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俺と隣の席の魔女シリーズ  作者: 冬木ゆあ
第三章 天然姫と意地悪王子

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第四話 ミス・ミスターコンテスト3

 ミス ・ミスターコンテストの二次審査を終えて、拓也と悠里は舞台から降りた。

 そこには健臣たちが待っていた。


「お疲れ。二人とも二次まで残るなんてさすがだな」

「ありがとう」

「やめてよ。わたしは出たくて出てるわけじゃ……」


 爽やかな笑顔で言う拓也とは裏腹に悠里は疲れたような表情でそう言った。

 直が悠里の肩に手を置いた。


「まぁ、まぁ。二人ともいい感じだったぜ」


 直がにっと笑うと、悠里は不服そうな顔をしながらも黙った。

 拓也が葵に声をかける。


「あおちゃん、どうする? 次の集合まで二時間くらいあるから文化祭回る?」

「せっかくだからみんなで回ろうよ! まおちゃんとも仲良くなれたし、悠里ちゃんとも仲良くなりたいな」


 そう言って葵は真子の腕を掴んだ。

 真子はほんの少し戸惑ったような顔をしたが葵のなすがままになっている。

 悠里が不思議そうな顔で尋ねた。


「まお?」

「真子ちゃんのことだよ。ちなみに俺は『なる』だから」


 直が諦めたような表情で笑った。

 悠里は「ふーん」と気のない返事をして葵を見る。


「わたしは?」

「悠里ちゃんでしょ?」


 葵が首をかしげて言った。


「そうじゃなくて、わたしのあだ名」


 期待の瞳を葵に向ける。

 葵が考えるような顔をしたあと、


「悠里ちゃんは悠里ちゃんだよね」


 そうにっこりと笑って言った。

 悠里は残念そうに肩を落とす。


「なんだよ。悠里はあだ名が欲しいの?」

「わたし、あだ名ってつけてもらったことないのよね」

「『悠里』って名前は可愛いから『悠里ちゃん』って呼びたくなるよね」


 葵がそう言うと、直が少し考えるような顔をした。


「あるじゃん、あだ名」

「なによ」

「ほら、尋が『姐さん』って呼んでたじゃん」

「そんなあだ名いやよ!」


 悠里が吼えるように言った。

 直が肩を竦ませる。

 すると葵が悠里の顔をじっと見た。


「姐さん……いいかも」

「確かに豊川さんは『姐さん』って感じよね」


 奈々までもが感心したように言った。

 悠里が慌てた様子で直の襟元を掴む。


「わたしのはじめてみんなに呼ばれるあだ名が『姐さん』になったら直のせいだからね!」

「悪かったって、ごめん。――ほら、悠里だから『ゆうちゃん』とかどうかな? みんな! 頼むよ。俺を助けると思って」

「直が呼べばいいじゃん。『ゆうちゃん』って」


 健臣がそう言ってぷっと笑う。

 奈々も吹き出すように笑った。

 悠里の顔をじっと見て、直が青い顔で言った。


「ゆうちゃん……。お願い、離して」


 悠里の眉がぴくりと動くと次第に顔が真っ赤になった。

 掴んでいた手を離す。そして、健臣に言った。


「ねぇ、こいつ、どうしてこんなにバカなの? 昔からなの?」

「俺が知る限り昔からですね」

「あっそ。もう行こう、真子」


 真子はくすりと笑って、悠里とともに歩きだす。

 奈々と葵もあとに続いた。

 直は悠里に掴まれて乱れたネクタイを直す。


「あいつ、どうしてこうも乱暴者なの?」

「それを今さら言うのか、お前は」


 健臣がそう言うと直はわざとらしくため息をついた。


「まぁ、そこが悠里の可愛いところなんだけどね」

「ごちそうさまです」


 拓也が爽やかな笑みを浮かべて言った。

 そして、拓也、健臣、直も女の子たちのあとを追うように歩き出した。



 それから二時間ほどして、ミス・ミスターコンテストの最終投票を終え、結果発表の時刻を迎えようとしていた。

 拓也と悠里はまた舞台袖へと赴き、やはり悠里は青い顔をしていたが先程よりは余裕があるようで拓也と話していた。

 悠里がふと視線を拓也から離すとそこには岩下琴枝が立っていた。

 先程までの自信に満ちた様子ではなく、青い顔で視線が下を向いている。

 隣に立つ長光一樹がなんと声をかけたらいいのか分からずにおろおろとしていた。

 悠里は小さくため息をついてから琴枝に向かって歩き出す。


「悠里?」


 拓也はなにも言わずに傍を離れた悠里を不思議そうに見ていた。

 悠里が琴枝の前に立つと、琴枝がわずかに顔を上げる。


「さっきまでの勢いはどうしたのよ?」

「……豊川さんには分からないよ」


 琴枝はふいっと視線を逸らした。

 悠里の片眉がぴくりと動く。


「わかんないわよ。だから、こうして聞いているんじゃない」


 悠里の傍若無人ぶりに拓也は思わず笑いそうになった。

 だが、今の雰囲気で笑うほど空気の読めない男ではない。

 琴枝は悠里に視線を戻す。


「わたしは豊川さんみたいに強くないの。豊川さんみたいにひとりでいても平気な、そんな強い人じゃないの」


