第七十四話 主人公も大事だがヒロインのキャラ立ての方が大事
今回も二話構成です。
「あぁ〜……暇です〜……暑いです〜」
梅雨明け前ーーーー少しの曇り空が広がる昼下がり。
バルはいつものように海斗の横でしおれていた。
「暇で暑いなら魔力でどうこうしたらどうだーーーー暇が潰れるし、暑さも吹き飛ぶし一石二鳥だろ」
「それをするのもめんどくさいです……」
「じゃあ動くな、動かなけりゃあ少しは涼しくなるだろ」
「それじゃあ暇です〜……」
「どうすりゃいいんだよ、一向に解決策が見当たらねえよ」
こいつ本当にどうしたいんだ。
普段から意味不明だよ、支離滅裂だよ。
「……」
「………そうだ!」
「?」
目を天井にやり考えたバルーーー声をあげ、何か思いついたようだ。
……変なことじゃなければいいんだが……
「何かに夢中になればいいんですよ!」
「……まぁ確かに」
いたって普通の考えだ。
それは間違ってはいないし、夢中になれば時間も周りも忘れることができる。
バルの悩みが一気に解決出来ることだろう。
「そうすれば暑さは気にならないし! 暇をつぶすことができる!」
「いや〜やっぱり私って頭良い〜」
腹立つ。
無性に腹が立つ。
「で、その夢中になることは?」
呆れた顔で聞くーーーー内容によっちゃあ止めなくては……
「前々からやりたかったことで!」
「みんなで物語を作りましょうよ!」
物語……
ーーーーーどういうことだ……?
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ーーー
「こんなことになるとはなぁ……」
結局止めることはできず、了承した海斗。
危険じゃないし……めちゃくちゃ目を輝かせていたからな……
「……」
「マジでやんのか……」
だが、改めて考えたら止めた方が良かったのかもしれない
ーーー
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ーーーーーーーーーーー
『一冊のノートで物語を完結させるんですよ〜」
『……どういうこった……?』
『つまり、一人一人が物語をリレー方式で書いていくんですーーーーそれを六、七人で』
『は、はぁ……』
『もちろん一人で書きすぎてはダメです、一人一回一ページの規制を設けます』
『ちょうど良いところに新品のノートがありますから! まずは私が書きますので!』
『ーーーあぁ! 人数はこちらで揃えておきます、心配しないでくださいね〜』
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ーーー
どうやらメンバーは俺とバル、サタン、ベルフェ、シウニー、エリメとベルゼに決まったようだ。
かなりの人数ーーーーー果たしてスムーズに終われるのだろうか……
「……んー……どうだろうなぁ……」
すると机の上ーーーー目の前に存在する小さな魔法時が赤く光り出すーーーー
「ーーーお、早速か」
それが小型の転送装置代わりとなっているのだーーーーそこから赤いノートが出現する。
これが今回、バルが言っていた物語作成ノートーーーーー
海斗は手に取り中身を覗いた。
そこには執筆する者の順番が書かれてあり
バル
↓
ベルフェ
↓
ベルゼ
↓
シウニー
↓
エリメ
↓
サタン
↓
海斗
の順番で、終わるまで繰り返し進めていくとの事。
俺は一番最後かーーーー
一番重要じゃねえか……?
さてさて、開幕担当のバルはどんな物語を書いたんだろうか……
ーーーーーーー
ーーーーーーー
俺は月見勇ーーー
どこにでもいる高校生だ。
しかし唯一違うところがある。
それは異世界に飛んでしまったことだ。
『なるほどなるほど、普通の異世界転移物語ね〜、陳腐にならなきゃいいんだが……』
先程、家にいることに突然飽きてしまったーーーーーなぜかそう思ってしまった俺は、家の周りでジョギングをし始めた。
ーーーーすると、10分程度経った時だろうか……俺は穴に落ちてしまった。
表現し難いが……確かに穴に落ちたんだ。
その先は最悪……普通、気を失って気づいた時には異世界にーーーとかが真っ当な転移方法かと思っていたが
自分はそれには当てはまらなかったようだ。
落下してそのまま地面に激突。
反射的に受け身を取らなければ死んでいたかもしれない……
『へ〜、バルにしちゃ良いんじゃねえか?』
『出だしは良好そうだな』
で……ここはどこだ。
やけに暗い、それにあまり好ましくない臭いが漂っているな……
『ほう、暗くて臭いのかーーー確かに最悪な異世界転移状況だな』
それに水の流れる音……
横に振り向いてみれば川が流れていた。
人口の川だろうか……石で水の通り道が出来上がっている。
『………ん?』
俺の予想があっているならば、悪臭の原因はこいつだろうーーー水がいやに黒ずんでいるしな。
……しかしこの汚れようだ、人がいるのかが最大の不安だ。
そんなことを胸に抱きながら川沿いを歩く。
だがしばらく歩いていても、生き物と呼べるものはネズミしか会えなかった……
一度は夢見た異世界転移ーーーーしかしながらそれは華々しい事でもないし、所でもなかった。
俺はこれから一体どうなるのか……
しかし、嫌だの良いだの、どう思おうとーーーーーー俺の異世界生活はここから始まった。
ーーーーーーー
ーーーーーーー
「………」
ジョギング中に落ちて……
気絶もなくそのまま着地……
そこは暗くて臭くて……
すぐ横に川が流れている所に流れ着いた……
生き物に会ってもそれはネズミ……で……
それって……
「ただの下水道じゃねえかあああああ!!」
与えられた条件を合わせていくとそうなった。
「なんだこの主人公! 異世界に通じる穴とかじゃねえ! それマンホール!」
「下水道に落ちた事に気づけず異世界に来ちゃったとか思ってるよ!」
「こんな始まり方あるか……? 話膨らむのか? 膨らみきる前に穴空いてしぼむだろこんなの!」
いや、俺の番はまだ先……焦るな、皆がどうにかして修正してくれるに決まってる……!
