第六十八話 バックからの攻めには気をつけろ
雨が降り頻る山道ーーーー
とてつもない湿気が漂い体に嫌悪感を与えてくれる。
目の前にはひたすら伸びる一本道。
両側には木々が乱立する。
そこには女性が一人 その足取りは非常に重くーーーーまさしく牛歩。
辿った部分には赤の道標ができていた。
女性を動かすのはたった一つの決意。
それは必ず成し遂げなくてはならないーーー
……そうでなくてはならない。
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国が、今までに見せなかった姿をしていた。
建物が崩れゆく轟音を響かせ、同時にそれは炎を生んだ。
『……このままでは……』
『……』
『……アノミア……まだ歩ける…….?」
シェイラは痛みを抑え、アノミアに問うた。
顔からは血が流れ、見るからに痛々しいーーーーー
『ーーーはい……今はまだ』
姫がそこまで耐えてくれている––––ならば自分もそうあらなければならない。
その思いで自分の身に鞭を打ちそう答えた。
『なら……デイチに向かえ……そこで救援要請をーーー頼む……』
『そんな……! それではここは!』
アノミア一人抜ければ守護は壊滅的……
救援を呼ぶ前に持つかどうか。
『なんとか耐えてみせる……だから……だからお願いする……』
『お前だけが頼りだ……』
『……』
『ーーーーお任せを……』
姫の放つ覚悟がはっきりと目に見えた。
だからこそ–––––頼みを受諾するしかなかった。
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約束したーーーー
アノミアはそうシェイラと約束したのだ。
ここから一番近い街、デイチに向かうーーーー
そこで救援を……
その約束を果たしたいのに……果たさなければならないのに……
……足が……ッ!......
先ほどの乱戦で身体中に傷を負ったアノミアーーーー
鎧の隙間から絶え間なく血が流れ出る。
それに伴い気力が磨耗していく。
その上、雨が体を打ち付け体力も奪ってゆくのだ。
いくら鍛え上げられた騎士とはいえーーーー
「……ぁ……ぁぁ……」
歩き続けるのは厳しかった。
丁度左にあった岩にもたれーーーー崩れてしまう。
「……っ……っ…………」
自分が……動かなくては………
シェイラ様や他の皆が死んでしまう。
そう思っているのにーーーーー
瞼は意思に反して重くなり……やがて視界を閉ざしてしまう。
「ーーーーーおい……い……んた……!ーーーーーぶか…….!」
どこからか声が聞こえる。
それははっきりしたものではなかったが、確かにアノミアの届いたのだ。
……誰かそこにいるのか……?
だとしたら……頼む……国が滅亡しかかってるんだ……
お願いだ……皆をーーーー助けてやってくれーーーーーー
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「…………」
「……ぅ………」
「……」
次に目を開けた場所は、どこかの部屋だった。
どんな過程でこうなったのかはわからないが、どうやら連れてこられたらしい。
「ーーーーーお、お目覚めか」
ひたすら考えていると足の方角から男の声がした。
「……お前は……?」
「俺か〜?ーーーー海斗って呼んでくれ」
「……体は大丈夫か? あんた、雨ん中血だらけで倒れてたからよ」
海斗ーーーーこの男に私は助けられたらしい……
男には腐った者しかいないとおもっていたが……そうではないのもいるらしい。
でも–––––そうか……血だらけで私は………!!
「血だらけで……?ーーーーー!!」
「?ーーーーーその通りだが……」
朦朧としていた頭が鮮明に物事を捉え始める。
それは決して良い事ではなく、正反対ーーーーー
「そうだ……! 私は……私は……!!」
「ーー私を見つけてからどのくらい経ってる!?」
「ーー? あの時からは……丁度三時間くらいだ」
「さ……三時間……だと……」
三時間も私は気を失っていたのか……!!
