幼妻の出迎え
祝!娘ちゃん初登場回(≧▽≦)△∵!
「おかえりなしゃいましぇっ!おと、だんなしゃまっ!!」
騎士団の遠征指揮の任務から久々に自宅に帰れば、数年以上前に結婚したはずの嫁がちっこくなっていた。
「おと、っだんなしゃまっ!おしごとおつかれしゃまっです!!」
「………おう、今帰った」
あまりの小ささに首を直角に曲げる必要があり、仕方無しにその小さい生き物を片手に抱える。
「おっ、だんなしゃま、おうろになしゃいましゅ?それとも、えーと、えと、……ごっはん!にしましゅ……か?」
あまりのたどたどしさと噛みまくる幼子の言葉に表情を変えないように努めながら、俺もその頭を撫でて答える。
「お前と風呂入って飯の一択だな」
「ちょっとっ!?旦那様?!わたしのときと対応違いすぎませんっ!??」
俺が片手に抱えた生き物がキャッキャッと嬉しそうに声を上げる中、陰からまた別の生き物が飛び出してくる。それを傍目で確認すれば、俺はあえてそれまで貫いていた無表情を崩して見せた。
「おいおい、これはどういうことだー?俺の嫁が小さくなってるかと思えば、今度は不法侵入者かー?」
「もうっ!こんな時ばっかりノリがいいんですからっ!!」
ハハハッと今度こそ声にして笑えば、モウモウと牛のように鳴きながら女が肩を叩いてくる。
「おかーしゃまもいっしょにおうろ、はいりましゅか?」
「ぇっ?!え〜っ!それは流石にちょっと……」
「うちの風呂は広いからな。お前も家族みんなで入りたいよな?」
う?と慌て始めた母親を不思議そうに眺めながら、娘を抱えたまま俺も浴場へ向かうべく足を運ぶ。
「でも、お前のお母様は一緒に入りたくないみたいだな?」
「?どーしてなの、おかーしゃま??」
未だに玄関で固まってる母親を俺の肩越しに娘が振り返れば、それに気づいた女も顔を真っ赤にして涙目になりながらこっちを睨みつけてくる。
「…………〜っもーぅっ!!入りますっ!入りますよっ!!」
もーっもーっっ!!と興奮した牛のように繰り返しながら俺の背中を追いかけてくるその姿に、また笑いが込み上げてくる。
「どうしてそんなに娘には甘いんですかっ!!?」
「自分の娘が可愛くない父親がいるか」
それにしてもよく喋るようになったな、と投げかければ俺の娘から母親と呼ばれる女は顔色を変えて「はいっ!」と俺が留守にしていた間のことを話し出す。
ときおり確かめるように俺の腕の中にいる娘に「ねー?」と声をかけてくれば、娘も「はいっ!!」と一段と元気良く声を上げる。
俺の目の前で顔を並ばせてくれば、まるで写し鏡でも見せつけられているような感覚だった。
髪も瞳も、表情の見せ方もそっくりな母親とその娘に、自然と口角があがる。
「ねっ?!旦那様もすごいと思われるでしょうっ!?」
「おとーしゃま、またほめてほしい、ですっ!」
同時に俺を見上げてきたときなんて、まるで母子というよりも姉妹のようだった。
「おうおう、さすが俺の娘だな。偉いぞ」
グリグリと娘を抱える片手とは違うもう一つの手でその頭を撫でれば「キャー」と、それは明るく悲鳴を上げる。
「…………娘のことはすぐに褒めちゃうんですから」
自分で促しておきながら勝手に口を尖らせる女に俺が気づけば、すぐに娘もそれに気がついた。
「おとーしゃまっ!おかーしゃまも!!」
グイグイと、俺の服を掴んでいた手を上下させてそう娘が声を上げる。
「ん?」
「おかーしゃまもっ!!ほめて!」
まるで俺だけに飽き足らず母親にも褒められたいとでも言うような口振りに、俺は娘が何を指し求めているのか気がついた。
突然の娘の反応に「どうしたのー?」と俺越しに娘に顔を出した女に、俺は仕方無しに嘆息をついてからその頭に片手を移した。
「あぁ。…………俺が留守の間、良くやったな」
「………………っ!?」
まさか俺から自分に対しての褒め言葉が出るとは予想していなかった女は、その表情を驚嘆の色に変えた。
「も、もぅっー!!わたしがこれまでどんなに強請っても言ってくれなかったのにっ!!」
ひどいっズルいっ、と繰り返す顔を真っ赤に染め上げた自身の妻を見て、俺はまた笑った。
「おかーしゃま、あたちといるとげんきっ。おとーしゃまいると、もっとげんきっ!!」
俺と娘が先に浅い湯船に浸かり、妻が体を流し終えるのを待っている間大きな声を窄めるようにそう俺に言ってきた娘に俺は「そうか」と言って、その頭をまた撫でてやった。
「おとーしゃまもっ!!……っ」
「なに?何のお話?」
娘がさらに何かを言おうとすれば、ちょうど体を流し終えた妻も湯船に足を入れて近づいてくる。
「お前が、娘一人じゃ満足できず寂しがってるって話だ。……俺のこと相変わらず大好きだなぁ、奥様?」
「えっ!?ちょっ、……もうっ、旦那様に何を話しちゃったのよこの子はっ!!」
今更娘の口を閉ざそうと指で抑え始めた妻に、クツクツと笑ってやれば娘は不思議そうにしながらもまだ平べったい眉を寄せて不満を訴えてきた。
妻はそれを口を閉ざされたことによる抵抗の意志だと受け取っていたが、その本人なりに一生懸命尖らせた瞳を俺に向けていたことからも不満は俺宛であったことが読み取れた。
妻が押えてなければ確実に「おとーしゃまっ!!」と声高に俺の名が呼ばれただろう。
娘の機嫌を直すべく、俺はその娘の目の前で妻を抱き寄せる。
「……そんなに寂しがらせたんなら、今夜はお前が満足するまで相手してやってもいいぞ?」
その耳元に娘には聞こえない声量で囁いてやれば、案の定妻は湯船に浸かっていたことも関係なく全身を真っ赤に染めて言葉を失くした。
のぼせたようにも見えるその姿は、結婚して何年も経つというのに初心のままだった。
「……も、もぅ!娘の前で急に何を……っ」
と慌てて言い繕う姿を見て、俺も満足する。
娘に視線を移せば、幼いなりになにかに納得したのかそいつも満足げに一人笑ってた。
「きょーはおとーしゃまもいっしょにおねむしたいです!」
「…………!」
……まぁ、だからといってまだ幼い娘に変わりはない。
もし今夜が無理だったなら明日にでもすればいい。
まだまだ幼い娘の頭を撫でながら、俺はニヤリと笑う。
「……俺がいない間、お前ずっと娘と一緒に寝てたんだな?」
貴族の子供なら、一人で立てるようになれば一人部屋を与えられ親との寝所も分けられる。
俺が遠征に行く前にはとっくに一人部屋に順応していた娘が、当たり前のように「三人一緒」を強請ってきたことについて妻に言及すれば、それに関しては女も言葉にならない様子だった。
(…………存外、俺も留守にしすぎたな)
明日は遠征帰りの休暇を取っていることだし、散々娘に強請られるであろう遊びの数を頭の中で並べながら、俺は一つため息を吐く。
(…………………………帰って、来たんだな。俺も)
今更な感想が、胸の内を過ぎった。
そしてそれからすぐ、娘と妻の明るい声が浴場に響いた。
まだまだ幼い頃の娘ちゃんっ!!
不定期更新……