リーシャ、転生する。
ノリと勢いで始めました。
よかったら楽しんでください!
「お前には関係ない」
冷たい声が響いた。
普通に考えて、どういう経緯だったとしてこの冷めきった、なんなら見下すような瞳に確実に面倒そうな口調には悲しみとか、苛立ちを覚えるものだと思う。
・・・・・普通に考えたらの話だ。
私は違った。いや、多分さっきまでは辛い気持ちと少しの腹立たしさがあった。が、今はどうだろう?
この感情はいうなれば、幸福。ハッピー!
理由なんて分かりきっている。
たった今、思い出したから。
目の前にいるのが前世で推しだった、「クークリオン・ハースベルト」であると。
ツンデレ、いや、ツンツンデレの彼のイチオシの台詞がこれだった。
関係ない、といいつつなんだかんだ目立たないよう手助けをしたり、目を瞑ってくれたりするのだが、うまく隠してしまって周りから半ば本気で嫌われていた彼が、尊くて、可哀想で可愛くて。
推しの台詞で前世を思い出すなんて幸福だ。
大体クークリオンなんてなんて可愛い名前なんだ。クークたんとして前世では相当可愛がった。
前世の記憶が流れ込んで、意識が遠のきかけてるけど、まじで目の前の推しが素敵すぎて目をそらせない。というか、推しが声をかけてくれてるんだから何か言わなければ!
焦った私は、意識を失う寸前クークたんに声をかけた。
「大好きです」
怪訝そうな彼の顔も素敵、という気持ちを最後に意識はブラックアウト。
ありがちな貴族社会の、ありがちななんちゃって中世要素を組み込んだ乙女ゲー厶の世界で記憶を取り戻した1日目の出来事だった。
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さて、話を今の私、「リーシャ・タルトジーク」が産まれる前に戻すとしよう。
私の前世の名前は嶋崎 凛。普通に普通のOLだった。
家でゲームをしている時に地震が来て、本棚がこちらに倒れて・・・・・という所までは覚えているので恐らくはそのまま死んでしまったのだろうと思う。
その日していたゲームの舞台こそ、今の私が身を置いているこの世界だと思われる。
リーシャとして生まれ、見聞きしたこの国の名前、国王様や王子様の名前や生い立ち、そしてなにより確実にクークたんの名前や身の回りの状況に台詞回し、仕草、態度、何もかもが愛する推しだと、推しがいた世界だと物語っている。
なんてもったいないことをしたのか本当に悔やまれる。赤ちゃんの頃から記憶があれば、クークたんのショタ期をじっくり脳裏に焼き付けられたのに。結局記憶を思い出したのはリーシャが14歳になって少しした一昨日のことだ。
クークたんの出てきたゲームの名前は「林檎の王冠」というもので、主人公の苗字が林檎で固定されていた。林檎の王冠、つまり旦那になるのは?という問いかけのようなタイトルだったのだが、可愛らしい名前に反してゲームは結構シビアだった。
恋愛だけを楽しむモードもあったが、基本的には魔法学園で魔法を学び、事件の中でモンスターと戦いながら恋愛もこなしていくゲームなのた。レベル上げを怠れば容赦なく死ぬし、死んだらデッドペナルティで1番いいグッドエンドから順にどんどんたどり着けなくなる。
死ねば死ぬほどバッドエンドに近づくという寸法だ。
なんなら私の推しは攻略対象外だったが、バッドエンドでは誰を攻略中でも死んでしまったのでグッドエンドを目指してレベ上げしまくった。課金もした。
「第二王子エンドが1番よかったなあ」
ぼんやりと豪華な天蓋を見つめながら呟く。
第二王子はクークたんと関わりがあり、結果他の人を攻略するよりヒロインとの関わりも増えたのだ。
第二王子との結婚式の時に唯一柔らかい笑顔が拝めるので何度クリアしたか分からないくらいだった。
・・・・・と、現実逃避をしていたが、そろそろ起きねばなるまい。
今日は、私にとって大事な一日となる。
薄い夜着のままベッドからするりと降りる。
ピンクの可愛らしい部屋履きがおいてあったが、ふかふかの絨毯があるので素足のまま姿見の前まで歩いた。
「普通に可愛いよね・・・・・黒髪黒目の頃の私とは雲泥の差だわ」
姿見には、リーシャが映っている。
小顔でスラリとした155センチくらいの少女だ。この国でごくありきたりなブロンドの髪に、白い肌。目はほんのり緑がかった碧眼で、これだけが「凛」が存在しなかった頃の私の自慢だった。
勿論、今の私からしてみればそのありきたりなブロンドも、白い肌も自慢だった碧眼もどれをとっても「外国人」のようで、とっても綺麗に見えた。
こんなに可愛いのに、普通家族にこんなに疎まれることないよね?と首をかしげるくらいだ。
ーー何を隠そう、リーシャは邪魔者だった。
リーシャはタルトジーク伯爵の妾との間にできた子で、母は産後の肥立ちが悪く私に物心が着く前に亡くなっている。
面子の為にタルトジーク家に引き取られたが本妻と息子は妾の子の私を疎み、伯爵本人は娘が妻を殺したと考え、恨んで関わろうとしない。
更に伯爵家のメイドたちは口さがなく妾の娘の噂話や悪口を言って、居場所がないのだ。
そんなリーシャの唯一の価値が、ほんの7歳の頃から与えられた「政略結婚のための駒」という役割だった。
お相手は何を隠そうクークリオン様で、こちらからも嫌われていると思っていたリーシャは日々媚を売ってはそれをメイドや召使いに見咎められ、また悪口を叩かれるという悪循環を繰り返していた。
ところがどっこい。凛の記憶を取り戻してからの私はひと味もふた味も違う。
召使いも気味悪そうにご機嫌な私を無視してくれているし、天気もいい。
「ハッピーだわ!選択肢がない世界で、私に攻略できないクークたんはいないはずよ!!」
・・・・・とうとう妾の娘は気が狂った、という噂が流れたのはほんの数時間後だった。




