26 マリッサの稽古
次に目が覚めたのは窓から朝日が差し込む時刻だった。
俺はベットから立ち上がり思いっきり背伸びをする。
「ん~! っと……もう朝か……」
そのまま散歩がてら部屋を出る事にした。
「……やっぱり朝はいいな」
夜中と違って外からの日差しが差し込んできており、幻想的な通路が広がる。
昨日マイトと話していた中庭に差し掛かった時、中庭でマリッサとドルフが話をしているのが視界に入る。
「マリッサ姫も同じようにやってみるのじゃ」
ドルフは自身の手に構築した水玉を見ながら話す。
「えぇ、わかったわ!」
マリッサは昨日のようなドレスではなく、稽古着のようなヒラヒラしていない服装をしていた。
呪文を唱えるマリッサの両手には水玉が徐々に構築されていくが、水玉は途中で形を崩して地面に落ちてしまう。
「もう! なかなかうまくいかないわ!」
「慌てる事はないの、気が焦っていてはまとまるものもまとまらないのじゃ」
憤慨するマリッサとドルフの傍に俺は近づく。
「おはようございます。朝から何をしているんですか?」
「おぉアモンかの。おはよう、今はマリッサ姫に魔法を教えとったんじゃよ」
「そうよ! 今いいとこだから邪魔しないで! マイトと一緒に見学していなさい」
マリッサが指さす方を見ると、中庭の隅に立っていたマイトに気付く。
「わかりました。少し見学させてもらいますね」
それから俺は中庭の隅に立っていたマイトの傍に移動する。
「おはようございます」
「おはようございますアモン様」
「昨日の夜ぶりですね」
「そうですね」
お互いに微笑んだ後、俺はエアリア達について聞いてみた。
「そうだ、エアリア達を見ませんでしたか?」
「あ、はい。先ほどエアリア様達はアリシア様やアイネ様と一緒に街を探索に出かけられましたよ」
「そうだったんですね。それでは少しマリッサの稽古の見学をさせて貰ってもいいですか?」
「はい。構いませんよ」
「ありがとうございます」
俺はそう呟きながらマリッサの方へ視線を向けた。
「それにしても、マリッサはドルフから魔法を教わっているんですね」
「はい。他にも剣技はボルティガ様、ダンスはアリシア様、学問はクロエ様から教わっています」
「へぇ……実力者から直接教えて貰えるなんてマリッサも恵まれているんですね」
「はい。魔法や剣術は意欲的に勉強なさっているのですが……ダンスや学問についてはあまり意欲的ではないんですよね」
「まぁ、昨日の反応を見ていたら何となくわかります」
マリッサは先ほどと同様になかなか魔法を上手く扱う事が出来ずにいた。
「マリッサが魔法を習得するには、まだ時間がかかりそうですね」
「はい……ドルフ様が前に仰っていましたが、お嬢様は体内のマナの大部分を封じ込められているようで、微量しかマナを扱えない状態みたいなんです」
「……封じ込められているって……どういう事ですか?」
「ライフォード様に確認したところ、お嬢様が生まれた時にマナが急激に漏れ出す状態で生まれてしまった様です。そのままだと死んでしまう状況だったようなので、緊急処置としてマナを封じ込める呪術を施した事で一命を取り留めたようなのです。その呪術により子供の頃からお腹に不思議な模様の痣が刻まれているんです」
「……そんな事があったんですね」
魔族もマナがなくなれば生きてはいけないが人間も同じみたいだな。
「……そうなると、マリッサは本来のマナを扱う事が出来ていない状態で魔法を使おうとしているって事なんですね」
「そうなりますね。ですが、お嬢様は魔法に関してはとても関心をお持ちの様で、挫けることなく練習を続けているのです」
俺はいままで自由奔放なマリッサを見ていたが、真面目な時はしっかりしているのだと関心していた。
それからも俺はマリッサが懸命にドルフから魔法を教わっているのを眺めていた。
しばらくすると魔法の稽古もひと段落し、ドルフは城内へと消えていきマリッサは俺達の傍へと近づいてくる。
「マイト、喉が渇いたわ! 何か飲み物が欲しいわ」
「畏まりました、少々お待ちくださいお嬢様」
「それではアモン様もテーブルにお座りください」
マイトに言われるがまま、俺は傍にあったテーブルに座る。
それからマイトはテーブルに置かれていたティーセットを温め直し、俺とマリッサの前に飲み物が入ったグラスを置く。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとうマイト、頂くわ」
マリッサは一口飲んだ後、グラスをテーブルに置くと机に手を置きながら顔を俺に近づけて来た。
「ねぇねぇ! 確かあなたって魔族なのよね!?」
俺は少し驚きながら返答する。
「は、はい。そうですけど」
「名前はアモンでよかったかしら?」
「はい合ってますよ」
「それなら私もアモンって呼ばれせもらうわね。早速だけど、アモンはアイネと違って角がないのね? 魔族によって違うものなの?」
マリッサは興味深々に聴いて来る。
ここまで目をキラキラしながら聞いて来ると何でも答えてしまいたくなる。
「あぁ、俺のは特殊で……子供の頃に同じ魔族に折られてしまったんだ」
「そうなの? 酷いことするのね。一度折られたら生えてこないのかしら?」
「うん。でもそのお陰で、ここまで来るのに魔族だって事がバレずに済んだんだけどね」
「あら、それなら結果オーライね。よかったじゃない!」
マリッサは屈託のない笑顔を俺に向けてくる。
「それにしても、マリッサは毎日さっきみたいにいろいろ稽古をしているの?」
「まぁね。魔法や剣技は面白いからいいけど、お誕生日パーティに向けたダンスや学問は苦手よ。出来ればやりたくないわ」
「魔法はいいとして剣技もしているんだ。お嬢様なのにしっかりしてるんだね」
「お父様がもしもの時があった時の為に自分の身をしっかり守れるよう剣技を覚えなさい。っていうもんだからね。私としては剣技も面白いからいいんだけどね」
一瞬、昨日の夜に聞いたライフォード達の密会が脳裏に浮かんだが、今は考えないようにしよう。
すると、中庭にボルティガが姿を現した。
「……お嬢様、お話もいいですが、ボルティガ様が来られました。これから剣技の時間です。ご用意をしなくてはいけません」
「もう! ちょっとぐらい良いじゃないマイト!」
「ダメです! その後にはダンスや学問のお時間も詰まっておりますので、他の方にも影響が出てしまいます」
「うぅ、わかったわよ! アモン、続きはまた後でね」
「うん。稽古頑張って」
それからマリッサはボルティガとの剣技の稽古を木刀を使って始めるのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アモン達は今後どうなるのっ……!」
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