはダメだ。

「うにゃ!?お兄ちゃん、さすがにそれは恥ずかしい…。」アイシャが恥ずかしそうにしているが、その姿も可愛い。

「うんうん。なら良いんだよ。ほら、冷えないうちに食っておくれ。食べ終わったら廊下に出して置いてくれれば後で片付けておくからね!」

おばちゃんが出ていく。

俺はアイシャを備え付けのテーブルに置いて貰った料理を食べさせる為に、椅子に座った自分の膝の上に座らせた。

料理は簡単な野菜と鳥っぽい肉のスープに白いパン2個だったが、美味しそうだ。どうやら、王城の時のように日本と同じような食事は望めそうにないが、これなら満足である。

「え?お、お兄ちゃん?なんでわたしまだ膝の上なの?」

「え?だって膝の上じゃないとダメだろ?」そう言って俺はスープを掬って「ふーふー。はい。あーん。」とアイシャの口元に出した。

「え?あ、あーん。」と小さな口でスープを飲むアイシャも可愛い。

その後も実に三十分に渡り、アイシャに「あーん」をさせるのは続いた。

「よし。アイシャは満足したかい?」と食べ終わったアイシャに聞いてみる。

「うん。あの、けぷっ。あう…疑問を挟む余地もなく始まったけどね。なんでわたしは食べさせられてたの?」アイシャが不思議そうにこちらを見てくる。

「アイシャが可愛いから。それ以外に理由はないかな。」

俺の暴走具合にも拍車が掛かっていた。

「にゃ?それは、理由になるのかな…?」どうやら、アイシャは自分が処理限界に達すると「にゃ」と言ってしまうくせがあるようだ。可愛い。

そして、どう考えても理由にならないのだが、アイシャは悩んで気が付いていない。

このまま有耶無耶にしてしまおう。「アイシャ、俺も食べるから一度降ろすね?」とアイシャを降ろそうとした瞬間。「それじゃあ、今度はわたしがやってあげる…。」なんて赤くなった頬を隠しながら言ってきた。

「はい。どうぞ?」アイシャが膝の上のまま器用に料理を口元に運んでくれる。


お兄ちゃん今日だけで悶死しそう。


と、どうでもいい思考が入ってるうちに至高の時間は過ぎ去ってしまった。

アイシャは満足したのか眠そうにしていた。

アイシャをベットに寝かして頭を撫でながら俺はアイシャを寝かしつけてアイシャが寝息を立て始めたのを見計らって〈嫁通信〉を使う。

『皆聞こえるか?今は大丈夫か?』

少しだけ慌てるような雰囲気が伝わってくる。

『どうしました?あなた。』ティア以外に反応がないと思っていたら

『だ、だんにゃしゃま!ど、どうしましたか!』と、慌てすぎてまともに呂律の回っていないサーシャからも返事があった。

ちなみに朱里は『んー。ふぅ…。むにゃ…。』という寝言が聞こえてきたのでもう諦めた。早々のうちに朱里を〈嫁通信〉からフェードアウトさせる。

『いや、報告があったんだ。だから、大丈夫か聞きたくてな?』

『私はいつでも大丈夫です。あなた。声が聞けるだけでも元気になりますから。』

『…下着変えないと…。私も大丈夫ですよ旦那様。どうしました?…あ、びっくりしてドレスにも少し…変えないと…。』

サーシャは何となくもう突っ込んだら負けだろう。いや今日の俺ほどじゃないか。

『あー。うん。実は奴隷を一人買った。』

なんて言われるか分からないけど、正直に言う事にした。

『そうでしたか。』

『連絡はそれだけですか?』

すると、どうしてか二人とも実にあっさりしていた。

『あ、あれ?俺、怒られないの?』

『旦那様?きっと、その人を買ったのには理由があるんでしょう?救いたいと思ったのでしょう?それなら、私達は妻として支えるだけです。それに、きっと一人だったのでしょう?一人は寂しいと思います。私はもう王城で一人は嫌ですから。』

『あなた?私も同じです。今はあなたが。朱里さんにサーシャさんが居ます。神域でひとりぼっちだった時には考えられません。それに私達が好きなあなたは、誰かにその優しさが分け与えられるあなたですから。』

心が温かくなってくる。本当に出来た奥さんだと思った。

『そうか。ありがとう。今度しっかり紹介するよ。それじゃ、今日はこの辺で。また明日。』

ここでティアだけに切り替えて『愛してるよティア。ありがとう。』と伝えて、すぐにサーシャだけに切り替えて『愛しているよ。サーシャ。』と伝えておく。そういえば、さっきも思ったが最近はどことなく悪役みたいに対応してるよな。このまま突き進んでも大丈夫だろうか。

気にしちゃダメだ!!



メロンは正義!はっきりわかんだね!

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