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山の空気は美味しいというけど街中の空気とどう違うのかいまいち理解できない

ガサリーーーーガサリーーーー。


草が擦れる音がする。

枝が軋む音がする。

砂が転がる音がする。


「ったくよォ…………はっ、居心地悪そうに眠ってらァ」


そんなあらゆるものが密度高く集まっている山の中を、サタンは海斗を担いで走り跳ぶ。

緑豊かなこの場所を、赤い獣が走り跳ぶ。


毒によって眠って居る海斗に悪態ついて、彼女は地図を見ながら移動。

大体こんなルートだろうーーーーそう思いながら、目的地を目指す。

彼を蝕む毒を消し去る薬を持つ 『たけのこの廃村』 という場所へと。


「……つーかこいつ自業自得だろ。 なんでアタシがこんなこと……」


視界に入る木、木、木。

それらはもちろん、現れては視界からはずれて後方へと消える。

その間隔はとんでもなく短い。

彼女は刹那に現れ消えていく木々達をいとも簡単に躱し、前に進むーーーー。


「生き返ったら、焼肉おごってもらお」


彼女にとっては、これは面倒くさい行動だ。

『は? 嫌だけど。 誰かがやれば?』 と、一言で跳ね飛ばしたくなる事案だ。


表情もそれに比例して、かなり嫌そうなものになっている……。


しかし、これを超えて現れる 『押し付けの幸福』 を想像し、彼女はほくそ笑むのであったーーーー。



ーーーーーーーー


ーーーー



「ひ……姫、これは……」


「……えぇ…………これはどうにも……」


バル、シウニーも、サタンと同じく山の中を進んでいた。

先ほど出会った二人のキノコの住処すみかに向かうため、案内されながら。


そしてーーーーその場所は、出会った場所からさほど遠くなかった。


案内されている間は木々に空を覆われ、光はあまり見えなかった。

エレイナが言っていた通り、ところどころに竹も生えていた。

やはり過去に戦争があったのだと思わせる。


そこを数分間歩いていると……少々木々が生える間隔が広くなっていると感じた。

木漏れ日がてんてんと見え始めていたし、湿気も弱くなっていった。

少なくともバルはそう感じた。


そんな変化がだんだんと現れていく中ーーーー前を歩く二人のキノコのうち片方が止まり、振り返って声をだした。

『着きました! ここです』 と。


彼らの先を見たバルとシウニーは……驚く。


挿絵(By みてみん)


