↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と隣の席の魔女シリーズ  作者: 冬木ゆあ
第三章 天然姫と意地悪王子

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/39

第五話 ミス・ミスターコンテスト4

「準ミス は岩下琴枝さん、ミスは嶋田ちなみさんです」


 祈るように瞳を閉じていた琴枝がはっとしたように顔を上げた。

 そして信じられないと言った様子で会場を眺めたあと悠里の方を見た。

 悠里はじっと琴枝を見たあと笑みを浮かべてうなずく。

 琴枝も嬉しそうに笑みを浮かべた。

 そして、ミスのちなみとともにひとみの横に並ぶ。

 ひとみは久士から賞状と景品を受け取り、それをちなみと琴枝に手渡した。

 そして一言を求められると、琴枝はただ頭を深く下げて「ありがとうございます」と震える声で言った。

 会場からは拍手が沸いた。


「それでは続いてミスターです。準ミスターは諸見克弘君、ミスターは篠原拓也君です」


 ひとみの発表を受けて、会場からは黄色い声で「拓也―!」「篠原君!」という声が飛び交う。

 拓也はその声に応えるように爽やかな笑みを浮かべながら久士の隣に立つ。


 それを体育館の中ほどで見ていた健臣たちも盛り上がっていた。

 健臣と直は肩を組んで、真子も嬉しそうに笑みを浮かべている。

 葵と奈々は手をつないで飛び上がるように喜んだ。


「さすが篠原君ですね」


 奈々が興奮したように葵にそう言った。

 葵はうなずいて舞台を見る。

 拓也はひとみから賞状を受け取り、会場に向かって翳していた。

 その姿を見て、葵は瞳を細める。


「昔からたっくんはかっこいいよ。王子様みたい」


 奈々が笑う。そしてうなずいた。


「なにせF高校の『爽やか王子』ですからね」

「なのにどうして彼女作らないんだろう?」


 葵が不思議そうに言った。

 それを隣で聞いていた真子が思わず苦笑いを浮かべる。

 そして会場中の熱い視線を浴びている拓也に哀れみの瞳を向けた。


「そういえば篠原君のそう言った噂、聞かないかも。森野さんはなにか聞いたことある?」


 奈々の質問に真子は曖昧に首を傾げた。

 そして葵がにっこりと微笑む。


「かっこいいのにね」


 そう言って、葵はまた拓也に視線を向けた。


 ひとみがまたボードに視線を向けて発表を続ける。


「では、最後にベストカップル賞です。ベストカップル賞は二年B組、篠原拓也君と豊川悠里さんのお二人です!」


 会場から拍手が響く中、悠里はきょとんとした顔を浮かべていた。

 先に前に立っていた拓也が悠里を振り返り、悠里を手招いた。

 それでも状況が飲み込めていない悠里に拓也が歩み寄り、手を取った。

 引かれるままに悠里は拓也について行く。

 そして二人が並ぶと会場から冷やかすような声や口笛が聞こえた。


「篠原君はW受賞ですね。おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 そう言って、拓也は差し出された賞状を受け取った。


