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4話

 「急にお呼び立てして申し訳ない」村長の篠宮剛太郎が轟に向かって手を差し出した。

 村長秘書の大和田千里が部屋の扉を閉める。

 応接セットには別にスーツを着た男が座っており、村長の篠宮剛太郎に続いて、歩み寄り握手を求めてきた。

 「朝倉総介です。この度は息子の件でご迷惑をおかけしています」頬骨のこけているため不健康そうに見えるが目鼻立ちは整っており若いころはそれなりにもてたであろうと推測する。

 「あぁ」思わず感嘆が漏れた。

 「私がお呼びした。彼には知る権利がある」剛太郎は間近でみると貫禄があり、とりわけもみあげが長くライオンの鬣を連想させる。真壁は剛太郎のことをライオン先生と揶揄していたのも頷ける。

 「それで、今日は?」革張りのソファーに腰をうずめ、轟は本題を切り出した。

 「君が行っている調査に協力したい」剛太郎は手を組み、迷いのない目をして言った。

 「協力?」

 村長の申し出は轟にとって意外なものだった。朝倉直之の変死を村ぐるみで隠蔽したとなると一番怪しいのは村長の篠宮剛太郎本人だからだ。

 「お恥ずかしい話だが、前回の村長選挙は接戦で予断を許さない状況だった。そんな中、ここにいる朝倉総介氏とそのご子息である直之くんには大変尽力していただいた」朝倉直之が亡くなる一週間前に田村地区の村長選挙が行われており、朝倉直之が青年団のリーダーとして奮闘していたことは調査済みだった。

 「では朝倉直之さんの遺体が発見された時の状況をお聞かせください」わざとらしく手帳とペンを取り出すと言った。

 「そのことは私から説明しましょう」今まで傍らで人形のように立っていた秘書の大和田千里が歩み寄り言った。

 「息子の雅樹から電話がかかってきたのです。教員住宅のトイレの中に朝倉直之くんがいると、ただ酷く慌てている様子でした」

 「そのときの時刻は?」

 「はっきりとは記憶していませんが17時を回った頃だった思います。なんでもユンボを至急手配して欲しいということでした」ユンボはを村で所有しているのは村長の経営している篠宮土木と浪江一郎のところの二台である。

 「うちのは現場で使用中のため、浪江さんのところへ電話を掛けた」村長の篠宮剛太郎が言った。

 「その時点で村長も朝倉直之さんが便糟内に閉じ込められていることを知っているんですね」

 轟の問いに剛太郎は頷く。

 「それでこちらからバキュームカーの手配を提案した。持って行かせたのは私の長男で村役場に勤めている大和田一馬です」

 「一人だけですか?」

 「すでに消防団員が出動していることは知っていた。消防団の中には役場に勤めている堺慎之介がいた」

 「なるほど。それにしても消防団の人は早かったですね。普段仕事は別の仕事をしているんでしょ」轟は意地悪く質問してみる。

 「それについては私から」今まで黙っていた朝倉総介が口を開いた。

 「団員の皆さんは直之を捜してもらってたんです」

 「捜していた?」

 「えぇ、直之は24日の朝を最後に行方になっていたんです」

 「つまり発見される4日間、消息がなかったと」朝倉直之の死亡推定時刻が26日である。

 「最後に朝倉直之さんと話されたときの状況は?」

 「あの日は居間でテレビを見ていました。新宿御苑での中継を見ていました」

 今年の1月7日昭和天皇が崩御され、2月24日に新宿御苑にて葬儀である大喪たいそうの礼が行われた。その日一日、テレビでは追悼番組が報道され、店も営業を取りやめていたため、祝日にも関わらず街は閑散としていた。

 「少し出かけてくる。たしかそう言っていたと思います。前日も遅くまで飲みに行っていたようなので気にはなりましたが、気をつけて行くように声をかけました。家を出て間もなく、直之のセダンが発車する音が聞こえていました」

 「前日?23日」

 「23日の晩、消防団の集まりで出かけていきました」朝倉総介は言った。

 「つまりは直之さんも消防団の一員であったと言うことですね」

 朝倉総介から消防団員の名前と連絡先を教えてもらうと手帳にメモした。

 「一人は先ほど名前の挙がった堺と言う男ですが、あいにく今日は県庁の方へ行ってまして」大和田が額の汗をハンカチで拭う。

 「出来れば全員と話をしたいのですが」

 「わかりました。手配させましょう」剛太郎が言うと大和田がまた額の汗を拭う。

 朝倉総介の連絡先を聴いたところで机の上の内線電話が鳴った。

 村長の剛太郎自ら受話器を取る。

 「わかった」と言って電話を切った。

 「今日はここまでにしましょう」

 「何かありましたか」

 「いえ、私ではなく、轟さんあなたへお客さんのようだ」

 「客?」

 「真壁健吾と言えばわかるとのことだが」剛太郎はそう言って大和田の方を見る。

 「愚息が申し訳ありません」大和田が頭を下げた。が、ここでは適切とは言えない。

 「生きていればいいですよ。どんな形でも生きていれば」朝倉総介が小声でそう漏らした。


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