次はベルフェだな!
ーーーーーーー
ーーーーーーー
どれくらい長く歩いただろうか……
自分の体感では一時間程度歩き続けたと思う。
……いや、それ以上かもしれないな……
ここじゃ気温の変化どころか、太陽の光さえ感じない……そう思考が麻痺してしまうのも無理はない。
それに、不可思議なくらい道が入り組んでいるし。
『そりゃそうだよ、下水道だもの!』
ひとまず力尽きる前に誰かを見つけ出さなくてはーーーー
そう思った矢先
「……誰……?」
目の前に、茶色の布を身につけた少女が現れた。
ーーーーーーー
ーーーーーーー
「……へ」
「お、終わり!? お前の番終わり!?」
まだ一ページの半分もいってないんだけど!
「短えよ! やっぱりベルフェゴールは怠惰だったよ! 七つの大罪通り怠惰だったよ!」
でも本当にどうすんの!?
次ベルゼブブだよ……? 普段「だぁ!」としか喋らないやつだよ!?
このまま破滅の道を突っ切るしかねえのか!?
ーーーーーーー
ーーーーーーー
「……誰……?」
そう発した少女は、言葉のトーンよりもやけに落ち着いているような感じがした。
目は据わっているし、挙動も慌てるそぶりを見せないのが理由に当たるだろう。
『あれ……? 普通に文章書けてるんだけど……』
「……君こそ……この世界の住民……なのかい……?」
「世界……? まるで別世界から来たような言い方……」
ーーーそうか、異世界転移したとか思わねえだろうしな……
「すまん、変なこと聞いた……俺は月見勇……君の名前は?」
「私はエミラブルー・ナナシテッド・ジャッジメンテライトキッド……よろしく」
『な……なんて?』
「エミラブルー・ナナシテッド・ジャッジメンテライトキッドか……いい名前だな、よろしく」
『なんで一回で覚えられんの!? 腹立つ!』
『ていうかベルゼ厨二病かよ! なかなか思いつかねえぞこんな名前! 作中のヒロインだろこいつ! いいの!? こんな名前長くていいの!?ーーーー誰も覚えてくれねえよ!』
「エミでいいわ、長ったらしい」
『結局自分で略すんかい!』
「じゃあ……エミ……ここがどんなところなのか、教えてくれないか?」
「ここが……?ーーーーあぁそう、貴方ここに訪れるのは初めてなのね」
「ここは、日が差すところにはどこにも居場所が無い者が集まる所……」
「俗に言うスラム街ね……プアーチルドと呼ばれているわ……」
口元を緩めて優しく話してくれたーーーー
『めちゃくちゃ凝られてる……ベルゼスゲェな……』
「スラム街……」
スラム街か……ならこんなに暗くてもおかしくはないな。
「嫌になった? でも、どうあがいてもここはそういう所……来て、案内するわ」
そう言ってエミは、俺の手を握りどこかへ連れて行ったーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーー
「……」
「あいつこんなキャラなんだ……」
でもいい感じだ、バルからのベルフェの流れは焦ったがうまくやってくれた。
これは期待できそうだーーーーその上次はシウニーだしな。
ーーーーーーー
ーーーーーーー
エミは俺を奥へと導いてくれた。
ますます暗さと臭いが濃くなっていくのには嫌悪感しか生まれなかったが、ここはスラム街ーーー
しょうがないと割り切って、それを脳内から削除した。
でもようやく会えた人ーーーその温かさ、改めてその重要性と必要性を感じることができた。
それだけで心には余裕が生まれたのだ。
「もう直ぐよーーーーもう少しで私達が生活する場所に着くから……」
少しずつ走る速度を上げていくエミーーーー
早く見せたいという気持ちが伝わってくる。 しかし
「……!」
その足を急に止めたのだ。
「……どうした……?」
「……出た……」
出たとはなんだろうかーーーーーそう思いエミの前方を確認してみると