 アリーナから直がそれを見上げながらむすっとした表情を浮かべて言う。


「複雑だなぁ」

「まぁまぁ、悠里の彼氏は直なんだから。胸張っとけ」


 健臣が満面の笑みで直の背中を叩いた。

 直は「いてっ」と言って、少し考えるような顔をした。


「やっぱり豊川さんって綺麗だよな」

「うん。恐いけどな。彼氏とかいるのかな?」


 そう背後から聞こえ、直はまんざらではないようでにやけた表情を浮かべた。

 そして何度かうなずいてから、さっきの健臣の返事に「そうだよな」とぐっと胸を張って答えた。

 健臣は苦笑を浮かべた。


 悠里もひとみから賞状を受け取る。悠里はその賞状をまじまじと見た。

 それから拓也を見ると、拓也が右手を上げた。

 悠里は口元に笑みを浮かべて拓也の右手を叩く。

 会場からわぁっと歓声が上がった。


「今年度のミス・ミスターコンテストはこれにて終了です。お集まり頂いたみなさん、参加して下さったみなさん、ほんとうに、ほんとうにありがとうございました!」


 ひとみと久士が頭を下げる。

 会場からは盛大な拍手が沸き起こり、ミス・ミスターコンテストは閉幕した。


 拓也たち候補者は舞台袖からアリーナに出る。

 すると琴枝のクラスメイトの子たち数人が琴枝に向かって走り寄り、嬉しそうに琴枝に「おめでとう」と言った。

 琴枝も嬉しそうに笑って「ありがとう」と言った。

 琴枝が顔を上げると悠里と視線が合った。琴枝が赤い顔で悠里の元に歩み寄った。


「よかったじゃない」


 悠里がそう笑みを浮かべて言うと、琴枝は嬉しそうに何度もうなずいた。


「ありがとう。さっき言えなかったけど……、嬉しかった」


 悠里はわずかに頬を赤く染めてうなずいた。

 琴枝は瞳に涙をためて、にっこりと笑う。


「来年も負けないから」

「わたしだって」


 そう言って、お互い視線を合わせて勝気な笑みを浮かべた。

 琴枝は手を振りながらクラスメイトの子たちと去って行った。

 悠里は満足そうな笑みを浮かべている。


「……てことは、来年も出てくれるのね?」


 少し離れたところで聞いていた奈々がにやっと笑いながら言った。

 悠里が奈々を勢いよく振り返る。そして、さーっと顔を青ざめさせた。


「ち、違う……! 今のは勢いで言っただけだから!」

「篠原くんも来年もよろしくね」


 奈々がポンと拓也の肩を叩いた。

 拓也はニヒルな笑みを浮かべた。


「来年もベストカップル賞目指してがんばろうか」


 悠里は言葉にならない悲鳴を上げた。



 学園祭も無事に終わり、後夜祭がはじまった。

 グラウンドの中央にキャンプファイヤーが焚かれていた。

 それを生徒たちが囲み、音楽に合わせて踊っている。


 拓也たちは賑やかさから少し離れた一本の木の下に座っていた。

 近くを通る女の子たちがちらちらとこちらを見ている。

 見ているのはもちろん拓也のことだ。


「ほら、拓也。女の子たちが見てるぞ。告白とかされるんじゃないの?」


 直がにやにやとした顔で拓也を小突いた。

 拓也が呆れたような顔で直を見る。


「直はまたそう言う事ばかり。今日は大丈夫だよ」


 拓也の言葉に直は首を傾げたが、その理由はすぐに分かった。


「ねぇ、見て。ベストカップル賞のふたりだわ」

「写真撮ってもいいかな?」

「やめときなよ。豊川さんが睨んでる」


 女の子たちの囁きが聞こえてきた。


「睨んでないわよ……」

「悠里の目力が強いんだよ」


 拓也が爽やかな笑みを浮かべてフォローした。

 その横で直がむすっとした顔を浮かべている。


「やっぱり複雑だ……」


 直の呟きを聞いて、健臣は苦笑した。

 こうして怒涛の文化祭は終わった。

 二年B組のお化け屋敷はそこそこ話題となり、審査員特別賞をとった。

 特に一日目の午前中が一番怖かったと囁かれていたことを拓也たちは知る由もなかった。



 拓也は地元の駅から家へ向かう。

 拓也の住む住宅街は夜八時も過ぎればしんと静まり返る。

 点々とある外灯がわずかに辺りを照らすが、心細さは否めない。

 拓也はひとりそこを歩いて行く。


 もうすぐ家につくという時、一軒の家からひとりの女の子が出てきた。


「翠ちゃん」


 拓也が声をかけると、その女の子が振り返った。

 肩程の長さの黒髪を揺らして拓也を見た。


