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氷華の令嬢  作者: 寺垣薫


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3/3

屋根猫亭

 帝都までの道のりは何のトラブルもなく無事に過ごせた。


「もうすぐ帝都に着きます。アイ殿達ともうすぐお別れだと思うと寂しくなりますな」


 クマさんはそんな風に言っているけど、私というよりアイスとの別れを惜しんでいるような気がしないでもない。

 それくらい、クマさんはアイスにはまっていた。


「失礼ですが、帝都に着いた後のあては何かあるのですか?」

「考えたのですが、どこかで屋台でも借りて食べ物屋さんをやろうと思っています」

「なるほど、なるほど。そういうことなら、私の知り合いに詳しい者がおります。もしよろしければご紹介いたしますが、いかがですかな?」


 他にあてもないし、せっかくなのでクマさんの厚意に甘える事にした。




---




 帝都に着いた後、クマさんに連れて行かれた先は商業ギルド。

 しかも、建物に入るなり一番奥の応接室へと案内された。

 クマさんは想像以上に顔が広いらしい。


「久しぶりだな、カイト」

「ようこそいらっしゃいました、クマさま。今日はどのようなご用件でしょうか?」


 現れたのはいかにも大商人といった身なりのよい男であった。

 そんな男がクマさんに召使のようにかしずいている。

 クマさんは想像以上に大物のようだ。


「この娘さんたちが食べ物屋を始めたいというのでな」

「はじめまして、アイです」

「はじめまして、ソラです」

「はじめまして、私は商業ギルドのギルド長のカイトと申します。食べ物屋を始めたいということは屋台ですか?」


 ギルド長!

 確かにひと目で大商人だとはわかったけど、まさかギルド長だったとは。


「いや、住居スペース付きの店舗を買いたい。できるだけ王城に近くて、大通りに面していて、治安のいい場所にある物件を頼む」


 私が驚いていると、クマさんは突然そんなことを言った。

 そんなお金ないよ。


「え……。あの……恥ずかしい話なのですが、持ち合わせがあまりなくて、そんな物件にはとても手が届きません。だから屋台がいいのですが」

「何を言いますか。仮に屋台で商売をするとして住むところはどうするつもりですかな? 見たところ二人ともそこそこ腕は立つようですが、それでも女二人だけでは何かと物騒ですよ」


 言われてみればクマさんのいうことはもっともだ。

 前世が日本人で、安全なのが当たり前という感覚と、今世での世間知らずが悪い方向にでてしまったようだ。

 思えば馬車での移動も女二人なのに、男一人の馬車に乗ったのも不用心すぎた。


 かと言って持ち合わせは少ない。

 安宿を借りつつ屋台で稼ぐのがやはり現実的だろうか。


「もし、安宿ですまそうとしているならやめておいたほうがいい。宿とて安全なわけではないのだからね」


 そう先回りされるようにクマさんに指摘されてしまう。

 そういえば前世の記憶の中でも、宿の従業員が手引した犯罪というのは何度か聞いたことがあった。


「でも……」

「金なら私が払うから心配しないでいただきたい。道中散々ごちそうになったお返しですよ」

「さすがに、アイス数十個と物件では釣り合いがとれないでしょう」


 クマさんの提案はありがたかったが、さすがにアイスのお返しに物件をおごってもらう訳にはいかない。


「ふむ。では、これならどうです? 私が物件のお金を出すかわりに、今後あなたがたの商品を優先的に提供していただくというのは? 私は売り切れの心配もなくいつでもアイスを食べられる、あなたがたは物件を手に入れられる。いいことずくめですぞ」


 クマさん、どんだけアイスを気に入ったんだ。

 さすが、毎日十個以上食べて飽きなかっただけのことはある。


「わかりました。クマさんには、この先ずっと無料かつ再優先で提供させていただきます。もちろん、一人でその日に食べきれる程度の量を上限にですが」

「はっはっは。これで毎日アイスが食べ放題ですな。腹が鳴りますぞ」


「話はまとまったようですね。丁度いい物件があるので早速案内します」




---




 案内された場所は王城正門前の広場に面した場所だった。

 広場の真ん中には綺麗な噴水もある。

 所々にあるベンチでは、恋人が愛を語らっていたり、青年が本を読んでいたり、老人が日向ぼっこをしていたりする。

 そして、数人の騎士達が治安を守るために巡回していた。


 まさに一等地と呼ぶべき場所だ。

 近くには貴族たちのお屋敷もたくさんある。

 そんな場所に一際おしゃれな店が建っていた。


「綺麗……」


 思わずそうつぶやいてしまうほど、おしゃれな店だった。

 真っ白な外観、そして屋根の上に乗っている猫の像が可愛らしい。


「はい。お嬢様。とても素敵な店です」


 どうやらソラも気に入ったようだ。


「ふむ。なかなかいい場所だな。それに見かけも悪く無い」

「はい。実は前のオーナーは隠居した男爵様で、道楽でこの場所で商売をしていたのですが、最近、ひ孫が生まれたとかで領地にお戻りになられたのです」

「特に悪いイワクなどはないのだな?」

「はい、もちろんでございます。私どもが自信を持ってクマさまにおすすめできる物件です」

「中はどうかな?」


 クマさんたちに続いて中に入る。


「ほお。中も掃除が行き届いていて悪くないな」

「一階が店舗、二階が住居スペースとなっております。さすがに店舗は色々と準備が必要でしょうが、二階の住居スペースは今すぐにでも使えますよ」


 クマさんたちの言うとおり、隅々まで掃除が行き届いている。

 これなら今日からでも寝泊まりできそうだ。


「私はなかなかの物件だと思うのですが、どうですかな、お嬢さんがた?」

「はい。大変気に入りました」

「すばらしいです」


 こうして私たちは店を持つことが出来た。



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