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ヴェリタスの最終定理 PART5/NV  作者: リウ/Wan Liyue
●第16章:NV ニーア・ヴェリタス

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真理2:着装せよ!

「着装!」


ニーアの力強い叫びが、新王都の青空へと真っ直ぐに吸い込まれていった。

その瞬間、彼女の腰に巻かれた銀色のベルト型魔力増幅装置『ナンバー』が甲高い駆動音を立て始めた。

変換されたニーアの魔力は、熱を持たない光の奔流となって溢れ出し、ニーアの全身を包み込んだ。

新魔道士の「着装」とは、身体の形や衣服が別の装甲に変化するわけではない。

ただ、彼女の身体の輪郭を完璧になぞるように、目も眩むような黄金の光の層が形成され、分厚いオーラとなって定着するのだ。それは、あらゆる物理的衝撃を跳ね返す絶対的な防御壁であり、触れるものすべてを破壊する究極の矛でもある。光を纏った彼女の姿は、まるで新王都の太陽そのものが地上に舞い降りたかのように、圧倒的で、そして美しかった。


「なんだあそりゃあ!ただピカピカ光ってるだけじゃねえか!そんな薄っぺらい光で、俺様のこの分厚い鋼鉄の鎧が抜けるとでも思ったか!」


違法改造された不格好なナンバーから、黒い泥のような悪臭を放つ魔力を吹き出させながら、鎧の男が下品に嘲笑う。男の巨体が地面を蹴り上げ、凄まじい勢いでニーアへと突進してきた。振り上げられた巨大な鉄の拳が、空気を切り裂きながらニーアの頭上へと容赦なく振り下ろされる。

しかし、ニーアは一歩も引かなかった。光に包まれた彼女の顔には、揺るぎない自信と、相手の愚かさを心の底から見下すような不敵な笑みが浮かんでいた。


「ただ光っているだけじゃあないわ!この私が、新王都の誰よりも一番輝いてるって証拠よ!」


ニーアは振り下ろされた巨大な鉄の拳に向かって、自らの細い腕を真っ直ぐに突き出した。黄金の光を纏ったニーアの手のひらと、黒い魔力を纏った鋼鉄の拳が激突した瞬間、爆発的な衝撃波が周囲に吹き荒れた。残っていた屋台は吹き飛び、石畳の地面には巨大な亀裂が走る。しかし、土煙が晴れた後、そこに立っていたのは、微動だにせず、男の拳を片手で軽々と受け止めているニーアの姿だった。


「な、なんだと……!俺様を、片手で……?」


「言ったでしょう?私が一番強いって。さあ、今度は私の番よ!」


驚愕に目を見開く鎧の男に対し、ニーアは極太の尻尾を勢いよく振ってバランスを取ると、空いた足で男の巨大な腹部に向かって強烈な蹴りを放った。光の尾を引くその一撃は、分厚い鋼鉄の装甲を紙切れのようにへこませ、男の巨体を後方へと大きく吹き飛ばした。男は市場の瓦礫の中を派手に転がった。


「……対象の出力、さらに上昇。……魔力波形が著しく汚染されている。……でも、所長の光は、何よりも熱くて、強い」


少し離れた安全な場所から、アスナが抑揚のない平坦な声で戦況を分析していた。彼女の赤い瞳は、無残に粉砕されたクレープ屋のピンク色の残骸と、激しい戦闘を繰り広げるニーアの姿を交互に見つめている。


「……早く、終わらせて。……粉々になったクレープの甘い匂いが、あの男が撒き散らす泥のような悪臭に混ざって、ひどく不快だから」


「言われなくても、一瞬で終わらせてあげるわ! 私の完璧な勝利を、そこで瞬きせずにしっかり見てなさい!」


ニーアの言葉に呼応するように、違法改造の鎧男が瓦礫の中から雄叫びを上げて立ち上がった。男は狂ったように自らのベルトのバックルを叩き、限界を超えた量の黒い魔力を強引に体内へと注入し始める。男の筋肉が装甲の内側で異常に膨張し、金属の継ぎ目が悲鳴を上げて弾け飛んだ。もはや人間の理性を失い、破壊衝動にのみ突き動かされる魔力の怪物と化した男が、再びニーアへと襲いかかる。

