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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編・秋
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春待ちの雛鳥たち


「この馬鹿が」

 俺は今、笹田の叱責を受けている。

「お前は今や、うちの大事な戦力なんだぞ? それを何だよ、補習だなんて……」

 いやあ、返す言葉もない。

 先日の期末試験、俺なりに健闘したんだが、ついに数学で赤点を貰ってしまった。

「お前、知ってるか? H組だけテストの問題が違くて、お助け問題満載だって。それで赤点食らうなんてよっぽどだぞ」

「すまん、頑張ったんだけどな」

「結果が伴わなきゃそんな頑張り無意味だって、お前なら分かるだろ」


 ――笹田の言うとおりだ。

 実は今までは、大会期間中ということもあり、定期試験の度にそれとなく、各教科の先生方のフォローが入っていた。

 今回はシーズンオフでそれがなくなり、初めてガチで受けるテストだったのだ。

 自分では頑張ってるつもりでも、どこか甘えがあったんだろう。


 それにしても。

 ボードに書いてあるサッカー部のスケジュールを見ると、冬休み期間にぎっしり練習試合が組んである。

「補習に練習に、試合に――こんな忙しい冬休みは初めてだなあ」

「全国大会に出られたら、クリスマスも正月も全部ぶっ飛ぶんだよ。大晦日の前日が開会式だから」

 笹田は腕組みをして、ボードを見つめる。来年こそは、の気持ちは誰よりも強い筈だ。

「うちは夏場にあまり活動できなかったから、それを取り戻すつもりで少し過密にスケジュール組んでんだ、お前らには悪いことをしたな」

「いや、サッカー部に来てよかった、と俺は思ってる」


 嘘偽らざる心境だった。

 長時間走りっ放しの体力、いつでもトップスピードに切り替える瞬発力を鍛えられたし、個人的には状況判断の多様さも充分学べた。

 それに――笹田の、困ってるサッカー部の力になれたことは、俺としても大きな歓びだった。

「……そう言ってくれると、嬉しいよ」

 笹田がはにかんだ笑顔をみせる。

 年末年始の練習試合が終われば、サッカー部もとうとうシーズン終了。

 俺たちの助っ人も終わり、全員野球部に戻って春を待つことになる。


 クリスマスイヴの日に補習があったのは、俺を含めて三人だけだった。

 憂鬱な時間だが、昼前には終了。野球部の部室に向かう。

「お待たせ」

 ドアを開けると、サンタ帽姿の赤川さんが出迎えてくれた。

「アッキ、補習お疲れ。みんなー、アッキ来たわよう」

「これで部員は全員揃ったかな」

 今日は野球部みんなで打ち上げを兼ねて、クリスマスパーティを開くことにしていた。

 といっても、お菓子を持ち寄り、ケーキを食べるだけのささやかなものだ。

 三人娘の発案だったが、数日前に決まったことなので、プレゼント交換もなし。


 それでも、部室に簡単な飾りつけがしてあって、テーブルの中央には、お菓子やケーキ、ジュースと一緒にちいさなクリスマスツリーもあった。

「気分出るでしょ」

 同じくサンタ帽を被った青柳さんが、かるくピョンと跳ねて微笑む。

 みづほの被り物は少し違ってて――

「それ、トナカイ?」

「うん。じゃああたしたち、監督と先生呼んでくる」


 三人娘に招かれて、大屋監督と水谷先生が入って来た。

「わあ、雰囲気出てるわねえ」

「いいなあ、こういうの。男所帯だと、こうはいかないよ」


 大屋監督の音頭でパーティは始まった。

「家庭と子どもを持っちゃうとね、クリスマスはもう、大人のものじゃなくなるんです――代わりに別の歓びが生まれるんだけど。だから、こういうパーティは、僕にとってもすごく嬉しく、楽しいものです。まずは発案者の、そこの被り物の三人――赤川さん、青柳さん、遠野さんにお礼を言いたい。今日はどうもありがとう」

 監督のお辞儀に、照れ臭そうに頬を赤らめる三人娘。

「野球部の一年めは、夏がベスト16、秋が本戦出場。いい結果だと思いますが、勿論これで満足はしてないよね。負けたとはいえ明王とも目野とも、いい試合だった。最後は力負けです。君たちなら都大会優勝も夢ではない、と思っています」

 今度は俺たちが、照れてうつむく番だった。

「冬にしっかり鍛えて、春に備えましょう――普通は乾杯だけど、うちらしく行こうね。それではご唱和ください……せーのっ、りょくりょーお」


「ファイトッ!!」


「トモちゃん先生は、イヴの予定あるの? 彼氏とデートですか?」

 赤川さんが水谷先生に、なかなか命知らずな質問をした。

「私、教師二年めでしょ? ド新人だからやること多くって、彼氏作る時間なんかないわよ」

 水谷先生は変わらずニコニコしている。

 女子に、ケーキとお菓子とお喋りがあれば上機嫌なのは、社会常識のようだ。


「サッカー部って、男女合同でパーティするんだって? 俺たち行かなくてよかったのかな」

 度会が俺に、それとなく話し掛ける。

「ああ、断っといた。俺たちは基本野球部だから、こっちの方が大事だと思ったし、笹田も言いにくそうに誘ってたし。女子に結構なお嬢様がいて、全員を招待してホームパーティするんだってさ」

