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もしも人間が魔王になったら  作者: キバごん
異世界炎龍編
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第七十九話 どんな事にも準備を怠るな

「ちくしょう……あの二人の関係の所為でエロいことし損ねたぜ……」

「……まぁあれはあれでよかったのかもな、あのまま運命が揺るがなかったら廃人になってたかもしれん」


ルシファーの背中に日焼け止めを塗ろうとしたところ、それを察知した花音が止めたのだ。

その後は言い切ることのできない曇りが胸を覆っていたのだが……

よくよく考えてみればルシファーの罠だったのかもしれない。

となれば絶対に良くない方向へと進んでいたーーーー花音には一応の感謝をしなければ。


「あれ? 魔王様は遊ばないんですか?」


そう思いながら海斗は砂浜を歩いていると、シウニーが駆け寄ってきた。

体は汗と海水で濡れ、手にはビーチボールーーーいい具合に海での時間を満喫しているようだ。

それはとてもよろしいことではあるのだが……


「お前な……遊ぶ遊ばないよりもっと大切なことがあるだろ」


「大切なことーーーーですか?」


海斗は別のことを考えていた。


「あぁ、めちゃくちゃ大切なことーーーーそりゃあこの話をエロい話にすることだ」


「エ、エロい話……」


目を白黒させるシウニー。

何を言ってるんだと言わんばかりの顔だ。


しかし海斗はそれを本気で言っていた。

本気でエロくしなくてはならないーーーーそう心に決めていたのだ。


「そうだ、異世界転移物に読者が求めてるのはなんだと思う?ーーーーそれはエロだ」

「なんにもない地面で転び、行き着く先は胸の中だったりーーーハプニングで全裸を見られたりする……それを求めてるんだ」

「今までこの作品は中途半端なギャグ回しかなかったからな、そろそろポロリとか必要なんじゃねえかと思ってよ」


「はぁ……そうですね……」


真剣な顔で話す海斗。

しかしシウニーはあまりピンときていない。

これが男女の差、互いが互いのことを理解できないこともある、悲しい現実。


「丁度みんな水着姿ではしゃいでるから……ちょっとしたトラブルも気にしないだろ」


「……」


う〜ん、と考える海斗ーーーどう計画に移そうか頭でシミュレーションしているのだろう。


それをなんとも言えぬ顔で見るシウニー。

どうせ、魔王様が標的にしているのはエレイナさんとかシェイラさんでしょうね……

私みたいな胸もない、魅力もないツッコミ役なんて眼中にもないですよきっと。


普段まな板と揶揄されてますし……あ、なんか泣けてきた。

どうして私はこうなったんでしょうか……最初は赤髪とサキュバスと女騎士というステータスを持って、魅惑のお姉さんポジを取ろうとしてたのにーーーー

本当世界って理不尽、何もうまくいかない……


そうシウニーがしょんぼりうなだれていると




「お前にももちろん期待してるからな」


「……」

「………え?」


海斗が期待していると言った。

確かにシウニーを期待する言葉を放ったのだ。


「え、じゃねえよーーーーシウニーも男が好きな体型してるんだから」


「ーーそうですか……!?」


衝撃だった。

いつも会う度にまな板とか胸なしとか馬鹿にしてくるのに、そんな自分に期待しているとーーーーー?

でも、嘘を言っている顔ではない……


「ったりめえだろ、お前に胸はないが、それがいい感じにスレンダーな身体つきを引き立たせてくれている」

「健康そうな女性が、男は何より好きなんだよ」


そうなのか……!

私のような胸なしにも活躍する場所はあるのか……!


シウニーは歓喜した、心が躍った。

やっと……やっと己が望んだ状況に立てる!