凄まじい速度の連撃がニーアを襲う。しかし、ニーアは流れるような身のこなしと、背中の極太の尻尾を使った変幻自在の体術で、そのすべてを華麗に躱し、あるいは光を纏った腕で弾き返していく。攻防が交錯するたびに、周囲には金と黒の火花が散り、激しい衝撃音が市場の空気を震わせた。


「無駄よ!そんなコントロールの効かない力任せの攻撃なんて、私には絶対に当たらないわ!」


ニーアは男の大振りの一撃を潜り抜けると、その懐へと深く入り込んだ。そして、腰のナンバーの出力を最大まで引き上げる。バックルのクリスタルが限界まで明滅し、ニーアの全身を包んでいた黄金の光が、彼女の右脚一点へと猛烈な勢いで収束していった。それはまるで、新王都の街角に小さな太陽が出現したかのような、圧倒的な密度の光だった。


「これでフィニッシュよ! 私の完璧な一撃、その身に刻みなさい!」


ニーアは地面を力強く蹴り、空高く跳躍した。光を纏った彼女の姿が、新王都のビル群と青空を背景にして、美しく鮮やかなシルエットを描く。そして、重力と魔力のすべてを乗せた究極の飛び蹴りが、天空から隕石のように鎧の男へと一直線に降り注いだ。

男は迎撃しようと腕を交差させたが、ニーアの黄金の蹴りは、分厚い鋼鉄の装甲も、違法改造されたベルトの防御力場も、一切の抵抗を許さずに紙屑のように貫通した。光の刃は男の胸部に深々と突き刺さり、その奥に隠されていた急所を正確に粉砕した。


「ガアアアアアッ……!!」


断末魔の叫びと共に、男の胸から鈍い破砕音が響き渡った。男の胸の皮膚に直接埋め込まれていた真鍮色のプレート、すなわち「番号持ち」の証であるナンバーが、ニーアの一撃によって完全に砕け散ったのだ。

光が収束し、ニーアが軽やかに地面へと着地すると同時に、腰のベルトの駆動音が停止して「着装」が解除された。激しい戦闘の跡地には静寂が降り降り、ニーアの背後で、崩れ落ちた男の巨体に異変が起きていた。


番号持ちのナンバーは、単なる管理用の認識票ではない。それは、彼らの生命力そのものに直結する生体器官の一部と融合『させられて』いた。それを破壊されるということは、すなわち、絶対的な死を意味する。


しかし、そこに赤い血が流れることはなかった。男の肉体は、足元から徐々に色を失い、無機質な灰色の砂となって音もなく崩れ落ちていった。最後に残った金属の装甲だけが虚しく地面に転がり、男だった砂の山は、新王都を吹き抜ける春の風に乗って、跡形もなく大気中へと消え去っていったのである。

それが、魔法という神秘を失い、科学がすべてを支配するようになったこの時代の、あまりにも残酷な真実だった。


魔力を持たない一般人が、機械のベルトに頼って魔法を引き出し、「新魔道士」として公的に魔導士を名乗る。

一方で、生まれながらにして強大な魔力を持つ本来の魔導士たちは、技術の枠に収まらない危険なイレギュラーとして扱われ、「番号持ち」という名の障害者、あるいは奇形として社会から排斥され、狩られる対象となっている。


機械のベルトに頼っているニーアたち新魔道士側は、社会の圧倒的な多数派であり、法によって守られた「正義」であった。

しかし、才能のある者を番号持ち扱いして理不尽に迫害し、命すらも容易に砂に変えて奪っていくのが、決して否定できない事実なのである。


技術の発達がもたらした人間の傲慢と、理解を超えた才能に対する根深い恐れ。

迫害され、路地裏に追いやられる「有能」と、正義の皮を被って彼らを狩る「無能」たちは、いずれ避けられない凄惨な衝突へと進むだろう。

強者の驕りと弱者の憎悪が渦巻くこの歪な社会構造こそが、活気に満ちた新王都の、決して隠しきれない暗部であり……世界の全てであった。


「……終わったわね。ほんっと、私のコートが汚れなくてよかったわ」


ニーアは大きく息を吐き出しながら、トレンチコートの裾をパパンと叩いて埃を落とした。彼女は男が砂となって消えた事実に対して、特に感慨を抱く様子もなかった。この街で生きる以上、弱者の死は、日常茶飯事の光景に過ぎないからだ。


