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俺は断じて幼女趣味じゃないっ!

娘ちゃんはまだ登場しません。

新妻ちゃんが騎士様のご実家である伯爵邸に入り浸って間もない頃です。


『────お前、やっぱり幼女趣味だったんだな』


 今でも腸が煮えくり返る。


 そろそろ22という歳を迎える頃、当日は団長の計らいで休みをもらったことから同僚兼友人でもある男に奢りで、飲みに誘われたことが始まりだった。

 そいつと二人で飲むことは普段からもあり、俺も素直にその誘いに応じた。

 初めはなんてことのない任務の話や世間話から始まり、徐々に互いの口が軽くなり始めたところで実家の話題になった。

 そして、まるで機会を伺っていたかのように相手が聞いてきた。


『最近、お前の実家に子供が入り浸ってるって本当か?』


 その問いに思い当たりがあった俺は、思わず眉を顰めた。それまで美味かったはずの酒も、まるで味が変わったように思えた。


『……うわ、マジか〜』


 俺の反応だけで読み取ったそいつは驚き、そして苦笑した。同情めいた表情は実家の両親や姉に比べればまだマシな部類だった。


『しかも話じゃ幼女ってことだけど、それも本当か?』

『…………あぁ』


 そこで初めて俺が肯定の言葉を吐けば、そいつも『アララ』とこぼした。

 しかし、次に奴が口にしたのは信じられない言葉だった。


『お前、やっぱり幼女趣味だったんだな』

『……………………は?』


 一体何を言ってるのか理解できなかった。

 俺が幼女趣味?どこをどう聞き取ればそうなる?


『いや、だってお前他の連中が訓練場を覗きに来る令嬢や夫人方に熱を上げる中、一人黙々鍛錬してたじゃん?その中に対象がいなかったってことだろう?』

『お前だってそうだろう?!』


 夫人に熱を上げるのは駄目だろうと諫めるよりも先に、まず目の前の男もそうだったという事実を訴える。

 しかしそいつはヘラリと「俺は婚約者がいるから」と俺からの糾弾をしれっと逃れやがった。

 ダンッ!と机に拳を落とし『俺は断じて幼女趣味じゃないっ!』と声を大にして訴えたが、変わらずそいつの表情は変わらない。


『いや、ほら。この前夫人がまだ歩くのも覚束ない子供を連れてきただろう?お前のあのときの目つきと挨拶でこうなんか……、手慣れてるなって』

『俺がガキに興奮する趣味にでも見えたのかっ!!?』


 「そんな大きな声出すなって」っと諌めてくる男の言葉も無視し、俺は解せない称号の剥奪に取り掛かった。

 しかし、それでも奴の顔色は変わらない。

 普段から軽薄そうでヘラリとした態度の男だったが、このときだけはそれが忌々しい。

 殴りかかる寸前にまで至った俺だが、どうにか店への迷惑も考えて自制した。


『悪かったって。いや、本当。そういうつもりじゃなくてさ。……なんか、こう。他の女性に対してのと比べてさ。目つきはスゲーいつもより酷かったけど。お前に歩み寄ろうとして転びそうになったときも、あんな小さい体を上手く支えてたし』

『それがどう幼女趣味につながるっ!』

『だから聞けってっ!』


 よくよくその時のことを思い起こせば、奴とて俺以上にガキの扱いに長けている様子だった。

 そのことを言及しようと思えば、以前『俺は年の離れた兄弟が多いから』と実家の話をこぼしていたのを思い出す。

 駄目だ。またのらりくらりと逃げられる。

 俺が奴に突きつける材料を探している間に、奴もまた俺を抑える言葉を並べ立てる。

 結局最後は「話題っ!話題を変えようっ!!」と奴が宣ったことで、俺も不快な思考を投げ捨てた。


 しかし、奴と別れ一人になり、酒が抜けてくれば自然とあのときの怒りが再燃する。


『幼女趣味』


 あまりに不名誉不愉快極まりない称号だ。

 明日の朝一番の訓練場では奴を叩きのめしてやる。


 そう心に誓えば、自然と自宅への帰路につく足取りは軽くなる。

 それに反して早まっていたはずの足取りを緩めれば、自身を真上から照らしてくる月明かりに意識が向いた。

 見上げれば、道理で普段より明るいと納得した。

 同時に最近実家に帰るたびにバカ見たく笑って俺の帰りを喜ぶガキの表情を思い出し『今日は満月ですねっ!とってもキレイです!!』とその小さな口が紡ぐだろうことも、容易に予想がついた。

 そのことに自身でも気がつけば、誰ともしれぬ相手に舌打ちをした。


『俺がガキに興奮する趣味にでも見えたのかっ!!?』


 少なくとも、そんな変態趣味を自身は持ち合わせていない。

 どちらかといえば、自分にそんな趣味を押し付けようとしてくるあのガキこそおかしな趣味していると思う。


 自身の口も態度も悪いことも、騎士に相応しくない見た目も、男はしっかりと自覚していた。容姿と性格が不釣り合いであることも分かっていれば、見た目で騒ぐ令嬢にも興味はない。

 ギャップだなんだと、喚く女どもにこれっぽっちも興味を抱いたことはない。


『騎士様』


 嫌に耳に残るキーの高い音が蘇る。

 この国に、一体何人の騎士がいると思っているんだか。

 『まるで王子様』な自分の見た目にも、大して興味もない。

 もしいつか俺が心を許し、娶ると決心がつく相手がいるとしたら。

 そいつはきっと俺の見た目も性格も気にしない、ただ“俺”が好きなやつだけだろう。


 そこまで考えれば、やはりあんなガキは対象外だと結論づける。


 どうせなら、結婚してやってもいいと思えるほどイイオンナにでもなってくれりゃ話は早いんだがな。


 まだ酒は抜けきっていないのだと、俺はそう自覚しながら実家の屋敷にたどり着いた。

 まさか、こんな夜遅い時間にガキが、それも起きて俺の帰りを待っていたなんて、扉を開けるまでは考えもしなかった。

 最悪なのは、ガキの初めての泊まりを俺の両親が受け入れてしまったことか。

 玄関に入った瞬間に、酒は完全に抜けた。

一応間に挟んでおこうと思って。騎士様の葛藤。いや、まだ葛藤以前の問題だけれど。

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