リーシャと羽のついたトカゲ。
季節は、秋。
早いと言ってくれるな、私には目まぐるしく長い春と夏だった。
はっきり言って目立つイベントは無かったが大変だったとだけお伝えをしたい。
主に、治癒院の忙しさと・・・・・それから、クークたんと会えなかった事実が私を苦しませた。
あの私が覗き見たエルネスト殿下との会話あと、私はすぐ連絡が来るものだと思っていた。
巫女について知りたいのは間違いなかっただろうし・・・・・
それが上手くいかなかった原因も分かっている。
例のセルヒオ殿下の怪我事件である。
彼はなんとのうのうと王宮を抜け出し、冒険者にまじって戦っていたのだという。
そうして持ち帰った“魔物の増加は確実”という報告。前々からクークリオンが訴えていたことではあるが、それを発する人物が殿下ともなれば話は変わってくるらしい。
「クークたんはその為スタンピードに向けての計画で重要な立ち位置に。ま、名ばかりの婚約者に会いに来る余裕なんてないよねえ」
「ジメジメしないで欲しいわご主人。鬱陶しい」
「あー契約精霊も可愛くないしほんと嫌」
そう、クークたんはスタンピード対策チームに大抜擢。まだ若いことからリーダーの名前は違う人にされているが、実際のところを取り仕切っているのは彼だというのだからお見逸れする。
「でもご主人の推しがスタンピード対策に乗り出すのは知ってたんでしょ?」
「ま、ゲームでね。でもこういう成り行きで本格的に対策チームが出来上がったのは知らなかったよ。そこまで詳しくは載ってなかったし、セルヒオ殿下が怪我したのも知らなかったし・・・・ゲームで足を引きずったりしてなかったから、私が居なくてもなんとかなる筋道だったんだろうね」
しかし謎もひとつ解けた。
明らかにエルネスト殿下派のクークリオンだ。
彼がああやって功績を残せばエルネスト殿下の支持率が上がってしかるべしかと思われたが、セルヒオ殿下の鶴の一声があって出来たチームなのだからそう上手くいかなかったのだろう。
はーっとため息をついてから、横で座り込んでいた千草に顔を向ける。
「ま、仕方ないから私は私で地道に練習あるのみってことね。今日も悪いけど頼んだわ、千草」
「はあい。今日はウィル来るかな、楽しみ!」
「いいよね、推しが近くにいる人はさあ」
「僻まない僻まない。行ってらっしゃーい」
にこやかに手を振る千草の姿が掻き消え、私は草原・・・・・いや、元草原、今は不毛の大地と化した広い空き地にいた。
ここが最近もっぱらの魔法練習場所である。
私のいる国から言うと物凄く遠くて、ここに転移で行き来するだけでもそこそこ修行になっていたのだが、不毛の大地となってきた最近、また魔力量が増えたらしく苦労がなくなってきてしまった。
「うーん、もうちょい遠くで探す?でも不毛の土地をあんまり増やすのも忍びないかな」
思い切り不法入国であるがバレないので問題ない。まさか隣どころかまたもうひとつ国を挟んだ国からやって来ているとは誰も思うまい。
私がこの季節が2つ巡るあいだに特訓してきたことは、主に3つ。
まず、探知の距離を伸ばすこと。ここからでもクークリオンを探知できるようになったので、彼は世界中どこにいてもかくれんぼは出来ないこととなった。
次に、こう離れたところでしかできない、遠距離中距離の必殺系or大規模虐殺系のちょっとえげつない攻撃魔法の練習。
細やかなそれも勿論だが、ことスタンピードにおいては大規模にさっさとやっつけるに越したことはないと思われるがゆえの選択だ。
その魔力調節、発動着弾、規模。どれも自由自在に行えるようになってきたので満足している。
最後に、魔物との実践である。
殺生になれる事から、動く目標に当てることまで、できることは多い。
これに関してはまだ完全とは言えない。私は未だ命をとることに躊躇してしまう瞬間がある。
そもそも、まともに目の前で殺生を行えるようになったのは夏も半分を超えた頃だった。
それまでは耳を塞ぎ、目を閉じ、声が聞こえない距離から、とにかく情報を薄くして薄くして・・・・・そうしてやっとのこと行えていたのだ。
「それでも最初は戻したんだから困ったんだっけ・・」
ポツンと呟く。どうしても怖かったのだ。
今も魔法でなら殺せるが、恐らくは剣なんかのモロに感触がわかるものを使えばまた何も出来ない役立たずに逆戻りだろう。
スタンピードまであともう少しだが、それが終わったあとも訓練は続けるべきだろうと思われた。
「対人だっていずれは有り得なくもないし、ね」
髪を後ろへ流して息をつく。
忍び寄る気配を感じ、目を閉じる。
「きゅわ?」
後ろから聞こえた愛らしい・・・・・声。
私は振り向きざまに魔法を発動した。
「きゅ、ぎゅわっ」
「チッ!」
思わず舌を打つ。
私はそれと対面した。
黒目がちな瞳に綺麗な緋色の鱗。翼に鋭い爪、口元から除く牙ーーーここへ来て殺すのを躊躇って以降なぜか懐かれてしまった、紛うことなき魔物。
みなさん予想もついたことだと思う。
そう、それは明らかに竜種だった。
ドラゴン。私二人分ほどの背丈がある彼だか彼女だかは、私がここへ練習にくると二回に一回は顔を出すようになっていた。
彼だか彼女だかはとても目立つので出来れば経験値にしてしまいたいくらいだが、会えば会うほど愛着が生まれ、いよいよ性別も気になるし名前も付けたくなってきて困っているのだ。
契約するという手もひとつではあるが私はそれを最終手段と考えていた。
愛着ある相手の殺生などなかなか機会はない。
誰に裏切られるかわからない今・・・このドラゴンをやっつけるのは私にはまたとない経験となると思われた。
私はドラゴンを見据えて、攻撃魔法を打った。
ダダダダッと地面に土の槍が突き刺さる。ドラゴンはそれを簡単に避け・・・・・きゅわ?と鳴いてみせた。
「回避性はなかなかよね。流石ドラゴンってとこかな」
ドラゴンのキラキラしている目が私に何かを訴えているようで心苦しい、が。
「今日こそお前は経験値とドロップになるんだから覚悟してよね!」
ふんすと向き合うと相手方もまたまっすぐに私と向き合った。