「ひえー。男女合同って、40人は居るよなあ――それが全員入る自宅かよ」

 度会が呆れたように呟いた。確かに想像もつかんわ。

 それに……サッカー部の男女関係って、いざ内部に入ってみると、噂に聞くハーレムじゃなく逆セクハラに近い感じだった。

 笹田、いつも言い寄る女子を捌くのに苦労してたし、今回のパーティもきっとそんな感じだろう。


「ねねっ、笹田くんて彼女いるの? あのモテ男」

 赤川さんは、そういうのに興味があるお年頃のようだ。

「さあ、互いにそういう話はあまりしないから――」

「怖くて校内には彼女作れない、ってさ。あっという間に修羅場になっちゃうから」

 言い淀む俺に、度会が助け舟を出す。

「あー、なっとくー」

 後で教えてもらったが、笹田には中学時代からの、他校の彼女が居るらしい。

 サッカー部のパーティが跳ねてから、彼女の待つ少し離れた駅前まで駈けて行き、束の間のデートをした、ということだ。


「じゃあ、今夜の予定があるのは監督は別にして、あっきぃとみづほだけね」

 違うかもしれんが、おおかた青柳さんの言う通りかもしれない。

 というより、みんなの前で堂々とそんな話をしてる限り、どいつもこいつも色恋沙汰に無縁と見た。

「そうか。アッキとみづほだけ、ラブラブか」

「昔っからやってる、ただのホームパーティだよ――今年は兄貴も居るな」

 みづほ、なに赤くなってんだよ。

「あー、カイさん居るんだ。会いたいなー久しぶりに」

 志田の呟きに、安田と根来も反応した。

「アキ、俺たち挨拶だけ行っていいか?」

「おう。家に連絡入れとく」


 赤川さんが急にモジモジし始める。

「ええっと――予定のない人でどっか行かない? ボーリングとか、カラオケとか」

「おおっ。いいな、ボーリング」

「俺もボーリングがいい」

 やっぱり運動部、体を動かす方が性にあってる。

「んーと、聞かなかったことにしとくけど、遅くならないようにね」

 水谷先生が苦笑しながら、ケーキの最後の一口を食べた。




 兄貴が帰宅したのは、俺たちより遅かった。

 北海道フロンティアーズに指名された兄貴は、入団発表も済ませ、OBとなった明王野球部で体づくりに励んでいた。

 ドラフト指名時の珍回答で、俄かに注目を浴びてた兄貴であった。

 入団時の会見で、3位指名のクセに、やたらインタビューが多かったのも仕方がない。

 家族としても「またやらかすんじゃないか」とハラハラドキドキもんの会見だったが――


「スタートラインに立ったばかりのヒヨっ子ですが、しっかりブチカマシてスタートダッシュを決めたいです」

 →やっぱこいつ、やるスポーツ間違えてるぞww

 →逸材の獲得に失敗した相撲界、涙目www

「ぜひ、勝利の女神の後ろ髪を掴んで、しっかり引き千切ります」

 →引き千切ったら負けるだろwww

 →バ海斗ならやりかねんな(´・ω・`)

 ……というわけで、まとめページに新たな一章を刻み込んだ模様だった。


「カイ兄ちゃん、お帰りっ」

「カイさん、お久しぶりっす」

 抱きつかんばかりに出迎えるみづほを片手であしらいながら、兄貴が相好を崩す。

「おう。志田に、安田に、根来。来てくれたのか――まあ遠慮はいらん、上がれ」

 もう既に我が家の居間でお茶を飲んでた後輩たちに、兄貴はそう言いながら玄関から上がってきた。


 野球一家に野球部員が揃えば、自然と野球の話になる。

「秋は残念だったなあ。夏に対戦した手応えを思えば、お前らもっと上に行けたのになあ」

「仕方ないっすよ。目野は強かったっす」

「準優勝ですもんね」

「アクシデントもありましたから。みづほの負傷」

「うう……もうしませーん」

「ありゃどうしようもねーだろ」

 泣きマネをするみづほに、みんなのツッコミが入る。


「カイさん、北海道に行ったんですよね?」

「ああ、入団発表の時な。やっぱ施設が充実してたよ――でも高卒は、二軍スタートだって言われた。大仏のある町だ、千葉県カマクラの寮に入る」

「鎌ヶ谷っす、カイさん」

 兄貴にしてはハイブリッドな間違いだ。


「来年の緑陵は、うちより強くなるかも知れんぞ? 千秋せんしゅう出身のセンターラインが健在で、新入部員も入ってくれば、甲子園も夢じゃない」

 兄貴がお世辞や社交辞令を話す性格じゃないのは知ってる。その言葉はありがたく頂戴しよう。

「そういや、千秋シニアからは誰が緑陵に来るんだ?」

「あ――そういや聞いてないな」

「うん」

 みんなで顔を見合わせる。


 時期的には推薦枠はもう決定してる筈で、しかも緑陵と千秋シニアは、既に太いパイプで繋がれてると言っていい。

 有力選手の何人かが、入部してくると考えるのが自然だった。

「去年は、監督が自らスカウトしに来たんだよね」

「そうそう」

 スタッフが増えたという話は聞かないから、今年も監督直々のスカウトで推薦が決まっただろう。

「ね――今度、監督に訊いてみよ?」

「そうだね。俺も気になる」


 俺らの時代は男女交際つったら、この程度でした(一部を除くw)。

 パリピとか、マジでよく知らん。

 まだ一年生同士、東京にしては田舎の学校、しかも保護者付きなので大目に見てやって下さい。

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