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第八十九話 大事なのは一人でこなそうとする努力

「……」


広い円を描いた部屋に一人の男ーーーー無言、無表情で立つ。

目線の先はガラス。 その先には青い海が広がっている。

魔界の化け物達が泳ぎまわり異様と化している。 そうしたのは彼だ。

とても地球上の景色と思うことはできないだろう。 


「あぁ……とても綺麗だ……とてつもなくな」


「一度はやったことがあるだろう人間……貴様も綺麗なものを汚し、壊した事が」


「積み木で城を作るーーー真水を持ってくる……どちらもそうだ、壊す事が出来るし、汚くする事ができる」


「……いや、そこからじゃあ無いな……寿命を迎えた細胞を取り除く……生物は生まれながらにし、無意識に破壊行動を覚える」


「……その先を行く、僭越者(せんえつしゃ)が貴様らだ、人間。 貴様らは破壊し続ける、一人何十年も……そんな奴らに未来を歩かせていいと思うか、お前は」


彼の後ろから近付く男が二人。 気配だけを感じ取り話しかけているのだ。

その言葉は二人の内の一人に放っている言葉。海斗の事だ。

海斗は20m程度離れた場所で止まり、耳を傾けていた。


「正論かもしれねえが、人間がやらねえ破壊行動を今現在実行してるテメェに言われたかねえよ、蝦夷」


何を言われようが事実は変えられない。

確かに蝦夷が言うように人間は立派な破壊者かもしれないーーーーが、それ以上の事をしている者が言う事ではないというのが海斗の主張。

何も怯える仕草も見せない彼は、蝦夷にとって不愉快極まりないものだった。


「非生産的な行動してる方がよっぽどアホらしいんだよーーーーお前、この行動で自分の時間破壊してんぞ」


「……」


「ーーーまぁそうだな……人間はアホな破壊をするな……人を殺したり、変な過ちを犯したりする。だが今のテメェよりマシだ、人間以下になり下っちまったただのクズだ。歳だけとって精神状態はガキのまんまなんだよ」


