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27 剣技の稽古を終えて

ボルティガとの稽古が始まり、マリッサは木刀を持って闇雲に攻め込んでいた。

以前、剣を持ち始めたキャスティの時と同じような動きをしていたので懐かしく思いながら見学を続ける。


「……そういえばマイト、前にエレナから聞いたのですが武器での戦闘は守りが重要だと聞きましたが、そうなのでしょうか?」

「はい。その通りです。隙というものは攻撃を行う際に発生するものですからね」

「やっぱりそうなんですね。防御に徹して必要最低限の攻撃で仕留(しと)める。……これが戦闘を有利に運ばせる秘訣なんですね」

「仰る通りです。……ですが、マリッサ様は守りとは無縁なのでしょう」


俺は苦笑をしながら視線をマリッサに戻す。


――カンッ!

マリッサが振りかぶった木刀をボルティガが木刀で受け止める。

その衝撃で後ろに括っていたマリッサの金髪が美しく舞う。


「マリッサ姫、休む間もなく攻め込むのもいいですが、相手に隙を突かれる可能性が高いですよ」

「いいのよボルティガ! 隙を突かれないぐらい相手を圧倒して見せるんだから!」

「威勢が良いのは美点ですが、油断は禁物です。――フンッ!」


ボルティガは受け止めていた木刀を振り払い、マリッサを後方へと下げる。


「わわっ」

「マリッサ姫、それでは次に守りの稽古を始めましょう」

「えぇ!? 守りなんて嫌よ! もっと攻めたいわ!」

「わかりました。では……私の攻撃を全て防ぐ事が出来たら攻めの稽古に戻りましょうか」

「わかったわ! 全て防いでみせるんだから!」


ボルティガに丸め込まれるマリッサは見ていてとても微笑(ほほえ)ましかった。


「それでは参ります」


それからボルティガの木刀はマリッサに次から次へと降り注ぐ。

さすがに手加減はしているようで、マリッサの守りはおぼつかない様子だったがボルティガの攻撃を何とか全て防ぎ切った。


「はぁ……はぁ……やったわ!」

「素晴らしいですね。それでは再び攻めの稽古に戻りましょうか」

「えぇ! それじゃ行くわよ!」


見ていてとても教え上手であったボルティガに尊敬の念を抱きながら、それからしばらく剣技の稽古を見守っていた。




しばらくすると、マイトと同じような執事服を着た男性が城内から中庭に歩いてきた。


「お取込み中失礼致します。皆様、朝食の用意が出来ましたので大広間までお越しください」


その報告を聞いたマリッサは木刀の手を止め、元気よく話し出す。


「もうお腹ペコペコよミダルマン!」


ミダルマンと呼ばれる男性の執事は、整えられた黒い短髪で非常に大人びた容姿であった。


「うむ……小生はこれにて失礼しよう」


ボルティガはそう言うと、マリッサから木刀を受け取り中庭を後にした。


「……マイト、あの方は?」

「はい。執事長のミダルマン・ロイド様です」

「執事長……ですか」


俺は執事長のミダルマンに見覚えがあった。

なぜなら、昨日の夜に俺が目撃したライフォードと話していた人物だったからだ。


「マイト! それにアモンも早く行きましょう!」

「……え、俺も一緒に食べてもいいんですか?」


俺は傍にいたマイトに確認を取る。


「もちろんですよ。大切な客人なのですから……それでは私たちも移動しましょうアモン様」

「あ……はい。わかりました」


俺はマイトに返答を返しながら、ミダルマンに付いていく事にした。

しばらくミダルマンに付き従って歩いていると大広間に通される。


「おぉ、待っておったぞ。座ってくれ」


既に席に座っていたライフォードに俺は軽く挨拶をすると、マリッサと共にライフォードの近くの席に着く。

ミダルマンはライフォードの斜め後ろに、マイトはマリッサの斜め後ろにで立ったまま待機していた。


「それで、朝の稽古はどうだったかなマリッサ」

「とても楽しかったわお父様! もうずっと魔法と剣技の稽古でもいいんじゃないかしら!」

「はは、頼もしい事だな! ……だが、誕生日パーティの披露宴の為にもしっかりとダンスの稽古は欠かしてはいけないぞ?」

「はぁ……この後はダンスの稽古か……」


気だるそうにしているマリッサを横目にライフォードは俺に視線を向けてくる。


「アモン殿、昨日はしっかり休めましたかな?」

「えぇ、お陰様で。とても素敵な部屋をお貸しいただきありがとうございます」

「それはよかった。しばらくは好きに使ってくれて構わない。よかったらメイドの者を付けるが如何かな?」

「あ、いえ……お構いなく。お気遣い頂きありがとうございます」

「そうか? また何かあれば気軽に聞いてくれて構わない」


俺は昨日の密談の事には触れず、普段通りのやり取りを交わす。

それから用意されていた食事を済ませ、食後の稽古について話をする事になる。


「マリッサ、この後のダンスの稽古だが……ダンス講師であるアリシアがエアリア殿達と街の探索に出たっきりまだ戻ってきていないのだ」

「そうなのねっ! それじゃ別の稽古を――」

「――なのでマリッサにはその間、クロエから学問の授業をしてもらう予定だから安心するように」

「えぇ~~……勉強なんて嫌よ!」


マリッサは心底嫌そうな表情をしながら呟く。

俺はアリシアがダンスを教えている事に驚きながらも2人のやり取りに耳を傾ける。


「わがままを言うではない。……アモン殿。すまないがエアリア殿達を探しに向かってはくれないだろうか?」

「わ、分かりました。それではこの後、探しに向かってみますね」


俺は急に話を振られて戸惑いながらも返答を返すと、マリッサはすぐさま便乗してくる。


「っ!! お父様、それなら私も一緒に探しにいくわ!」

「いや、マリッサには学問の勉強が――」

「――城下町の見学もれっきとした社会勉強よ! お父様は全然お城から出してくれないから城下町の状態が分からないもの!」

「……うっ! それはお前が心配で……」

「大丈夫よ!! アモンもいるし、それにマイトも付いてきてくれるわよね?」


マリッサは後ろで待機していたマイトに振り返る。


「それはもちろんですが……いいのでしょうかライフォード様?」


ライフォードは少し考えた後、答える。


「うぅむ…………はぁ、わかった。以前もアリシアを探しに向かった時も無事だったからな」

「っ!! いいのねお父様!!」

「……だがマリッサ、アモン殿とマイトが言う事はしっかり聞いて勝手に行動するでないぞ?」

「もちろんよ!! それじゃ食べ終わった事だし、早く行きましょうアモンにマイト!」


マリッサはテンション高く立ち上がり、すぐさま大広間から稽古着のまま出て行った。


「お、お嬢様! お待ちください!! せめて稽古着からドレスに着替えてください!!」


マイトはすぐさま大広間から出て行ったマリッサを追いかける。


「……そ、それでは俺も行ってきますね」

「あぁ、マリッサを頼んだぞ」


俺は嵐のように去っていったマリッサを追いかけた。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「アモン達は今後どうなるのっ……!」


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