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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編・秋
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みづほの帰還


 十一月も終わりに近づいた。

 結局、秋季大会で目野に負けてから、緑陵は対外試合を一度も行わなかった。

 高校野球は十二月から三月七日まで、シーズンオフということで、対外試合が禁止されている。

 緑陵野球部の再始動ならびに練習試合は、来年の三月までお預け。俺たちにとっては長い冬眠期間に入る。


 ちなみに、俺たちに勝った都立目野は快進撃を続け、決勝まで進出。

 櫻田のいる帝山に僅差で敗れたが、優勝校の帝山が、秋の神宮の杜野球大会を制し、センバツ大会の東京枠ふたつを確保。

 帝山は久しぶりの甲子園が確定。

 「都立の星」目野も、悲願の初出場が濃厚となっていた。


 活動を縮小したままシーズンが終わろうとしている野球部だったが、嬉しい出来事もあった。

 もちろん、みづほの復帰だ。リハビリを終えて、ユニフォーム姿のみづほが戻ってきた。

「う、ん……お尻と太ももが、ちょっとキツくなったかな――」

 アップをしながら、しきりに下半身を気にするみづほ。

「やだぁ。みづほ、太ったの?」

「――多分、筋肉かな。2㎏増えたけど、春の体重に戻っただけだから」

 ちなみに三人娘の「歩き込み」は、最寄り駅に着くと喫茶店になだれ込む毎日で、ダイエット的には惨敗だったらしい。

「すっかり『うさぎや』の常連になっちゃったもんね」

「あれがいけなかったと思うの。うさぎやの後で、スーパーの焼き芋」

「――三人で一本だったけどね」


「ねー。早く守備練習しようよー」

「バカ。復帰したばかりで何言ってんだ」

 愚図るみづほを必死に宥め、ボールを転がして捕球し、送球する練習メニュー。

 ――相変わらず流れるような、美しい守備だ。左腕も完璧に動いてるようで、ひとまず安心する。

「うん、痛くない。これなら次の練習は全開で――」

「だ・ぁ・め」

 水谷先生と両マネに、ハモりで駄目出しを食らう。


 次はバッティング。愛用の竹バットを取り出し、素振りする。

「あー、この感覚、久しぶりだぁー」

 思わず恍惚の表情を浮かべるみづほ。

 リハビリ中、水谷先生らのチェックは厳しく、隠れて野球の練習をしないよう、みづほは用具をすべて没収されていた。


 トスバッティングの間も、みづほは腰をひねったり、腿を上げたり、入念に下半身をチェックしている。

「みづほどうしたの? どっか痛む?」

「ううん、逆。下半身がすっごい安定してる感じなの。歩き込みの効果あったみたい」

 その言葉に赤川さんが少し膨れっ面になった。

「えーっ。みづほばっかずるいなー。ひとりだけ効果あるなんて―」


 水谷先生が苦笑しながら助け舟を出す。

「あら、効果はあると思うわよ。例えば内腿のここの肉とか」

「きゃ」

「お尻のここのとことか、締まったと思うわよ」

「きゃっ」

 説明しながら、水谷先生が赤川さんの内腿や尻を撫でるので、その度に赤川さんが飛び上がった。

「そう言えば、少し細くなったかなあ――」

 青柳さんも、自分の下半身を撫ではじめる。

「でしょ?」

 下半身を撫で回しながらのガールズトークは、俺たちにはちょっとだけ目の毒だったので、見ぬふりをして練習に精を出した。


 十一月最後の、野球部練習の日。

 仕上がったみづほが加わり、とうとうグラウンドに全員揃って、守備練習をした。

 ――なんとか、間に合った。

 久しぶりに、慣れ親しんだメインポジションでのフォーメーション。

 セカンドのみづほはやっぱり、輝いていた。そこだけ空気が違うように感じた。

 流れるようなステップも、オリジナルのスナップスローも健在。

 気温も相当下がってた筈だが、寒ささえ感じない。

 日没までのわずか一時間足らずの全体練習。

 俺たちは、幸せだった。




 本格的な冬シーズンに入った。

 俺らサッカー組は、シーズン到来ということもあり、それなりに忙しい日々を送っている。

 週三回サッカー部、週二回野球部の練習は、変わらず。

 週末には、これまでの鬱憤を晴らすかのように、毎週必ず練習試合が組まれている。


 テニス部も冬はオフシーズンで、室内練習や体力作りに充てられる。

 松元は野球部に再合流し、冬メニューで練習。

 度会は笹田の希望もあり、サッカー部の追加助っ人になった。

「人数は居れば居るほど、戦術の幅が増えるし、個性を踏まえた起用もできる。サッカーはそういうスポーツなんだよ」

 そう言って笹田は度会を歓迎した。


 実際、志田にはドリブルの練習を多くして、脚力を活かしたサイド突破を試みさせている。

 野口は背が高いので、ヘディングの練習。セットプレーには欠かせない存在になった。

 俺はと言えば――

「秋山、お前今度ボランチやってみろよ。お前のポジショニング、天性のものがあるわ」

 古田や笹田の勧めで、俺は別ポジションもやることになった。

 とりあえず、ボールが来る回数が圧倒的に増えたので、それを的確に捌く特訓を受けている。


「今週の練習試合は帝山か――なにっ? 俺たち、帝山とやんの?」

 帝山は野球部もそうだけど、サッカー部も全国制覇経験のある超強豪だ。