目の前に、集落が、文明が築かれていたから。


「ここが我らの住処ですよ。 まぁ、おそらく貴女がたが暮らす場所よりかは質素でしょうが」


山の中であるのに、草原のようになだらかな地面。

そこにはまばらに建てられたキノコ型の住居ーーーー色はベージュ系統、故に鮮やかな緑とマッチング。

その他に風車、畑、住居よりも横に大きな集会所らしき建物……それらをつなぐ土の道。


完全なる集落の姿。

唯一違う点をあげるならば、集落の周りに生える巨大な木ーーーーそれらひとつひとつが集落の中心に幹を向けていること。

まるで、集落を少しでも外界から守るように覆っているようだ。

薄暗く静まった集落に、何枚にも重なり合う葉のあいだから直線に落ちる光……。


そんな光景を二人はおもわず前に歩き出る。

キノコが言った通り文明自体は、下の方に位置するのかもしれない。


ただ、そこには。


「すご……」


「良い光景ですね〜…………」


心を振動させるものが、確かにあった。


「ここからすぐにでもお茶をーーーーといきたいのですが。 すいません、昔からの決まりで、まず、客人をもてなす際にはおさの元に行かなくてはならないのです」


「長?」


「そうです。 理由は深く言えませんが、昔ある危険がここに訪れましてね……。 その時から、客人をここに入れる時には長に面会してから、と決まったのですよ」


「……」


バルとシウニーは横目で目を合わせた。

彼が言った決まりーーーーそれが定まった理由が、一瞬で理解できたから。


恐らくは、タケノコとの戦争だろう。

戦争が起こったため、今から招き入れる者は怪しいものか否かを見定めるために、長に会わせるようになったのだと。


「そういう決まりなら致し方ありませんね。 では、長に会わせてくださいな」


「理解があるお人でよかった……! それでは参りましょう。 長は、一番奥に見える洞穴の中にいます」


そう言ってキノコ二人は歩き出した。

彼が言った通りーーーー歩いている方向、その一番先には、大きな大きな岩があった。

その岩には木やコケが付着している……長年使われていない、または掃除されていない家にツタが巻きついているのと同様、とんでもない数のそれらが付着していたのだ。


その下方……そこにぽっかり穴が空いていた。

長は、その中にいるのだ。


彼女らも、長に会うため、キノコ二人の後ろについて歩き出したーーーー。



ーーーー


ーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーー



「ここらへん……か? こんだけ移動すりゃあもう見えてくると思うんだが……」


同時刻ーーーーサタンは未だ海斗を担いで移動中。

経った時間は短けれど、進んだ距離はかなりのもの。

景色はひたすら草木のみで代わり映えしないが、確実に奥へと進んでいる。

斜面の傾きが少々大きくなってきていたし……。


だから、いよいよだと思っていたのだ。


彼女は担いでいる海斗をチラと見る。

彼の命は一日とない…………うっとおしいと思ったりもするが……。

急いでやろうと思う心もあった。


そんな思いを抱いたまま、彼女はひた走った。


「…………!」


ーーーーと、彼女が見る景色に、変化が訪れた。

それは、途切れた道。

今走っている道とも言えない道が、ほんの僅かな先で途切れてしまっていたのだ。


その先に見えるのは薄い空色の空……即ちこの先は崖。


「よい、しょっ……!」


だから彼女は崖を降りるため跳んだ。

翼も使わず、軽やかなジャンプで崖を降りようとしたのだ。


「ーーーーあん?」


そして下に存在するのはまた草木の集まりーーーーさっきとさほど変わらない風景がやってくるのだと、彼女は思っていた。

が、それは間違い。

下にあったのは、小さな小さな集落。

住居の屋根らしきものがぽつりぽつりと、狭い範囲の中に十程度あるようだ。


サタンはそれに気付き、その屋根の上にズドンと落ちてしまわぬように若干調整してーーーーーーーー。


ドッ!! と、地面に降り立った。


「……こんなところに集落……? まさか、ここがタケノコの……?」


周りを冷静に見回せば、屋根だけが見えていた住居の形がたけのこに酷似していることが判明。

ベージュ色で円柱型をした居住スペースに、円錐型の濃い茶色の屋根がのっかっている。


これだけ見ればタケノコに見える……さっきのキノコといい、本当に存在したのか。

彼女は、さっき見たキノコのような生物がいないか、周囲を見回す。

ーーーーすると。


「あ、あなたは……?」


そのタケノコ型の住居の影から、ひょこりと顔を出したタケノコが一人。

恐る恐る、急に荒々しい音と共に現れたサタンを見ているようだった。


