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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編
49/297

西東京大会五回戦 (VS明王大附属6)


*

 今現在、俺が打席に立っている状況をおさらいしよう。

 八回裏、得点は1対3の2点ビハインド。2アウトながら一三塁、得点のチャンス。

 しかし、ここまで頑張ってきたエースの安田が負傷し、無念の降板。

 九回表は、野球を始めて4ヵ月、投手の練習はわずか3ヵ月の竹本が、公式戦初登板の予定である。


 結論としては――余計なことは要らない、出塁とランナーを進めることだけを考えよう。

 幸い、みづほや松元の打席を通して、河原さん攻略のヒントをいくつか貰っている。

 そしてイメージも出来ている。

 イメージ通りに行けばそのまま思い切り、そうじゃなくても思い切って対応するだけだ。


 河原さんが投球モーションに入る。外にストレート。

 ただし、少しゾーンを外してきた。ボール。

 松元の盗塁も警戒しているようだ――確かにランナー二三塁になれば、一打同点の局面になる。

 多分、2ストライクまではストレート主体だろう……と思ってたら、二球めはフォークだった。

 フォークはボール球になるので、手を出さない。2ボールナッシング。

 よし、次の球は狙えるぞ。その決意も新たに構える。


 次の球だが、フォークはまずない。見送られてるのは、向こうも分かっている。

 ボールになってカウントを悪くするだけだ。

 となれば、比較的安全にストライクを取れる球を選択する筈。

 河原さんの場合、アウトコースいっぱいのストレートか、フォークと同じ球速でのツーシーム。

 投球フォームが比較的大きいので、ボールの握りも確認できるだろう。


 三球め。握りは――多分ストレート。それならアウトコースだろう。

 ストレートのタイミングで、一歩内側に踏み込む。コースは外角やや低め。よしっ! 読みがドンピシャだ。

 カキーン。

 快音を響かせ、打球がライト方向へ伸びる。

 越えろっ!


*

 ワーッという歓声とともに、ボールはライトを守る兄貴の頭上を越えた。

 長打コースだ。みづほは悠々とホームイン、1点差。

 一塁ランナーの松元も、長駆ホームを狙おうとする。

 行けっ! 生還すれば同点だっ!!

