飛龍の嘆き③
イメージソング:超連射68k サウンドトラック
https://youtu.be/z_GUuSSGVM0?si=FSKCS0XleAcbYkk3
予見されていた通り、あの褐色肌の魔導士は、実の妹の手によってその幕を閉じた。
世界を我が物顔で書き換え、自らの性欲と支配欲を満たすために他者の尊厳を踏みにじった魔導士は、自らがスラムの泥の底へと置き去りにした妹の手によって、自死を迫られたのだ。
魔導士の死は、蓄積されていたすべての歪みを一気に解放した。
世界は再び、容赦なき破滅の濁流へと飲み込まれていった。
だが、そこで終わらなかった。
破滅の崖っぷちで立ち上がったのは、あの竜人の少女であった。
かつて褐色肌の魔導士が、私のエネルギーを盗み取り、自らの欲求を満たすためだけに作り変えた、つぎはぎの偽飛龍。その泥人形に等しい存在が、世界を救うために牙を剥いたのだ。
見事なものだった。
……いや、誤解しないでほしい。
私は彼女を褒めているわけではない。
ただ、その滑稽なまでの不屈さに、激しい呆れを覚えていただけだ。
私の、宇宙の法則の一部である神聖なエネルギーを、あろうことか人造の肉体ごときが使いこなしている。
その事実だけでも天文学的なエラーであるのに、彼女はその力をデタラメに、しかし、驚異的な精度で振るい続けた。
生への圧倒的な執着。
そして、誰も傷つけずに、すべての者たちを救い出したいという、あまりにも青臭く、あまりにも身勝手な自己犠牲精神。
その矛盾に満ちた二つの衝動から、自らの命の燃えかすすら燃料に変えて、彼女は破滅の奔流をねじ伏せたのだ。盗品の力を借りた偽物が、本物の神話すら凌駕する奇跡を演じてみせたのだ。
一瞬だけ、私の中に奇妙な感覚が走った。
それは「誇らしさ」に似た波打ちだった。
我が力を掠め取った泥人形が、よくぞここまで足掻いてみせたものだ。
神話の現象たる私が、ちっぽけな造り物の命に対して抱いた、最初で最後の感嘆。
だが、その感動は長くは続かなかった。
すべての崩壊を押し止めた竜人の少女は、限界を超えていた。彼女は光の粒子となり、文字通り……消え失せた。
世界だけが奇跡的に残り、英雄は誰にも看取られず、ただの幻のように空の彼方へ消散したのだった。
それから、わずか30年の月日が流れた。
世界は再び平穏を取り戻し、人々は忘却という名の特権を活かして、かつての地獄を笑い話に変えて生きていた。
そんなある日、彼女が帰ってきた。
地上に降り立ったその少女の姿を見たとき、私は宇宙の果てで思わず首を傾げた。
そこにあったのは、かつて世界を救った最強の竜人の威厳など微塵もない、あどけない少女の姿だった。年齢に換算すれば、せいぜい10代前半かそこら。あまりにも幼く、あまりにも頼りない肉体。どうやら、あの時すさまじい力を使いすぎた反動で、彼女の存在そのものが巻き戻され、記憶のほとんどすべてが綺麗さっぱりと失われていたらしかった。
自分が誰なのか、なぜここにいるのかすら分からない少女は、ただ、虚空を見上げながら、新しい世界の風に吹かれていた。
だが。
残酷な運命は、その「無垢」を許さなかった。
あの時、すべてを奪われた褐色肌の魔導士の妹。
彼女は30年の歳月を経て、すっかり年老いた老婆となっていた。しかし、その老いた肉体の奥底に巣食う怨念だけは、一秒たりとも衰えていなかった。
彼女にとって、すべての元凶は、あの竜人の少女だった。
老婆は、狂気に満ちた執念で準備を進めていた。
失うものなど何もない老いぼれの執念は、時に、理を超えた最悪の果実を生み出す。彼女は隣国に、少女に対して魔導核爆弾を撃ち込ませた。
少女が佇んでいたその場所を、一瞬にして抉り取るような閃光が包み込んだ。
轟音すらない。光の奔流がすべてを呑み込み、竜人の少女の小さな肉体は、分解されて、完全に消滅した。
そして、やはり、予想通りの展開が訪れた。
消滅させられたはずの竜人の少女は、その死を契機として再び覚醒した。失われたはずの力が奔流となって世界を逆流し、爆発によって消し飛んだ大地、都市、そして人間たちを、まるで何事もなかったかのように、完璧な元の状態へと巻き戻していった。
世界は、再び復活した。
見事なものだった。
何度目かの破滅と再生。
何度目かの、世界の延命。
私は、その光景を見下ろしながら、複雑な、しかし確かな誇らしさを感じていた。
我が力を盗んだあの泥人形は、記憶を失い、無惨に爆殺されながらも、結果として再び世界を救ってみせたのだ。
その執念は、神話の現象である私の目から見ても、称賛するに値する劇薬だった。
だが。
世界がどれほど美しく元に戻ろうとも、私の関心はそこになかった。
サメの少女は、未だ復活を果たさない。
王都タワーの頂から身を投げ、私の光を浴びて消え去った、あの純粋すぎる魂。
この歪んだ箱庭のどこを探しても、彼女の気配は、ない。
世界がどうなろうと知ったことではない。
魔導士が死のうが、その妹が復讐を果たそうが、人間たちが何度自滅を繰り返そうが、そんなことは、私の知ったことではない。
私は、ただ……彼女に会いたいのだ。




