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どんな食べ物でも食べ過ぎれば毒となる

「これどうするんですか!? 主人公は死なねェとか豪語していながら死んだんですけど!! あっけないんですけど!!! 展開早すぎなんですけどォッ!!!!」


慌てふためくシウニー。

場内の病室に設けられている一つのベッドの上には、顔に白い布を被せられた男が一人……。

それは海斗ーーーーこの小説の主人公である。


その主人公はギャーギャーと叫ぶシウニーの横で、何も反応しない人形のように、静かに眠って居る……。


「毒キノコくらいで死なないって言っておきながら……どうするんですかねェッ!? この小説は! いくら変人でも主人公がいなかったら小説進まないんですけど!」


「そんなに大声あげても何も変わりませんよ。 まぁ……私は大丈夫だと思いますけどねぇー」


「何が大丈夫なんですか姫!!? こんな有様だけどこの人一応主人公ですよ! どうやって最終回迎えるんですか! むしろここが最終回ですか!!」


この部屋にいるのは死人(海斗)とシウニーだけにあらず。

バルもいる。

彼女はシウニーのように慌てふためくのではなく、壁に背を預け腕を組んで、冷静にふたりを見つめていた。


「いやいや、むしろここが新たな出発点じゃないですか? よくあるでしょう、女キャラしか出てこないアニメとか。 それになっちゃえばいいんじゃないですかね? で、無駄に、アホみたいに長い変なタイトルあるじゃないですか。 でもそういうのが注目されたりしますから、タイトルも変えて 『美少女たちだけで国経営っ! 〜美しい国は、超絶かわいい私たちの美しい心がつくるのですっ!〜』 とかにしたらいいんじゃないですか? 『もしも人間が魔王になったら』 よりかは面白そうでしょう」


「急カーブ決めすぎでしょォッ!! 今いる登場人物一同困惑の兆し舞い降りるんですけど!!」


「大体、男一人で女だらけの国を経営するとかいう設定自体破綻してるでしょう、何番煎じなのかっていう話ですよ。 作者の頭の底が知れるっていうもんですよ」


「良きタイミング見計らってエゲツないこと言ってません? 日頃の鬱憤晴らそうとしてません?」


バルは腕を組みながら溜め息を吐いた。

それはあの〜……と、バルの言葉の猛攻を抑制しようとするシウニーだったが、なかなか止められない。

『事実は事実だ。 諦めろ』 と言わんばかりに、バルはもういっちょ溜め息を吐いた。


「あれですよあれ。 よく主人公意味もなく転生しちゃってるでしょう? あれみたいな感じで、魔王様にも別世界で幸せになってもらいましょう?」


そう言いながら彼女は、眠っている海斗の横に移動して膝をつき、手を合わせて祈りを込めた。

とても穏やかに。

とてもおしとやかに。

言葉は極めて攻撃力が高いが、姿だけは中立キャラ。

海斗の来世の幸せをひたすら祈った。


「姫って本当にメインヒロインなんですか!? 私こんなヒロイン初めて見るんですけど! 大体こういう物語のヒロインって主人公のこと好きなんじゃないんですか!?」


その姿にはシウニーも激しく辟易。

これがメインヒロインだなんてシンジラレナイ。


そんな変な状況が渦巻く病室ーーーー。

その扉がこの時二回ノックされ、二人がピクリと反応。

バルは 『誰だ?』 という疑問一杯の感情を作ったーーーーが、シウニーはそうでもない。

彼女はバルとは違って 『来たっ』 という感情を顔に着色。


刹那 『あ、はい、どうぞ!』 と、返事をして、ノックをした者に入室を促す。

するとその者はスライド式の扉をスルリと動かし、控えめに身体を入室させた。

その者の名は……。


「遅くなりました、シウニーさん」


エレイナ。

この城の料理長。


あぁなるほどーーーーバルは、シウニーが彼女を呼んだ理由を理解した。


「エレイナさん! お待ちしておりました!」


そういって入室した彼女に、シウニーはゆるりと近く。

その表情には一抹の希望を含ませているように、さっきとは違いにこやかだった。


「なにやら、魔王様が大変な事になっていると聞きましたが……」


「そうなんですよ……エレイナさんは、食材に詳しいですから、なにか分かると思って……」


「なるほど……食材関係なんですね……?」


「はい。 実は、今日の朝からキノコ狩りに三人で山に向かっていてですね……一時間くらい前に戻ってきて、取ったキノコを焼いて食べたんですよ。 私と姫は市販で売ってあるようなものを食べたんですが……魔王様は変な柄のキノコを食べてですね……こんな風になってしまったんですよ」