その上、彼のその言葉が皮切りとなり、他のタケノコ達も同じように顔を出し始めるーーーー。

数はおおよそ十匹。

彼らは全員サタンの出現に身体を震わせている。


「お! いんじゃねーか。 探したぜ〜」


だが彼女にとっては、そんな彼らの顔出しが望んでいたこと。

恐れられていようが関係無い、聞くことは一つなんだから。


なんだなんだと、タケノコ達は視線を合わせる。

『自分たちを探していた』ーーーーその言葉から、女は今のところは自分らに害を与えないのかもしれない……そう思い、ゆっくり彼女の方へと歩み寄って行く。


「な、なんですかな……? 私達に、なにか用事でも……」


「あぁ、ちょっと手を貸して欲しい案件があってさーーーー」


タケノコに、まばらに囲まれたサタンは。

ここにやって来た理由を話し始めた…………。



ーーーー


ーーーーーーーー



「長! 少しよろしいでしょうか!」


バル達はたった今、集落の奥に見える洞穴に入り込んだ。

鉄か何かでできた一メートルほどの燭台しょくだいが、洞穴の入り口を挟み立っていて。

そのすぐ裏側の洞穴の中にも同じように二つ立っていた。


あとは壁を伝って等間隔に立たせられ……中のルーメン値はさほど低くはなかった。


そんなぼんやりとした明るさを保つ洞穴の先へと、片方のキノコが声を飛ばす。

声の内容の通り、この奥に長がいるのかーーーーシウニーらは若干身を引き締めた。


「おぉ……大丈夫じゃよ……わしはいつでも暇じゃ、来ていいぞ〜……」


声に反応したしゃがれ声。

その声に対し 『はっ!』 と反応したキノコ二人。

進む彼らに彼女ら二人もついていくーーーー。


はたして、どんな姿なのだろうか。

この二人のようにカラフリーなんだろうか。


はたして、どんな性格なのだろうか。

この二人のように話しやすい性格なのだろうか。


「長って、どんなキノコなんでしょうね……?」


疑問の思いは口に出てしまったシウニー。

小声でぼそっとバルに耳打ち、彼女の予想を求めた。


「さぁ〜? 分かんないですけど、今の声からしておじいちゃんのキノコなんじゃないですかね? しわしわのキノコとか?」


「しわしわ……干しキノコみたいな?」


「いえ、使い物にならなくなったチ◯ポみたいな」


「まだ悪口の思考が残ってるんですか!?」


カツリカツリ、足音を立てながら奥に進んでいくーーーー。

すると、ある程度進んだところで二人のキノコは足を止めた。

気付いて彼女らも足と口を止める……。


「長、久しぶりの来客です。 決まりに従い、その者らを連れて参りました」


「そうかそうか……ほんに、久しぶりの来客じゃのう……」


キノコの一人が長に向かって用件を話し始める。

長も長で、その言葉を受け取り感想を述べる…………。


「……?」


という状況が彼女らの前で展開される。

しかし……二人の表情は釈然としない表情を浮かべていた。


だって彼女らの目の前には、長と呼べるような存在がいないのだから。

あるのは地面に敷かれる赤い絨毯と、周りに立っているものと同じ燭台が二つ……それに肌色の壁。

なにかの生物らしき存在はなかった。


「彼女らはここから少し離れた山道で出会いました。 我らの目の前で不運にも、赤い髪の女性がコケてしまい……少しでも思い出作りになれればと思い、ここに連れて参った所存。 なにとぞ、ここでのしばしの滞在、許可していただきたい」


「……あぁ、よいぞ。 もう変化などほとんどない集落じゃ……みなにとっても明るいしらせとなるだろう……」


「ありがとうございます」


自分達が理解できていないところで許可の話が進んでいく。

よくわからん、と強く疑問を抱いたシウニー。


「では、いきま」


「ちょ、ちょっと待ってください」


「?」


と、ここで口を開かせた。


「あの……大変失礼な話なんですけど…………その、長さんはどこに……?」


「……」


いや本当にどこ?

長に合わせるとか言っておきながら全く認識できず、理解も追いつかず……。

他族の長だーーーー自分達が見えていないのは言語道断、やはり認識して話をしないといけない。


すると、そんな彼女の思いを隅々まで察したのか、一人のキノコが 『あぁ』 と声をあげる。


「そうでしたね、初めての方にはわかりにくいかもしれません。 すいません、長の説明をするのを忘れていました。 私達の目の前にそびえる壁ーーーーこれが」


「?…………!!」


「……あら」


挿絵(By みてみん)


「長です」


そうだ。

二人が 『肌色の壁』 として認識していたもの、それこそが 『長』。


デカァッ!! しかも思っていたよりも十倍キノコ!!