「あ、ミスターだ」


 拓也は苦笑を浮かべる。


「もうあおちゃんから聞いたの? 早いね」


 翠はこくこくと頷いた。


「お姉ちゃん、帰ってきてからその話ばかり」


 拓也は気まずそうに頭を掻いて視線を逸らしたが、すぐに翠を見た。


「どうしたの? こんな時間に」

「お姉ちゃんが帰ってこないの」


 翠がそう言った。

 拓也は苦笑を浮かべた。


「もしかしてまたうち?」


 翠は頷く。


「ごはんだから早く帰ってきてってお母さんが言ったのに、お姉ちゃんが帰ってこないから」


 翠は隣の家の篠原家を尋ねるところだったようだ。

 拓也は爽やかな笑みを浮かべる。


「なら、俺があおちゃんに伝えとくよ。翠ちゃんはおうちに戻ってな」

「うん。ありがとう、ミスター」

「うん。でもその呼び方やめて」


 拓也は困ったような顔で言ったが、翠は小さく首を傾げてまた小走りで家へ戻って行った。

 この調子では葵は拓也の家でも話しているだろう。

 拓也は溜め息をつく。


 家に帰った拓也は玄関で葵の靴をちらりと見た。やはり来ているようだ。


「ただいま」

「おかえりー、たっくん」


 拓也の声に一番に返したのは葵だった。

 そのあと母親である智代の声もする。

 そして、もうひとり女の人の声がした。

 リビングから顔を出したのは葵と拓也の姉、亜季だ。長い髪を無造作に一つにまとめている。

 拓也は驚いた顔をした。


「あれ? 姉さん、帰ってたの?」

「たまにはね。帰ってきてよかったわ。いい話が聞けたもんね」


 亜季が隣にいる葵と目を合わせて笑った。

 拓也の顔が引き攣る。


「今日はね、ご馳走よ。拓也のミスターを祝って」


 智代がリビングから茶碗を持って出てきた。

 そこには赤飯が山盛りになっている。

 拓也は思わず頭を抱えそうになった。


「ほら、ミスター。そんなとこに突っ立ってないで、入ってきなさいよ」


 亜季が拓也に言った。

 拓也は青い顔で靴を脱ぎ、リビングに入る。

 するとくらりとめまいがしてリビングの扉に手をついた。

 原因はダイニングテーブルの上だ。赤飯だけでなく、ステーキまでのっている。

 最後にステーキを見たのはいつだろう。ああ、自分の入学式の日だった。

 そんなことを思い出しながら拓也は言う。


「なに? これ……」

「なにって……。お母さん、あおちゃんから聞いてね、嬉しくなっちゃって。スーパーまで走っちゃった」


 智代は嬉しくてたまらないのか、頬を赤らめて興奮したように言った。

 尻尾があったらすごい勢いで振っていることだろう。


「お母さんから聞いて、わたしもきちゃった。ご馳走を逃す手はないもんね」


 亜季は漬物をぽいっと口に含んだ。

 葵も同じように漬物を頬張る。そして、頬を押さえた。


「智代さん、このお漬物おいしいね」

「ほんと? 嬉しい。私が漬けたのよ」

「んー! さすが智代さん!」


 葵がそう言うと、智代は嬉しそうに笑った。


「ねぇ、あおちゃん。泰子おばさんからなにか言われてない?」


 拓也にそう言われて、葵は首を傾げた。

 思い出すように目線を動かして行くと時計が目に入る。

 時計の針は八時を過ぎていた。


「ああ! いっけない! お母さんにすぐに帰ってくるように言われてたんだった」


 葵は慌てたように言うと、椅子に掛けてあったコートを手にとって駆けだした。


「またね。智代さん、亜季ちゃん」

「気をつけてね」


 智代が心配そうに葵を見送り、亜季は漬物を齧りながら手を振った。

 拓也はふぅとため息をつく。


「じゃあ、ごはんにしましょう」

「はやくー。あたしお腹すいた。明日も仕事だから早く帰らなきゃ」


 亜季はまた漬物を口に運ぶ。


「なら漬けものばかり食べてないで亜季も手伝って。拓也は早く着替えてきなさい」

「はぁい」


 拓也と亜季のやる気のない声が被った。


「あんた、真似しないでよ」

「別に真似なんて……」


 拓也が反論しようとすると、亜季が不機嫌そうに睨んだ。

 拓也はそそくさと部屋へと入り、ため息をついた。


「姉さんと悠里、似てるんだよなぁ」


 拓也の呟きが寂しく部屋に響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。