49 ディアマトの覇気
俺達は宿屋の前に止めた馬車の荷台にエレナやキャスティと一緒に物資を乗せていた。
「……これぐらいあったら大丈夫だろう」
「そう遠くはないと思うけど、念には念をってところかしら」
エレナが詰め込んだ物資を見ながら呟く。
元々食料は乗せていたが、明確な街の場所は分からないので余分に食料を乗せていた。
「そうにゃ! お腹が減っては何とやらって言うし、食料は一杯あるに越したことはないにゃ!」
「だね。ひとまず雪が降っている方角へ向かえば街は見つかるだろうけど……キャスティ、また風魔法をお願いすると思うけど、大丈夫かな?」
「任せるにゃ! お腹が減っても食料は沢山あるにゃ!」
キャスティは詰め込んだ食料を両手で指し示しながら話す。
「ははっ頼もしいな」
「ふふ、そうね。よろしく頼むわ。キャスティ!」
「わかったにゃ!」
2人と話していると、宿屋の中からディアマトが出てくる。
「……ディアマト、もう歩けるようになったんだね」
「あぁ、心配をかけたの主様。メルトリアからずっと寝ていたから体がなまっておるからの。少しでも動いで体を慣らしておかないといけないのじゃ」
「いいと思うよ。でも、無理はしないようにね」
「わかっておるのじゃ、主様」
ディアマトは笑顔を浮かべながら答える。
続いて宿屋から出てきたエアリアは対照的に俯きがちだ。
「準備が出来たからエアリアも荷台に乗ってくれ。すぐに出発するからね」
「……わかりました、アモンさん」
「うん。……っ」
俺は何か気の利いた言葉を掛けようとしたが、それ以上言葉が出てこなかった。
ディアマトとエアリアが馬車に乗り込むと、会計を済ませたマイトとマリッサが宿屋から出てくる。
「お待たせ致しました、アモン様」
「さ、アモン! 早くそのウエ……何とかって街に行きましょう!」
「ウエスタンね。雪が降っているらしいから積雪地帯に入ったら防寒具をしっかり着てくれよ」
「あらそう? この防具でも十分だと思うけどね」
マリッサは身にまとっている青白い鎧を見回しながら話す。
「……まぁいいわ。マイト、馬車に乗り込むわよ」
「畏まりました、マリッサ様」
マリッサ達も馬車に乗り込むのを確認した後、御者席から皆を見渡す。
「……それじゃ、出発するぞ! キャスティ、お願いできるかな」
「わかったにゃ!」
キャスティは馬に風の層をまとわせるのを確認した後、俺は手綱を引っ張る
――ビュンッ! !
すると馬は風魔法の力によって勢いよく走りだした。
身構えていなかったディアマトは荷台の壁に思いっきりぶつかる。
「あぅっ! ……あ、主様!? なんじゃこの速度は!?」
「あ……そっか。ディアマトは寝ていたんだっけ。……いつもエレナ達がまとっている風の層を馬にまとわせることで移動速度を格段に上げる事ができるんだよ」
「なるほどの……これは驚きじゃ」
「しっかり捕まっておいてね」
驚くディアマトを横目に俺達はオルテシアの出口へと急いだ。
オルテシアは入場する時は厳重だったが、出る時は簡単に出る事が出来た。
外に出た後、すぐにエレナが千里眼で周囲を見渡す。
「……ふんふん、そうね……この方角の山の先に白い地平線が見えるわ」
白い地平線……おそらく雪が降っているから白く見えるのだろう。
「ありがとうエレナ! それじゃその方向へ向かうとしようか」
俺はエレナが指し示す方角に馬車を移動させた。
緑が広がる高原を高速でしばらく移動していると山道に差し掛かり森の中へと入っていく。
「……何も出てこないと嬉しいけど」
俺の願いとは裏腹に、狂暴な四足歩行の魔物が道の先に複数体立ちはだかる。
「はぁ……やっぱり、そうなるよね」
「アモン! 私が戦うわよ」
マリッサは待ってました! と言わんばかりに立ち上がる。
「ダメです! また前みたいに痛みで危ない状態になる可能性がありますからね」
「えぇっ!? 心配性ねマイトは! 少しぐらいいいじゃない!」
「ダ メ で す!」
「うぅ……っ!」
マイトは全く意見を変える気がないようだ。
「はは……それじゃエレナ、頼めるかな?」
「……えぇ、わかったわ」
返事を返すエレナは少し疲弊をしていた。
「……エレナ? まさかずっと千里眼で周りを探索していたの?」
「まぁね。少しでも方角がずれていたら嫌でしょ?」
「そうだったのか……すまない、気を遣わせてしまったみたいだ」
俺はキャスティに視線を向けるが、以前と同様に馬に風魔法を常に行使しているのでエレナ以上に疲弊をしている。
エアリアは魔法が使えないので頼む事はできない為、仕方なく俺が立ち上がろうとした時――
「――ここは我に任せてくれるかの」
ディアマトが俺よりも先に立ち上がっていた。
「……えっ!? ディアマト、戦えるのか?」
「ドラゴンになるのは無理じゃが……あの魔物ぐらいだったら造作もないのじゃ。座っていてくれるかの、主様」
「……わかった。お願いできるか」
ディアマトは頷くと、荷台から勢いよく降りる。
涎を垂らす四足歩行の魔物の群れに近づくディアマトからは一気に紫色の禍々しいオーラの様なものがあふれ出てくる。
そして――
「――”失せよ”」
立ち止まったディアマトは魔物の群れに向かってそう呟くと、道を塞いでいた魔物達が急に怯え始め一目散に逃げて行った。
「……へ?」
俺も含めて全員が驚きの表情を浮かべる。
ディアマトは紫色の禍々しいオーラを引っ込め、馬車の方へ戻ってくる。
「終わったのじゃ」
「終わったのじゃ……じゃないわよ! 何をしたの今!」
マリッサは荷台から身を乗り出しながら答える。
ディアマトはニヤリと笑みを浮かべる。
「……えっと、何をしたの……今?」
俺は改めてディアマトに問いかけた。
「あぁ、我のスキルである覇気威嚇をしたのじゃ、我は魔物の中でも上位種であるからの。並大抵の魔物ならすぐに逃げ出すのじゃ」
「……すごいな、それ。おまけに無駄に殺すこともなく追っ払う事ができるじゃないか」
「そうじゃのう。念のため。この一帯に我の覇気をばら撒いておいたから、しばらく魔物は近づいてこないじゃろう」
「助かるよ! さ、早く乗ってくれ、先を急ごう!」
「わかったのじゃ、主様!」
それからディアマトの言う通り、魔物に邪魔される事なく山道を越える事ができた。
山を越えた先には雪が視認できる程に雪が積もっていた。
「雪が降っている!」
「そうね! ……あ、アモン! この方角の先に大きな街が見えるわ、向かってみましょう!」
「わかった! 急ごう!」
すると、エレナの表情が曇る。
「……んっ!? ……ちょっと待ってアモン。誰か雪道に倒れてるわ」
「なんだって! ……案内してくれエレナ!」
「えぇ、こっちよ!」
俺はエレナの指し示す方向へ馬車を急がせた。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アモン達は今後どうなるのっ……!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。