「でもそんだけの傷負って、三時間でよく意識を回復できたよ」
「ある意味奇跡だ」
「……三、時間も……」
「……どうした……やっぱ何かあんのか」
こうべを垂れるアノミアーーーーその姿に海斗は疑問を持った。
「……あぁ……でも、もうダメだ……国は滅びているだろう……」
「ーーーうぁ……あぁ……っーーーくそがぁ……!」
終いには涙を流すーーーーー明らかに尋常ではない事をこの女性は背負っている。
そう容易に推測できた。
「……体、動かせるか」
「……?」
「まだ滅びてるかわからねえだろ、都合よく今は曇り空まで回復してるし……よっこらせ……」
「ーーー案内してくれ」
––––––そう言いながら男は体の凝りを取った。
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それから私はこの海斗という男と共に、国へと続く道を進んだーーーーーー
来た道を辿る途中にあった水たまりやぬかるんだ地面が全て邪魔に思える。
早く、早く国に戻りたいーーーーー戻って状況を目に入れたい。
その思いが身体中を侵食していったのだ。
どうかーーーーー生きていてくれ……
苦しいかもしれんが……生きていてくれ……!
遂に国へとたどり着いたーーーーーが
「……ぁ……」
「……」
門は見るも無残な形へと変形しーーーーその奥に見える建物も崩壊していた。
「……やはり……ダメ、だったか……」
「クソ……クソ、が……!」
体の力が抜け崩れるアノミアーーーー
またもや涙が地面を湿らせた。
「……」
しかし、横で冷静にこれを見る海斗。
何か残っていないのか……
ーーーーーク………らぁ……!
「………!」
何かが耳に飛び込んできた。
「ーーーーーいや、まだだ」
「……?」
「かすかに声がした……女性のだ」
「ーーーー! それは本当か……!?」
女性……相手の軍に女性はいない……
となればーーーーー
「今嘘つくと思うか?......いくぞ」
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ーーーーーーー
「姫自身が戦ってくれるとは……思いもせなんだなぁ……」
「……っ………っ……」
城の前では、シェイラと他数名の騎士で立ちふさがっていた。
城の中には傷つき、前に立つ事ができない騎士達がいたからだ。
「どうだ……? 圧倒的な戦力差で蹂躙される気分は」
「……どうも思わん……戦力差など興味ない……」
「ほほう……強気だなぁ……だがそれも虚しい、実に虚しすぎる!」
「どう思おうが、この現実は虚妄ではない!ーーーーいいかシェイラ姫……」
「……」
身体中から流れ出る血ーーーー実際はシェイラも、立つ程度の体力しか残っていなかったのだ。
その現実を受け入れず、ジニアイの言葉に耳を傾けるーーーーーただ言葉の意味は理解しようとしなかった。
しようとするだけ無駄だからだ。
「貴様は今から全てを失う……富、名声、居場所、仲間……自分さえも……」
「哀れよなぁ、同盟を結ぶことを拒否しただけでこうなるとは……思ってもいなかっただろうな?」
「……」
「同盟が嫌だったーーーーたったそれだけ……その自分のわがままで国を滅ぼすことになる……」
「貴様は姫失格だ」
「……っ……」
ーーーーー痛かったーーーー聞かないようにしていたのに、その言葉だけが頭に響いた。
そうだ…………私は上に立つべき人間ではない……
失ってしまうのも……これは当然なのかも……
そう心が崩れ去ろうとした時ーーーーーー
ジニアイが率いる軍の後方から凄まじい音が響いた。
「な–––! なんだ!?」
その方へ振り向くと––––––五十人程度の兵が上、左右……あらゆる方向へ飛び散る光景が目に入ってきたのだ。
その元凶は一人の男ーーーーー
「あ〜……哀れだよなぁ……自分のたった一つの失言で人を激怒させるたぁ……」
「実に哀れだ」
「貴様……どこの者だ!」
海斗は木刀を肩に当て述べ続けた。
「別にどこでもいいでしょ……ところで姫さん!ーーーーシェイラさんだっけ……?」
「……」
少しの背伸びをしてシェイラを呼ぶ。
「あんたの忠臣は使命を果たしてくれたぞ」
「……!」
忠臣……アノミア……!