そう言って、ベッドの上で永眠ねむっている海斗を指差した。

シウニーは若干呆れ気味の表情をしていたーーーーが、エレイナはピクリと、少々心配するような顔に変化。

いや、初めから少しだけ心配の色には染めてはいたが…………たった今、一瞬で違う色の心配を塗った。


「その……キノコはここにありますか……?」


そうしてこう言った。

ベッドにそろりそろりと近づき、顔に被せられた布をゆっくりと取る……。

見えた彼の顔は、あまりにも安らか過ぎて、本当に死んでいるようだった。


しかしながら鼻呼吸は弱くおこなっているようで、まだ死んではいなかった。

この現状を見てエレイナは、同じ症状を引き起こすキノコを思い出そうと努めている。


「あ、ありますよ! 食べたものはもう魔王様の胃の中にありますが、同じ種類のものならばありますーーーーこれです!」


それをゴールに辿り着かせるよう、シウニーは尋ねられた通りに、近くに置いてあった三つの籠の内一つからキノコを取り出した。

そのキノコは、の部分が白く七センチ程度、傘の部分が直径十センチで、大きく開いているというもの。

形という一点では、どこでもありそうなキノコの特徴だ。


……しかし、それは形という一点だけ。

傘の部分は、エゲツない色をしていたのだ。


ベースが青で、直径二センチ程度の赤い水玉がチラホラ。

そして直径五ミリも無いような緑の斑点が、青の上に散乱していた。

海斗はこんなものを食べたのだ。


シウニーは柄の部分を持って、それを気持ち悪そうに見る。

同じく、エレイナも顔を歪ませた。


「……ッ……こ……これは……!」


ーーーーただ、それは決して 『気持ち悪い』 という感情から作られたものではなく。

影を。

ただただ暗い影を顔に落とし。

目を皿のようにして、小刻みに震えさせた。


「これは 『渓谷のキノコ』 ……ッ!!」


瞳と同じように震えさせていた口から、彼女は、少なくともシウニー達は聞いたことの無い名称を紡いだ。

二人は少々眉を歪ませた。

渓谷のキノコ……?


そんな名前のキノコ、今まで生きていて聞いたこともなかった。

あまり危険そうな名前ではなかったので、二人は反応に困った顔をする。


ただし、エレイナは引き続き恐怖していてーーーー。


「渓谷の……キノコ、ですか……?」


「はい……ッ!! それは間違いなく渓谷のキノコ! 正確に言えば、渓谷のキノコの遺伝子を継ぐキノコですが…………その毒性の強さは健在! オリジナルとなんら変わりません……!」


口に手を近づけ、そのエゲツないキノコの恐ろしさを語りだす。

シウニーはただただ微動だにせず聞くことしかできなかった。


「そんなキノコがあるんですね〜……」


と、バル。

膝をついたままその話に耳を傾けていた。

さすがのバルでも、そんなキノコ、聞いたことがなかったようだ。

決してシウニーのように驚くことはなかったが、興味は生じていたようだ。


「で……その毒というのは、どのような症状が出るので……?」


興味のあとは、真実を聞くタイム。

見かけと同じく、毒も凄まじいことは分かった。

じゃあその毒による症状は? シウニーはそれを知りたがった。


「……魔王様は今、こうして死んだように眠っています。 しかし、本当に 『死んだように眠っているだけ』。 本当は生きています。 布を被せているので、さっすることはできたでありましょうーーーー浅い呼吸が行われています」


「……」


確かに。

エレイナの言う通り、二人は、まだ海斗の息があることに気付いていた。

こうやって 『死んじまったよ……』 という状況を作り出していたが、布が少し引っ込んだり盛り上がったりしていたので、まだ生きていることに気付いていたのだ。

だが、こんな症状を目の前にすることなど初めてだった故に、どうすればいいのか分からないーーーーというのが現状。


その現状を詳しく説明するために、エレイナは言葉を紡ぎ続ける。


「ただ……この毒を摂取した二十四時間後……解毒げどくしなければ、本当に死んでしまいます」


「な……っ? じゃ、じゃあ薬をーーーー」


「ありません」


「……ない……?」


「えぇ。 この城にも、中央街にもありません」


「……そんな…………」


嘘をつけ。


そう言いたかった。

特にシウニーは、そう言いたかった。

バルは少々瞳を広くさせた程度だったが、シウニーは一瞬で心境を 『疑心』 の色にした。


だってそうだろう。

こんなふざけた症状の解毒薬が無いだなんて。


しかしエレイナの表情はいたって真面目でーーーー嘘をついているようには見えなかった。


「ですが……そこに無い、というだけです」


「!…………そ、それは、どういう……?」


だがまたエレイナは新たな真実を提示した。

また心境を変えさせる言葉が、二人に浴びせられた。


「そこにはない、というだけです。 決して市場に出回ることが無いというだけです…………よろしいですか? いまから、過去に、ある狭い地域で行われた戦いについて話しますーーーー」