それが何よりの喜びだった。


と言っても、どう魅力を出し、なおかつエロいハプニングに持っていけばいいのかわからないシウニー。

そう言ってくれた海斗に案を尋ねた。


「どっどどどどういう風にすればいいでしょうか!?」


だめだ、喜びで呂律がうまく回らない。

思うように言葉が出てこない……


だが、シウニーがこうなっても海斗は冷静に口を開いた。


「そうだなぁ……じゃあお前はまずーーーー」


少し遠くの方へと指をさし













「波打ち際にある木の板と一緒に並んでいてくれ」


「……」


そう提案した。


シウニーの顔が一瞬で冷める。

先ほどの高揚は何処へーーーーー結局はいつも通りの扱いだった。


海斗は彼女の顔の変化に気づかずに話し続け


「うん、多分あそこが一番お前の魅力を最大限に高めてくれるだろうな」

「そうしてくれればあと10分後くらいに俺が」




ーーーーーーーー


ーーーー




「ーーーーー」


海斗の上半身は砂の中に埋まってしまっている。

しかし、その結果を作ってしまったのは海斗自身ーーーー自業自得と言える。



「魔王様のバーカ」


埋めた張本人はそう言い残し、皆がいる方へと消えていった。

……周りには誰もいなくなり、砂漠に生えたひとりぼっちのサボテンのようーーーー


「ーーーーー」


それでも海斗はなぜこうなったか理解できなかった。




ーーーーーーーー


ーーーー




打って変わって海の中ーーーー

そこにいるのは魚や貝などの水を得て生活を送る者達……と一人の女性。


アノミアであった。

彼女は魚と同族のように戯れ泳いでいるのだ。

その姿はとても楽しそうで、優雅なものであった。


だが人間の肺は水に含まれる酸素を体に取り込むことができない。

その限界が近づき外へと浮上した。


「……ーーーーぷぁっ!」

「やはり海は良い、気持ちが楽になるな……」


自然に揺られる体ーーーそれは不明瞭で不快なものではない。

それが海の良さを一段と引き立たせてくれる。


「……深くまで潜ってみるか」


肺に詰め込めるだけ空気を押し込み、再び潜り込むアノミアーーーー

今回は先ほどのような浅いところで停滞しない……二、三十mほど潜ってみる。


そこにはどんな景色が待っているのだろうーーー想像するだけで胸を震わせてくれる。


「……」

「……ーーー!」


「〜〜」


十五mほど潜ったところだろうか、そこにはシェイラがいた。

彼女がアノミアに気づくと手を振り、同じように深くにへと潜っていく。


それを追うようにアノミアも速度を上げて潜るーーー



「……」


「……」



少しずつ、本当に少しずつ太陽の光が届かなくなっていくーーーー

怖さもあったが、大部分は楽しさで埋まってしまっていた。


「……?」


だが、明らかに不自然な色が前方にあった。

光を含んでいない色は、大抵が黒くなっていくだろう……

それは紫色だった。


紫をしたもやが、黒に混ざって蠢いているのだ。

そしてーーーー二人の目に入ったものは


「ーーーーー!」


この世界にあってはならない物体だった。




ーーーーーー




「あぁ……ひどい目にあった……」

「俺結構褒めたような気がしたんだがなぁ……どうしたんだろうか」


なんとか自力で生還した海斗。

砂を海水で洗い落とし所為で全身がびしょ濡れになっている。


「……」

「女性はよくわからん」


なぜシウニーが怒ったのか未だ理解出来ていない海斗。

板扱いがダメなのに気がついていない。

そんな海斗に女性の声が降りかかった。


「海斗オォォォ!!」


それはアノミアとシェイラ。

非常に慌てている。


「お? どした〜」


「ーーーっ……ここにいる人たちを早く避難させなくてはならん!」


息を切らしつつ警告する。

とんでもない雰囲気だ。


「はぁ? 何言ってんだ、台風でも接近して来てんのか」


「そんな生易しいものではない! 早くどうにかしないとーーーー」


突然の揺れでアノミアの言葉が途切れる。

それは徐々に強くなっていき、体に力を込めていないと倒れてしまうほどに到達する。


その震源は海の方角ーーー

ぶくぶくと大きな泡を浮かばせながらその源は


姿を現した。


「ーー!? なんだ……!」



それは


とてもとても大きな、鱗を持つ大蛇だったーーーーー







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