「一年生同士で30分2本。ダブルヘッダーの前座みたいなもんかな……一年だけでもめっちゃ強いのは確かだけど」

 そんな強いとこと試合やって、生きて帰れんのか、俺。

 まあ、やれることをやろう。あとは知らん。

「なあ、サッカー場は野球場に近いのか?」

「確か全然違う場所だったぞ――そういや帝山の野球部って、秋は優勝したんだっけ? 知り合いでもいるのか?」

「ああ」

 櫻田に甲子園出場のお祝いでも言ってやりたかったけどな……少し残念。


 みづほの話をしよう。

 冬の間、みづほは野球部に残って、歩き込みを含んだ体力づくりをするつもりだったが、周囲がそうさせてくれなかった。

 陸上部の監督、山本先生がみづほの素質にベタ惚れで、どうしても陸上をやらせたいと、以前から大屋監督に働きかけてたらしい。野球のオフシーズンになり、いよいよみづほに直談判するようになった。


「ホントはあたし、野球に集中したかったのよ? でも山本先生ったら教室までやって来て、土下座しちゃうのよ――『お願い、どうしても遠野さんに陸上してもらいたいの! 私に教えさせてっ、ちょっとだけでいいからやらせてーっ』って……あたしに断れると、思う?」


 教師が学生に『やらせて』と土下座――見ようによっては相当誤解を招きそうだな。

 山本先生が女性だったのが、せめてもの救いだ。


「でも山本先生って陸上コーチの評判いいし、正しい走り方を教えてもらえるのは、野球にプラスになるかも。いい方に考えるわ」

 かくて、みづほは陸上部で、100m走の指導を受けることになった。


「あれだろーっ。女子陸上部のユニフォームって、布地少なくてエロいんだよなぁ」

 サッカー部の部室で、野口がそんなことを言い出した。

「ほとんど水着みたいなヘソ出しブルマ、な」

 空気の抵抗を減らすためらしいが、確かに目の遣り場に困るユニフォームだ。

 スクールカラーの鮮やかな緑色をしてるが、前身だった桜陽女子の桜色も散りばめられていて、配色もやたらエロ……可愛らしい。

「みづほ、あれ結構似合うぞーっ、きっと。着るのかなあ」

 うん、野口は悪くない。あのエロいユニフォームが悪いんだ。

「マラソンならともかく、みづほは短距離らしいから、冬のこの季節には着ないんじゃないか?」

 みづほなら似合うだろうが、どう考えても寒いだろ、あれは。


 ところが――着てた。

 正確には、みづほが陸上部に入部して数日後、基本的な走法の手ほどきをひと通り受けた後のこと。

 タイムを測るということで、暖かい日の、放課後間もない時間を選んで、みづほがトラックに現れた。

 もちろん、ジャージ姿でアップを始める。

 その横で陸上部の先輩たちが忙しく動き回り、スタートラインの設置とか距離の確認とか、準備に余念がない。

 俺を含めてギャラリーも多く、陸上部監督の山本先生をはじめ、一種の緊張感が漂っていた。


 山本先生に促され、みづほがジャージの上下を脱いで、例のユニフォーム姿になる。

 周囲はため息にも似た感嘆の声に包まれた。

 ――やっぱ、似合うな……そして、エロカッコいい。

 体のラインが丸分かりのユニフォームは、みづほの美しいプロポーションを、余す処なく見せつけていた。


 あちこちで声がする。

「へえ……思ったより女の子らしい体じゃない」

「うん、もっとマッチョしてるかと思った」

 そう。みづほ自身は鍛えてある筈なのに、びっくりするほど筋肉が表面に出てこない。

 丸出しになってる腹は6パックと言うには程遠く、軟らかそうだし、歩き込みで少し持ち上がったお尻も、なだらかな曲線を描いている。

 四肢も筋肉もりもりの状態ではなく、みづほが動くと、奥に隠れている筋肉がスッと顔を出してくる感じだ。


 何にしても、この寒空のなか衆目を集めながら、ひとりだけ裸に近い恰好でいるのは、少し奇異な印象を与えた。しかし、陸上部の連中もみづほも、大真面目だ。


「一発勝負だからね、みんな静かに」

 山本先生の一言で、ギャラリーが鎮まった。

 みづほはみづほで、直前のコンセントレーションを高めている。

 スタートラインに立つみづほ。

 足止めの器具――スターティングブロックと言うらしい――に足を掛けて、クラウチングで身構える。

 スターターがピストルを構える。本格的だ。


 バァーン。

 号砲と同時にみづほが飛び出す。

 スタートは、俺の目にはスムースに見えた。

 大きなストライドで、腿を上げて走っていくみづほ。

 スピードが落ちる気配がない。そこら辺りの体力は、さすがだと思った。


 当然と言えば当然だが、あっという間のゴール。

 タイムは……


 12秒41。


 これは、いいタイムなのかな?俺には正直よく分からなかった。

 例えばチーム一の俊足、志田は11秒4がベストタイムで、それより1秒遅い。


 しかしそれは、周囲の反応を見る限り、破格のタイムであることは想像できた。

 驚きと嬉しさの混じった、山本先生の表情。

 陸上部の部員たちが歓声を上げながら、駆け寄ってくる。

 みづほは頬を上気させて息を整えながら、揉みくちゃにされていた。


 後で知ったが、みづほのタイムは、インターハイで決勝に進めるかどうかのレベルらしい。

 入部数日でそんなタイムを叩き出すみづほは凄いが、少なからず心配になってきた。

 山本先生、みづほを離してくれるのかな?

 みづほ、野球部に戻って来られんのかな?

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