いびつなキノコには毒がある
「うぇ゛……ッ!! なにこの色、気持ち悪……違うやつ採ろう……」
シウニーが下の方に視線を向かせ、顔を歪ませながらそう言った。
本当に嫌そうに言った。
心が拒絶反応を起こしたため、彼女は違う場所に足を運ばせた。
「そういうもんでしょ〜。 キノコなんて大体気持ち悪いもんですよ」
それはキノコに向けて放たれた言葉ーーーー。
『気持ち悪いのは当たり前。 諦めろ』 とバルは彼女に助言する。
バルはその悟りを開いてしまっているためか、良いものだと思ったキノコを背負っている大きな籠に入れていた。
「そんなこといったって姫……私の目には全部毒が入ってるように見えるんですが……」
「そういうもんです。 キノコという存在そのものが毒のようなもの……その中から食用のキノコを見つける見識眼が必要となってくるのですーーーーあ、これイイネ」
「いやそれ絶対毒キノコでしょう!! 真っ赤ですよ真っ赤!!!」
「食べれば大きくなれるんじゃないですか?」
「それ配管工だけだし大きくなったらどっちみち毒だし!!!」
とっておきの持論を展開させつつキノコをむしっては入れ、むしっては入れを繰り返すバル。
シウニーは彼女の持論に呆れつつも、見習うこともあるかもしれないと思い、下に生えているキノコに再び視線を向ける。
……ほとんどが気持ち悪い。
「うぅ……エノキとか椎茸とか無いんですかー……? ほとんどが変な色とか歪な形を成しているんですが、触りたくないんですが」
「あんまり無いんじゃないですか〜? 毒のあるキノコの方が種類は多くあると聞きますし〜……」
触っただけで炎症を起こしそうなものまである。
絶対知識無き者が来ちゃいけない領域だった。
彼女達がいるこの山は、空気がじめりとした湿気を抱いて、長く成長した木は大量の葉を伸ばし日光の侵入を許さない。
よってキノコにとって喜ばしい土地となっている。
その歓喜を他種族に見せつけんとするように、キノコは彼女らの周りに生えに生えている。
しかし、まともそうなキノコは一握り程度だった。
それを勘だけでむしり取っていくバル、困惑するシウニー……。
「毒だとか毒が無いとか関係ねェよ。 俺らはただキノコをむしり取るだけなんだからよ」
そんな中、平然と様々なキノコを採っている男が奥の方から現れた。
「いやまぁそうですけど……毒は重要じゃ無いですか? 少量だとしても気にしますよ」
海斗だ。
彼も二人同様籠を背負い、キノコを入れている。
そしてバルとは違う持論を持ちながらキノコを採っているようだった。
「大丈夫大丈夫。 毒なんてあってないようなもんだ。 というか毒のあるやつの方がうまかったりするかもしれねェから」
「そんなわけな、うわ゛ァァァッ!! なんですかその手に持ってるキノコ!! エゲツない色してますよ!! 半分赤で半分緑のキノコなんて見た事ないですよ絶対毒キノコですよ!!」
「え? ……違ェよ。 これはな? 身体が大きくなる効果と残機を増やす謎のシステム 『1UP』 という効果が付いたハイブリッドなキノコだ。 毒キノコじゃねェ」
「それマリオの世界だけの機能ですよね!? この世界じゃあの世に逝く機能しかないんですけど! 二人とも配管工目線でしかキノコを見れてないんですけど!!」
しかし手にしたキノコは似たようなもの。
どれもが毒が含有されていると思ってよろしいもの。
食べたら間違いなく反吐を撒き散らし、ベッドの上から身動きできないという状況を連れてくるキノコしかなかった。
「でもねシウニー……能ある鷹は爪を隠す、というように、キノコ達も 『美味』 という爪を隠し 『毒』 という表を見せているに過ぎないの…………そんな事もわからないなんて騎士失格よ。 出直してきなさい」
「毒キノコが持つ爪は命を刈り取る爪しかないでしょうが!!」
「そうかもしれねェがな? 爪があるやつは大抵おいしいもんだろうが。 フグなんてその代表例みたいなモンだ。 毒がある場所さえ取っちまえばおいしい料理と変化する…………つまりな? 毒があるやつが最も食用に近いんだよ。 その毒を抜いちまえばいいんだからよ。 だからこいつも、どうにかすれば食える」
「全身毒なんですけど。 毒を抜くためには全部捨てなくちゃいけないんですけど」
こんなのどうすればいいのだろうか。
三人でキノコ狩りに来ているのに、うち二人がまともなキノコを採ろうとしていない……。
シウニーは顔を右手で覆い、ため息をついた。
こんな状況を喜ぶ奴なんていない……いてもキノコの研究者くらいだろう。
しかし自分達の目的は研究ではないーーーー。
「ていうか、私達の目的分かってます? 食料備蓄のために来たんですよ?」
これだ。
このために来たのだ。
「また国に何かが襲ってきたり、サタン様が暴れたり、姫様と魔王様のぐうたらで何らかの不利益が起こってもいいように、食料の備蓄を少しでもしておこうという目的があってきたんです。 皆さんの口に入るものなんです。 ですから毒が無いのを選んでください」
「へいへい。 わーってるよ。 ちゃんとしたキノコを探しますよ。 ……お、これなんかいいじゃね?」
「真っ青なんですけど!! ちょっと光ってるんですけど!! 食用のキノコたりうる要素が見当たらないんですけど!!」
「うっわ、ドクロマークが付いてる〜。 もしかしてめちゃくちゃおいしいんじゃ無いですか? これ」
「姫もォォォォッ!! ダメですってそういうのォォォッ!!」
なのに彼らはふさわしい行動をしてくれない。
真面目にスムーズにしようとはせず、普段通りの適当な感じでことにあたる……。
上司だから言いにくいが、アホかよこいつら。
わざわざ取ってきて口移ししなくちゃ餓死してしまう雛じゃないんだから。
全部一人で適切な判断を下してからやってくれ…………シウニーはそう切に願った。
「だいたい! 毒キノコなんて食べたら仕事できないでしょう!? 魔王様は学校も行ってるんですから!! 支障が出るでしょう!? 最悪死んじゃうかもしれないんですから!」
そして彼らの身を、命を想いやった。
毒なんてもの、わざわざ選んで食べるものじゃ無いーーーー最悪命に関わってしまう。
……しかし。
「いや大丈夫だって! だって俺主人公だぜ? そんなもんで死ぬかよ」
「でもそんな」
「進撃の巨人でも、最初主人公死んだって思ってたけど最終的に帰ってきたじゃん。 強化されて帰ってきたじゃん。 だから俺も毒の体制が付いて、むしろ強化されるんじゃない?」
「あるかもですね〜」
「無いでしょ! 絶対的に無いでしょ!」
「いやいや〜、案外あるかもしれねェよ? 俺昔いろんなワクチン打たされてきたから、バッカバッカ食えるかもよ?」
「ダメです! 死にます!」
「死なない死なない! 俺この小説の主人公だから死なないって!! 俺が生きてなかったらどうやって最終回を形作るんだよっ!」
「えー……ま、まぁそれは……そうですけど……」
「だろ? だから大丈夫だって! なんだったら毒がありそうなの全部食ってやるよ! んで生き残ってみせるからさ!! 心配すんなって!!」
「…………」
「いや主人公死んでるんですけどォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!!?」