 思いつめた様に一点を見つめ、琴枝はそう一気に言った。

 悠里が腕を組み、少し考えるような顔をしたがすぐに尋ねる。


「わたしにも分かるように話してくれる?」


 うつむく琴枝の前で腕を組んで立つ悠里。

 傍から見ると悠里が琴枝をいじめているようにも見えなくはない。

 周りにいるコンテスト参加者たちが何事かとちらちらと見ていた。

 拓也は爽やかな笑顔を浮かべると、参加者たちは特に問題ないのかとほっとしたような顔をした。

 琴枝は少しむくれたような顔で悠里を見上げる。


「わたし、中学の時は友達がいなかったの。きっかけは一年の時だった。話したこともないような男子がわたしのこと好きだって告白してきた。そのあと、その男子のことを好きだった女子から目をつけられて、悪い噂を流されて。気がついたら、女子から無視されて。男子はよくしてくれたけど、男子たちもつき合ったら『想像と違った』とか平気で言って離れてく。高校に上がる時、このままじゃ駄目だって思った。中学から離れた高校選んで、女子に嫌われないようにってやってきたの。ミスになったらみんなに認めてもらえるかもって思って、今年こそはって思ってたのに……、さっき失敗して。もう無理よ!」


 そう一気に言った琴枝はうつむいて堪えるように拳を握る。その手は震えているようだった。

 悠里はじっと琴枝を見つめる。そしてぽつりと言った。


「わたしは、岩下はすごいと思うけど」


 琴枝が顔をそっと上げる。その瞳は案の定濡れていた。


「自分を変えようと思ったんでしょ? 岩下はわたしのこと強いって言ったけど、強くなんかないわよ。ひとりでいることが楽しいと思ったことなんてないもの。でも、そんなの誰かに悟られたくなかったし、自分でも認めたくなかったからなんでもないようにしてた。岩下みたいに自分を変えようと思ったこともあったわ。でも、言いたいこと言わないと気が済まないし、思ってもないことを言うのは気持ち悪くて一時間ともたなかったわね」


 悠里は口元にわずかに自虐的な笑みを浮かべる。

 いつも強気な悠里にしては珍しい。

 拓也はその笑顔から目を逸らすことができなかった。


「けど、そんなわたしにも今は信頼できる友達ができた。だから岩下も無理なんて言って諦めないで。それに岩下がそんなに弱気じゃ、つまらないわよ」


 悠里がわずかに顔を赤く染めながら、ツンとそっぽを向いた。

 悠里なりに落ち込んでいる琴枝を励ましたかったのだろう。

 それに『信頼できる友達』の内に自分も入っていることが感じ取れて、くすぐったくも嬉しく思えた。

 思えば、友達からそう言ったことを口に出して言ってもらえたのは初めてかもしれない。

 拓也はわずかに顔を下げて、口元に笑みを浮かべた。


 悠里に励まされると思っていなかった琴枝はじっと悠里の顔を眺めたあとうつむいた。

 顔が髪に隠れてよく見えなかったが、頬が真っ赤になっている。

 悠里は顔はむすっとさせていたが、照れ隠しのようで顔が真っ赤だ。


 悠里は先程『自分を変えることはできなかった』と言っていたが、拓也にはそうは思えなかった。

 二年に上がってすぐの頃と今の悠里とでは印象が違う。

 仲良くなって悠里を知ったからというのもあるとは思うが、積極的に人と関わろうとする意志が感じられるようになった。

 それはきっと悠里の努力があってこそだ。


「ねぇ、みんなには言わないでよね」


 悠里がぼそっと言った。直や健臣や真子のことだろう。


「俺もその中に入ってる?」


 拓也は悪戯半分でそう聞くと、悠里がばっと拓也を振り返った。

 その顔は茹でダコのように真っ赤だ。


「し、知らない!」


 そう噛みつかんばかりに言った悠里に拓也は笑みを深めた。

 それと同時に、舞台からはミス・ミスターコンテストの結果発表を開始する音楽とひとみのアナウンスが聞こえた。


「お待たせしました。これより今年度のミス・ミスターコンテスト、結果発表を行います! それではミス・ミスター候補をお呼びしましょう」


 ミス・ミスター候補たちが舞台袖から現れて、ひとみと久士のうしろに横一列に並んだ。

 体育館で舞台を見上げている健臣が息を飲む。

 それだけの緊張感が会場を包んでいた。

 舞台に上がった悠里を見て、直がぽつりと呟く。


「悠里ってやっぱり綺麗だよな。なんで俺なんだろう」


 そう言った直の顔を健臣が見た。

 直はまっすぐに悠里の姿を見つめている。

 健臣がなんと声をかけようかと迷っていると、健臣の隣で話を聞いていた真子が言った。


「悠里ちゃんが言ってた。『友達想いで、裏表ないから一緒にいて安心する』って。悠里ちゃんはきっとそういう直くんだから好きになったんだと思う」

「……そっか。真子ちゃん、サンキュ」


 そう言って直がにっと笑った。

 真子も瞳を細めてそれに応えた。


 舞台上にいるひとみが候補者たちを振り返り、そしてまた会場を眺める。


「それでは結果発表です」


 ひとみは手元に用意されたボードに目を落としてから前を向いた。

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