驚愕の思いを顔にのせたシウニー。

彼の大きさは約十五メートル。

ちらりと見える限り、笠の色は赤。


「ちょっと姫……!! めちゃくちゃでかいんですけど! 使い物にならなくなったチ◯ポというより現役まっしぐらなチ◯ポなんですけど!」


「そうですね……バイアグラを日々飲んでいるんでしょう」


「最後の最後までチ◯ポ系悪口やめないんですね……」


他のキノコ達よりもあまりに違いすぎる長の姿は、二人を驚かせるのに十分だった。


「わしのこと、大き過ぎて見えていなかったか……これはしっけいしっけい。 まったく、背が高いのはいいことじゃが、高過ぎるのは非しかないのぉ……」


長は大きなため息を吐いた。


「お、そうじゃ。 少し質問させてもらってもよいかの? この背があるから、あまり人と話す機会が少なくての…………どうして、この山に登ったんじゃ?」


「……」


「……姫」


シウニーはバルを横目で見る。

こちらにとって、返答の内容によっては不利になってしまうかもしれない質問。

二人のキノコには 『気分転換のために来た』 という理由を提示している。


ここで本当の理由 『海斗へ飲ませる解毒薬を探しに来た』 を言っていいものか……。

シウニーには、それを自己決断することはできない。

だから彼女はバルに決断を促すために横目を向けた。


「……」


当然託された彼女の脳内にも思考が錯交し始める。

自分達がすぐには敵対せず、ここにやってきたのは、彼らの性質を少しでも観察し、掴むため……。

集落がどこなのか、全体図はどうなのか、は大体把握できたが彼ら自体の性質はまだ理解できていない。


それを、ここで途切れさせるのか否か。


さて、どうしましょうか……。


……ただ、悩んでいる時間は無い。

早くしなければ、相手側に不信感を与えてしまう。


だから彼女は考えを瞬時にまとめ、口を開かせる。

その口から出てきた返答の言葉はーーーー。



ーーーー



「キノコの毒の、解毒薬を探してるんだ」


サタンは、自身を囲んでいるタケノコにそう言った。

海斗が食べてしまった毒キノコの解毒薬……それは、このタケノコ達が持っていると伝えられた。

なら、隠すことは無い。

早くそれをタケノコ達から貰わなければーーーー彼女はその思いで、ここに来た理由を話した。


「キノコの……毒?」


サタンは首を縦に振った。


「あぁそうだ。 この……白目向かせてる男、こいつが変なキノコ食ってさ。 で、こいつを起こすには、あんたらが作る解毒薬を飲ませなきゃならないって聞いてさ。 だから、ここに来たんだよ」


「キノコ……」


彼女は全てを話した。

すれば分かってくれて、薬をくれると思っていた。

最悪くれなくても、自分の力で暴れ、無理やり奪い去ろうと考えていたのだ。


……だが。


「キノコとは 『渓谷のキノコ』 の奴らのことですかな……?」


彼女が予想していた反応とは、逸れた反応を見せる。


「うん……? あぁ、身内の奴がそう言ってたな」


「それを食べて、その男性を倒れさせた……つまり、奴らは新たな被害者を出した、ということでよろしいかな?」


「……被害者……? うん、うん……? うん、まぁ、そうだー……な?」


だから彼女はぐらぐらな受け答えをしてしまう。

普通、自分達に助けを求められたら 『快く手を伸ばす』 か 『対価を要求してから手を伸ばすか』 それか 『断る』 かしかない。

しかし、タケノコ達の反応はそのどれにも当てはまらなかった。

一人一人が少しゆがんだオーラを放ち始め、暗い空気もまとい始めたのだ。



ーーーー



「な、なに……!? 我らの毒を食らってしまったのか……!? して、その男性はどこにいる!」


「多分……もうそのタケノコの廃村に到着しているかと」


「く……そうか……そうなのか……!!」


真実を告げることを選んだバル。

彼らの性質を調べるのは、またでいいーーーー最悪そんな機会、無くていい。

取り敢えず海斗を救うのが先決。

故に彼女は全てを話すことにした。


すると長は身を震えさせ始めたのだ。


「なにか……だめなことでも?」


今度はその理由をバルが問う。

毒キノコを食らってしまった海斗がタケノコの廃村に移動してしまっている。

その言葉が、何故そんなにも身震いさせるのか……。


「まずいことが起きる……のじゃ。 とんでもなく、まずいことが……!!」


「?」


バル、シウニーは首を傾げた。



ーーーー



「また、あやつらの毒で被害者が出た。 もう放ってはおけん…………攻撃を開始する。 皆、武器を持て」


サタンを囲んでいたタケノコ達は、一つの言葉を皮切りに四散。

それと同時に地面からタケノコが多数生え始めるーーーーその数、合計して100オーバー。

小さく戸惑うサタンに構わず、そのまま各々住居の中へと入ってしまった。


「…………なんだ……? え、くれねーの?……」



ーーーー



「戦争が起きる……再び、戦争が起きてしまう……!!」


長の震えは、止まることを知らなかったーーーー。

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