リーシャ、欲に負ける。
魔法の薔薇を受け取ったクークリオンを眺める。
その美しい御尊顔を見ているだけで行きていける気がした。
クークたんは暫く薔薇を見ていたが、じっと見つめる私の視線が鬱陶しくなったのか漸くこちらを向いた。
「礼でも求めているのか」
「まあ、とんでもないですわ」
ならなぜ見つめているんだとばかりに眉をひそめたクークたんに微笑む。
「ただ、クークリオン様がお美しいものですから、見蕩れておりましたのよ」
「・・・・・・・・・わからんな」
笑顔の私と、なんなら気味悪そうなクークたんは正反対だが、それを笑う者はいない。
いや、おそらくはこちらのタルトジーク家から着いてきたメイドはうちに帰れば笑うのだろうが。“リーシャは必死に婚約者に尻尾を振ってもニコリともしてもらえていなかった”とかなんとか言って。
よくもまあ、使えている家の娘を笑ってお茶が飲めるものだが、それを咎める人は家には誰もいないものね。
かくいう私もさほどきにしていないし。
「お茶のお代わりはいかがですか?」
「・・・ああ」
また席を立って、クークたんからカップを預かる。
・・・・・預かる。
私は思わず周りを見回した。
背後にはうちのメイド。前方にはハースベルト家のメイドに、護衛たち。
囲まれている。思わず舌を打ちそうになったのを誤魔化して、紅茶を注いだ。
ああ!なんとかしてカップを回収したい。
手をすべらせてみる?・・・・・だめだわ、タルトジーク家なら割れた食器の片付けを私がしてもさほど違和感はないが、ここでは確実にハースベルトのメイド達に仕事を奪われ、カップは回収できない。
前のお茶会のとき、どうして思いつかなかったのかしら!
私ってばおばかさん。クークたんが口をつけたものを手に入れるチャンスだったのに。
では、どうする?
私はそーっと周りを伺って、自分の分とクークたんの分のカップをトレーに置いた。
なんでもない顔をして、クークたんの方に私が口をつけたカップを。
私の方に、クークたんが口をつけたカップを置き直した。誰にも咎められない。おそらくはバレてない、最高。
回収できないなら。なら。
ーーーとりあえず、間接キスをキメちゃいましょう。
クークリオンからの好感度を察するにキスしてもらえるのは遠い遠い先になりそうだしゲット出来るものは抑えておかねば。
席に着いた途端に私はクークたんが口をつけていた所から紅茶を流し込んだ。
寿命が1000年は伸びた気がした。
目を閉じ、ほう、とため息をつく。
「待て」
そこへ、クークたんの鋭くて冷たい声が響いた。
何事かと目を開くと、目の前にキラリと光る・・・・・そう、剣が。
ちょっぴり焦って、首を動かして周りを見ようとすると止められた。
「そのまま動くな。お前、カップを入れ替えたな?」
「なっ・・・・・な、なんのことでしょう」
どもってしまった。普通にほぼ自白だ。
首を動かせないので魔法でちょちょいと周りを確認。首元に剣を突きつけている護衛と、クークたん側にも1人。うちのメイドは怯えきっている。
「しらを切る気か?毒でも混ぜたか」
「・・・・・うぇっ!?まさか!入れていません!」
「ではなぜ入れ替えた!貴様、言い訳は聞かんぞ!!」
違う違うと言い募る私に護衛が怒鳴った。
およよ、と目が泳いでしまった。
完全に私が悪者ていだ。しかし、実際に私がしたのは間接キスのためのカップの入れ替え。
・・・・・出来たら言いたく、は、ないけど。
「・・・・・ええと、毒は入っていませんわ。どのように調べていただいても・・・・・なんならこの場で私が飲んで見せても構いません」
「貴様は解毒剤を含んでいる可能性もある!」
強い言葉で否定され、ぐっと息を呑む。
しかし、とってもうるさい護衛だ。
魔法で確認。若いわね。アーモンド型の綺麗な赤い目、赤い髪。赤毛とかではなくて絵の具をぶちまけたような原色の赤。
こんな違和感のある色がアリエル達の赤毛よりずっとポピュラーなのが不思議でならない。
ギリギリと私を睨みつけている彼に思わずため息が出た。
「ええと、では、烏滸がましいとは思うのですが」
「な、なにっ」
私はササッと身体に身体能力アップの魔法と、指先に防御魔法を掛けてから立ち上がった。
首元の剣は素手で押しやって、因みに押さえつけようとした赤色の護衛さんも簡単に押しやって、手の中に氷の剣を出して見せた。
それを簡単に宙に浮かせて、ニコリと笑った。
「大変失礼いたしますわ、クークリオン様。私、正直やろうと思えばここの方々全てを無力化できますの」
「・・・・・毒を使う必要もない、と?」
「ええ。毒など。ここでクークリオン様になにかあれば、どうせこの場にいる私が犯人とすぐわかりますもの。でしたらそんなまどろっこしい事をする意味もありませんのよ」
「では、なぜ」
真剣なクークリオンの視線が突き刺さり、私は思わずよろめいた。
「タルトジーク嬢?」
「・・・・・、簡単なことですわ」
クークリオンの視線と、自分のしたことを告白する羞恥から顔が熱いのが分かる。
そして、それを見たクークたんが戸惑うようにこちらを見ていた。
くっ、これが羞恥プレイ!
「・・・・・ですわ」
「なんと?」
「だから!私、クークたんと遠回しに口付けしたかっただけで!」
「・・・・・・・・・・は、」
思わず叫んで、それから思わず後ずさった。
クークリオンと目が合う。
驚愕と言った顔。因みに魔法を切り損ねていて、周りの人間全部がそういう顔をしているのが分かってしまった。
クークたんと呼んだし、なんなら口調もあれだったし、その上内容が口付けと来て戸惑わない人間はいなかった。
「・・・どういうことですか」
後ろの赤護衛くんがやっと落ち着いたように聞いた。お前敬語使えんのかい。
しかしこちらに間接キスなんて概念はない気がする。私が説明するしかないのか。
「ええとぉ、ですから。私、クークリオン様のお使いだったカップに・・・・・その」
ごにょごにょ言い募ると、理解したらしい赤護衛くんはさっと顔も赤らめた。
メイドもほんのり頬を色付かせているが、私の大本命は赤くはならず、また戸惑っていた。
ただし、言いたかったことは理解したようでなんとか頷いてみせた。
「あの、なのでそちらに毒はありません。本当に、どうぞ、お調べ下さい・・・・・」
「あ、ああ。うん」
とっても微妙な空気が流れ、会話がおぼつかなくなってしまったためすぐお茶会はお開き、となった。
クークリオンは終始不思議そうにしていたが、帰るまで今まで向けていた剣呑な目はしなかった。
多分リーシャってストーカーの才能ある。
しかしタルトジークもハースベルトもなんだかお菓子みたいでお腹が空くお名前ですね。