「ストップッ!!」

 三塁ベースコーチの志田が、慌てて松元を制止する。

 その答えはすぐに分かった。


 ギュイーーン。

 ライトからホームに向かって、凄まじい勢いのレーザービームが、俺の眼の前を通り過ぎていった。

 打球を処理した兄貴が、右翼の奥の奥から、本塁に向かってストライクの返球をかましたのだ。

 うわぁ……無理してたらアウトだった。

 それにしても凄えや。兄貴、凄え選手だ。規格外なのはバッティングだけじゃなかった。

 あんな返球、初めて見た。高校の全国レベルって、いったいどれだけ高いんだろう。


 だが、2アウト二三塁。今度は一打逆転だ。打席には、長打力のある野口。

 明王は、ここで無理をせず満塁策を採った。

 相手が野口じゃなく度会なら、長打力が違うので、外野が迷わずバックホーム態勢を敷ける。

 守備のやり易さからも当然の策ではあった。敬遠のフォアボール、2アウト満塁。


 勝負の行方は、まだ揺蕩《たゆた》っているような気がする。流れをこっちに引き寄せられるか、重要な局面。

 しかし、度会と河原さんでは、思ったより実力に開きがあった。

 ストレートとツーシームで、あっという間に2ストライク。最後は渾身のストレートに振り負けた、どん詰まりのピッチャーゴロ。

 河原さんのガッツポーズを見せつけられた。


 2対3。1点差で最終回に向かう。



*


 ベンチに戻ると、治療を終えた安田が、根来と話し込んでいた。

「安田、もう大丈夫か?」

「ああ。指だけだもん、ピンピンしてるよ」

 俺たちが心配してたのは、むしろ精神的なダメージだったが、既に立ち直っているようだ。

 早い立ち直り。野球選手にとっては大事だ。

 自分の事ばかり引き摺っても仕方ない。時間は戻せないんだから、今自分がやれる事をやるだけ。

 安田は根来と明王対策に頭を捻ってたようで、それを実践していた。


「その――すまんな。後は頼む」

 安田が俺にグラブを渡す。

「なに言ってんだよ」

「俺たちがここまで来れたのは、安田のお陰だぞ」

 実質ひとりしかいないピッチャー。安田の好投がなければ、とっくの昔に敗退していた。

「よせよ……」

 安田が俯いて、帽子を目深に被り直す。


「竹本。お前は根来のミット目がけて、お前のいちばんいい球を投げてこい。それだけだ」

 安田の言葉に、竹本がグラブをパンパン叩く。気合い充分。

「ああ、言うまでもねえ。死んでも抑えて来てやんよ」

「そう考えると余分な力が入る。いちばんいい球を投げる事だけに集中しろ」

「――ああ」


*

 九回表、明王の攻撃。マウンドに上がるのは、いつもの安田ではなく竹本だ。

 みづほ風に竹本を解説すると、ストレートは最速135㎞/hくらい、あとはあまり曲がらないカーブ。

チェンジアップは少し使えるかな、というレベル。

 コントロールはお世辞にも良いとは言えず、ストレートの軌道も一定しない。

 その分、ストレートが適当な荒れ球になり、的を絞りにくい。

 時々ある、失投レベルの甘いコースを狙い打たれると、かなりヤバい。

 1イニングなら、根来のリードとハッタリ込みで、なんとか通用してほしい。


 正直、野球歴4ヵ月ということを考えると、驚異的な成長だと思う。

 元々筋力もガタイもあったし、本人の素質もあったのだろう。


 打順は、1番の間宮さんから。

 キャッチャーの根来は、左打者のアウトローにミットを構えている。

 ワインドアップから、竹本の第一球。根来のミット目がけてストレートを投げる。

 間宮さんは、初球からセーフティバントを試みた。

 うわぁ、やらしい揺さぶり。竹本を慌てさせる気だ。


 幸か不幸か、バントはファウル。ちなみに竹本はマウンドから一歩も反応できなかった。

「竹本くん、オッケーよ! 今のでいいのよ、ピッチングに専念して!」

 みづほから声が飛び、竹本は肯く。

 いや、今のでいいわけないだろ――度会と顔を見合わせて苦笑する。

 みづほのハッタリ、竹本をリラックスさせるための大嘘だ。竹本もそこは分かってるだろう。

 或いはコロッと騙されたフリして、気持ちを切り替えたのかもしれない。


 二球め。アウトローのいいとこに、ビシッとストレートが決まった。

 おー。いいじゃねえか。

「竹本くーん、ナイスピッチ! ステキよー!」

 ニカッと笑って、親指を立てる竹本。大分、肩の力が抜けたらしい。みづほの急造応援団は、結構効果がありそうだ。


*

 間宮さんは三遊間に緩めのゴロ、続く坂本さんはレフトへの強い当たり。さすが、嫌なところに打ってくる。

 ともにヒットになってもおかしくない当たりだったが、守備陣が頑張った。

 まさかの2アウトランナー無し。願ってもない好結果だ。あとひとり!


 これは、竹本の実力も少しは入っている。

 ふたりとも、竹本の球威に押されて、打球が少し詰まっていた。

 ――こいつ、登板する毎に、少しずつ球が速くなってるよな。

 ブーブ―言いながらも安田と一緒に毎日走り込み、練習後も根来を掴まえて、投げ込みやら変化球の練習やら、文句が出るまでやり続けた。

 今年の秋に間に合うかな――今の成長曲線を考えると、絵空事ではなさそうだ。


 さて。

 ここからが問題、これからの三人は、間違いなく東京最強クラスのクリーンアップだ。

 3番の吉見さん。根来は迷うことなく、アウトローにミットを構える。

 ここは吉見さんの苦手コースとも一致する。そこにボールを集められたら、打ち捕ることも夢ではないが――


 あいにく、竹本にそこまでのコントロールはなかった。

 五球め、わずかに甘いコースに入ったボールを、吉見さんは見逃さない。

 ジャストミートした打球は左中間を破り、二塁打となった。


*

 この試合、三回めのタイムを貰う。マウンドに内野陣が集まり、安田が伝令にやって来た。

「竹本お前、凄いじゃないか。打たれたボールもそんな悪くなかったぞ」

 安田の第一声が、それだった。


「ボール1個分――いや、それ以下だった。少し中に入ったんだ」

 竹本の言葉に一同が肯く。確かにそのくらいの誤差だった。

「安田、お前のコントロールって凄えんだなあ」

「俺のことはいい。今はお前の話だ」

 まあ、そうだよな。後でゆっくり、安田がどれだけ高いレベルで野球やってるかを噛みしめるといい。


「監督からだ。真田さんとカイさんを打ち捕る球を、お前は持ってない。でも勝負していいってさ」

「敬遠なし、だな?」

「ああ、逃げなくていい。打たれても、けして自分を見失うな。その場面場面で、自分が出来る事をやりなさい、って」


 根来が口を開いた。

「打ち損じの確率が高くなる球を投げてもらうさ――俺の出来る事を俺はやるよ」

「そうそう、ゴロちゃんに任せちゃいな」

「打たれたら根来くんの責任、ということで」

「えーっ、マジかよー。キッツいなぁー」

 みんなでクスクス笑う。

「まだ終わってねえ。みんなで勝とうぜっ!」

「おうっ!!」

 各々が守備位置に散り、4番の真田さんを迎えた。



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