「……お疲れ様。見事な、一撃だった。……でも、クレープ屋は、戻ってこない」


アスナが足元に転がっていた木材の破片を無表情に蹴飛ばしながら近づいてくる。


「分かってるわよ。帰りに別の店で、最高に美味しいスイーツをご馳走してあげるから機嫌を直しなさい。さあ、事務所に戻るわよ。こんなに派手にやっちゃったんだから。……警察が来る前に退散しないと面倒なことになるわ。」


二人は破壊された市場を背にして、人々のどよめきを背中で聞きながら、早足でその場を後にした。


古びた雑居ビルの二階にあるヴェリタス探偵事務所に戻ると、いつものように埃っぽい空気が二人を出迎えた。

ニーアはコートをハンガーに掛け、極太の尻尾を揺らしながらデスクの上に置かれた魔導端末の電源を入れた。

端末は、しばらくノイズを立てた後、厳かなアナウンサーの声を室内に響かせた。


『……繰り返します。本日正午をもって、議会は特例法案を可決。新王都全域において、国家総動員法が正式に施行されました。これにより、すべての産業と『魔力資源』は新王都政府の統制下に置かれ、生産体制は未だかつてない規模へと拡大されます。市民の皆様におかれましては……』


「やったわ!」


ニュースを聞いた瞬間、ニーアは両手を突き上げて歓喜の声を上げた。彼女の黄金色の尻尾も、喜びを表現するように激しく振り乱れている。


「聞いた、アスナ!?これで新王都の経済は完全に安定するわ。国から企業にお金がバンバン降りてきて、景気は最高潮に達するはずよ。そうすれば、私たち探偵事務所にも高額な報酬の依頼が山のように殺到するはずだわ!ついに、私が新王都で一番の探偵として大金持ちになる時が来たのよ!」


無邪気に喜ぶニーアの隣で、アスナはソファに腰を下ろし、静かに瞳を伏せた。


「……国家総動員法。……それは、体制側の『新魔道士』による『番号持ち』との本格的な対立が始まったことを意味する……でも、配給の効率化によって、良質な魔石や魔道具が、これまで以上に手に入りやすくなるかもしれない。……もしそうなら、それは、とても素晴らしいこと」


ニーアが将来の大成功を妄想して高笑いを上げ、アスナが配給される砂糖の量を計算していた、まさにその時である。

ギィィィ、と。

探偵事務所の重い木製のドアが、油の切れた音を立ててゆっくりと開いた。


「え? お客さん?」


ニーアが驚いて入り口を振り返る。月に数回しか鳴らないドアのベルすら鳴らさず、音もなく侵入してきたその人物は、事務所の薄暗い入り口に静かに佇んでいた。

純白の、体にぴったりとフィットしたライダースーツを身に纏った長身の男だった。その出で立ちは、泥臭い新王都の街並みには全くそぐわない、異質で洗練された空気を放っている。その立ち姿には、見る者を圧倒するような静かな迫力と、決して揺らぐことのない絶対的な自信が満ち溢れていた。


「……失礼するよ。鍵が開いていたものでね」


男は、丁寧に言葉を紡ぎながら、一歩だけ室内へと足を踏み入れた。その目は、獲物を定める鷹のように、真っ直ぐにニーアを射抜いていた。


「君が、ニーア・ヴェリタス君だね?」


「誰よあんた!ノックもせずに勝手に入ってくるなんて、随分と非常識じゃない!」


ニーアが警戒心を露わにして鋭く睨みつけると、極太の尻尾が威嚇するようにピンと逆立った。ソファのアスナも、何も言わずにすっと立ち上がり、気配を殺して臨戦態勢を取る。しかし、白いライダースーツの男は、二人の敵意を浴びても表情一つ変えることはなかった。彼は自らの胸にそっと手を当て、まるで神聖な誓いを立てるかのように、静かに、しかし力強く宣言した。


「僕は、アキラ。アキラ・トバリ」


男の言葉は、静寂な室内に波紋のように広がっていった。


「このアキラ・トバリには、正義を信じる心がある。……だからこそ、僕は、君の破滅を止めに来た!」

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