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彼女がリクちゃんのクラスに転校してきたのは、2年生になった4月のことだ。どうやら、親の転勤の為らしい。
小さな顔立ちに、ふわふわと跳ねる栗色の滑らかな髪。細く長い手足と、肩や腰は守ってあげたくなるほどに華奢だ。
そんな彼女が、今、私の前に立ち塞がる。
「ねえ、あなた。彼女でもないのに、毎日毎日送り迎えをさせるなんて、間違っていると思うの‼︎」
とうとう、懸念していたヒロインが現れたのだと思った。それも、ネット小説でよく見かける記憶持ち系だ。
「聞いているの? 陸也君だって、放課後に友達と遊びたいはずよ? なのに、あなたを送らないといけないからって、いつも断っているの。可哀想だと思わないのかしら?」
私の身長は平均的なのだけど、彼女は少し、小柄なようだ。両手を腰に当てて、子犬のようにきゃんきゃんと吠えたてる。子犬だったら、そんな姿も可愛いと思えるのだけれど。
初対面のはずなのに、なぜ初めから怒り口調なのだろうかと、なんとなく、ムッとする。
「別に、私が頼んでいるわけじゃないし」
「親を使っているんでしょう? 彼は優しいから、断れないのをいいことに卑怯だわ!」
卑怯って、何が卑怯なんだろう。リクちゃんは嫌なことは嫌だとはっきり言える男だ。夏休みに、私の母がお揃いで着せようとした女物の浴衣も、しっかりはっきり断っていた。
ああ、なんだかすごく面倒くさい。
悪役の立ち位置になる可能性は考えたけど、こんなヒロインは嫌だ。もっとおしとやかで可愛い性格の子がよかったな。
「可愛いのに性格悪そう…」
「なんですって? 性格悪いのはあなたでしょう?」
思わず漏れてしまった言葉に、彼女はさらにキーキーと、子犬は子猿に変化してしまったようだ。
「アキ? こんなところにいたのか」
私が偽ヒロインに絡まれていたのは、図書室から教室へ向かう渡廊下。リクちゃんは別ルートから図書室へ捜しに来てくれたのだろう。図書室方面から現れた。
「いつも一人で行動するなって言ってるよね?」
リクちゃんは少し怒っているようだ。ただ、第三者がいるためか、やや勢いを抑えている。
「でも、学校内だし」
「校舎が違う」
屁理屈だ。
「僕はね。アヤコさんにも母さんにも、アキのこと任されてるんだよ?」
「知ってるよ。でも、もう高校生も二年目なんだし。リクちゃんにはリクちゃんの人生もあるし、そこまで付きっ切りじゃなくてもいいと思うんだ。
そうだ。ここにいる彼女も同意見らしくて、わざわざ忠告しに来てくれたの」
「他人は関係ない!」
何か言おうと口を開きかけた偽ヒロインが、リクちゃんの冷たい視線に口をつぐんだ。
彼女の私に対する態度にもびっくりだったが、知り合って間もないであろうリクちゃんの彼女に対する表情にもびっくりだ。
なんだろう、嫌ってる…?
まあ、それはともかく。なぜ私は、高校生にもなって、一人で別校舎へ行ったくらいで怒られているんだろう。じわじわと腹が立つ。
「リクちゃんだって、私と同じ歳なのに一人で来たんじゃない。リクちゃんはよくて、私はダメっておかしくない?」
「アキは僕のこと、任されてるの?」
「任されてはないけど、さ」
意地悪な質問に、なんとなく目を逸らす。
小さな頃からいつもそうだ。同い年で、ほとんど一緒に育って来たのに。母たちはいつもリクちゃんを私の上に見る。
「月齢では私の方が上なのにさ」
「月齢って…。たった3日だよ。アキの場合は普段の行いが問題だろう?
さあ。そろそろ帰るよ。今日はアヤコさん出かけてるから、僕の家に帰るって聞いてるよね。真っ直ぐ帰って、早く宿題を終わらせよう。母さんがチーズケーキを作るって言ってたよ」
「えっ、本屋さん寄りたい」
「先に買ったら気になって宿題出来ないでしょ? 終わったら連れて行ってあげるから」
「でも本屋さん帰り道だし。今日発売日だし。売り切れちゃうし。それこそ気になって宿題なんか出来ないし」
その間、偽ヒロインが必死に何か話しかけていたようだったけれど、さっぱり無視した格好になって、私は引きずられるようにして、学校を後にした。