その真実につながるレールを、彼女は順調に敷き始める。


「昔、ある山で、小さな、しかし大きな戦いが勃発しました。 それは……キノコとタケノコの戦争……」


「……え?」


「その山は緑多く、多彩な生物、植物が生きていました。 そしてそんな中、意思を持ったキノコとタケノコが誕生したのです」


「なんかマズい匂いが鼻に」


挿絵(By みてみん)


「生物とは、やはり長く生きたいと思うもの……そう思っている中、自分ら以外に意思を持っているということが判明すれば……どうなるでしょうか。 それは当然、相手を危険視し、その相手を排除、及び収容したいと思うもの。 彼らは例に漏れず、そうするように行動し始めました」


話す途中、彼女はシウニーが持っているキノコにチラチラと二度目を向けて、下に視線を落とした。


「キノコはタケノコを殺すために、タケノコはキノコを殺すために、武器を持ちました」


「持つの!? あいつら武器持つの!?」


「数と実力は、途中までは拮抗していました……しかし、ある時から状況が激変していきますーーーーそれは、繁殖力と成長。 キノコは胞子で数を増やす、タケノコは地下茎から顔をだし数を増やす……。 これまではいいです。 ただ、それらの成長の先に待つ結末が違ったのです」


「結末……?」


「はい。 キノコは成長すれば、大きくなります。 これは伴って戦闘力が上がります。 しかし、タケノコは成長すれば……何になりますか?」


「た……竹」


「そうですね。 それすなわち、意思がなくなり、戦闘力は0になります」


「なんでェッ!?」


「意思があるのは、タケノコの時だけ……タケノコは、数日経てば竹になってしまう。 どれだけ数を増やしても、戦いの経験が豊富になっても、竹になってしまえば戦力ではなくなり、ただの山のオブジェクトとなってしまうのです」


「普通のこと言われてるような……!! 変なこと言われてるような……!!」


「さらに竹が増えすぎてしまうとどうなるか? 自明の理、陽の光を遮断します。 そこは普通の山なのですから、周りには普通の木が生えています。 木と竹……それらは猛烈に光を遮断させ、キノコが成長するのに相応しい環境を整えてしまうのですよ。 だから……そんなことが積み重ねられたがために、タケノコは圧倒的な戦力差を前に敗北してしまいました…………キノコは山、近くの谷にその後も繁殖。 タケノコは数を減らし、絶滅寸前にまで追い詰められてしまいました。 その事実を知る人々は、この結果をこう呼びますーーーーーーーー『キノコの渓谷』 『タケノコの廃村』 と!」


「なんか聞いたことあるゥッ!! おいしく頂いたことがあるゥッ!!」


「ですが、そんなタケノコ達ですが、唯一大きな結果を残したことがります。 それが 『渓谷のキノコ』 の解毒薬の開発」


「……!」


ここでやっと、二人が求めていた真実を聞くことができた。

二人は、ますます強く耳を傾ける。


「意思を持つキノコ達は、自ら毒の胞子をまき散らすことができた。 致死率はほぼほぼ百パーセント。 その毒に困ったタケノコ達は、解毒薬の開発に努めました。 そして成功。 案外簡単に作ることができたのだと、風の噂で聞きました」


「……その薬は、魔王様を完璧に治すことができるんですね……?」


エレイナは、その問いに対して静かに頷いた。

二人とっては嘘のような話を坦坦たんたんと展開させてきた彼女であったが、いたって真面目。

嘘を言っているようには思えない。


だからこそ、その頷きには大きな希望を感じることができた。


「タケノコも、全滅したというわけではありません……その技を継承する子孫がいるはず。 彼らがひっそりと暮らす場所は知っています。 当時から変わっていないのであれば、まだそこにいます」


ここでゆっくり立つバル。

変わらず無表情であったが、やらなければならないことを認識したようだ。

シウニーも、今の言葉を聞いた途端、どこか覚悟を決めた顔をした。

確実に心配と不安は残っているようだが、そんな感じがする。


それらの覚悟を読み取り、エレイナは最後の言葉を与える。


「ですから、お二人はそこに向かい、二十四時間以内に解毒薬を貰い、魔王様に飲ませるのです。 それが、お二人がやらなければならないことです」


そう言った。

カーテンの隙間から入り込んだ光が、海斗の身体に横たわったーーーー。

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