「ーーーー!」
ヘドロで覆われた巨大なスライムが川から出てきていたのだ。
「こりゃあ……」
『おお、戦闘シーンだーーーーこれは異世界物語では必須だよな』
「こんなのどうやって……」
「下がってて」
足を広げ、勇をかばうように立った。
「ーーーーーー」
「ーーーーーーーーー! はっ!!」
そうしてエミは何かの呪文を小さな声で詠唱し、それが終わると同時に手が緑に輝きだしたーーーそして
それを浴びたスライムは爆発四散ーーー
ヘドロを撒き散らす時間もありはせず、跡形もなく消え去った。
「き……君は……」
その姿に一驚する……
「……私、簡単な魔法なら使えるの」
「さ、行きましょ」
ーーーーーーー
ーーーーーーー
「はぁ〜……いい感じじゃねえかな」
「あったヒロインが特別な力を持っている……これも定番だが、やはりくるものがあるな」
次はエリメだな、まともそうな奴が連続で来ると安心感が違う。
ーーーーーーー
ーーーーーーー
スライムを倒した後、ものの一分で着いた。
本当にすぐのところまで来ていたようだった。
「ここが私達の生活場所……何にもないけどね……」
エミが目で指した場所は、今までとは段違いに広い空間だった。
そこには人がいた、時間をかければ指でも数えられそうな数だ。
人が集まる所には布ときの棒で作られた、簡易的な家………一見頑丈そうだが、少しの力で崩れてしまいそうというのが正直な感想。
四角の隆起した地面もあり、はしごをかけられ二階として使用して部分もある。
目で見える物の説明はこれくらいだろうか。
「……寝てる人も大勢いるんだな……」
「……」
まぁ疲れてるだろうし、そっとーーーーーッ!
……寝てるだろうーーーそう思える人の隣を通った時、ひどい悪臭が鼻を突き刺した。
「な、なんだ……これは……!」
「……」
エミはそれらから目をそらした。
それも急ぐようにしてーーーーーー
「……眠ってるの……誰も起こせないからこのままなの……」
一気に顔が暗くなったエミ。
ーーー眠っている……直接ではなくとも容易く理解できた。
死んでいるのだ。
『………』
今までの事を思い返してみるーーーー
するといくつか合点がいった。
黒ずんだ汚れ、ただならぬ異臭、先ほど会ったヘドロスライム……
汚れがあるのは当然かもしれない。
しかし異臭はゴミなどではない、人の死体を流しているからだろう。
ヘドロスライムもいくらか臭いを放っていた……この死体と同じ臭いを。
つまりは、そういうことだ。
俺はとんでもない世界に転移してしまったようだ……
ーーーーーーー
ーーーーーーー
「……く……暗い……」
暗すぎる……
エリメのこれまでの生活がでているんだろうか……
奴隷の経験がこうして出てきてしまっているーーーー展開としては面白いんだろうが、なんとも言えない力不足を感じた。
しかし次はサタン……! あいつなら……!!
ーーーーーーー
ーーーーーーー
どんな過程でこうなってしまったのだろう……
俺にはわからない。
本当に一瞬だった。
勇は手を合わせーーーー拝んだ。
その手の少し先には、エミの写真が
『……へ……』
そう、エミは死んだのだ。
『ええええええええええええ』
どうやらヘドロスライムを倒すために、魔力を全て使い果たしてしまったらしい。
『いやいや早すぎるだろ! まだエミの容姿すら知らねえぞ!』
どうかエミよ、安らかに眠れーーーーー
『え、終わんなよ? 絶対終わんなよ!?』
ーーーーーーー
ーーーーーーー
「終わったよ! はええよ! ヘドロまみれの次回を任されたよ!」
最悪だ……! 最悪のバトンを渡された……!!
こんなのどうしろって言うんだ!
ここからバッドエンド以外あるのか!? 俺にそんな才能ねえぞ!
本当にどうすりゃいい……
どうすりゃいいんだああああ!!!!
後編へ続くーーーー