今度は海斗が淡々と答えていくーーーー

蝦夷はそれに言及する事はなかった。黙って聞くだけだったのだ。


「……それが貴様の答えだな、人間ーーーーーーならばもう意思疎通する必要は無い……」


そう言い、椅子に立てかけてあった赤黒い長棒を手に持った。

どうやら蝦夷は棒術を使うらしい。

ゆっくりとした足取りで海斗の方へ近づいていく。

海斗も警戒し、木刀を引き抜いた。



「消えるがいい」



それがなんらかの命令になっていたのだろう。

この部屋に続く通路から戦闘員がやってくるのが見えた。

彼らは怒号に近い叫びを上げている。その声量からしてかなりの数だ。

まともに立ち向かえば骨が折れそうだ。


「……めんどくさいのもセットか……」


そう海斗が呟くと、吉和が銃を取り出し通路の方へ歩いて行った。


「ここは僕に任せてください」


「吉和……」


「大丈夫です、海斗さんに迷惑はかけません……これを見越して、先ほどのパネル入力の時にドアのハッキングをしたんです」


これで操作ができますと、小さいスマホのような物を腰掛けバッグから取り出し見せたのだ。


「では……また会いましょう、海斗さん」


「……」


部屋の外に出て扉を閉める直前に放った言葉ーーーー

海斗は何も返事をしなかった。

何故なら、吉和の言葉通りになると感じたのだ。


彼は木刀と共に、覚悟と決意を握り締めた。




ーーーーーーーー




「……!着きました!やっとです!」


時間をかけ、地下7階に存在する化け物処理装置までたどり着く事ができた。

機械仕掛けの壁を魔力で吹き飛ばすとーーーーその先には一つの照明が天井の中心にあり、装置を照らしていた。

前の壁には長方形のパネルが横一列に並べられており、手前には飛行機のコックピットを思わせる量のスイッチやレバーなどが備え付けられていた。


シウニーは吉和から地図と一緒に、操作方法が書かれた紙を貰っていたのだ。

折りたたんだそれを開き見る。

頑張って動かそうとしているのだ。


「私は扉の監視してますね……」


「よろしくお願いします」


扉は吹き飛ばしたので、いつ敵が入ってくるのかわからない。

ルシファーは門番を引き受けた。


「あとはここの装置を弄るだけ………うぅ……私あんまり機械いじり得意じゃ無いんですよね……ベリアルさんがいてくれれば……」


いつも剣ばかり扱っている彼女には、この膨大な数の装置を見るだけで頭が回ってしまいそうになる。

だが止めてしまえば大変なことになってしまう。 手を動かし続けなければならない。

若干困惑気味の彼女を見て、バルが紙を食い入るように覗いてきた。


「紙に書いてくれてるんだから……ここをこうして……こうでしょ!」


「大丈夫なんですか本当に……」


動作手順を見ながら、タタタタタッーーーとボタンを押していくバル。

一切の迷いなく押し続けた。

こんなの悩んでいる時間の方がもったいないんですよーーーと言いながら。

それには同感のシウニーだが、そんなに適当そうに押してていいのか、とどこか納得いってなかった。


すると、部屋唯一の照明が赤く変化したのだ。


「いい感じに光り始めましたねぇ……起動し始めたんじゃないですかぁ……?」


ほんとですか……

適当そうに押していたが、的確に手順を踏んでいたようだ。


そして部屋が赤くなった数秒後、中央のモニターが何十もの緑色の水紋を続けて描き出したのだ。

次の動作として、女性の声が部屋に響きだした。


『怪物処理機能起動ーーーーーー範囲を決めてくださいーーーーーー』


「業塊の周りにいる化け物全てです!」


くれた紙にも書いてくれている、女性の声が聞こえればこちらも声を出し応答するのだと。


『個体数を計算中………』

『………計算完了ーーーー合計327匹ですーーーー殲滅しますか?』


「します! 今すぐします!」


『了解ーーーーーエネルギー充填開始ーーーーーエネルギー充填完了まで、あと15分』


「15分!? あと15分も待たなくちゃいけないんですか!?」


ここまで来たのにもう15分も待たなくてはいけない……いち早く終わらせないといけないのに。


「仕方ありません、待ちましょう」


だが待つしか方法が無い。

バルは冷静を欠く事はなかった。

次に彼女は後ろの扉の先を眺めたのだ。そこには何十もの足音が押し寄せてきていた。


「また彼らが来ましたよ」


この機関に来るまでに相手取った数と同程度だろう。

ここで暴れられては苦しい。

そこで一人の騎士と一人の料理長が扉の前で立ち塞がった。


「……ではこちら任せてください、守るのは騎士の役目ーーーーアイナさんがいない今、その全てを担うのは私です」


「私も……今まで役に立っていませんでしたから、うぅぅ……」


「姫達はシステムを守っていてください」


前者は剣を引き抜き

         ーーーーー構えた。

後者は拳を前で作り




ーーーーーーーーー




「初めてだぞ人間! お前ほど動ける者はいなかった!」



長棒と木刀の衝撃音が二人を包む。

2撃ーーーー4撃ーーーーーー長棒のしなりと身体の機動性が重なり、一度の攻撃が2回飛んでくる。

それを木刀一本で捌ききっている海斗。 目は怯えることなくしっかりと行く先を追っているのだ。


しかし、守り切れているのだが、攻めに転じようとはしない。

まるでそんな気はないようにも感じられる。

冷静沈着に物事を見据えている面持ちだ。


ーーーー蝦夷の攻めが弱まった瞬間、彼は間合いを取った。

また、身体を整えた後ーーーー抱いた疑問を持ち出した。



「何を怖がってんだ……そんなに得物を滅茶苦茶に扱って」


「……」



海斗が尋ねた通り、かなりの武器の使い方だった。

殺気と動作が釣り合っていないのだ。

蝦夷が放つ殺気の量なら、急所を的確に狙ってきてもおかしくはない。

なのに全ての動作がバラバラなのだ。

いや、それも戦略としては有効ーーーー決して駄目とは言っていない。


だが……だが、海斗は、己を避けて戦っているのではないかと感じた。

自分の事を見ずに戦っているのではないかと。



「一体何に恐れを抱いてやがる」



その一言でーーーーー蝦夷は止まった。

止まって今度は海斗を見据えたのだ。

目は暗みを増したよう……長棒を後ろにし、構えながらに力を抜いたのだ。



「……そんな事を聞くなら……貴様は何も失った事は無いのだな……?」



その瞬間足に尋常ではない力が込められ、地面が砕け身体が海斗目掛けて飛んだーーーー

長棒が横払いで海斗の顔面に打撃を与えようとする。

しかし海斗は顔色を一切変えずに木刀で防いだ。


先ほどとは一切合切何もかもが変化していた。

顔、喉仏、鳩尾ーーーー動けないようにするため足にまでーーーー闘志が身に宿ったようだった。

それでも適切に防いでいく海斗。

蝦夷にとってはそれも気に食わなかった。 彼は得物を振り回しながら口を開いたのだ。




「人間! 教えてやろう、外の化け物たちの事を!」

「奴らは順応が早い……そこに餌となるものが多ければ多いほど早くなり力を肥大させていくーーーーー魔界よりも地球の海の方が栄養分が豊富だ。 それ即ち、魔界にいる時よりもずっと強大になっている……もう既に、容易に街を蹂躙できるよう成長した!」


「貴様らの負けだ、人間……守るものが目の前でなくなっていくのを見るがいい......!」

「失った事無いが無い者......! 初めての感情を与えてやるわ......!!」


「………」



そう言った。

海斗に向かってそう言ったのだ。




何も失った事が……無い………………




ーーーーーーーーーーー


ーーーーーーー


ーーー




『ーーーー斗ーーーーー』



『ーーーーーーーーかーーーー斗ーーーー』



『ーーー海斗ーーーー』



頭の中に一人の声が反響した。



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