それを聞き、海斗が味方だという事を悟るシェイラ。
「自分の命よりもあんたらの事を心配してたーーーーあんたは決して姫失格じゃねえ……」
「こんなに良い忠臣を持ってんだからよ」
優しい笑顔でそう言った。
とても朗らかだった。
「貴様ァ……!! 勝手な事ばかり口にしおって……!」
それとは対照的に、頭に血を昇らせるジニアイ。
ここまで追い詰める事ができたというのに、邪魔をされるとなっては当然怒るだろう。
だがそれは海斗の計算の内ーーーーーー
「……さぁどうする……こっからは俺が相手だ」
「てめぇらの兵力と同じ、虚妄じゃない俺がな」
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
「……」
大部屋には良き忠臣と姫がいた。
忠臣の方は空間に目を当てている。
「……何か思い詰めた顔をしているな、アノミア」
「姫……いえ、何も……」
それには流石に気づいたシェイラーーーーー
「……海斗か」
少しからかう様にそう言った。
「ーーー!……いえ……」
一度顔をピクリと震わせたアノミア。
予想的中。
「だませんぞ……? そう顔に書いてあるんだからな」
「全く……アホみたいに好きだからな」
「アホって! シェイラ様もバカみたいに好きじゃないですか!」
「バカとはなんだ! 頭がいってる程だ!」
「バカ以上じゃないですか!」
二人はあれから、頭の中にはいつも海斗がいた。
国を救い、約二年ーーーー今の今まで海斗とは会えなかった。
それが依頼した案件でまた、会う事ができたのだ。
「……」
「……」
「また来てくれて……よかったな……」
「……はい……」
笑っていられるのも、海斗のおかげだ。
ーーーーーすると
門の方から爆音が生じた。
「ーーーー!」
「がははは! またやってきたぞぉシェイラ!」
「おぉ?……なんだ、姫がいないじゃないか……あぁそうか! 我々が来る事は知らなんだか!」
そこにはジニアイーーーー大砲で門を破壊したらしい。
「……っ……」
「………ぁ………」
「いるのはか弱そうな騎士だけかぁ……しょうもないな……」
門の近くにいたのはほんの数人の騎士。
過去の戦いがトラウマとなり全く動けずにいた。
「ーーーーこれは一体どういう事だ!」
慌ててシェイラとアノミアが飛び出てくる。
「おー! やっと出てきたか、シェイラ様ぁ?」
「貴様……なぜ!」
「なぜだってぇ? あの時我らが受けた屈辱、忘れたわけではあるまい」
「それを今日返しに来たのだ……倍にしてなぁ––––」
「……!」
やはりまだ根に持っていたか……
海斗が助けてくれたとはいえ、ジニアイ達の命までは奪っていないのだ。
ーーーーいつかは攻めてくると思っていたが……まさか龍と同じ日とは……
「それと! あのガキはもう来ないぞ」
「ガキ……海斗の事か……?」
なぜ海斗が出てくる……
あいつは今龍の相手をしているはず。
「そう! その海斗とかいう生意気な奴!」
「あいつは先ほど、我らの事に勘づき、前に現れたのだ」
「……海斗が……」
「海斗というガキは、その時崖から落としてやったわ!」
「ーーーーなんだと……!」
崖から……嘘だろう……?
「あのクソガキが……前に勝ったからと慢心しおったわ! がはははは!」
海斗……本当なのか……?
「おいおい……本気でそう思ってんのかーーー?」
「はははは………ん?」
そう聞こえた刹那––––––後ろの兵が吹き飛んでいく––––––
「ーーーーー!」
そこには崖から落ちた男–––––その横には一緒にいた獣がいた。
「なーーーーーなぜだ!? お前は崖から転落したはず……!」
「俺が崖から落ちたくらいで死ぬとでも?……甘い、甘すぎる……それを慢心っていうんだぜ」
「……!」
「あとお前バック取られすぎな、前も後ろから吹き飛ばさなかったっけ?」
「どんだけバック好きなんだよ、後ろから責められるのそんなに好きなのかよ……」
呆れる海斗ーーーー
「……しかし……! お前が来たからとはいえ、我らには龍が……!」
そう、今は龍が味方についているーーーーー
海斗が来たところで相手に……
「龍ってこれの事ですかぁ?」
空から女性の声がする–––––
同時に巨大な影が地面を覆った。
「あ、ぁぁ…あぁ………!!」
「どうして……こんな姿に……!」
その影の持ち主は龍……操っていた龍そのものだ。
今、その龍は魔力の縄によって縛られている。
「捕獲成功しましたよ魔王様、今はぐっすりと眠っています……」
「ありがとよ、やっぱ頼りになるわ」
この男にも仲間がいたか……
眉間にしわがよるジニアイ。
「……く……クソガキィ……!」
「さぁ閣下様?ーーーーどうします?この状況……」
「これでも攻めるか、それとも尻尾巻いて逃げるかーーーーーどっちか選びやがれ」
海斗は二本の刀を強く握りしめたーーーーー




